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新 交 通 シ ス テ ム と い う 山 椒 は 小 粒 で ピ リ リ と 辛 い !?
− 埼 玉 新 都 市 交 通 ニ ュ ー シ ャ ト ル −
TAKA 2007年12月11日
「新交通システム」というと、私の場合何か「中途半端で遅い」というイメージを抱いてしまいます。モノレール・新交通システムの場合「普通鉄道が必要な量以下の輸送需要の路線に対応する輸送モード」という事も有り、普通鉄道に比べて「遅くて小さな車両が走る」というイメージを抱いており(それが売りの側面なのだが・・・)その為に中途半端な交通機関というイメージを抱かされてしまいます。
しかし「中途半端」といえども、実際の所かなりの成功例を収めている所が多数有ります。新交通システムでも「桃花台新交通」のように、大失敗の上開業後僅か15年で廃止されてしまった新交通システムも存在しますが、逆に「ゆりかもめ」の様に東京臨海副都心の観光需要と臨海副都心開発促進による用務客需要の増大による利用者拡大で黒字化を達成しているような、経営的に見て「優等生」といえる新交通システムも存在しています。
その一つに埼玉新都市交通(ニューシャトル)も挙げられます。埼玉新都市交通は元々埼京線と同じ様に「東北・上越新幹線建設に対する見返り策」という政治的意味を持ち1983年に作られた新交通システムで有り、埼京線が「対東京の第三の路線」として整備されたのに対し、大宮市・上尾市・伊奈町の高崎・東北線に挟まれた地域と言う限定的地域に対しての見返り策で有った為に、在来鉄道で無く中量輸送機関である新交通システムを採用した経緯が有ります。
普通で有ればこの様な「政治的路線」であれば、「赤字垂れ流し経営」になる事が多いのですが、埼玉新都市交通の場合1980年の開業以後の時代に地価の高騰に伴う郊外への人口流失が首都圏で発生した追い風を受ける形になり、新交通建設で「大宮から新交通で東京駅からも約1時間」と言う距離で比較的安価な住宅が供給された事も有り、沿線の人口増加も進み利用客が増えて、今でも利用客微増が続いており、しかも黒字経営という事で「新交通システムの優等生」といえるレベルまで成長しています。
その様な住宅街を走る地味ではあるものの一面では「新交通システムの優等生」といえる埼玉新都市交通に、今年網一つの話題が足されました。それは埼玉新都市交通大成駅の傍に出来た「
鉄道博物館
」の開業です。場所的にJR大宮工場の隣りに出来た鉄道博物館ですが、その最寄駅が大宮駅から埼玉新都市交通で一駅目の大成駅で有った為に、鉄道博物館への「アクセス手段」として、今までは地味な埼玉新都市交通が一躍注目を集める事になりました。
今回はその埼玉新都市交通を「鉄道博物館」の訪問と合わせて、10月26日の夕方〜夜にかけて訪問してみました。
「埼玉新都市交通 概要(平成18年3月時点)」資本金 営業キロ 駅数 平均駅間距離 保有車両数 所要時間 表定速度 2,000百万円 12.7km 13駅 1,058m 78両(6両編成13本) 25分00秒 31.0km/時
「埼玉新都市交通 主要指標」年度 輸送人員 輸送密度 従業員 客車走行キロ 営業収入 営業費用 営業損益 平成07年度 12,275千人 16,461人/日 166人 4,813千km 2,073百万円 2,046百万円 9百万円 平成14年度 12,521千人 17,254人/日 166人 5,184千km 2,346百万円 2,271百万円 75百万円 平成16年度 12,794千人 17,948人/日 160人 5,338千km 2,737百万円 2,614百万円 123百万円 平成17年度 13,051千人 18,134人/日 161人 5,455千km 2,737百万円 2,605百万円 132百万円
※上記資料は「数字で見る鉄道96・2003・2005・2006」より作成しています。
「参考HP」・
埼玉新都市交通HP
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埼玉県総合政策部交通政策課
埼玉新都市交通
・
埼玉ローカル線ニューシャトル
・
埼玉新都市交通
(wikipedia) ・
埼玉新都市交通伊奈線
(wikipedia)
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(1)先ずは注目の「鉄道博物館」に向かう為に1区間乗ってみる(大宮→鉄道博物館)
埼玉新都市交通の起点駅は北関東の交通の拠点である大宮駅に置かれて居ます。大宮自体はJRの新幹線・在来各線・東武野田線の集まるターミナルであり、実質的に埼玉最大の拠点といえる街です。その大宮でも再開発が行き詰まり雑然とした感じの東口に対して、ソニックシティを核に再開発が進んで駅前は整備されている西口に埼玉新交通の駅は有ります。
埼玉新都市交通の大宮駅は西口の駅前広場にあるダイエー・丸井・東急ハンズ・OPAの複合店舗ビルであるDOMの裏側に有り、駅前広場から見ても奥まった所になり、西口駅前広場から見ると分かり辛い駅位置であるといえます。しかし埼玉新都市交通大宮駅へは新幹線の下を通りJR駅と結ぶ通路が整備されており、便利に乗り換えが出来る様にはなっています。その為か駅の位置の悪さはそんなに気にならないといえます。
左:チョット目立たない奥に有るニューシャトル大宮駅 右:ニューシャトル大宮駅のコンコース
しかし駅は1面1線で乗降兼用といえどもホームは広く、比較的多い数の券売機・自動改札も整備されており、コンコースにはマクドナルド・コンビニが有り、ターミナルとして機能的には不足のないレベルで整備されて居ます。しかも今回の「鉄道博物館」開業に合わせてSuica・PASMOが使用可能になっています。鉄道博物館の絡みで定期外客が増える見込みで整備したのでしょうが、いまやSuica・PASMOはかなりの人が持っているICカードなので、巨額の投資が必要なシステムですが、今回Suica・PASMOが採用されたのは鉄道博物館への定期外客輸送対策と大宮駅の券売機・改札混雑対策としても大きな意味が有るでしょう。
逆に小型車の新交通システムの6両編成で運行されている埼玉新都市交通ですから、「こんなに広いホーム要らないのでは?」とも思いました。しかしそんな事は有りません。鉄道博物館に向かう為に3時半ごろホームに出ると既に乗降口には学生を中心に行列が出来て居ます。都市ターミナルから近郊住宅地への路線ですから通学需要もかなり旺盛なのでしょう。その点ではこれ位のホーム等が整備されて居ないと需要に対応出来ないのかもしれません。
左:乗降客で賑わうニューシャトル大宮駅ホーム 右:ニューシャトル車内(15時半頃下り大宮発車時点)
左:新交通システムニューシャトルの車両 右:新幹線の高架の脇を走るニューシャトル@鉄道博物館
取りあえず来た列車に乗り、今回の最大の目的地である鉄道博物館の最寄駅大成を目指す事にします。大宮駅のホームには多くの乗客が待っていたイメージでしたが、実際乗客が乗ってみると定員に少し欠ける程度の乗車率でした。各車にドア1箇所しかない小型車両ですから、実際乗車客の行列が出来て居ても乗客が乗ってみるとこれ位なのかもしれません。
今回は最大の目的が「鉄道博物館訪問」でしたので、大宮から一つ目の最寄駅の大成駅で取りあえず下車する事にしました。流石に雨の平日の16時チョット前(鉄道博物館の閉館約2時間前)という時間だった事も有り、降車客は私を含めて数名と言う寂しい状況でした。しかし新幹線の高架の向かい側に有る大宮行きのホームには鉄道博物館の帰り客と思しき20名以上の乗客が待っていましたし、誘導の駅員も出ている状況でした。この様に見ると埼玉新都市交通にとって「初乗り運賃」でも現金を落としてくれる鉄道博物館利用客は大きな存在です。
(2)新交通ニューシャトルの終点はどんな所なのか?(鉄道博物館→内宿)
鉄道博物館を訪問して見学をした後、完全に日が暮れてしまい夜になってしまいましたが18時過ぎに鉄道博物館駅に戻り、今度は埼玉新都市交通線の全線完乗をするために、終点駅の内宿駅を目指す事にしました。
埼玉新都市交通の鉄道博物館駅は、鉄道博物館の開業に合わせて駅名が「大成→鉄道博物館」に改名すると同時に、駅の改修工事が行われホーム拡幅・エレベーターとエスカレーターの新設・駅舎の新築等の改良工事が行われて居ます。元々埼玉新都市交通の駅はターミナルの大宮・拠点駅の丸山を除いて中間各駅は比較的簡素な駅設備しかありません。加えて開業した年代が古い為高架であってもバリアフリー設備がほとんど整備されて居ません。その中で今回鉄道博物館駅は鉄道博物館開業に合わせて駅舎が整備されましたが、(費用が何処から出ているかは不明ですが・・・。JR東日本もそれなりに負担している可能性が高い)その事からも鉄道博物館開業に伴う諸効果に、埼玉新都市交通が大きな期待を掛けている事が良く分かります。
左:鉄道博物館開業に伴い改名・リニューアルされた鉄道博物館駅 右:ホームが拡幅された鉄道博物館駅に入線する内宿行き下り列車
左:ニューシャトル車内(18時過ぎ下り丸山発車時点) 右:ニューシャトル沿線に広がる住宅地@沼南
日の落ちるのが早い冬の夕方の為、この時間になると完全に真っ暗になっています。しかし列車の車窓からは家の明かりが数多く見えますし、沿線沿いには富士重工工場跡地に出来たステラタウン(イトーヨーカドー大宮宮原店)等の大型商業施設も有り、典型的な郊外住宅地が広がって居ます。埼玉新都市交通は既に開業してから約20年が経過していますが、その間の沿線の市街地化はかなり進んでいる事は間違い無さそうです。
途中駅では各駅毎に各車両数人ずつ降車して行きます。確かに埼玉新都市交通は、起点駅大宮を出ると終点までは基本的に郊外地で有り、大宮以外沿線に拠点となりうる市街地が沿線には乏しいので、ラッシュ輸送では必然的に大宮から終点へ向けて漸進的に減って行く、見た様な輸送形態になるのでしょう。只減り方も「徐々に減って行く」という感じなので、沿線住民の利用客の利用距離はそれなりに有る感じがします。だからこそ、埼玉新都市交通は比較的良い業績が保てているのでしょう。
左:ニューシャトルの乗降風景@沼南 右:終点内宿駅での乗降風景
左:駅周辺は真っ暗な終点内宿駅 右:折返し待ち中のニューシャトルと脇を走る上越新幹線
この日は雨も降っている事も有り、しかも駅周辺に店は何も無く煌々と光り輝いているのは自動販売機と駅の改札兼売店の明かりだけです。これでは仕方ないので、折返し電車に乗る為に再度ホームに上がる事にしました。高架の駅は上越新幹線の軌道と同じレベルにある為、建物で4階程度の高さがある感じで階段で登るのは一苦労です。今エレベーター設置工事が行われて居ますが、埼玉新都市交通の場合全線高架の為、ホームへのアクセスは階段では厳しい物が有ります。バリアフリーに関しては予算や条件の制約や企業としてもコストのかかる事では有りますが、乗客の利便性のためにも整備を進める必要が有るといえます。
ホームに上がると、真っ暗な周辺風景の中に乗客が殆ど居ない車両がポツンと止まっており、その脇を上越新幹線の列車が高速で通過して行きます。流石に真っ暗で人も居らず店も無い状況では何も見る事が出来ません。仕方ないので大宮方面に戻る事にしました。
(3)途中下車をしながら拠点の大宮へ戻る(内宿→大宮)
内宿からは折返しの列車に乗り大宮方面を目指します。内宿から途中の拠点駅の丸山までの伊奈町の区間(丁度上越新幹線に単独で併設している区間)は単線で敷設されており、大宮行きの上り列車の場合、右側通行なので各駅毎に減速してポイントを渡る形となり駅の前後の区間では大きく揺れます。しかし建設当時に市街地化が進んで居ない伊奈町の区域では建設コストを最低限に押さえる為に単線で敷設するという判断は正しかったと言えます。「単線の新交通システム」となると
湘南モノレール
等が挙げられますが、やはり需要に不安のある場所に大型インフラを建設する場合、そのコストパフォーマンスに応じたスペックダウンも必要であると、改めて感じさせられました。
内宿ではガラガラの車内も、伊奈中央・志久と停車して行くたびに人が乗ってきて、それなりに座席が埋まるレベルになります。その乗客のかなりが学生と見受けられたので、沿線の学校の帰宅学生が利用客のメインなのでしょう。割引率が高い通学定期の利用客でも、郊外地域でラッシュの逆方向の動きが有る事は、埼玉新都市交通にとって大きなプラスです。
左:ニューシャトル車内(18時半過ぎ上り志久発車時点) 右:単線区間での上下列車交換風景@志久
しかし決断したのは良いのですが、さて列車が止まってみると、(逆方向なので当然だが)降りるのは私だけで、乗ってくるのは10人にも満たない人数で有り、「其れなりの人数が望める」という私の見込みは間違いで有る事は分かりました。ちなみに下り列車の乗降風景もホームから見てみましたが、流石に夕ラッシュという事も有り降車客は15〜20名程度は居た感じでした。この風景から丸山駅周辺は典型的なベットタウンである事が分かりました。
駅前に出てみると、駅前広場は無く高架の柱を避けながら簡素な車寄せが有るだけで、此処も高架下に駅舎の有る暗い駅で、駅の目の前を上尾駅方面と蓮田駅方面を結ぶ県道323号線が走っているだけで、やはり此処も店なども有りません。しかし丸山の場合、「廻りに店が無い」と言う事は駅の拠点性マイナスですが、コミバス以外のバス等の公共交通アクセスが無いという事は、競争力の強い高崎線上尾駅・宇都宮線蓮田駅に乗客が流れる事を阻止して、徒歩駅勢圏内の住民の利用を堅く繋ぎとめておくという意味では、効果が有るのかもしれません。
やはり開業年度が新しくしかも昔からの交通ルートに沿わずに建設された埼玉新交通なので、幾ら駅が有れども住宅地は出来ても市街地は出来づらい状況に有るのは仕方無いのかもしれません。この様な状況では見るべき物も乏しいといえるので、仕方無く此処からは再度列車に乗って終点の大宮駅を目指す事にしました。
左:ニューシャトルの運転上の中心 丸山駅 右:暗く人気も疎らな丸山駅の駅前
左:ニューシャトル車内(19時頃上り大宮到着時点) 右:夕ラッシュ時の大宮駅乗降風景
終点の大宮駅に到着した段階で、上り列車車内はラッシュ顔負けの混雑率でした。やはり大宮の求心力は強く根本的な流れは「大宮を起終点として沿線と大宮の間の流れ」という事になります。到着した大宮駅ではホームに埼玉新都市交通沿線に帰るサラリーマン客が列を作って居ます。この様に見ると大宮よりの複線区間ではかなりの乗客の流れが有ります。
今度はこれに鉄道博物館アクセス客が一駅区間だけでも純増で積み上げられる事になります。最初は「鉄道博物館開業位で増発の必要性有るのかな?」とは思いましたが、実際の運行状況を見ると普段の輸送でも混み合う姿を見る事が出来たので、これに鉄道博物館の利用客が増えた時に、新交通システムの中でも小型の車両では輸送力的に不安になるのは仕方ないです。
この様に見ると、開業当初は埼玉新都市交通の新交通システムは「適当なレベルの輸送力」で有ったという事が出来ますが、現在では沿線の開発が進んで部分的には「輸送力が不足している」現状が有るといえます。昔は田舎を走っていた新交通システムが此処まで成長下のですから、喜ぶべきなのでしょう。次の変化は終点の内宿での区画整理の完成でしょう。区画整理完成後開発が進んだ場合、工業用地に工場等が進出して大幅な利用客増が生まれる可能性があります。その時は埼玉新都市交通に関して新しい状況が生まれるのかもしれません。
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今回偶々鉄道博物館に行った次いでに埼玉新都市交通に乗ってきましたが、今まで「そんな路線が有ったな〜」程度のイメージしかない路線でしたが、一度乗ってみると意外に「新交通システムの優等生」であり、「上手く需要量に合った中量輸送機関だな」という感じがした路線だと感じさせられました。
確かにこの地域は、高崎線・東北線に挟まれた地域で、埼玉新都市交通開業前は「陸の孤島」といえる場所でした。その場所にバブル前の首都圏外延部に郊外化が進んでい80年代に新交通システムが作られて、それに起因して沿線への人口定着が進んでそれが利用客数に跳ね返ってきたというのは、正しく「善の循環による成功」で有るといえます。そういう意味では埼玉新都市交通は良いタイミングに開業した路線で有るといえます。
実際の所このレベルの新交通システムとなると、かなり苦戦しているイメージが有ります。似た規模でいえば金沢シーサイドラインは営業損益は黒字でも累積損失が残っている状況ですし、
桃花台新交通
に至っては経営不振から廃止されてしまいました。その様な点から見れば、埼玉新都市交通は、債務超過で無く近年はコンスタントに利益を出している状況から見て「新交通システムの優等生」の分類に分ける事が出来るでしょう。
表題に「山椒は小粒でピリリと辛い!?」と書きましたが、埼玉新都市交通は正しく新交通システムとしてみれば比較的小粒ですが、経営も比較的順調で有り、利用者も沿線住民や沿線立地の企業・学校の利用者が利用しており、しかも長いスパンで見れば交通不毛地帯の開発を促進し、正しく「ピリリと辛い」刺激的なメリットをもたらしたという事が出来ます。
何故その様な成功例になったかと考えれば、埼玉新都市交通開業の時期が良かったとも言う事が出来ましたが、それ以上に冷静な需要予測で「身の丈に合った投資」を行った点が大きかったのではと思います。実際東北・上越新幹線の補償措置として並行地域交通機関を同時建設した時に、大宮以南はバイパス機能を兼ねて普通鉄道(埼京線)を建設しましたが、需要に不安のあると見た大宮以北区間に関しては、少ない需要量に対応した輸送力も少ないが建設費も少ない中量輸送機関である新交通システムで建設を行いました。その需要予測の読みの正しさが、今の埼玉新都市交通の成功を導いたという事が出来ます。
その新交通システムが、今回鉄道博物館へのアクセスで、もう一段成長しようとしています。もう一段成長した埼玉新都市交通が、今後どの様な「辛さ」を出して成長して行くのか?今後の制調の展開も又観察してみたいと思いました。
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