このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください




東京最後の大型新人!? 東京メトロ副都心線の利用状況は?


- 開業から約2ヶ月経過した東京メトロ副都心線の利用状況を見る -


TAKA  2008年09月01日


東京メトロ副都心線は「トンネル」を抜け出したか?(@渋谷に到着するメトロ車両)


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 ☆ ま え が き

 本年6月14日に「東京最後の地下鉄」として、池袋〜新宿〜渋谷という都心西部の副都心3箇所を結ぶ路線として東京メトロ副都心線が開業してから、もう2ヶ月チョットが経過しようとしています。
 東京メトロ副都心線は、走って居る区間が将来性が有るのと、西武池袋線・東武東上線と相互直通運転をする事で、練馬区・板橋区・東京多摩北部・埼玉県南西部と今まではチョット縁遠かった新宿・渋谷を直結する路線として、東京の商業地図にも大きな影響を与え等と「前評判」も高く話題となっていた路線です。

 しかし開業当初は、ATOの調整不足によるオーバーラン・乗務員の習熟不足等による遅延・混乱等が多発し、「副都心線は当てにならない」色々な所から不満等が出ると同時に、ついには 国土交通省関東運輸局から警告文章 が出されるなど運行当初から混乱した状況になり、出だしから躓いた状況になりました。
 私自身東京練馬区在住で西武池袋線をメインに利用していますから、前に弊HPに「 東京最後の地下鉄新線は関係各社の「同床異夢」の中で走るのか? 」を書いて以降も、機会が有るたびにかなり頻繁に利用しています。しかし色々な前評判・開業直後の各種トラブルによる混乱・開業景気一巡後の利用状況を見て居ると、色々感じることが有ります。
 という訳で、今回は開業から時間が経過して、東京メトロからは未だ公式には副都心線の利用状況について発表は有りませんが、各種報道で大まかな利用状況については情報が流れてきて居ます。加えて私自身が何回か利用した状況を交えながら、開業から約2ヶ月が経過した副都心線の状況を見てみたいと思います。


 ☆ 副都心線の利用状況

 先ずは副都心線の利用状況ですが、色々とネット上や検索等でも調べましたが、現在の段階では利用状況について出て居るのは下記の7月17日の毎日新聞と7月30日の交通新聞の記事です。
 本当は公式発表等を基に書きたい所ですが、開業後2ヶ月以上待てども東京メトロが公式発表を出さない以上、仕方無いのでこの新聞記事を基にして話を進める事にします。只どちらの記事も基本的な数字等で大きな誤差は殆ど無いので、有る程度の信憑性は有る物と考えて居ます。

副都心線:開業1カ月 土日の利用者が平日上回る (7月17日: 毎日新聞
「 記 事 の 要 旨 」
・メトロが6月18日〜7月5日の利用状況は、池袋−渋谷間の輸送人員は1日平均17万4000人で、当初予測の15万人を2万4000人上回った。
・JR東日本によると、山手線の両駅間の利用は、開業前との比較で1日平均約6万8000人減り、副都心線が山手線利用者の一部を取り込んだ。
・1日平均乗降者が3番目に多い7万9000人が利用する新宿三丁目駅では、周辺の伊勢丹が「開業当初の土日は前年比20%売上増」高島屋が「6月下旬の売上は前年比16%増」
・1日平均乗降者が4番目に多い2万4000人が利用する明治神宮前駅周辺では、大型商業施設の表参道ヒルズが「来館者が土日・平日とも1割増え、表参道の人の流れも多くなっている」
・1日平均乗降者が最多の11万5000人が利用する池袋では、埼玉県民が新宿や渋谷に流れるとの見方もあったが、東武、西武の両百貨店は「前年並みの売り上げを確保している」

東京圏の鉄道新線・新列車。利用客数、好調な滑り出し (7月31日:交通新聞)
「 記 事 の 要 旨 」 (副都心線関連部分のみ)
・副都心線は初年度の1日平均利用客数を約15万人と予測したが、開業当初の体験乗車が落ち着いた後も、予測を上回る174,000人程度で推移している。
・新宿三丁目・明治神宮前で他路線と改札無しで乗換えられる為、予測・実績にはその数値を勘案している。定期客のシフトが進んで居ない段階を考えると、好調な出足。
・同社の新線としては始めて、土曜・休日の利用客が平日を上回る。又新宿三丁目駅の利用客数は予測を3万人上回る79,000人
・副都心線はATOの制度不足・小竹向原駅の施設制約等で開業当初からトラブルが多発した為、ATOソフトの改修と同時に、旅客案内の改善に取り組んで居る。

 これらの記事からほぼ間違い無くいえる事(≒どちらの記事でも取り上げられている事)は「副都心線は需要予測では初年度は150,000人/日の利用を見込んでいた」「実際の所は予測を上回る174,000人/日が利用した」「平日より土日祝日の方が利用客が多い」「特に新宿三丁目の利用が好調」という事です。
 まあ近年の鉄道新線開業時の需要予測は(チョット語弊が有るかも知れないが、有る意味真実を語るようになってから)、TX・ゆいレール等の最近の開業路線を見ても明らかな様に、後から検証すると「誤差の範囲(私は±15〜20%前後と考える)」といえるほぼニアな範囲に落ち着く様になっています。実際最初からの需要予測の経緯は分かりませんが、現状においては副都心線の需要予測も「15%程度の誤差」と考えれば、現状の利用客数は(良い方向に転んでの)「想定の範囲内」といえるでしょう。

 又経済雑誌等を中心に「副都心線が東京の商業地図を変える」という趣旨の話をして居ましたが、副都心線の利用状況を見ると「土日祝日の利用が平日より多い」「大型百貨店が並ぶ新宿三丁目の乗降が予想以上に好調」という事から見て、西武池袋・東武東上沿線からかなりの人々が、今までは池袋乗換新宿駅から徒歩で不便で有った新宿駅東側地区のデパートに流れて居る可能性はあります。
 此れは所謂「ストロー現象」という物ですが、それは 副都心線開業後に野村総研が行った調査 においても、西武池袋・東武東上の各線から副都心線経由新宿の傾向が強まって居ると言って居ます。この様な調査と新宿の百貨店の売上げを見れば、「副都心線開業による勝ち組」は新宿駅東側地区(此処を拠点にする三越伊勢丹HD)で有る事は間違い無さそうです。しかし池袋の百貨店も「ストロー現象」の被害を受ける割には「前年並みの売上げ確保」をして善戦して居る以上、未だこの問題に関しては「短期間で結論を出すのは早計」なのかも知れません。

 又この副都心線の乗客は何処から来たのでしょうか?現在の段階では、副都心線開業で明確に輸送力を減らして居るのは完全平行路線の都バス「池86系統」だけです。しかし「池86系統」も「 平日昼間で毎時4〜6本 」程度に減便されて居るだけで、実際の所池袋〜新宿〜渋谷を結ぶ公共交通の輸送力は減少されて居ません。その中での「供給の増加」という市場環境の変化をもたらした副都心線の開業ですが、果たして174,000人/日の利用客は一体何処から来たのでしょうか?
 一つは平行鉄道路線のJR東日本山手線・埼京線です。今まで西武池袋・東武東上からJR東日本山手線・埼京線に乗換えて新宿・渋谷に向かうのが一般的でした。それが副都心線開業で副都心線経由に移行した事が考えられます。実際山手線の利用客が「1日平均約6万8000人減少」という報道も有るので、174,000人の内68,000人は「JR東日本から転移した」可能性が高いです。只此れはどの様な流れで移ってきたのかは、西武池袋・東武東上の両線の池袋口での乗客数の変化と合わせてみないと分からないかもしれません。
 そうなると副都心線の利用客174,000人−68,000人=106,000人/日の人々は何処から来たのでしょうか?一つは「池86系統」からの転移が当然考えられますが、実際の所元々フィーダー的に使われていた路線ですから、地上を走りバス停の多いバス⇒地下深くて駅の少ない副都心線へ殆どの客が転移せず一定の客はバスに残るでしょうから、移っても一日数万人程度ではと思います。
 では残りの客は何処から来たのか?これは「利用客174,000人/日は平均数値」「平日より土日祝日の方が利用客が多い」という事から考えると、土日祝日を中心とした「お買い物需要」が大きく利用客を底上げしたのかな?と感じます。実際私が副都心線を利用した時にも土日祝日は平日ラッシュ時並みに利用して居る状況を見て居ますので、この見方は「そんなに間違い無いのかな?」とは思います。比較的流動性が高いこの利用層の好調ぶりが今の副都心線の「予想以上の利用」を支えて居るのではないでしょうか?


 ☆ 開業から2ヶ月 東京メトロ副都心線に客は定着したのか?

 しかしこの様に実績等を見ても利用状況が好調に見える東京メトロ副都心線ですが、果たして本当に沿線の住民などには使われて居るのでしょうか?。
 確かに東京メトロ副都心線は池袋〜新宿〜渋谷を結ぶ路線で、平行路線のJR東日本山手線・埼京線が混雑していることから見れば「もう一本路線が入り込む余地は十分にある」と見えます。又東京の都心が大手町・銀座・日本橋・霞ヶ関と言う東京駅の周辺地区からそれに並ぶ地域として新宿が台頭して来て、「東京駅周辺と新宿の二頭体制」に変化して来ている事から考えて、その核の一つである新宿を通る副都心線が期待できるのは間違いないでしょう。
 けれども、開業当初の運行トラブルで、沿線住民から「副都心線は使えない」「副都心線がダイヤ混乱の元凶」等と言われているのも事実です。実際私も少しはそう思っていますし、沿線住民の複数の知り合いからも同じ意見を聞きます。実際の所現状においては好調に見える東京メトロ副都心線ですが、果たして本当に定着したのか?考えてみたいと思います。

 元々東京メトロ副都心線は、「 東京最後の地下鉄新線は関係各社の「同床異夢」の中で走るのか? 」で書いたように、乗り入れ各社の「同床異夢」の中で運行されていると言っても過言ではありません。西武は副都心線乗り入れに期待してもメトロが向いている先は東武東上線であり、メトロの求愛を受ける東武は自社線と関連会社を考えれば。和光市でのメトロへの逸走は容認できない状況にあり、メトロ乗り入れより自社線を優先し、メトロも対抗して池袋〜和光市間で優等運転を行うなど、決して乗り入れ各社で一枚岩とはいえません。
 そのような事もあり、東京メトロ副都心線はダイヤ的には「副都心線優等を和光市に向けながら和光市から先は普通」「西武は朝は快速→急行を副都心線に入れながら夕ラッシュ時などは直通本数が少ない」など、「少しチグハグでは?」と思わせる状況になっています。

  
・西武⇔副都心線は定着しない? 左:昼間の乗換客@練馬 中:朝の乗換客@練馬 ・ATO問題は未だ解決せず? 右:私の乗った列車のオーバーラン状況 @8/3 14時半過ぎ 西早稲田 (動画で無いので分かり辛いが・・・)

 実際私も西武池袋線練馬駅から西武有楽町線経由で副都心線方面を時々利用します。しかし朝ラッシュ時は西武線からの直通の渋谷行き優等列車(西武線内快速⇒地下鉄線内急行)では、現在でも練馬で半分以上の乗客が降車し、上手く並べば座って新宿三丁目・渋谷へ移動出来ます。又練馬で快速を受ける普通は大混雑で、混む最前部は下手すると乗れない位の状況になります。この状況は朝ラッシュ時だけでなく、ほぼ全時間帯に見られる事です。
 西武線方面を見ると上述や上記の写真の様に、副都心線は利用されて居るとは思えません。実際練馬駅で見ると有楽町線直通に比べて、副都心線直通は3分の2程度しか乗って居ません。西武線の場合、副都心線の重要な拠点で有る新宿に対して、練馬乗換大江戸線というルートが有り、距離が短く副都心の西新宿には副都心線より簡単にアクセス出来ます。その為、西武線の場合副都心線直通列車でも練馬降車客が多く、そのかなりの部分は大江戸線に流れて居ると考えられます。その点から言えば、西武線沿線では「副都心線は定着して居ない」「副都心線は新宿アクセスの第三ルート」という状況になっています。
 その点、副都心線方面に流れる客の根源としては、東武線方面の方が有望なのかもしれません。しかし西武線方面が都営大江戸線が敵なのに対して、東上線方面は「東上線その物」が副都心線の敵となっています。その事に関しては「 東京最後の地下鉄新線は関係各社の「同床異夢」の中で走るのか? 」や「 『新・東上線』の象徴TJライナーが目指すのは? 」でも書きましたが、東武東上線の「乗客死守」への取り組みはかなり気合の入って居る物が有り、実際交通新聞の報道では「TJライナーは運転開始以来ほぼ満席が続いて居る」との事ですから、東武の「副都心線対応施策」は一定の評価を得て居るという事で有ると思います。
 その様な事から考えると、西武線方面・東武線方面の両方で、副都心線への利用は必ずしも定着して居ないのでは?と考える事が出来ます。実際の平日の副都心線の「空きぶり」から見れば、結果として「定着して居ない」という事への最大の傍証になるのでは?と感じるのは私だけでしょうか?


 ☆ あとがきに代えて -副都心線は沈むのか?化けるのか?-

 さてこの様に、「開業当初の需要予測は手堅く越えて」好調な側面を示しつつ、開業当初の「混乱で信頼を落とし」「既存乗り入れ路線からの転移が進んで居ない」という感じで、傍目から利用者の視点で見ると「如何見ても上手く言って居ないよな」と見える副都心線ですが、果たして今後は如何なるのでしょうか?
 先ず、開業当初の需要予測150,000人/日を越えた174,000人/日の利用客が有るという好調な側面ですが、私はこれを「率直に喜んでいいのかな?」と思います。実際副都心線は池袋〜新宿〜渋谷を結ぶ路線という、傍目から見ると非常に高いポテンシャルを持って居るのは明らかです。今の東京メトロの(副都心線を除く)全路線の内、一番輸送人員の少ない路線は南北線ですが、南北線ですら433,000人/日の輸送人員が有ります。一部を共有している有楽町線は880,000人/日の輸送人員が有ります。これと比較すると副都心線は「開業当初で未だ利用者が定着して居ない」「既存路線からの定期客の転移が未だ進んで居ない」という未だ此れからの要素を加味しても、「成績優秀な路線」とは言いがたい状況に有ります。
 実際の所、近年の需要予測の傾向として「手堅く予測」という感じが有るのでは?と感じます。東京メトロはその手堅い予測で事業的に成立すると考えて居るのでしょうが、そう考えても今後利用が定着して数年後には利用客が倍増したとしても、現在の南北線の水準にも追い付ません。東京の3副都心を結ぶ路線でその状況で「副都心線は成功」と言えるのでしょうか?私は言えないと思います。そう言う点では副都心線は「沈みつつ有るのか?」と私は感じます。

 しかしながら、今の状況で副都心線は当然ながら完成型では有りません。2012年には、東急東横線の「 代官山〜渋谷間地下化工事・東横線長編成化工事 」が完成して、東急東横線が東急メトロ副都心線に乗り入れてきます。しかも東急東横線の乗り入れ規模は「片手間」状況の北側の西武池袋・東武東上の両線と比べると、かなり本腰を入れた物になるのでは?との話も有ります。
 又東急東横線は、東京の副都心である渋谷と横浜を結ぶ路線であり、郊外住宅地と副都心を結ぶ路線で有る西武池袋・東武東上の両線に比べると、遥かに路線の持つポテンシャルは大きいです。実際JRの湘南新宿ラインが横浜〜渋谷・新宿間でかなり利用されて居る事から見て、横浜〜渋谷・新宿三丁目を太く結びつけるであろう東京メトロ副都心線と東急東横線の乗り入れが、副都心線に取って大きなプラスになる事は間違い有りません。
 加えて2012年の東横線乗り入れ後には、東急百貨店東横店・東急文化会館等の東急系施設の再開発が行われると同時に、東急渋谷駅跡地・JR・東京メトロ渋谷駅施設を含めた「 渋谷駅街区基盤整備 」が計画されていて副都心線の片方の核で有る渋谷のポテンシャルも上がり、西武池袋・東武東上の両線から渋谷への流動が増える可能性も有ります。
 これらの数年〜10年以上後になると実って来る事業の結果として、副都心線が将来は「もう一段化ける」可能性も有ると言えます。

 その様な事から考えると、北側からの乗り入れがメインで居る副都心線の今の状況では「沈んで行かざる得ない」と思いますが、将来的に東急東横線からの乗り入れと沿線最大級の開発案件で有る渋谷駅周辺の一連の再開発が形になった段階で、「大きく化ける」可能性は十二分に有ると思います。
 有る意味、東京メトロ副都心線自体は路線としては完成して居ますが、結局「和光市〜池袋〜新宿〜渋谷」の路線で有りながら、路線内輸送は平行路線の存在等も有り苦しい状況ですが、北側では西武池袋・東武東上の両線との直通、南側では東急東横線との直通が「副都心線成功のカギを握る」と言っても過言では無いと思います。将来的に副都心線が成功して行くには、真ん中の路線を握る東京メトロが調整役となりながら、西武・東武・東急と上手く調整して副都心線に上手く乗客を流せるような体制作りが、副都心線が化けて成功を収める為に重要で有るといえます。
 東京メトロは、1962年に東武鉄道と日比谷線との相互直通運転を開始して以来、東京メトロは東急・JR・小田急・西武・東武と幾つもの路線で直通運転をしています。その直通運転は路線が新しくなるにつれて複雑化してきて居ますが、規模・路線関係などから見て副都心線はその「東京メトロの直通運転の完成形」といえる存在かもしれません。東京メトロの直通運転開始から丁度50年になる2012年に、東京メトロが副都心線にどの様な相互直通形態を作り出すか?これが副都心線が沈むのか?化けるか?の明暗を分けるのでは?と私は思います。




※「 TAKAの交通論の部屋 」トップページへ戻る

※「 交通総合フォーラム 」トップページに戻る。



このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください