このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください




『 新 ・ 東 上 線 』 の 象 徴 T J ラ イ ナ ー が 目 指 す の は ?


- 2008年6月14日 TJライナー 出発進行! -


TAKA  2008年07月14日


通勤路線に登場した沿線特化型のTJライナーがもたらす物とは?


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 ☆ ま え が き

 通勤・通学に鉄道を使う人達に取って「楽に座って通勤したい」のは、激しい混雑に見舞われて居る東京の通勤客にとって有る意味「悲願」とも言えます。
 実際、利用者にその様な願望が有るからこそ、比較的輸送力に余裕の有る夕〜夜の帰宅時間帯に、JRの通勤ライナー・民鉄の夜の有料特急などの「快適な座席に着席出来る事」を売りにした有料特急が多数走っていますし、小田急ロマンスカー・西武レッドアロー・京成イブニングライナー等は昼間の輸送+夜の通勤輸送で「二重に儲け」ており、有る意味ドル箱列車となっています。
 加えて此の頃では「通勤輸送」を主体に狙った新規開拓の小田急の「 メトロホームウェイ 」が運行を開始するなど、より積極的に通勤客の着席ニーズを吸収しようとする新しい動きが出て居ます。

 その様な流れの中で、今回本年6月14日の「東京メトロ副都心線」開業に伴う関連各社のダイヤ改正で新たな通勤仕様の有料特急が登場したのが、東武鉄道東上線に登場した「TJライナー」です。
 東武東上線は、東急各線・京王電鉄各線と並んで「通勤輸送主体の路線」で、今まで戦後直ぐの「フライング東上」以来専用車両を用いた特急列車が運行されて来ませんでした。その様な事も有り「東武東上線=通勤路線」と言うイメージが固定化していました。そのイメージを打破しつつ、ニーズの高い夕方下りの帰宅客を狙い着席サービスを提供しようと意図したのが今回の「TJライナー」です。
 歴史的には、昭和初期東武鉄道と東上鉄道の合併により東武鉄道の一路線となった東上線で、既に東武鉄道車内には東上鉄道時代を知る人も無く一体化されて居るはずなのに、東武鉄道内で東上業務部は「地味な脇役」という感じで、特急も走り華々しい伊勢崎線形等に比べて長く暗い時代が続いていたと言えます。
 その様な歴史を打破する「華」というイメージで登場した「TJライナー」は一体どんな列車で、東上線をどの様に変えるのか?隣の路線で有る西武池袋線沿線に住む私としても、無関心では居られません。そう言う事もあり興味を持ち、運行開始直後の「TJライナー」に試乗して見ました。

 * * * * * * * * * *

 ●参考HP ・ 東武鉄道HP  ・東武鉄道ニュースリリース - 3月14日 東上線ダイヤ改正 - ・日系トレンディネット - 【東武東上線TJライナー乗車レポート】副都心線と同じ日に登場した新型電車の快適度 -
       ・ 東武東上線の新型車両は2in1 夜は特別 (ココミ口コミ) ・ 沿線住民悲願の東武東上線・座席定員制列車 - いいとこ取りの「TJライナー」が公開(マイコミジャーナル)
       ・wikipedia - 東武鉄道 東上本線 - レイルマガジン「編集長敬白」- 東武東上線「TJライナー」がお披露目 - ・ 副都心線開業でダイヤ改正 東武東上線に「TJライナー」が登場! (ascll.jp)

 * * * * * * * * * *


 ☆ T J ラ イ ナ ー 試 乗 記 (6月20日 19:00池袋発)

 TJライナーに試乗したのは、6月14日の運行開始から1週間が経とうとしていた6月20日でした。丁度この日は夜11時に経堂で待ち合わせがあり「家に帰っても仕方が無い。では如何しようか?」と思っていた日なので、丁度時間調整を兼ねてTJライナーに試乗してみる事にしました。
 この日池袋に着いたのは18時半過ぎでした。前に写真を撮るだけの目的でTJライナーに関しては一度見て居るので、着席整理券が南口改札で販売されて居るのは分かっていました。その為先ずは着席整理券を買いに南口に向かいます。自動券売機の脇に着席整理券の販売機が有りました。未だ余席がある様でしたので早速着席整理券を購入します。
 南口改札口の廻りには、案内看板・乗車案内・空席状況を示す電光掲示板等TJライナーの関連案内が多数有ります。この様な積極的な案内を見ると、東武鉄道東上事業部がTJライナーに賭ける意気込みが良く分かります。

左: TJライナーの案内が多数有る池袋駅南改札口 中: TJライナーの改札を待つ人達 右: TJライナーの改札風景

 池袋駅では、夜の時間帯一番西側の降車ホームとして使われていた5番線をTJライナー専用ホームとして使用して居ます。5番線では一番南側と中央改札部の2箇所意外を締め切り、その2箇所で係員とこのダイヤ改正から池袋駅に配置された「 ステーションアテンダント 」が着席整理券の改札を行って居ます。
 今回私は南口改札口側の改札から入る事にしました。TJライナーの到着の15分位前には改札口に向かいました。そうすると既に改札の前には40名〜50名位の行列が出来て居ます。発車の15分前に既に行列が出来て居ると言うのは驚きました。15分〜20分前だと直ぐに発車する列車に乗れば先着します。急ぐ人は其方を選択する筈です。しかしTJライナーの改札に行列が出来ていると言うのは「早く替えるより着席して帰りたい」という人が居ると言う事です。これはTJライナー設定が的を得ていた事を示しているでしょう。

左: 森林公園発の快速急行として池袋に到着 中: シートの転換風景 右: 発車直前にはほぼ満席のTJライナー

 TJライナー専用の50090系は森林公園からの快速急行として池袋に到着します。TJライナーは池袋⇒森林公園間で運行され、その折返しの森林公園⇒池袋間は快速急行という形で運行されて居ます。今回のダイヤ改正では東上線の種別的には特急が無くなりTJライナーと快速急行が出来ましたが、その種別を効率的に活用して居ると感じました。
 停車後は一度乗客を降ろした後、座席を転換させます。L/Cカーなのでクロスシートだけでなくロングシートでの運行も可能ですが、快速急行もクロスシートで運行されて居るので、此処ではクロスシートの前後を180度転換させるだけです。
 車内の整備が終わり発車の5〜6分前には5番線側の扉を開けて乗車を開始させます。この段階では既にドア前に長い列が出来ており、アナウンスでは「TJライナーは満席です」と放送されて居ます。やはり通勤需要がピークに達する時間帯で有る19時発のTJライナーは満席になるようです。

左: TJライナー車内状況@池袋 中: TJライナー車内状況@川越到着前 右: TJライナー車内状況@坂戸到着前

 池袋発車時点ではTJライナーは満席と言う事も有りクロスシート部は殆ど埋まって居ます。只着席整理券が「前5両・後5両」というアバウトな指定のため、実際は席が有るのだが空席が何処に有るか分からない人が発車直前まで車内を動いて居ます。又着席整理券はクロスシート部の分しか発売して居ない様で者端部のロングシートには空席が有り、其処に余裕を持って座りたいのか?座って居る人も居ます。しかし流石に定員制列車だけ有りゆとりの車内で池袋を出発です。
 池袋発車後TJライナーの次の停車駅はふじみ野です。停車駅はふじみ野・川越・川越市・坂戸・東松山・森林公園です。その内ふじみ野で準急に川越市で急行に森林公園で小川町行きに接続しており、対東京への通勤客が多いふじみ野以遠の各駅にTJライナーのメリットが行き渡るダイヤが設定されて居ます。その辺りは上手いダイヤ設定だと言えます。
 TJライナーの着席客(最初の着席客は池袋から乗車)の降りる駅を見ると、見た感じではふじみ野1:川越1.5:川越市1:坂戸3:東松山2:森林公園1.5と言う感じで、池袋からの乗客の足はかなり長いと言えます。加えて途中駅からのTJライナーへの乗車客も結構多く、ふじみ野以遠では川越以遠も通過する数少ない速達列車としても機能して居ます。

左: TJライナー乗降状況@森林公園 中: TJライナーの着席整理券 右: TJライナーは人気? 池袋20:00発TJライナーもほぼ満席@ふじみ野

 今回は終点の森林公園まで乗車しましたが、TJライナーは中長距離客に上手く利用されて居ると感じました。しかも今回投入されたのは4ドアの通勤形車両だが座席がロング⇔クロスに変更可能なL/Cカーです。その施設的に見ると在京民鉄特に小田急・西武・京成の通勤形座席指定特急に比べるとTJライナーの設備は劣る事は間違いありません。しかし「少ないリスクで着席特急を走らせる」となると、今回のTJライナーは一つの形を出した事は間違い有りません。
 今までは昼間の有料特急の間合い運用が発端で有った夜の座席指定通勤特急でしたが、今回有料特急が無かった東武東上線で、昼間は普通に使えるが夜は有料で着席サービスを提供出来る「リバーシブル」の車両を投入して、新たな着席優等列車を投入したのは色々な意味で「新たな一歩」を踏み出した事は間違い有りません。L/Cカー自体は色々な議論を呼ぶアモコディーションの車両ですが、この様な割り切った使い方も一つの可能性だなと改めて感じさせられました。


 ☆ 『新・東上線』とTJライナーが目指す物は「東上モンロー主義」か?

 今回有る意味驚きの「L/Cカー投入」による着席保証優等列車であるTJライナーの運行を始めた東武東上線ですが、東武東上線が今回の6月14日ダイヤ改正で新たな一歩を踏み出したのは間違いありません。元々東武東上線自体は非常に地味な路線と言うイメージしかありませんでした。東武鉄道自体は東武東上線では東上線の近郊型輸送・池袋のターミナル百貨店・ふじみ野やつきのわでの不動産開発など「民鉄型の総合経営」を行い、有る意味伊勢崎線系統より収益を上げて居るかもしれません。
 しかし今回のダイヤ改正では、『新・東上線』と銘打って居ますが、実際の所は「自社線沿線の利用者のニーズに応えて利便性をあげる」事をコンセプトにダイヤ改正を行って居るように感じます。その象徴がTJライナーなのでしょうが、東武東上線は何故此処で遅まきながらでも変身を図らなければならなかったのでしょうか?

左:ダイヤ改正ポスターも副都心線でなく東上線がメイン? 中:池袋で東武百貨店とのコラボレートを狙う? 右:池袋駅の改札新設で対JR乗換改善で副都心線に対抗?

 その原因は同じ6月14日に開業した東京メトロ副都心線に有ると考えます。東京メトロ副都心線に関しては「 東京最後の地下鉄新線は関係各社の「同床異夢」の中で走るのか? 」で、東武鉄道の話を含めて取り上げましたが、東武東上線も乗入る東京メトロ副都心線は東武東上線に取り「両刃の刃」で有る事は間違いありません。
 東武鉄道東上線に取っては、東京メトロ副都心線は「新宿・渋谷に直通」が沿線イメージの向上と利便性向上による不動産価値の向上と言うメリットが有ると同時に、和光市〜池袋間で東京メトロに逸走する事で年間20億円の減収が予想される事に加えて、東武百貨店の旗艦店舗で有る池袋店の客が副都心線経由で新宿・渋谷に逸走するデメリットが有ります。有る意味東武鉄道にしてみれば「副都心線は開業してくれれば、後はお付き合い乗入でメリットは享受出来る」「東武にして見れば副都心線に流れ兼ねない客を何とか池袋へ客を引っ張る事が最大のメリット」という事になります。

 その為に「副都心線に乗りいれつつ」「如何にして池袋に乗客を運ぶか」という相反する目的を達成する為の施策が今回のダイヤ改正で有ると言えます。今回のダイヤ改正では東武鉄道東上線⇔東京メトロ副都心線との乗入も実現して居ますが、東武線内は全て普通で東武線内では冷遇されて居ます。それに対して対池袋輸送では、池袋からの着席サービスで有るTJライナーや、急行の増発や、池袋駅での改札口新設による乗換改善や百貨店アクセス改善など、池袋を利用した方が便利な様にダイヤの設定やインフラの投資をしています。
 要はTJライナーに象徴される今回の東武鉄道東上線ダイヤ改正の目的は「東上モンロー主義」なのかもしれません。東武東上線には東京メトロが副都心線・有楽町線で乗り入れてくるなど他社が影響を及ぼそうとして来て居ますが、東武鉄道としては「うちは自社内で完結したい」「うちはメトロに干渉しないからメトロもうちの客を引っ張らないでくれ」という「モンロー主義」的な発想が根底に有るのでは無いでしょうか?それが今回のダイヤ改正の内容として表に出てきて、その象徴がTJライナーなのかもしれません。
 東武鉄道にしてみれば、東上線の乗客が減る事も、東武百貨店の客が減る事も経営的には大きなマイナスです。しかし相互乗り入れ先ですから戦争も出来ないでしょう。しかも不動産関連では間接的なメリットも有る事は間違い有りません。その難しい状況に対しての答えが「東京メトロと距離を置く」ともいえる「モンロー主義」的な施策なのではないでしょうか?。
 只「モンロー主義」と言えども、良く交通の分野で使う公営事業者が市内交通を独占するという意味での「モンロー主義」より緩い感じで、どちらも範囲を守って仲良くと言う感じでの「モンロー主義」で有ると言えます(本来のアメリカの「モンロー主義」は此方に近いか?)。果たしてこの「東上モンロー主義」は上手く行くのでしょうか?


 * * * * * * * * * *

 ☆ あ と が き

 私も東京23区北西部に住んでいて、東武東上線沿線には住んで居なかったんで直接利用する事は無かったのですが、使って居るターミナルが池袋で有ったので東武東上線・東武百貨店に関しては、決して「知らない」会社でも無く「近くてチョット遠い」会社の路線で有ったと言えます。
 しかし東武東上線のイメージと言えば少し南を走る西武池袋線と比べても「チョットダサい?」「チョット田舎臭い?」と言うダーティーなイメージが着いてくる路線で有ったと思います。しかし東京メトロ有楽町線・副都心線の乗入れによる都心アクセス向上で沿線のイメージは少しずつ良くなってきており、昔とは変わりつつ有ると感じて居ます。

 その中で「新宿・渋谷直通」「急行運転開始」という飛び道具を揃えた東京メトロ副都心線の開業は、東武鉄道東上線に取ってはメリットは有る物の、前述のように「美味しい所で客をさらわれる」という点では、重大な危機で有る事は間違い無いと言えます。
 それに対する東武鉄道東上線の答えが、TJライナーを目玉にする6月14日ダイヤ改正による『新・東上線』の登場で有ると言えます。確かに此れで東武鉄道は「東上線の乗客を池袋に誘導する」という姿勢を示しましたが、実をいうと一番メリットを受けたのは東上線沿線の乗客では?と言う気がします。
 今回のダイヤ改正で東武鉄道東上線はTJライナー登場を筆頭にして、対池袋だけでなく池袋でのJR乗換も明らかに便利になりました。加えて「東上線内では冷遇されて居る」といえども、副都心線と乗り入れを開始した事でメトロ経由で新宿・渋谷に向かうのも便利になりました。それらの総合的なメリットは非常に大きいと言えます。
 その様な点から見ると、今回のダイヤ改正とTJライナー登場が示した物は、「東上モンロー主義」という側面も有る物の、それ以上に「便利になった東上線とその乗入路線」が東上線沿線の利便性と価値を引き上げ、それにより『新・東上線』を演出したと言う事なのかもしれません。其処からも東上線沿線の将来が楽しみとも言えます。皆様如何でしょうか?




※「 TAKAの交通論の部屋 」トップページへ戻る

※「 交通総合フォーラム 」トップページに戻る。



このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください