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東京最後の地下鉄新線は関係各社の「同床異夢」の中で走るのか?


- 200年6月14日 東京メトロ副都心線 出発進行! -


TAKA  2008年06月20日


CMに広告 東京メトロは副都心線アピールに熱心だが・・・ 副都心線は何をもたらすのか?


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 ☆ ま え が き

 東京は世界でも有数の地下鉄ネットワークを持って居る都市です。実際東京は東京メトロ(9路線・203.4km)・都営地下鉄(4路線・109km)で合わせて312.4km(一部重複部分を含む)の路線網が出来上がって居ます。東京の都心部を中心に此れだけの路線網を広げて居る東京の地下鉄網でしたが、今まで都心西部の副都心西部地域に関しては、(民鉄乗り入れを含めて)副都心地域を東西を結ぶ路線網は有っても南北を結ぶ路線網はJRに委ねられており、地下鉄ネットワークとしては「欠けていた場所」で有ったと言えます。
 しかし近年、新宿が「副都心で無く新都心だ」と言われるほど発達してきており、加えて民鉄のターミナルとして渋谷・池袋の発達も目を見張る物が有り、今や東京の都心は大手町・東京駅・日本橋・銀座地区の単核から、プラス新宿地区も核となる複核の都市に変化しています。しかしながら東京の地下鉄、特に新宿に1路線しか持たない東京メトロは、今までその様な「第二の核の誕生」という東京の都市構造の変化に対応出来て居ない感じがありました。

 実際に、現在も利用客が延びて来て居る「都営地下鉄大江戸線」や、新宿を通って神奈川(横浜)〜渋谷〜新宿〜池袋〜埼玉(大宮)を結ぶ「湘南新宿ライン」など、新宿へ客を運ぶ新規路線は軒並み成功を収めています。そう言う意味では今や東京の鉄道ネットワークを考える中で「新宿」という存在は無視出来なくなっています。
 今や東京の鉄道ネットワークで成功に重要な要素で有る「新宿」に関して、乗り遅れた感が有る東京メトロでしたが、その出遅れを挽回する切り札が今回完成しました。それが「東京最後の地下鉄新線」と言われる「東京メトロ副都心線」の開業です。東京メトロ副都心線は、池袋〜新宿〜誌部やを東側で結ぶ明治通りの下を通り、池袋〜新宿三丁目〜渋谷を結ぶ地下鉄路線ですが、この路線の特徴はそれだけでは有りません。只単純に池袋〜新宿〜渋谷を結ぶだけではありません。JR東日本既存路線の改良と言う「 ブレークスルー 」で新宿と今まで直通の無かった地域を結び成功を収めたのと似ている形で、東京メトロ副都心線は西武池袋線・東武東上線・東急東横線(2012年度直通運転開始予定)と直通運転をする事で、神奈川・埼玉の広範囲から新宿へ客を運ぶネットワークを築く事で、新線効果とネットワーク効果を生かして成功を目指そうとしています。

 東京メトロ副都心線は6月14日に開業しましたが、その前には多くのマスコミで「副都心線の効果」が取り上げられ、色々な人が「副都心線が出来ると人の流れが変わる?」という事について深い認識を持つ様になりました。加えて東京メトロは開業前に多くのテレビで「 副都心線開業のCM 」を打つなど、今までの鉄道業界では考えづらい程の知名度UPの施策を打つなど、色々な点で「今までとはチョット違う」新線開業となりました。
 さてその「東京都市部最後の大物」と言える東京メトロ副都心線は、果たしてどの様な関係者の「思惑」を乗せて走り出したのか?、現地の試乗記、関係各社の思惑、誰がメリットを受けたのか?と言う視点を中心に、この一大プロジェクトの完成について考えて見たいと思います。

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 ● 参考HP ・ 東京メトロHP  ・東京メトロHP - 副都心線特集ページ - ・情報交通ホットライン - 副都心線情報館 -
          ・wikipedia - 東京地下鉄副都心線 - レイルマガジン「編集長敬白」- 副都心線いよいよ開業  副都心線に試乗 -

 ● 参考文献 ・鉄道ダイヤ情報2008年7月号 ・週刊エコノミスト2008年6月3日号「渋谷・新宿・池袋 東京「百貨店戦争」」 ・日本経済新聞社編「攻防メガ百貨店」
          ・週刊東洋経済6月21日号「池袋・新宿で過熱 新・百貨店戦争」 ・東京人2008年7月号「特集 地下鉄 副都心線開通 街はこう変わる」

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 ☆ 副 都 心 線 試 乗 記 (6月14日)

 先ずは、開業直後の副都心線の状況を見てみる事にします。副都心線が走る地域自体は明治通りの直下を走っており、家が城西地区で仕事でも新宿・池袋・城西地区を中心に動いて居る私に取り「勝手知ったる地域」ですので、しかも家が西武池袋線沿線ですから、特段の理由が無ければ「慌てて見る必要は薄い」とは思って居ました。
 しかも開業直後は「鉄ヲタ」等の「非日常的な利用」が多いので実状を見る事が出来ず、訪問のメリットよりデメリットが多いと言うのが過去の経験則でしたが、偶々6月14日・15日と仕事で出歩く用事があり、加えて6月16日は朝イチが渋谷経由東横線沿線に行く予定が入ったので、「折角出かけるのなら見に行ってみるか?」と思い、6月14日は夕方〜夜に掛けての時間に開業直後の副都心線をチョット迂回して利用して、開業直後の状況を観察してみる事にしました。

 □ 副都心線の中核駅? 新宿三丁目駅

 14日は立川で仕事だったので、「何処から副都心線にアクセスしようか?」と悩んだ末に、一番無難なルートである中央線新宿〜徒歩で新宿三丁目駅にアクセスする事にしました。
 新宿駅から新宿通りを徒歩で新宿三丁目駅に着いたのが17時前でした。副都心線新宿三丁目駅は新宿三丁目交差点から南側の明治通りの下に駅が造られています。新宿は地下街が発達して居ますが、今回副都心線開通に伴い明治通り下にも伊勢丹〜高島屋間を結ぶ地下街が整備され、明治通りの歩道が狭い事で街の回遊性が阻害されて居ましたが、その点も大きく改善されました。これも新宿における副都心線の隠れた効果です。

  
左:開業当日の人で混雑する新宿三丁目駅改札口 右:幅員が広めの新宿三丁目駅

 副都心線の新宿三丁目駅の改札口は、丁度ホームの南北両端に有り伊勢丹〜高島屋を結ぶ地下道に面しています。この副都心線新宿駅の立地は南北に4万㎡〜5万㎡を越える大型商業施設が有る為、買い物客等の非日常利用を集めるには非常に優位な立地ですが、新宿のビジネス街は新宿駅の西〜南側に広がって居る事から、ビジネス街へのアクセスには不便です。この立地が吉と出るか凶と出るか?ここは副都心線の成功を占うのに大きな要素になると思います。
 駅構内に入りホームに降りると、地上の明治通りの幅員から想像していたより広いホーム幅員に驚きます。新宿三丁目駅は地下の躯体間で幅が約18mとチョット広めに造って有ります。流石に拠点駅で有る以上「出来る限り大きなインフラを造る」と言う事は将来を見据えて必要な事です。
 ホームで見て特徴的なのは、近年各所で増えて居るホームドアの存在です。ホームドアには「全面塞ぎ」「腰の高さまで設置」の2パターンが有りますが、副都心線の場合は「腰の高さ」までのホームドアが設置されて居ます。副都心線の場合は、ATO・ホームドア設置でワンマン運転と言う合理化を睨んだシステムを採用しています。只利用者は未だ慣れて居ない感じで発車時に「再開閉」をしていた例が散見されたので、運行の安定化・定時性の維持の為に未だ努力が必要かもしれません。

  
左:大きな吹き抜けが開放感を出す新宿三丁目駅 右:丸の内線との乗換は階段直結

 新宿三丁目駅のもう一つの特徴は、東京メトロでは珍しい「地下駅での吹抜の存在」です。今回副都心線では新宿三丁目・明治神宮前・渋谷の3駅に吹抜が有りますが、やはり閉塞感が有る地下駅では空間を贅沢に使う事は余裕があり良い事だと思います。只この様な事例は 台北地下鉄みなとみらい線 では、今より前にもっと大規模に採用されて居る実例が有る事からも、「東京の地下鉄もやっと追い着いてきたな」という感じはしました。
 それと「良く頑張ったな」と言えるのが、副都心線⇔丸の内線のノーラッチの連絡通路です。幅員的には「上りエスカレーター+階段」の設置がイッパイだった様で本当は欲しいエレベーターなどが無いのは不満ですが、ラッチ外接続が多い東京メトロで「何とかして最短の乗換えルートを整備しよう」という努力は評価して良いと思います。
 新宿三丁目駅は、副都心線に取って「新宿の玄関口」と言う位置付けの駅で有ると同時に、2012年の東急東横線乗入開始時には横浜方面から新宿三丁目折返し電車が設定される予定など(そのため折返し線が設けられている)、運転上の拠点駅となる可能性の高い駅です。本来ならその様な重要駅ですから、もっと立派な駅施設が有っても良いのでは?と思いますが、絶対的制約要因として「明治通りの幅員の狭さ」という制約が有る中で良く頑張って此れだけの駅を造ったと思います。後は痛し痒しですが、半蔵門線渋谷駅のように「地上の道路幅員の制約に合わせて駅を造ったら利用者増で駅設備が飽和状態になった」と言う様な事が発生しない事を祈るばかりです。

 □ デザインに凝った東京メトロ・東急の拠点駅 渋谷駅

 新宿三丁目駅の次は、池袋・渋谷のどちらかの拠点駅に行くのが「無難な見学ルート」ですが、池袋は「基本は新線池袋と変わらない」事は分かっているので、もう一つの副都心で副都心線の現在の終点である渋谷駅を訪ねてみる事にしました。新宿三丁目からは急行に乗ったので渋谷駅までわずか一駅、地下鉄なのに速度的には何か埼京線or湘南新宿ラインにでも乗った感じです。
 渋谷駅は現在は副都心線の終点ですが、2012年に東急が 代官山〜渋谷間地下化工事・東横線長編成化工 事を完成させると、渋谷駅は副都心線と東急東横線の接続駅になります。その為現在は東京メトロ副都心線の駅でありながら東京メトロと東急電鉄が分担して駅を造り、半蔵門線渋谷駅とあわせて副都心線渋谷駅も東急電鉄管轄となっている為、東京メトロのカラーが薄くちょっと異色の駅です。

  
安藤忠雄デザインの特徴的な渋谷駅 左・中:出入口やエスカレーターも「地宙船」をイメージ? 右:案内等のサインも独特

 渋谷駅はその様な「ターミナル性を求められる」という事情もあり、駅の規模も2面4線と他の駅より規模が大きくなっています。また渋谷駅は安藤忠雄デザインで駅全体は「地宙船(地中の宇宙船)」をテーマとしたデザインが施され、新宿三丁目・明治神宮前駅にも有る吹抜けがもっと巨大な形でしかも換気施設兼用で存在するなど、地下鉄の駅としてはデザイン的にもかなり凝っています。
 しかも「東急管轄駅」という事もあるのか?案内サイン等東京メトロとは違う独特な造りとなっている部分もあり、素人目に見ても駅の構造だけでなく出入り口のデザイン・案内サイン等、色々な点で「ちょっと違う駅だな」と感じさせるものがあります。
 又新宿三丁目で丸の内線との乗換えが考慮されている様に、渋谷でも東京メトロ半蔵門線との乗り換えは便利な構造になっています。それには将来的に「この駅が東急のターミナル駅になる」事から「東横線と田園都市線との乗換えも便利にしたい」という意図があると推察されます。この事がどのような効果を生むのか?それは注目といえます。

  
左:渋谷駅の象徴? 巨大な吹抜け 中:真ん中2本の路線は今回は使用せず 右:渋谷の折返しでは入線待ちも時々発生?

 このような大規模な渋谷駅は、渋谷駅東口明治通り沿いの駅前広場というスペースが存在したからこそ出来た巨大なインフラです。しかしながら現在は未だ東急東横線が乗り入れて来ていない為に2本の中線は現在は使われておらず、「大きな1面2線」の駅構造という状況です。これがダイヤ混乱時等にダイヤの柔軟性を阻害しならなければ良いと思います。
 又渋谷駅は、池袋方・横浜方両方に折り返し可能なポイント配置になっていると聞きます。しかし道路上の幅員の問題か?今回完成した北側には折り返し線がありません。という事は東横線側からは「渋谷で折り返すときにはホーム上で折り返す」という事を意味します。新宿直通を重視して新宿まで多くの列車を持っていくから新宿三丁目に折返し線があればOKとも考えたのでしょうが、ちょっと不安が残ります。現在副都心線の列車が外側2線だけを使用して折り返していても、ちょっとダイヤが乱れれば「渋谷の手前で入選待ち」という事が発生しています。これに東横線が入り込めば渋谷駅はもっと込み合うでしょう。せめて両側に1線ずつ折返し線があれば、スムーズに渋谷での折返しが出来るといえます。
 現状を見る限り十分なインフラ施設であるといえますが、将来より複雑化する副都心線の運行形態を考えると、小竹向原〜渋谷間で折返し等の一定の運行の整理が出来るのが池袋(小竹側に渡り線)・新宿三丁目(東新宿側に折返し線)だけという状況から考えると、大きなインフラで非常時に対応できるのは渋谷駅だけになります。そう考えると「2面4線」の配線の基本は良いとしても両方向に1本ずつ折返し線があれば万全でしたでしょう。「将来を見込みインフラを整備する」事は非常に困難なことですが、「インフラが輸送需要に追いつかなかった」という過去の失敗事例が近くに有る以上、もう少し将来を見据えた対応を考えるべきだったのでは?と今更ながらに思いました。

 □ 「東京メトロが造った最後の地下鉄新線?」副都心線は見るべき所が多数有る!? (各途中駅の状況 etc)

 新宿・渋谷と副都心線の拠点駅の中でも「副都心への玄関口」といえる拠点駅を2つ見た後は、自宅の練馬方向に向かいながら途中駅の状況を見ることにします。
 只この時未だ夕食を食べていなかったので、渋谷からチョット寄り道して半蔵門線で表参道に出て「 エチカ表参道 」のBistoro LYONで食事と一杯引っ掛けて、表参道からは千代田線で明治神宮前に戻り、再び副都心線試乗を再開することにしました。

若者の街にある明治神宮前は隠れた注目駅? 左:明治神宮前駅に有る吹抜けとエレベーター 中:大きな案内ビジョンが有る改札口 右:外に出ると其処は表参道

 まずは明治神宮前駅です。明治神宮前駅は丁度明治通りと表参道の神宮前交差点の下にあり、東京メトロ千代田線と交差する乗換拠点であると同時に、周辺には表参道の高級ショッピング街だけでなく若者に人気の竹下通りも近くにあり、池袋・新宿・渋谷の3副都心に続く「副都心線第四の拠点」であると同時に、百貨店系の大型商業施設には乏しいものの「副都心線沿線の隠れた商業拠点地」ともいえる場所です。
 その為「副都心3駅を直結」するのが目的の急行こそ通過するものの、駅設備自体は拠点駅の新宿三丁目駅に近いレベルまで整備されています。しかもこの駅で特徴的なのは新宿三丁目駅では「飾り」に過ぎなかった吹抜けにシースルーエレベーターが整備されていて、コンコースからエレベーターを使うと「ホームに舞い降りる」様な感じになっていることです。これはデザイン的には優れているといえます。
 又駅の出口などもガラスを多用した開放感の有るデザインに仕上げてあり、駅のコンセプトである「ファッション×社」と言うのが具現化されているといえます。
 但しこの街は「若者の竹下通り」と「大人の表参道」が明治通りを挟んで共存している街です。駅のコンセプトは「表参道系」のデザインですが、この街を目指す客は比較的富裕層の多い東横線方面に多いと推察され、現状の乗り入れ先の西武池袋線・東武東上線沿線の人たちは比較的若者が多く「若者系の竹下通り」を目指す可能性が高いと言えます。そうなると2012年の東横線乗り入れ開始までは、利用客層と駅のコンセプトが乖離する可能性があります。其処はこの駅を見て「副都心線の駅として人を引き付ける潜在能力のある駅」と感じたのと同時に「駅のイメージと利用客層が乖離して潜在能力が潜在能力のまま終わるのでは?」という危惧は抱きました。

乗換の無い中間駅は簡素な造り? 左・中:北参道駅ホーム 右:北参道を通過する急行電車
利用客層に応じて駅の施設への投資も考えている? 左:急行待避用に通過線の有る東新宿  単線シールドトンネル内に造られた駅 中:西早稲田 右:雑司が谷

 それ以外の中間駅である、雑司が谷・西早稲田・東新宿・北参道は、どれも「メトロ線間での乗換が無い」と言う事もあり、比較的利用者が望めない事もあり、駅施設は利用客数予想相応という事なのでしょうが「一段落ちた規模」で造られています。
 北側の雑司が谷・西早稲田は単線シールドトンネルを拡幅してホームを作り、縦坑を生かして地上との連絡通路を作る形態になっています。又北参道は普通の開削工法で作られていますが、地上の明治通りの幅員が狭い為、ホームの幅が明らかに狭くなっています。これらの駅は(雑司が谷は明治通り上ではないが)地上の制約で大きな幅員のホームを造りづらい中で、地上の道路交通と建設コストと利用客数を相対的に考えて、このような形の駅が造られたと言えます。
 この辺りは東京メトロも「相応のコスト意識」を持って上手くインフラを整備したと言えるでしょう。
 それに対して、東新宿は駅のホーム等は狭いものの、此処には「副都心線の特徴の一つ」である「急行運転用の待避線」が設けられています。此処は地上が明治通り拡幅用にセットバックがされており地上スペースが確保できたことで、「ホームを上下二段にして待避線を設ける」大規模な開削工法が可能だった事もあり、この駅に待避線が設けられたと推察できます。
 只東新宿の駅の立地は現状では「歌舞伎町の裏手」で、新宿と言ってもほとんど商業・ビジネス集積の無い地域で、将来的に駅近接の日テレゴルフガーデン跡地で行われる「 三菱地所・大和ハウス・平和不動産などと共同で行う、3〜5年後の完成後をメドにオフィスを中心とした複合開発を進める計画 」が現実化しない限りは、大化けする可能性も低いので、駅の旅客設備自体は大江戸線との乗換駅ですが至って簡素な造りです。この辺りも(沿線需要より3副都心を狙う)東京メトロの考え方が現れています。

副都心線はトンネル掘削技術の博物館!? 左:単線シールドトンネル @東新宿 中:複線シールドトンネル @明治神宮前 右:複合円形複線シールドトンネル @渋谷

 さて駅に続いて、今度は駅間のトンネルです。副都心線の駅ではホームドア越しに上手く駅前後のトンネルの中を見ることが出来ます。と言う訳で、(ストロボ無しなので写真はイマイチですが)駅から見える限りの範囲で副都心線のトンネル構造も見てみました。
 副都心線は東京西側で数少ない環状道路でありながら計画されたのが「帝都震災復興計画」の時代だった為、道路幅員がそれほど広くなく自動車交通が集中するために激しい道路混雑が発生している明治通りの下に造られています。その為地上の明治通りの交通への影響を最低限に留める為に(有る意味同時期に山手通りも 中央環状新宿線の工事 が行われていた為、道路交通へ最大限の配慮を図るのは当然だったと言える)、駅部分以外に関してはほぼ全区間シールド工法で造られています。
 但し副都心線建設には簡単に「シールド工法で造られました」とは言えないほど多数の工法が用いられています。その シールド概要 は、単線シールド(池袋〜新宿三丁目間)・複線シールド(新宿三丁目〜明治神宮前間)・複合円形複線シールド(明治神宮前〜渋谷間)に大別されますが、新しいシールド工法として「複合円形複線シールド」が用いられていますし、又 環境対策にも配慮 して「建設副産物の再利用」「騒音・排気ガス対策に配慮しての工事」など、随所に最先端の技術が投入されていると言えます。
 実際副都心線は、都市地下鉄建設では日本有数の技術力を持つ東京メトロの最後の新線建設(?)だけあり、東京メトロの(色々な意味での)持てる限りの技術が投入されていると、土木に関しては「チョット詳しい素人」である私にも分かりました。こういう視点で新線を見ても面白いのでは?と改めて感じさせられました。


 ☆ 「東京最後の地下鉄!?」副都心線に抱く関係各社の思惑とは?

 さて、この様に「東京の3副都心を縦断する」という「ダンゴ三兄弟の串」とも言えるルートで造られた東京メトロ副都心線ですが、東京最後の(?)地下鉄新線であると同時に、首都圏の広域ネットワークの一端を担う路線として造られた為に、相互乗り入れが活発に行われている東京の中でも、浅草線(都営・京急・京成・北総)や南北線と三田線(メトロ・都営・SR・東急)並ぶほど複数の関係者が乗り入れる路線となっています。実際2012年に東急東横線と乗り入れを開始すれば、メトロ・西武・東武・東急の4社が副都心線に関係しますが、現在でもメトロ・東武・西武の3社が関係する状況になっています。
 しかしながら現在乗入しているこの3社の「考え・思惑」は果たして同一なのでしょか?それはNOで有るといえます。東京メトロとしては2500億円をつぎ込んだ「社運を掛けた大プロジェクト」ですし、北側の西武・東武は既に有楽町線に乗り入れていた上で加えての副都心線乗り入れで、各社各様の事情を抱えていま。これだけ色々な状況に縛られれば、各社各様の考え方・思惑を秘めて副都心線に「同床異夢」で共存していると言っても過言ではありません。
 では各社どの様な思惑を持って副都心線開業に望もうとしているのでしょうか?此処は完全に私の(ある程度は根拠の有る)読みになってはしまいますが、各社の副都心線への考え方・思惑について考えてみたいと思います。

 □ 東京メトロの思惑 - 副都心線で広域から新宿へのアクセスルートと各線接続のネットワークの強化が最大のメリット? -

 さて副都心線の「主役」である東京メトロですが、流石に2500億円を投資した「最後の地下鉄新線」であり、この後には「東京メトロの民営化」と言うイベントが控えて居る以上、副都心線にかける「気合は十分」といえると思います。
 それは乗客誘致策としての(東京メトロでは)都心部初の「急行運転」や合理化策としての「長大編成でのワンマン運転採用」等の先進的施策にも現れて居ますが、一番特徴的なのは「急行運転」でしょう。この目的は「池袋・新宿・渋谷の3都心を早く結ぶ」という効果も狙って居るとは思いますが、それ以上に「急行運転で東武東上線・西武池袋線(将来は東急東横線)から早く乗客を運ぶ事で、新宿・渋谷(特に新宿?)に客を集めよう」という考えが存在しているのでは?と思います。
 実際急行運転をしても、池袋・新宿・渋谷の3駅間は近すぎて副都心線が地下鉄であり池袋・新宿の駅の位置の問題も有り、JRの山手線・埼京線・湘南新宿ラインと比較して競争力が保てるとは思えません。そうなると副都心線が競争力を発揮出来るのは「シームレス効果」が強く出る乗入先の各線から沿線最大の拠点である新宿(三丁目)へ「如何にして早く便利にお客さまを運ぶか?」という事になります。其処が先ずは副都心線での東京メトロの狙いでは?と推察します。
 加えて新宿三丁目では同じメトロの丸の内線とノーラッチでスムーズに乗換が可能です。此れにより急行停車駅で拠点駅の新宿三丁目を経由して四ツ谷方面にも副都心線経由での速達効果を及ぼす事が出来ます。このネットワークを強化する事で副都心線の効果を「点と線」から面に広げる事が出来る可能性も出てきます。この辺りが「池袋・新宿・渋谷の3副都心を結ぶ」副都心線で東京メトロが狙うポイントであろうと推察します。

左:先ずは新宿に客を集める事がメトロの狙い? @「新宿ぶらりキャンペーン」 副都心線からの乗換利便向上はネットワーク性を向上させるか? 中:池袋の乗換 右:明治神宮前の乗換

 東京メトロは、副都心線開業で「 1日約15万人の新規利用客・年間40億円の増収効果 」を見込んで居ると聞きます。池袋・新宿・渋谷の三副都心を通る「期待の大型新線」ですから、この数字は「チョット控えめ過ぎない?」という感じもしますが、先ずは「此れぐらいに目標を置く」最低目標で有るのかもしれません。
 実際此れだけの増収効果では、実際の所東京メトロの立場としては厳しい物が有るでしょう。2500億円の投資金額から考えると年間40億円の収入では「採算性の良いプロジェクト」とは残念ながら言えません。又「最後の地下鉄新線」である副都心線開業で大型投資が一巡して、平成21年度にも予定されて居る東京メトロ株式上場への最大の障害をクリアした東京メトロにしてみれば、「事業の採算性を高めて収益力を付ける」と言う事は非常に重要な問題です。
 その為にも、東京メトロは「東京都市部の成長地域」に布石を打つ必要が有ります。しかし既存路線に縛られる東京メトロにしてみれば、都市の構造の変化に対応するのは非常に難しいと言えます。その中で東京でも幾つか有る成長地域の一つで有る新宿地域に、今回副都心線開業で東京メトロが布石を打てた事は、大きな意味が有るといえます。
 今回開業した副都心線を縦軸にして、東京西部を走る既存メトロ各線を横軸にして、上手く東京都心西部に新しいネットワークを広げて、新しい相乗効果を生み出し、上手く想定以上の利用客と収入を得て平成21年度予定の株式上場に弾みを付ける企業価値向上を目指したいと言うのが、東京メトロの狙いでは?と思います。
 只過去に例が無いほどCM・広告を打った効果か?開業当初から「開業初日約50万人・2日目約30万人」と利用者数では順調な滑り出しをした副都心線ですが、運転上では「4日間連続でのダイヤ混乱」で躓き利用者の信頼を失ってしまっています。この中で如何体勢を立て直して副都心線の利用客数・収入向上に繋げて行くか?が副都心線の成功のために東京メトロに求められて要ると言えます。

 □ 東武鉄道の思惑 - 恐れ多くも「御曹司様で社長の兄が経営している会社に仇を成す」鉄道路線に乗り入れるのは迷惑至極? -

 さて東京メトロ副都心線に乗り入れる事で、副都心線へ利用者を供給する立場になるのが、東武東上線・西武池袋線の池袋を起点にする民鉄2路線になります。この2路線は立場的に難しい立場に立っています。その中でも特に複雑な立場に立たされて居るのが、東武鉄道といえるでしょう。東京メトロの次は乗入を行う先になる民鉄2社の内東武鉄道を取り上げる事にします。
 有る意味今回東武鉄道は副都心線開業に対して「明確な姿勢」を示したと言えます。それは「副都心線は重視しない」という姿勢です。此れは副都心線開業に伴う6月14日のダイヤ改正を見れば明らかです。6月14日のダイヤ改正の東武の最大の売りは「TJライナー」です。これは「池袋から遠方への着席サービスを提供する」というのがコンセプトですが、これは明らかに「池袋のターミナル性を重要視する」という東武の姿勢を明確に示していますし、このダイヤ改正でメトロが「地下鉄線内急行運転」で積極施策を打ったのに和光市から東武線に入った瞬間に「普通列車に化けさせる」という「副都心線に冷たい施策」を取っています。これらの施策からも東武鉄道は副都心線乗入開始を重視せず、逆に副都心線に流さずターミナルの池袋を経由させる様に仕向ける「ターミナル池袋防衛」を目指したダイヤ改正を行って居ます。「TJライナー」は正しくその象徴と言えます。
 何故この様な施策が取られるか?と言えば、直接的な理由として「東武鉄道が減収になる」という切実な理由が有ります。今まで東武線⇔新宿・渋谷方面の客の大部分は東上線池袋駅経由で移動して居ました。この客が副都心線開業で、副都心線経由に転移する可能性が非常に高く、一説に依れば東武鉄道は「 副都心線開業で20億円の減収 」になるとも予想されて居ます。「この減収を何とか食い止めたい」これが東武鉄道が副都心線乗入に冷淡で、背を向けるようなダイヤ改正を行う大きな要因で有ると言えます。

左:最大のイベントは副都心線で無くTJライナー? 中:鉄道と百貨店のコラボを示したポスター@池袋 右:副都心線で東武が来るのに・・・。開業前に東武百貨店が売却した神宮前のビル(GAPのビル)

 此処からは「推測」になりますが、「運輸収入減収」以外にもう一つ東武鉄道に「副都心線から背を向けさせたくなる理由」が存在します。それは東武鉄道の連結対象子会社の東武百貨店の存在です。この子会社の存在が東武鉄道を「副都心線から背を向けさせたくなる」理由ではないかと推察します。
 普通なら幾ら重要な子会社であれども連結対象の子会社に親会社が気を使う必要は有りませんが、東武鉄道と東武百貨店の関係はチョット複雑です。それは会社上の関係は東武鉄道>東武百貨店ですが、東武鉄道の根津嘉澄社長は東武百貨店の根津公一社長の直系の弟になります。つまり東武鉄道から見れば「東武百貨店の社長は社長の兄」という事になります。此れでは「幾ら公私は別だ」と言うのが有れども、東武鉄道が東武百貨店に気を使わなければならないのは容易に想像出来ます。まして東武百貨店は先代の根津嘉一郎社長が元松屋社長でミスター百貨店再建請負人山中鏆氏を三顧の礼で招聘するほど力を入れて居た会社で、1992年に売場面積82,963㎡の(当時)日本最大の百貨店に大幅増床した時には翌年財務体質強化のために傘下の東武不動産を合併させるほど「あの手この手で手塩に掛けて育てた」会社です。
 この様な「鉄道会社と百貨店」の関係は過去にも例は有ります。それは「 西武鉄道と西武百貨店 」の関係です。西武の場合は「妾の子で有る弟が本体の鉄道を継いで正妻の子で有る兄が子会社の百貨点を継いだ」上に兄弟関係の悪化から流通グループを鉄道本体から分割と言う「決裂の関係」となって居ますが、東武の場合は西武のように「複雑な関係・決裂と言う結果」ではなく、正しく兄弟仲良く円満に経営が行われて居ます。
 この様な東武鉄道と東武百貨店の関係から推察すれば「ターミナル百貨店で特別な子会社の東武百貨店に客を運ぶ為には副都心線より池袋ターミナルを重視する」ダイヤを東武鉄道が意図して組んだと推測しても、強ち外れて居ないと言えます。
 しかも東武グループが持って居る土地で副都心線より恩恵を受ける土地を近年売却しています。それは神宮前交差点の角に東武百貨店が持っていた2057㎡の土地で、東武百貨店は竹中工務店に定期借地権方式で貸した上で1999年に「 t's harajuku(ティーズ原宿) 」としてオープンさせて、GAPの日本旗艦店が入っていたビルです。この土地自体は(かなり高値で掴んだ土地らしく)バブル崩壊の時代は「東武グループの不良債権の象徴」とも言われて居ましたが、立地的には「一等地」で副都心線が出来れば「新宿伊勢丹&新宿三丁目交差点と並んで一番恩恵を受ける場所」に有る土地でした。この土地が竹中工務店との定期借地権契約が切れる時期を見計らい東急不動産に売却して、2011年には 東急不動産が都心型商業施設を建設 する予定となっています。
 もし東武グループ&東武百貨店が副都心線に強い関心と将来性を感じて居るならば、神宮前のこの土地を手放す筈がありません。この土地を「値上がりをチャンス」に手放した段階で、東武グループが「副都心線のポテンシャル」に対して否定的な見方をしている事を間接的ながら証明して居ると言えます。この様な「色々な要素」が積み重なり、最終的に東武鉄道は副都心線に対して「否定的」な経営的判断をして、その一端が「ダイヤ」という形で現れたと言えるのでは?と思います。
 しかし「百貨店経営」という視点では、今の段階では外れて居ません。今まで 売上げが微減傾向で有った東武池袋本店 ですが、副都心線開業直後の6月14・15日で東武百貨店は「 対前年比105%〜107% 」と言う好調をキープしています。これは「副都心線効果」とも言えます。この様に見ると、東武グループは新宿方面からの客は美味しく副都心線を利用して百貨店に取りこみつつ、自社線沿線の客は確実に囲い込むと言う「したたかな戦略」を持って行動しているのでは?と改めて感じました。

 □ 西武鉄道の思惑 - 練馬で大江戸線に浚われる客を小竹向原経由で運べるだけで当座はOK? -

 同じ副都心線に北側から乗りいれる2民鉄の中で、上記で示した様な考えで「副都心線に対する否定的行動」を取ったと推察される東武鉄道に対して、反対に積極的に副都心線と連携しようとして居るのがもう一方の乗入会社である西武鉄道です。
 西武鉄道の場合、有楽町線直通時代には普通・準急しか乗り入れて居なかったのに、副都心線の急行が乗り入れてくるのに対応して西武線内では快速種別で運転して西武沿線の所沢方面の比較的遠距離の場所からの対新宿・渋谷への速達性を確保しています。これは自社線内では「急行を普通で受ける」形で冷遇している東武鉄道とは対照的で有ると言えます。
 加えて、副都心線開業を知らせるポスターは「忠犬ハチ公」が大きく登場しているなど「渋谷」を意識したポスターを作ったり(東武はもっと印象が薄いポスター)、副都心線開通に合わせて「副都心線経由定期を買えば1000円チャージプレゼント」というイベントを仕掛けたり、(伝え聞きで聞いた話だと)大泉学園の駅では16日の月曜日に「副都心線経由が便利」という趣旨のチラシを配布する等の積極的な「副都心線誘導策」を行って居ます。
 この西武鉄道の「副都心線への力の入れ方」はかなりの物で有るといえます。副都心線に冷たい東武に対して熱心に乗客を誘導している西武ではかなりの差が有ります。果たしてこの差「気合の入り方の差」は何処から出てきて居るのでしょうか?

左:1000円チャージキャンペーンも打倒大江戸線の為? 中:思惑外れて池袋線への乗換が多い?でも関係無い? 右:西武は百貨店が別資本だから副都心線シフトが出来るのか?

 それは西武の場合、一つは東武と異なり「池袋に乗客を送り込んでも波及効果が乏しい」側面があります。西武鉄道のターミナル池袋駅の上に西武百貨店がありますが、東武グループと異なり西武鉄道と西武百貨店は全く資本関係がありませんから、西武百貨店は立地としてターミナル立地を享受して居ますが、西武鉄道が義理立てして西武百貨店に客を運んでも殆どメリットが無いです。その事が西武鉄道にして「無理して池袋に客を運ぶ必要性は低い」と考えさせて居ても可笑しく無いです。
 加えて二つ目には、新宿に向かう客のかなりが「練馬乗換大江戸線」に逸走している状況が背景に有ります。 平成9年平成18年 で池袋と練馬と小竹向原の乗降人数を比べると池袋613,080人/日⇒514,829人/日・練馬74,713人/日⇒88,728人/日・小竹向原21,579人/日⇒51,108人/日と変動しており、池袋が約10万人減少に対して練馬が約1.4万人増で小竹向原が約3万人増となっています。これは(必ずしも全てがこうで有るとは言えませんが)池袋の減少客の半分近くが練馬⇒大江戸線・小竹向原⇒有楽町線に逸走している可能性が有るといえます。(参考資料: 西武鉄道の旅客輸送
 本来西武も池袋に客を運べればベストですが、対新宿ではショートカット路線で大江戸線が有り此処への逸走を食い止めるのはなかなか困難な中で「如何すれば少しでも増収になるか?」と考えると、一つの解として「副都心線を活用しよう」という事では無いか?と思います。
 実際一例として運賃を池袋・練馬・小竹向原で比べると、大泉学園⇒230円・170円・200円で所沢⇒330円・260円・290円で飯能⇒450円・420円・450円となり、西武鉄道の運賃収入的には「池袋まで乗ってくれればベスト、只練馬での逸走は食い止めたい」という事になります。そうなると次善の策は「対新宿で練馬で大江戸線へ逸走して居る客が副都心線に乗ってくれれば御の字」という事になります。
 この事が西武鉄道が「副都心線に少しでも期待したい」という気持ちを起こさせて、副都心線へ優等列車を走らせる等の「積極的施策」に出たのでは?と推察出来ます。


 ☆ 果たして「同床異夢」の中で走る副都心線で一番メリットを受けるのは?

 さあこの様な「同床異夢」の中で開業した副都心線ですが、果たして誰が一番メリットを受けるのでしょうか?此処では結論に変えて、副都心線がもたらすメリットを享受するのは誰なのか?副都心線の先行きを含めて、商業と鉄道の2つの点から考えてみたいと思います。

 まずは商業についてですが、これは経済誌などを中心に「百貨店戦争」だとか「流通の行方」等の内容で、果たして池袋・新宿・渋谷の一体どこの百貨店が副都心線開業で一番メリットを受けるのかが色々と取り上げられています。
 実際副都心線は、「ビジネス街を通る路線」と言うより商業地を通る路線と言った方が当てはまっている路線です。池袋・渋谷は商業集積はかなり高いですがビジネス街とは言えませんし、新宿も駅を挟んで「東側⇒商業地・西側⇒ビジネス街」と言う色分けが強く、加えて竹下通り・表参道を抱える明治神宮前も通るのですから、副都心線は「ビジネス街路線」と言うよりかも「商業地路線」と言うのが正しいのかもしれません。
 その様な商業集積地に、東京北西部・埼玉県南西部から直通でお客様を運んできてくれる(2012年には東横線沿線の東京南西部・神奈川県東部からも運んできてくれる)のが副都心線ですから、沿線の商業施設は其の恩恵を受ける為に気合が入るのも無理はありません。しかも東横線は「渋谷⇒東急百貨店・横浜⇒高島屋とそごう」と言う様に両端に大型百貨店が立地していますが、西武池袋線・東武東上線沿線には、池袋の西武百貨店・東武百貨店の大型百貨店以外には、池袋の三越・所沢の西武と言う「小型百貨店」と川越の丸広と言う「地場のローカル百貨店」しか存在しない以上、副都心線沿線の百貨店や商業施設は、西武池袋線・東武東上線沿線の客を取り込むことが「ビジネスチャンス」と考えるのが当然です。
 実際内容は鉄道・交通の話とは外れますが、これも又副都心線開業の一つの側面であることは間違いありません。

左:新宿高島屋も「副都心線直結」だが・・・ 中:一番恩恵受けるのはやはり伊勢丹? 右:「副都心線効果」を享受すれば三越伊勢丹HDは旧新宿三越(アスコット)再開発に乗りだす?

 この百貨店戦争に関しては、誰が一番副都心線の恩恵を受けるかは下馬評は共通しています。それは副都心線と徒歩1〜2分で直結する百貨店である新宿の伊勢丹・高島屋の二つの百貨店であり、特に独自のMD戦略などで商品力もあり今や「百貨店業界の勝ち組」と言われる、新宿であらゆる意味で地域一番店である伊勢丹が、副都心線を巡る百貨店戦争の勝者であると言うのが、一般的に共通した見方となっています。
 実際伊勢丹新宿本店は、今までは「新宿駅から一番遠い百貨店」と言われながら、新宿の地域一番店の地位を不動の物としています。其処からも伊勢丹新宿本店のポテンシャルの高さは実証済みで、其処に「副都心線新宿三丁目駅直結」と言うアドバンテージが加われば、「伊勢丹が勝ち組」となるのは有る意味当然の見方と言えます。実際三越伊勢丹HDは伊勢丹本店の拡張余地が乏しいため伊勢丹本店の向かいに持つ旧新宿三越(アスコット)の再開発と伊勢丹別館化を進めると言う噂も聞きます。この様な状況からも、伊勢丹が勝ち組で副都心線開業の効果を「濡れ手に粟」のように浚って行くという見方は有る意味正しいと言えます。
 確かに副都心線開業日と翌日の14日・15日は「 高島屋⇒前年同期3割増・伊勢丹⇒前年同期2割増 」と言う効果を出して、新宿の百貨店が優勢のように見えます。確かに試し乗りの時には伊勢丹・高島屋の紙袋を持った人を多く見ましたので、やはり副都心線の効果は大きいと言えます。
 但し西武沿線の私から見ると、「この効果は一過性では?」と感じます。実際直通電車が出来たので「物珍しさ」で新宿の百貨店に行く人も居るでしょう。しかし沿線住民の心境としては「伊勢丹?高島屋?馴染みの無い百貨店だね」と言う心境が強いです。百貨店と言えばやはり「池袋の西武or東武が百貨店。チョット良い物を買うなら三越にしようか?」と言う感じが強く、其の上となると「丸の内線or有楽町線で銀座」と言う感じが私の中ではあります。このイメージはそう簡単には崩せないと思います。事実新宿周辺と小田急線沿線に職場を持っていた私でも池袋の百貨店に加えて「小田急百貨店」と言う選択肢は有れども伊勢丹・高島屋は選択肢の外でした。これは東急東横線沿線での「東急百貨店の求心力の強さ」と言うのも似た感じで存在すると思います。
 この様な感覚を副都心線は打破できるのでしょうか?私は厳しいと思います。実際の所「副都心線開業効果」に沸いたのは新宿だけではありません。新宿ほどではないにしても「 14日・15日の客数は東武百貨店池袋店6%増・西武百貨店池袋店10%増・東急百貨店東横店10%増 」との事ですから、池袋・渋谷の百貨店も着実に人を集めています。
 加えて「 原宿商業圏が人を集めて副都心線開業の真の勝者になる 」という見方があるなど、副都心線開業を巡る流通界での「下馬評」は色々とあり、今は未だ開業直後ですから「皆でで夢を見たり恐れたりしている」状況ですが、私はこれらは「取らぬ狸の皮算用」で、実際の所は「思ったより客は動かないのでは?」と現在では感じています。
 なぜその様な結論になるか?それは開業してから感じた「宴の後の状況」から、周りは盛り上がっているが「沿線ではそれほど副都心線の存在感は無いのでは?」という感覚です。

 この「副都心線は沿線では存在感が無いのでは?」と言う問題は、鉄道としての副都心線の将来を占うのに、かなり深刻な影響のある問題といえます。
 実際副都心線は「 開業初日には約50万人・2日目は約30万人が利用 」して、開業時予測の約15万人を大幅に上回ったと報道されていますが、実際の所この利用者数は「開業直後のご祝儀相場」というレベルの話で、これを持って「副都心線は根付いた」と見るのは早計であると言えます。
 確かに初日・2日目は私も見ましたが、かなりの混雑と言う感じでしたが、実際に列車に乗っている人を見ると「空席もチラホラ」と言う感じで「ご祝儀相場」にしては弱いな?と感じました。まあそれで「初日50万人・2日目30万人」ですから、これはこれで良いとして、問題は其の後です。3日目は私は夕ラッシュ時しか利用しませんでしたが、朝ラッシュ時に乗った人の評判では「混んでいた」そうですが、開業以来連続の「 各種トラブル 」がこの日も発生し、朝ラッシュ時にベタベタに遅れて「遅刻した」「もう使わない」と言う意見を多々聞きました。只ですら沿線では知名度がチョット薄い感じなのに、折角「お試し乗車」をしてくれた3日目の乗客に嫌われてしまっては、残念ながら先行きは暗いと言わざる得ません。

開業4日目朝ラッシュ時だが・・・現実は厳しい? 左:「快速渋谷行」でも大部分が乗換えるのが現実 @練馬 中:副都心線内では空席も有る寂しい現実 @池袋 右:渋谷駅の降車状況も寂しい・・・

 私はこの様な話を聞いた後、開業4日目に朝ラッシュ時のピークの時間と言える練馬駅8時チョット前発の快速渋谷行きに乗り、練馬〜渋谷間の朝ラッシュ時を試乗してみました。其のときの状況が上の写真ですが、其の状況が示す結果は、残念ながらかなり厳しいものであると言えます。
 この日は一番前に乗車したのですが、練馬到着段階では「吊革が埋まる+α」の混雑度で有った快速が練馬で向かいの豊島園発普通に大量(3分の2位?)に乗客が乗り変えて練馬発車時点では座席が埋まる程度、小竹向原発車時点で空席がチラホラ出来て、新宿三丁目〜渋谷間では空席の方が多いレベルにまで乗客が減ってしまいました。幾らなんでも「大東京の副都心を縦貫する」列車です。その列車が朝ラッシュ時最盛期に「空席有り」では情けないを通り越してしまう心境になりました。
 確かに練馬では今までも有楽町線乗入列車⇒池袋線列車への乗換はかなり発生して居ました。しかしこの快速の前の新木場行きも立ち客が吊革の3分の1〜4分の1程度は出て練馬を出発して行きました。1日の1列車しか状況を見ただけで結論を出すのは早計ですが、幾らなんでもこの状況は酷すぎます。考えられるだけで運賃問題・新宿の駅の位置・遅延による信頼低下・トラブルによるイメージ低下・定期の切替が進んで居ないetc問題は色々有るにしても、根本的な問題があり、その結果として副都心線に日常利用の乗客が移乗していない結果が発生して居ると思います。
 しかし根本に有るのが「副都心線は信用出来ない」という意見と同時に、「副都心線には興味が無い」という意見が沿線で多数発生して居る状況から見れば、残念ながら副都心線は沿線住民に信頼を勝ち得て居ない事を示して居ます。此れでは幾ら「急行運転」だとか「新宿直結」と副都心線の利便性をアピールしても効果は発揮しづらいと感じて居ます。
 これはかなり深刻な問題です。東京メトロにしてみれば「2500億円の投資をした新線に閑古鳥が鳴く」という最悪の結果を招く事になりますし、西武鉄道も「折角副都心線に注力したのに空振りになる」という期待外れの結果になってしまいます。しかしこの「最悪の可能性」は今の段階では「現実になろうとしている」というのが実状です。今の状況では「副都心線から距離を置いていた東武が一番上手く立ち廻った」という結果になる可能性が高いのでは?と危惧しています。
 運転上の問題に関しても開業直後の「混乱」も収まってきた様で、14日〜17日4日間連続で「何かしらの遅延が発生していた」副都心線も、一部では「原因だ」と言われた急行運転・ワンマン運転を維持したまま18日・19日とほぼ平常運行が出来るようになっています。当初の4日間連続遅延の原因は大部分が(色々な意味での)「習熟度不足」という初期トラブルに近い問題で有ったと推察されますから、今後この様なダイヤの乱れ等の運向上の混乱は収まっていくでしょう。
 しかし問題は「失った信頼」を如何取り戻し、東武・西武沿線住民に「副都心線の存在・利便性」を如何にして認識してもらい、副都心線を利用してもらうかです。先ずは平日運行初日の3日目起きた 朝ラッシュ時の混乱 で副都心線を見限ってしまった人達(私の廻りにも何人か居る)に、もう一度「副都心線を使ってみようか?」という気持ちになってもらう事でしょう。それが先ず第一歩で有ると思います。
 それが成功出来ないと、副都心線は宝の持ち腐れとなり、だれも副都心線からメリットを受けれなくなってしまいます。その様な事態を避けて、特に副都心線に力を注いで居る東京メトロ・西武鉄道がそれ相応のメリットを受けれる様な状況が来て、「副都心線は其れなりに成功だった」と言えるようになる事を祈っています。又同時に東武鉄道も副都心線と池袋ターミナルの両立を図りながら上手く立ち廻り、関係各社が「其れなりに上手く行きメリットが得られる」状況になる事で総合的に副都心線が成功する事を、沿線の住民として願っています。




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