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台 北 都 市 交 通 ぶ ら り 旅

−中華民国「台湾」の中心都市台北の都市交通を駆け足で訪ねて見る−



TAKA  2007年09月18日




台北の象徴 日本統治時代に作られた総統府



 今回の中華民国旅行の中心は「 台湾高鉄試乗 」と「 台湾鉄路管理局線試乗 」と言う「2つの鉄旅」でしたが、鉄道旅行に便利な首都台北に宿を取った為、特に夜を中心に食べ歩きの為台北市内を動き回る事になりました。今回の旅行では本命の「 圓山大飯店 (グランドホテル)」が取れず、仕方なく旅に便利な台北駅前のホテルを取ったつもりが、如何も私が間違えた様で、台北駅からかなり遠い「 台北華國大飯店 (インペリアルホテル・タイペイ)」を取ってしまい、その為特に台北駅方面までの移動に台北捷運(MRT)を使う事になり、その為も有り台北市内の地下鉄を中心とした交通機関を多少は見る事が出来ました。
 其処で「2つの鉄旅」の合間でしたが、多少は見る事が出来た台北捷運を中心とする台北市内の公共交通について、「ぶらり旅」と言う気軽な形態で書いて見たいと思います。

 ☆台北都市交通関係 参考サイト
 ・「 台北捷運公司(metorotaipei)HP 」(中国語)
 ・ 西船junctionどっと混む台北捷運 」  ・旅々台北.com「 台北捷運未来予想図2 」  ・Wikipedia 「 台北捷運
 ・川崎重工業HP「 台北市向け地下鉄電車を受注 (03/09/02)」「 台北市向け地下鉄電車の初編成を出荷 (05/12/05)」「 台北市向け地下鉄システムを一括受注 (07/03/03)」

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(1)観光で台北中心部のMRT線に乗って見る

 先ずは台北捷運(以下MRTと略す)です。台北には台北駅で交差していて南北方向に走る淡水・新店・中和線と東西方向に走る板南線を中心にMRT(地下鉄)の路線網が引かれて居ます。私が滞在したホテルが台北駅から離れていてしかもホテルの最寄駅が淡水線民権西路駅だった為、MRT民権西路駅まで15分程度歩けば、MRTを利用して比較的容易に台北駅・台北中心部に行く事が出来たので、何回かMRTを利用しました。
 先ず始めに初日ホテル到着後、翌日からの行動に必要な鉄道の切符を買いに台北駅まで出かける事にしました。ホテルの部屋でガイドブックを読んで地図を確認してMRT民権西路駅を目指しましたが、ガイドブックを部屋に忘れてしまいましたが大通りの中山北路までは出れたので、「大通りに出れば地下鉄駅は直ぐ見つかるだろう」と安易に考え台北駅の有る南側に歩き出しましたが、幾ら有るけど地下鉄駅が見つかりません。20分以上「可笑しいな?」と思いつつ歩いていると交差点の地下道で「捷運中山駅」と書いてある看板が有ったのでその看板に沿って歩くと幹線道路の中山北路を外れてしまいます。暫く歩くと三越百貨店がありその前にMRT中山駅の地下への入り口があります。
 結局の所民権西路駅〜中山駅の2駅分を歩いてしまったのですが、何故その様な事になってしまったか?要は「地下鉄は大通りの地下に有るもの」と言う常識が淡水線に関しては異なっていた事になります。MRT淡水線は1988年に廃止された台湾鉄路管理局淡水線の路線跡を使い1997年に開業した路線です。ですから地下区間で有れども台鉄淡水線の路線跡に建設している様です。ですからMRT淡水線は幹線道路の中山北路と承徳路の間に建設されていて、その為台北の地理を把握しきれて居なかった私は歩かされる事になってしまいました。
 地下に入ると駅まで地下街が広がって居ます。中山駅は新光三越百貨店も有る都心の駅と言う事も有り地下街には多くの商店が有り、その地下街は駅を中心に東西南北に広がって居ます。中山駅の地下街は東京のターミナル駅の地下街並みの規模でMRT台北車站駅にも大きな規模の地下街が有りました。如何もこの地下街は台北捷運公司の経営の様でした。台北捷運は民権西路駅で駅コンコースにセブンイレブン型キヨスクを置くなど「世界有数商売が上手い中華民族」のご他聞に漏れずなかなか商売熱心のようです。

  
左:MRT淡水線中山駅(三越デパート前)入口  右:MRT淡水線中山駅地下街

  
左:MRT淡水線中山駅ホーム  右:MRT淡水線南行き車内

 とりあえず切符を買いホームに降りて淡水線に一駅乗り台湾高鉄・台湾鉄路管理局線との接続駅である台北車站駅を目指します。ホームに降りるとホームにはかなりの人が列車を待っています。北行・南行両方にかなりの人が待っているので、都心駅と言う事も有り「此処から郊外へ向かう」と言う帰宅客の人が多いのかもしれません。
 南行き列車を待っていると暫くすると新店行きの列車が入ってきます。取りあえず台北車駅まで1駅間乗る事にします。車両は6両編成で1両当りは日本の20m車より一回り長いかな?と言う感じの車両で、大部分の車両はシーメンス製です。車両の内装はロングシートと日本とは逆向きのクロスシート(只これをクロスシートと言うのかは疑問だが・・・)です。この車両ロングシートに座るとクロスシートの座席の人から横顔を見られている様で今一落ち着きません。しかも座席はプラスチックの為座っていると尻が痛くなり日本の車両と比べると居住性が残念ながら良く有りません。
 今回は中山駅から一駅目の台北車站駅で降りましたが、流石に台北の鉄道交通の中心である台北車駅ではかなりの乗客が乗り降りしかなり賑やかです。台湾高鉄・台湾鉄路管理局線等への乗換客も多いようですがそれ以上に同じMRTの板南線への乗換客が多いようです。その為台北車站駅のコンコースはかなり混雑していました。地下鉄の混雑度は東京の地下鉄顔負けです。その様に見ると台北のMRTはかなり利用されていると見て間違いなさそうです。

 台北駅の台湾高鉄・台湾鉄路管理局線の切符売り場で必要な切符を買った後、夕食を有名な「鼎泰豊」で取るために最寄駅の忠孝敦化駅へ移動する為に、今度は板南線に乗り換えます。南北のメインラインである1997年開業の淡水線に対して東西のメインラインである板南線は1999年〜2006年に掛けて開業した新しい路線です。
 その為か?板南線台北車站駅にはホームドアが設置してあります。このホームドア東京の東京メトロ南北線の様な「全面を硝子で塞ぐホームドア」では無い物の、丸の内線・都営三田線等の「腰の高さのホームドア」よりかは背が高い物です。このホームドアクリアな硝子で作られている為見通しも良く圧迫感を感じさせられなく日本の鉄板で作られた腰高のホームドアよりいい感じがします。
 今回は台北車站駅から3つ目の忠孝敦化駅で下車します。この辺りは台北でも繁華街に当りかなりの賑わいの駅です。この駅を降りて「やけに広々としているな」と感じましたが、この駅ホーム部がワンフロア吹き抜けになっていて地下駅特有の圧迫感を感じさせません。MRTでは他にも中正記念堂駅も吹き抜け構造でしたが、地下駅の圧迫感解消とトンネル風対策にこの吹き抜けが有用なのは言うまでも有りません。此の頃日本でも みなとみらい線 で地下駅に吹き抜けを設けた例がありますが、大阪では「ドーム型天井の地下駅」が存在しますが、東京圏ではみなとみらい線以外にこの様な「吹き抜けで空間に余裕がある駅」は無かったと思います。台北ではその様な駅が1990年代後半に作られていたのですから、その様な「地下駅の空間のデザイン」と言う点では台北の方が東京より先進的なのかもしれません。

  
左:MRT板南線台北車站駅ホーム  右:MRT板南線忠孝敦化駅構内

  
左:MRT淡水線と小南門線が接続する中正紀念堂駅  右:他の駅より明らかに立派な中正紀念堂駅

 台北滞在最終日の13日、ホテルでの出発までの集合時間を生かして、折角なので「せめて何か観光をしよう」と思い、台北中心地にある観光スポット中正紀念堂(現在は国立台湾民主紀念館)と総統府(旧台湾総督府庁舎)を見にMRTで出かける事にしました。
 これらのスポットはMRT淡水線の中正紀念堂駅が最寄駅です。この駅は淡水線と小南門線の分岐駅となっていて、上下2層で2面4線となって居ます。只上層の1線は柵があり使用はされていません。小南門線は将来的には西門〜松山間・中正紀念堂〜象山(台北101へのアクセスになる)に延長される計画がありますが、現在は中正紀念堂〜小南門〜西門間の3駅間の小運転だけになって居ます。しかしながら実質的には区間運転でも淡水線〜板南線をバイパスする為それなりに利用が有り、その為か6両編成で運転されています。
 又規模が大きく乗換の便が考慮されている中正紀念堂駅ですが、雰囲気が他の駅と大きく異なります。吹き抜けの有る駅スタイルは忠孝敦化駅等にも有りますが、壁は石貼りでしかも金文字が多数あり明らかに「ハイグレードな駅」です。やはり元々が蒋介石総統を記念して立てた中正紀念堂の玄関口と言う事も有り、立派な駅にしたのかもしれません。「駅舎を立派にして見栄を張る」と言う発想は モスクワ地下鉄 にも似た感じがします。これは旧ソ連・(国民党時代の)中華民国に有ると言える全体主義的発想が影響しているのかもしれません。


(2)台北MRT唯一の新交通システム木棚線はなんで高架運転なのか?

 2日目の11日には台湾高鉄・大魯閣号に乗った後、お土産を買いに繁華街の忠孝復興駅周辺に出た次いでに、MRTで唯一地上を走りフランスの技術であるゴムタイヤ式の新交通システムで運行されている木棚線に忠孝復興駅〜中山國中駅の短い間ですが、乗って見る事にしました。
 木棚線は新交通システムと言う事も有り、都心部では復興北路・復興南路の道路上に建設されています。小型の新交通システムの車両が4両編成で運転されており、運行頻度はかなりのものがありますが地下鉄の淡水線・板南線に比べると輸送力的には劣るものがあります。又全自動運転による無人運転のため、前後にも運転手・車掌が居らず鉄ヲタ的にはかぶりつきのしやすい車両で、車窓等も良く楽しむ事が出来ます。
 乗り心地は日本の新交通システムと大きくは変わりません。又車両の大きさも貫通扉がなく1両1両が孤立しているので、車両の大きさは日本と変わらない物の見通しが悪い事も有り狭苦しく感じられます。只最高速度80km/hと日本の新交通システムより早くその為か中速域での加速性能が良く、乗っていても軽快に走る感じはしました。只どの列車も特に中心街の忠孝復興駅から南に向かう列車はかなり混んでいて将来北側も延長されると「輸送力不足」になるのでは?と感じました。

  
左:MRT木棚線忠孝復興駅〜大安駅間を走る新交通システム車両  右:明らかに車両が小さい木棚線車両

  
左:将来は延長される今の段階の終点中山國中駅  右:デパート(太平洋そごう)と駅舎が一体のMRT忠孝復興駅

 この木棚線は1996年に開業した台北最初のMRTです。元々在来線を転用してMRTを作った淡水線と事なり「純粋に都市輸送を考えて作られたMRT」と言う事も有り、高架のゴムタイヤ式運行システムが採用された可能性が高いと言えます。しかし木棚線のフランス式の自動運転新交通システムは本当は1991年に開業予定だったのですが、試運転時のトラブルに悩まされて5年間も開業できずやっと1996年に開業をする事が出来ました。しかし「フランスシステムを採用してトラブルに悩まされた」と言う点では何処かで聞いた話ではありませんか?そうです「 台湾高鉄 」です。
 台湾高鉄の当初コンサルタントを決めたのが1990年で未だ木棚線の苦戦が表面化する前でした。その後の97年の(TGV方式を採用した)台湾高鉄の優先交渉権獲得・98年の事業権獲得の時には、MRT木棚線がフランス技術での試運転で苦戦した挙句陳水扁台北市長がフランス以外の技術協力を受けて96年に開業させた後にも拘らず、フランスの技術を採用しています。MRT木棚線でフランスに煮え湯を飲まされて試運転に5年も掛けたのに、その失敗を生かして居ないからこそ、今の苦境を引き起こしたのかもしれません。その点で言えば「MRT木棚線の失敗」は意外に思い意味と先行きの暗示が有ったのかもしれません。
 其れと今回木棚線に乗り感じたのは、中山國中駅も写真の忠孝復興駅もそうですが「駅と駅ビルが一体開発」されている事です。確かに「駅と駅ビルの一体開発」は別に珍しくはありませんが、新交通システムの場合ホームの下に2層構造でコンコースを作り導入空間内で完結する駅造りが日本では多いですが、台北木棚線の場合木棚線駅の隣接のビルに改札口・出入り口を設けている場合が多い感じがしました。実際忠孝復興駅隣接でMRT板南線と木棚線の乗換通路・改札口がビル内に有る 太平洋そごう復興店 の開業はMRT木棚線が出来て試運転中の95年です。こう見るとMRT木棚線建設と太平洋そごう復興店の開業の時期の符号が有っていると言えます。可能性として「太平洋そごう復興店はMRTとワンセットで再開発されたビル」と言う可能性が考えられます。こうなると「再開発とワンセットのMRT建設」だったからこそMRT木棚線が高架で作られた可能性が有るのでは無いでしょうか?この当りが「木棚線だけが高架新交通システムのMRT」で独立して作られた理由なのかもしれません。


(3)MRT淡水線で風光明媚な淡水へのショートトリップを楽しもう

 今回の中華民国旅行は3泊4日でしかも最終日午後便にした為、最終日ホテル集合が11時になりチョット時間に余裕が出来るようになりました。その時間を台北市内の国立台湾民主紀念館と総統府の見学に当てましたが、それでも未だ時間が有る状況になり、と言っても故宮等の時間の掛かる場所へは観光できないので、迷った挙句「MRTに乗って淡水にでも行って見るか」と思い付き、朝早くMRTで淡水に出かける事にしました。
 淡水は台北の郊外に有り淡水河の河口に有る街で風光明媚な観光地です。又沿線の北投には「北投温泉」も有り大都市台北の郊外と言える場所ですが、風光明媚で手軽に行ける観光地として知られていて、日本のガイドブックにも乗って居ます。しかも今回の場合「台北市街地から30分で行ける」と言う点で魅力的ですし、「朝ラッシュ時のMRTを見れる」と言う点でも魅力的で有ると言えます。
 元々は台北と北投・淡水の間は、1単線・非電化の台湾鉄路管理局淡水線が結んで居ましたが1988年に廃止され、その後淡水線の路線敷きがMRTに転用されて台北捷運淡水線として1997年に開業しました。ですから台北捷運の中で淡水線は特に「地下鉄」「都市内電車」ではなく「郊外電車」と言う感じが特に強い感じで有り、淡水・北投への観光旅行に関しては日本でも有りげな「郊外電車での観光旅行」と言うのが実体の姿であると言えます。

  
左:MRT淡水線の車両@北投駅  右:淡水線新北投支線の区間運転用車両@北投駅

  
左:ラッシュ時の淡水線南行き車両乗降風景@北投駅  右:巨大なMRT淡水線北投車両基地

 今回は約3時間程度で台北都市圏の色々な所を見て廻るハードスケジュールの為、朝7時半過ぎにホテルを出てMRT淡水線民権西路駅を目指します。朝ラッシュで混んでいる民権西路駅からラッシュで混んでいる南行き(台北車站)方面ではなく、逆方向で比較的空いている北行き(淡水)方面行き列車に乗り、北投温泉の最寄駅新北投駅への支線が分岐している北投駅でラッシュ時の状況を見る事にしました。
 台北捷運淡水線は日本の20m車より幅・長さ共に一回り大きい?と思われる車両が用いられており、その車両の6両編成で2分〜4分程度の間隔で運行されています。ですからパッと見で台北捷運淡水線の輸送力は日本の20m車7両〜8両程度の輸送力と言う感じです。今回北投駅では朝ラッシュ時としてはチョット遅い8:30頃に数本の南行き列車の乗降風景を見ましたが、ラッシュ時の状況的にはごく普通の状況かな?東京の田園都市線や中央線ほど混んでは居ないが、「ラッシュ」と言うに値するほどの利用は十分有ると言えます。それだけ台北都市圏では鉄道は利用されていると言う事だと思います。
 又北投からは温泉観光地の新北投へ支線が出て居ます。一体運行で台北を南北に貫く淡水線・新店線・中和線は南北の両端で新北投支線・小碧澤支線と言う区間運転の支線が出て居ますが、新北投支線はその「北側の支線」です。新北投支線は本線の6両編成の半分の3両編成の専用列車が区間運転をしています。しかし区間運転で有りながら本線の半分程度の頻度で運行されていますし、淡水線の列車の約半分は北投で折返しです。それなら温泉観光地なのですから輸送力過剰でも北投折返し列車を新北投へ直通運転させても良いのでは?と感じました。

  
左:MRT淡水線と並行している淡水河@淡水駅  右:MRT淡水線車両@淡水駅

 北投で朝ラッシュの状況を眺めた後、本来の目的地の淡水を目指してさらにMRTに乗る事にします。MRTに乗り復興崗駅の近くい有る巨大なMRTの車両基地を眺めた後、車窓左手には淡水河が見えてきます。この先はMRTは淡水河に沿って終点の淡水を目指す事になります。
 MRT淡水駅は丁度淡水の街の入り口の淡水河沿いに有り、バスターミナル等も備えられていて、地域の交通ターミナルと言う感じです。未だ流石に9時前と言う事も有り駅周辺・市街地共に閑散としています。しかし駅の河よりは公園になっておりそこで太極拳をしている老齢の人達が居ます。「中華圏では朝広場で太極拳」は一般的に良く見る姿ですが、今回は淡水で始めて見ました。やはりこの姿を見ると「中華圏に来たな〜」と感じます。
 しかしおばちゃんの太極拳を見ても仕方が無いので、市街地に向かって見ます。けれども淡水は観光地と言えども実際は「川縁と海水浴場が名所の街」なので市街地に入って行っても特に何も有る訳では有りません。ですから未だ店が閉まっている淡水の市街地散策は早々に諦め、淡水河沿いの遊歩道を散歩しながら駅に戻り、台北中心地の観光に向かう事にします。
 こう見ると淡水線の実体は「観光地も有る郊外路線」と言う当初の感じは正しく間違い無いと言えます。淡水も観光地と言えども海水浴中心の観光地に日本で言えば江ノ島の様な場所で有り、鶴巻温泉の様に北投温泉も郊外に有る温泉です。こう見ると淡水線は沿線の感じは典型的郊外路線ながら遠距離に行くと観光地が有ると言う「ロマンスカーの無い小田急線」のような感じなのかもしれません。


(4)都市基幹バスが台北にも有った!?

 今回の台北の都市交通で見て有る意味一番驚いたのは「基幹バス的バス運行」の存在です。実際中国語のしゃべれ無い私は流石に怖くてバスには乗れませんでしたが、台北の都市の幹線道路には多数の路線バスが走っていて、日本の観光ガイドにも「台北でのバスの乗り方」について出ている程です。
 実際私も今回の旅行の最中、台北市街地内で路線バスやバス停を何箇所でも見る事がで来ました。走っている台数・バス停の数から推測する限り、バスも又MRTと並んで台北の都市交通の一つの主役である事は間違い無いと言えます。
 しかし「バスが走っている」だけでは特に驚く事では有りません。しかし「台北ではバスが主役となっている」と言う一つの証明として「基幹バス的バスの運用」が台北市内の複数の箇所で行われていた事です。「 基幹バス 」は日本の名古屋市等でも採用されているバスの高度的運用の一形態ですが、台北の場合も今回見つけた範囲で市街地北部の民権西路・官庁街と言える仁愛路等で見かける事が出来ます。
 基幹バスの定義は「1道路中央専用バスレーン・2専用優先信号・3地下鉄並みの停留所間隔と目標標定速度25km/h・4大型・低床・多扉で快適性の高いバス車両・5乗換抵抗の少ない施設・料金体系( 交通と街づくりのレシピ集 より)」との事で有り、これを台北に当てはめると「道路中央に専用のバスレーンが有る・LRT並みの専用バス停・地下鉄駅に匹敵するバス停間隔」と言う点では基幹バス・ BRT どちらも当てはまると言う感じですが、バスレーンは有るが完全に区分されている訳では無いと言う点からも、「どちらですか?」と言うとBRTより基幹バスの方が近いのかもしれません。

  
左:民権東路・民権西路を走るバス@民権吉林路口バス停  右:専用バスレーンを区切る椰子の木の並木が南国的?@仁愛路

  
左:仁愛路の専用バスレーンを続行で走るバス  右:道路の中央に有るアイランド型のバス停留所

 又台北の民権路・仁愛路のバス基幹システムと言う点では、バスは普通のバス路線の車両を使って居ますし、電光掲示板等のバス案内システムの様な利便性の高いシステムが有る訳では有りません。それに料金体系等のソフト面でのシステムとしての対応が行われている感じでは有りません。そう言う点では台北のシステムはソフト面を含めたトータルシステムとして見ると必ずしも「優れたバスシステム」と言う事は出来ないのかもしれません。
 しかしこの基幹バス路線は台北の市街地の中で見ると上手く路線が設定されている気がします。今回発見した民権路・仁愛路は台北市街地を東西に走る幹線通りですが、台北を南北に貫く大量輸送公共交通機関であるMRT板南線から見ると1km〜3km程度離れており、丁度「何か定時性が保証された公共交通が欲しい」場所に有ると言えます。其処にある程度定時性が保証されている基幹バスが走っていると言うのは、都市の公共交通のバランスとして見ると絶妙の設定と言う事が出来ます。
 しかもこれらの基幹バス路線は「どんなバスでも乗り入れ可能」と言う柔軟性のメリットを生かして複数の系統が乗り入れていて、末端部までその基幹バスのメリットを広げています。加えてこの基幹バスシステムの路線設定が巧妙で有る証にMRTの東西ルートである板南線と離れている民権西路の機関バスルートには将来的にMRTが建設される事になっており現在工事が着々と進んでいます。
 要は台北では民権路のように「普通の場所では路線バスで対応→利用客が増えてくると増加したバス本数に対応する様に基幹バスシステムを導入する→それでも賄えない程利用客が増えてくるとMRTを建設する」と言う流れが出来ているようです。これは有る意味非常に重要であると言えます。都市はいきなり発展する訳では有りません。ある程度段階を踏んで拡大をします。その段階に対応して都市交通も発展するのが一番効率的で無駄が無いと言えます。いきなり小都市に地下鉄でも無駄ですし、大都市にバスだけではパンクしてしまいます。そう考えると「都市の発展に合わせて交通モードを選択する」と言う事が効率的な都市経営には必要ですが、台北の民権路の都市基幹バスはその系統だった都市交通の発展の一つの経過形が、所謂ロストウの「 経済発展段階説 」の都市交通バージョンと言う形で実現中なのかもしれません。


(5)台北都市交通で見かけたチョット驚きのシステムは?

 さてこの様に「 台湾高鉄訪問 」「 台湾一周の旅 」の合間に利用した台北の都市交通ですが、日本人的に見ると、日本の新幹線技術を導入した台湾高鉄や大元は植民地統治時代に日本が作った台湾鉄路管理局線に比べて、1980年代後半以降に作られている台北捷運は「日本的香り」が薄い「海外の鉄道だな」と改めて感じました。
 しかしその中でもやはり異国の鉄道で有り、中華民国自体が準先進国と言うレベルまで発展している国家と言う事も有り、台北の都市交通で「驚いた事」「日本でも使えるな」「日本でも見た事有るな」と言う事が幾つか有りました。今回は〆に台北の都市交通特に台北捷運で見かけた「チョット驚いたり感心したりした物」について見て見たいと思います。

  
左:IC化が進んでいる台北MRTの自動改札機  右:切符の自動販売機と切符の代わりのプラスチックICトークン

 先ずは日本より進んでいる改札・乗車券システムです。日本でも急速にICカードが普及してきて、今や首都圏在住の人で鉄道をそれなりに利用する人達の大部分は「Suica」「PASMO」を持っており、「交通機関にICカード」と言う事に関しては日本も決して例外では有りません。有る意味「交通ICカードに電子マネーが入っている」と言う汎用性と言う点では日本のICカード・電子マネーは非常に進んでいると言えます。
 しかし台北捷運の場合、切符のICカード化まで進んでいる点が日本より進んでいると言えます。実際今自動券売機で切符を買うと出てくるのは「 ICトークン 」でこれをICカードのように翳して(出る時は専用のスロットに入れて)自動改札はOKと言う物です。その為ICカードの「 EASYCARD(悠遊カード) 」と「ICトークン」の2種類で台北捷運は実質的に「完全IC化」が完成していると言えます。
 確かにこのトークンは切符や磁気カードと異なり、再利用出来る上に自動改札の通過も「タッチ&ゴー」でOKなので当然改札の通過速度も早くなります。東京圏では完全に「IC対応自動改札」が普及しているのですから、この様な「ICカードトークン」の採用を次のステップとして考えても良いかもしれません。(但し最低限券売機の更新が必要だが・・・)

  
左:台北MRTの運転手のワンマンドア扱い風景  右:座席が無い所も有る川崎重工製の新型MRT淡水線車両

 又日本にも有るが運用の仕方が違い此方の方が良いのかな?と思ったのはワンマン列車でのドア扱いです。日本でも近年都市鉄道でもワンマン運転化が進んで居ますが、日本では運転手が運転席に座ったまま運転席orホームのモニターを見る等してドア扱いを行う例が多いですが(もっと簡易なシステムも有るが)、台北の場合ホーム上にモニターが有り運転手がホームに降りてきてモニターと目視で確認の上ドア扱いをしていました(合図の笛を吹いた事も有った)。この取り扱いには一長一短が有るのは良く分かります。しかし個人的にはモニターを併用しつつ「ホームに降りて目視確認」を行いドア扱いをする台北のシステムの方が「安全性が高いのでは?」と感じました。確かに運転手がホームに降りる手間が時間的ロスになり高密度運転を阻害すると言う向きも有るでしょうが、台北MRTとて日本顔負けの高密度運転を行って居ます。そう考えると運転手に負担は掛かりますが日本の都市鉄道で出来ないシステムでは有りません。安全性が高いのは目視確認をする台北の方である事は明らかです。そう考えると台北のワンマン運転のこのドア扱いのやり方を考えても良いのでは?と感じました。
 最後に台北MRTで「驚いた」事ですが、10日淡水線で最新型の川崎重工製の車両の最前部に乗ったのですが、乗ったら「何か立ち客が多いな〜」と感じ車内を見回して見ると、何とドア間の一部にしか座席が有りません。要は東京では珍しく無い「座席無し車両」が殆ど似た形で台北捷運でも運行されていると言う事です。実際この編成全部を見た訳では無いので「1両だけ座席が無いor全部座席が無い」と言うのは分かりませんが、この様な車両が日本だけで無く海外にも有ったと言うのは、海外を良く知らない私にしては驚きでした。しかしこの事は「台北捷運がこの様な車両を運用しないと混雑をさばけない」と言う点で、如何に台北の都市交通で台北捷運が使われているかを示していると言えるでしょう。

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 今回中華民国の鉄道を中心とする「駆け足旅」のその又一部分で「片手間」と言う感じで台北市内の都市交通を見ましたが、(今回は台湾高鉄に全てを賭けて居たので・・・)予備知識ゼロと言う状況で見た台北の都市交通でしたが、なかなか「都市の交通として出来ているな」と感じました。台北自体が拡大の進んでいる街ですし再開発も進んでいる街です。その台北の更なる発展の為にはこの様な都市基盤としての公共交通の整備が必要な事は言うまでも有りません。その点で今の台北は「都市交通としての第一弾の基盤が揃い今後基盤が拡幅していく段階」と言う状況で有ると言えます。
 台北に首都を置く中華民国自体、アジアでは「準先進国」と言えるNISEの一員で有りかなり発展している地域で有る事は間違い有りません。そのNISEの国・地域・都市の首都・中心である4都市「香港・シンガポール・ソウル・台北」の中でソウル・香港は普通鉄道・地下鉄・バスがバランス良くそろって居ますし、シンガポールも狭いシンガポール島の中をMRTが縦横に走って居ますが、それらの3都市と比べると台北は「公共交通の整備が遅れている」と言うイメージが有りました。
 しかしながら今回台北を訪問して駆け足でも台北の公共交通を利用して見ると、確かに台北捷運等の軌道系の公共交通は第二期拡張と言える整備を計画中で、台北101などの新都心に向かう場合や故宮等の郊外の観光地に向かう場合は「軌道交通が少ないな」と感じますし、ソウルの様な「国鉄の都市交通への活用」と言う点でも「台鉄の捷運化」と言うスローガンを掲げていても未だ改革途上で郊外線としては台湾鉄路管理局線は使いづらいと言う感じです。しかし台北旧市街ではMRTも東西・南北の2つの幹線に中量輸送機関の木棚線も整備されている事を考えれば、かなり進んでいるソウル等と比較すると(都市規模も違うので)厳しいですが、(国の経済規模と台北の都市規模を考えると)台北ではアジアの他の国と比較してもそれなりに公共交通が整備されているな?とは感じました。
 今回はこの様に今まで(中国以外では)なかなか見る事が出来なかった海外の都市の交通を見る事が出来て非常に為になったと思います。やはり海外の鉄道は色々聞いていても一度見て見ないと分かる物では無いと改めて感じました。その点でも今回の台北の駆け足めぐりはそれなりの収穫が有ったと思います。




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