このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
東 京 の バ ス 事 業 者 の 「 今 其 処 に 有 る 危 機 」 と は ?
− 関東バスの「一部路線再編」が示すバス業界の厳しい状況について考える −
TAKA 2008年09月26日
路線再編の「苦肉の策」? 左:高円寺駅バス停の野方駅バス停位置変更の案内と新設の高61系統中野北郵便局行きバス 右:野方バスターミナルの路線廃止案内 |
☆ ま え が き
私は東京23区内に住んで居ますが、東京23区内に住み仕事の活動をして居る限りは「荷物が有る」等の特別の理由が無ければ車が無くても基本的には不自由なく行動出来ます。それはJR・私鉄・地下鉄等の鉄道が縦横無尽に走りその空白部分はバスが走って居るなど、非常に公共交通が充実しているからです。実際の所東京23区の大部分の所では多くても20〜30分歩けば、大概の場合は駅・バス停にアクセスする事が出来ます。
それは世界有数の大都市である東京の中心部・郊外部を中心に活動しているからこその環境で有ると言えます。実際の所仕事の関係上車での移動が大部分ですが、車を数ヶ月間利用出来ない状況が過去に有りましたが、それでも有る程度は最低限の支障は無く行動をする事が出来ました。それは何をいっても東京の充実した公共交通網が存在しているからです。
有る意味東京に居る大部分の人は「水や空気の様に普通に公共交通が有る」と思って居ます。実際その様な状況だからこそ、地方で進んで居る公共交通衰退の動きの中でも「東京は関係無い」と他人事の様に思う事が出来たのだと思います。
しかし東京においても公共交通を取り巻く環境は悪化して居ます。実際東京の23区内の均一運賃に関しても1997年の消費税UP時の200円⇒210円への値上げ以来運賃値上げが出来ない中で、排ガス規制で年数の古い車両は一定の制限を受ける事でバス更新コストUPや軽油価格上昇でバス事業者のコストは急激に上昇し事業者の採算性を急激に悪化させて居ます。
実際の所、「
実車走行キロ当たりの収入・原価
」で見比べると、南関東(千葉・武相・京浜)地域の民間バス事業者は全国民間事業者平均の1キロ当り356円の収入に対して4割増し〜倍近い495円(武相)・526円(千葉)・651円(京浜)の収入を得て居る事もあり、バス事業者最大のコストで有る人件費が地方の倍近い苦しさはある物の収支的には多少は楽な状況でしたが、此の頃の特に燃料費のコストUPが影響して急速に収支が悪化して来たと聞きます。実際私の聞いた話では在京バス事業者で燃料費高騰に伴うコスト増が少ない所で1億円・多い所で10億円も有るという話は聞きました。これは経営的にはかなり深刻な話です。
その中で、今までは地方主体で有った「バス路線の廃止」という「事業のリストラクチャリング」の動きが、遂に東京23区内でも出てきました。それが表題の写真の関東バスの高円寺発着環七路線の再編という動きです。
私に取り自宅の近くを走る、関東バスの「高円寺発着環七路線(赤31系統高円寺〜赤羽間・高60系統高円寺〜練馬間・高40高円寺〜野方間)」は、自宅からJR中央線に出るアクセス手段として利用している身近な路線です。しかもここ数年中央線沿線の顧客の本社に行く用が増えた為にかなりの頻度で利用しています。その身近な路線で「路線再編を伴うリストラ」が実施され結果として、私も大きな影響を受けました。
今回はその身近な路線での「再編・リストラ」から、遂に東京でも始まった「路線バスのリストラ」の動きについて考えて見たいと思います。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
● 参考HP、資料 ・
関東バスHP
・
関東バスからのお知らせ
・
関東バス五日市街道営業所
(wikipedia)(高60・高61系統の運行営業所)
・国土交通省HP ●
平成18年度乗合バス事業の収支状況について
●
平成17年度乗合バス事業の収支状況について
・「TAKAの交通論の部屋」●
今や極めて厳しい状況に有る公共交通の現実とは?
●
合理化の為の「バス事業分社化」問題について考える
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
☆ 関東バスが「JR中央線高円寺駅発着環七路線」で行った路線再編の概要
今回9月16日より行われた関東バスの「高円寺駅発着の環七バス路線」の路線再編の概要は下記の通りです。
−−−−−−−−−−
◆廃止系統 ・高40高円寺駅〜野方 ・高41五日市街道営業所〜野方 ◆新設系統 ・高61高円寺駅〜中野北郵便局
※「高40高円寺駅〜野方」を中野北郵便局まで延長し、「高61高円寺駅〜中野北郵便局」として運行する代わりに、関東バスの野方ターミナルに入らなくなった。
◆高60高円寺駅〜練馬駅間の減便と高60・高61・赤31系統のパターンダイヤ化
今までは高60系統だけで昼間毎時4本程度+それ以上の高40系統の運行が有ったのが、完全20分間隔の毎時3本に減便。その代わり中野北郵便局〜高円寺駅間では11時〜15時の間で高60・高61系統で完全10分間隔毎時6本+(急行バス的な)赤31系統(毎時3本)の運行とダイヤ全体の利便性が向上(それ以外の時間ではもっと本数が多い)。
◆高60系統担当営業所を阿佐ヶ谷・丸山・五日市街道の3営業所共同運行から五日市街道営業所単独運行に変更。(高40は元々五日市街道営業所の担当)
−−−−−−−−−−
今回の路線再編の結果として、今まで高40系統の終点で有った野方ターミナルには、「中01系統野方〜中野駅」「宿05系統野方〜新宿西口」「野方〜阿佐ヶ谷営業所(実質的には回送)」の3路線しか入らなくなり、今までは高40系統が使えた野方ターミナル・西武新宿線野方駅から高円寺に向かうには、環七の野方アンダーパスの南北に有る「野方駅北口・野方駅南口」のバス停まで5分以上歩く必要性が発生しました。
只野方駅北口・野方消防署・中野北郵便局の野方駅〜中野北郵便局の間に有るバス停は、「高40系統の高61系統への改変」で実質的に増便となり、利便性が向上した。特に野方駅北口・中野北郵便局は高円寺行きが毎時9本発着するようになり、利便性は向上しました。
最大の犠牲者は高60系統豊玉中〜練馬間。この区間は高60系統の減便の分だけ本数が純減した。特に高60系統しかない「下新街・練馬駅・桜台駅前・保険相談所前・桜台駅通・豊玉中町」は減便のダメージが大きく、特に対中央線アクセスで見ると、メインラインの京王バスの練馬〜中野系統が南蔵院経由で遠回りの練馬駅と高60系統しか無い桜台駅周辺のダメージは大きい。西武池袋線の練馬〜桜台地域が今回の路線再編の最大の被害者といえます。
☆ 今回の路線再編策の特徴は「成長と切り捨ての使い分け」を上手く行った事では?
今回の関東バスの路線再編に関しては、実を言えば私は「最大の被害者」の一人です。私の場合「対中央線アクセス」のメインルートが桜台駅前より高60系統に乗るか?チョット歩いて環七豊玉北バス停から赤31系統に乗るか?の選択がメインで行きと帰りで使い分けて居ましたが、今回のダイヤ改正で高60系等の本数が減り赤31系統と同じ毎時3本になったので、この使い分けも難しくなり全体的に見れば中央線沿線に出るのは不便になりました。
しかしながら「個人的感情」は置いておいて、冷静に今回の関東バスの路線再編策を見ると、関東バスの強かな狙いが見えてきます。実際の所「路線再編策」ですからバスの運用本数・運行回数を減らす事でコストを落とすことが目的で有る事は間違い有りません。しかしその大きな目標が有る中でも「選択と集中」を狙って可能性の無い所は切り捨てて可能性のある所に力を入れる姿勢が見え隠れします。
先ずは今回の路線再編策で、「選択と集中」の内選択して切り捨てた場所が高60系統の練馬・桜台地区です。この地域は「対中央線アクセスが高60系統がメイン」ですが、西武線池袋経由で新宿まで30分程度で出る事が出来る為、環七バス経由と新宿経由を比較した場合にバスでショートカットするメリットが少なくバスの優位性が低く、しかも練馬からは大江戸線東中野乗換も選択出来る為「バスが絶対的に優位なエリア」とは言えない事が、バスのメインルートで有る高60系統の利用状況に暗い影を落として居る可能性は高いと言えます。この様な状況の為、今回の路線再編策で「運行頻度を減らしても減収幅は限定的な地域(=運行減に依る減収が少ない地域)」とみなされて、「運行本数減便・代替え策は無し」という事になった可能性は高いと言えます。
又高40系統が廃止され唯一直接の弊害を受けた野方ターミナル・西武新宿線野方駅周辺の場合、駅の南側は「高円寺まで自転車で10〜15分」という距離で、バスには距離的に近すぎて自転車に逸走する可能性の高い地域で有る事が影響し、比較的距離の長く起点が拠点性の有る中野・新宿で有る中01系統・宿05系統は残して、距離が短くて中央線のフィーダーがメインの高40系統は「選択と集中」の一環として「路線は廃止するのでチョット別のバス停まで歩いてください」という考え方になったのだと思います。
それに対して、路線再編でひねり出された余剰を、チョット「前向きに」投じたのが高61系統の新設による、野方駅北口・野方消防署・中野北郵便局の「野方駅北側〜中野区練馬区境地区」への強化です。元々高60系統の利用者として言えば、この路線一番乗降が多いバス停は中野北郵便局バス停です。この路線は環七が西武新宿線を立体交差しており速達性が高いため
「西武新宿線の北側からも乗客を獲得する事例」
が発生していた場所です。しかも野方が普通しか止まらず、ほぼ確実に沼袋or中井で待避が有るため所要時間が掛かり、加えて野方アンダーパスが逆にネックで自転車で高円寺に行くのも困難を伴います。しかも中野北郵便局バス停は周辺人口も比較的多く、野方・沼袋以外の駅は徒歩が困難な距離で必然的に「バスに頼る」場所です。関東バスは今回の路線再編策を上手く使い、本来は高40系統の減便で良かった再編策を一歩前に進め中野北郵便局までの延伸を図って、この有望地域に増発して始発便を用意する事で「確実に客を取りこもう」と考えたのは、工夫をした戦略と言えます。
朝の高60系統・61系統を待つ人々 左:豊玉中バス停 右:中野北郵便局バス停 ⇒ 大体中野北郵便局バス停からの乗車客が一番多い感じがする
要は此処に、関東バスが今回の路線再編策で意図したと思われる「選択と集中」のポイントが有ると思います。実際の所、現状の各バス停の利用状況・沿線の人口や居住者分布・西武新宿線利用客とバス利用での中央線高円寺駅利用客の比率等の、高円寺発着環七系統路線とその沿線の状況を意識せずに路線再編行ったのでは、無いと思います。冷静に考えれば各種データから強化すべき場所・切り捨てるべき場所を選択した結果が今回の路線再編策で有ると推測します。
今回の施策は、今のバス業界を取り巻く厳しい環境の中で生き残るための「リストラ」的な路線再編を行う中で、切り捨てる所と強化する所は明確に分けて考え、練馬・桜台・野方駅周辺地区等の切り捨てる所はチョット切り捨て、中野北郵便局周辺地区の有望地区にはチョット経営資源を投入して、しかもダイヤ再編に合わせてダイヤをパターン化して利用しやすくするという、路線再編で「リストラ」と「利用客増」を同時に達成しようとしている、有る意味一石二鳥を狙った計画で有るといえます。
今の私には、関東バスの本当の内部の意思決定経緯が見えない為に、いつも利用して居る状況とアナウンスされて居る路線再編の内容から、その意図を類推するしか有りません。しかしその類推を上記の様にしてみれば、やはり「上手く路線再編を行った」と思わざるえません。
今後バス業界では、「リストラ的な路線再編」は避けられないと思います。その中で如何にして「入るを図って出るを制す」を実現させるか?を考えなければならないと思います。その時に今回の関東バスの路線再編の実例は、示唆する事が多数有るのでは?と私は感じます。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
☆ 東京のバス業界の直面している「今其処に有る危機」とは?
この様な関東バスの「高円寺発着環七路線の再編」ですが、私が感じる限りこれは「始まりの第一歩」に過ぎません。未だ関東バスは人口密度がかなり高い東京23区の中央線沿線をエリアにして居るバス会社であり、会社の収支的には全国の地方の会社から比べれば未だ楽な状況に有る筈です。その会社で「路線再編」というバス会社の本質に切り込むリストラを行ったという事は、「関東バスですら」非常に厳しい状況に有る事を示して居ます。
国土交通省の「
大都市部(三大都市圏)及びその他地域における収支状況及び輸送人員について
(平成17年度)」によれば大都市圏の民間事業者では、黒字と赤字の比率が大体2:1でありその他の地域の約1:4に比べれば格段に収支状況は恵まれて居ます。これはやはり「収入が大きい」という事がプラスになっているのだと思います。
実際の所「
ブロック別収支状況
(平成17年度)」では、関東バスがテリトリーとしている京浜地区では民営事業者13社のうち赤字会社が2社しか無い事と、関東バスのエリア自体は非常に人口密度が高くバスも混んで居る状況から考えると、関東バスは収支的に黒字で有ると想像は出来ます。
その関東バスで、路線再編というリストラを行わざる得ない状況になったのです。此処から予想すると、関東バスは近年で「路線再編をせざる得ない」程の急速に悪化する何かの事情が発生したと考える事が出来ます。
それは何なのか?を考えると2つの要因が考えられます。一つは「軽油価格の高騰」です。軽油価格は原油価格高騰の波を受けて高騰しており平成16年3月と平成20年8月を比べると
約2倍に高騰
しています。実際関東バスの案内の掲示物では「原油や他の物価上昇の煽りを受けて複数の運行系統の維持が困難になった」と書いて居ます。有る意味関東バスの案内は「一番説明しやすい理由」だから燃料費高騰が理由になって居る可能性もありますが、実体の所関東の複数の事業者で「年間で燃料費が1億円増えた。2億円増えた。10億増えた」という話を聞いています。それらの事業者のバス保有台数と関東バスのバス保有台数を比較しながら考えると、関東バスでは1億〜2億円程度の燃料費増加に依る原価増が有った可能性があります。其処から類推すれば関東バスの言う「燃料費高騰で複数系統の運行を維持出来なくなった」というのはリストラの理由として間違い無いでしょう。
もう一つは「バス運転手が不足してきている」という問題です。前にTAKAの交通論にて「今や極めて厳しい状況に有る公共交通の現実とは?」「合理化の為の「バス事業分社化」問題について考える」でバス運転手を取り巻く環境について述べましたが、バス運転手は「分社化等の合理化」を進められ「低コスト」で働かされて居る状況で、しかも「契約社員」等の不安定な労働環境下に置かれるようになり、その結果として「バス運転手のなり手が減っている」という話を聞きます。絶対的に見たら決して利用客が少なくない路線で運行本数をチョットずつ削りながらリストラした背景の理由として運転手問題が有る可能性は否定できません。
実際関東バスの高60系統・高61系統は今回の再編で運行営業所が阿佐ヶ谷・丸山・五日市街道3営業所の運行から五日市街道営業所単独運行に変わっています。その前に3営業所の運行体系になったのが半年前の2008年3月でその前は丸山営業所の単独運行です。又丸山営業所は子会社のケイビーバスに運営が委託されています。子会社に要因問題が発生したから負担を減らす為に半年間で2回も運行営業所を代え、最終的に路線再編までしたのは背景に運転手問題が存在したと考えるのは、「予測」ですが強ち間違えて居ないのでは?と感じます。
今回関東バスが「高円寺発着環七系統」で路線再編を含む抜本的なリストラ策を取らざる得なかった理由として、この様な事が考えられると思います。
今や東京のバス業界において、「燃料費高騰」問題と「運転手不足」問題は社業の根幹を揺さぶる重大な問題となってきて、東京のバス業界は、燃料費高騰と運転手不足という「前門の虎・後門の狼」に挟まれた状態になってしまったと言えます。
今回は私が利用して居る路線という事も有り、関東バスの「高円寺発着環七路線」の路線再編の話を取り上げましたが、実際の所関東バス以外の他の東京のバス事業者でも既に(表向きでも)燃料費高騰等を理由にしてバス路線再編に着手している会社が有るのかもしれません。
実際の所、先日私の知って居る在京の某バス会社の人と昼食を共にしたのですが、その時の話題でその会社でも「もう路線再編を本格的に考えないと駄目」「路線再編を中期経営計画に盛り込む事を検討する」という話が出て居ました。其処からもこの様なバス会社の路線再編というリストラは関東バスだけの動きで無いと言う事が出来ます。
今までは一番安定して居たといえる東京のバス事業者にも、地方から見れば「周回遅れ」とも言えますが、遂に路線再編・縮小リストラをしなければならない「危機」が迫ってきたのかもしれません。そう考えると状況はかなり深刻で有るといえます。幾ら公共交通といえども「非効率な部分の再編」に関しては避けられる物ではありませんが、それが「必要な路線だが収支的に厳しい」路線を再編して切り捨てる所まで進む可能性もあります。そうなった時に東京のバス交通をどの様に維持して行くのか?経済原則に従い民間事業者の切り捨てを黙認するのか?公的セクターが色々な手法を使い「調整」を図るのか?考えなければならない時期が来たのかも知れません。
又問題解決の一つの方策として、「運賃値上げ」も考えなければならない時期が来たのかも知れません。今運賃値上げに関しては噂では「検討したが断念した」という事業者が東京にも存在するとは聞いています。(東京23区・武蔵野地区では均一運賃を取って居るので、一社だけ値上げは、不可能では無いがかなりの抵抗が有ると思われる)
実際問題として運賃値上げで「入るを図る」事が出来なければ、(人件費では削る所は削って居る現状では)事業者の存続の為には「不採算・非効率路線」に関しては「地域が必要でで有ろうが無かろうが」どんどん路線再編・リストラをする事で「出るを制する」しか生き延びる方策はなくなります。そう考えると、在京バス事業者の取れる方策は既に限られて来つつ有るとも言えるのでは無いでしょうか?
この東京のバス事業者が問題について対応策を考える「残された時間」は多く無いのでは?と今回の問題を考えて改めて感じさせられました。
※「
TAKAの交通論の部屋
」トップページへ戻る
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |