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新しい地下鉄は港北ニュータウンの「第二の足」になるか?

− 横浜市交通局グリーンライン訪問記 −


TAKA  2008年04月08日


センター北駅に進入する地下鉄グリーンライン車両



 ☆ ま え が き

 今年2008年は「新線開業」の当たり年です。1月の京都市交東西線延伸に始まり、3月にはおおさか東線開業・日暮里舎人ライン開業・横浜市営地下鉄グリーンライン開業と続き、〆に6月に東京メトロ副都心線開業が控えています。
 加えて3月はダイヤ改正などの大きな変化も有ります。今年も3月にはJRダイヤ改正・小田急ロマンスカーMSE運行開始・東急大井町線急行運転開始などの大きなイベントが続きました。
 交通・鉄道に関して気になっている人に取っては、これだけ「新線開業」「新列車運行開始」などのイベントが続けば、流石に興味を示す事が多くなります。私もこの3月は「 小田急ロマンスカーMSE 」「 西武30000系公開 」等、鉄道関係の話題を追いかけて居ましたが新線開業に関しては何処も開業当日に廻る事が出来ませんでした。

 しかしながら、4月3日に偶々荏田で仕事があり最寄駅が横浜市営地下鉄センター南駅でその後が京王線国領〜小田急線喜多見へ移動だったため、(世間では一般的に「昼休み」と言われる)正午チョット前〜1時チョット過ぎの時間を使い、横浜市営地下鉄グリーンラインの「初乗り」をして見る事にしました。
 今回はグリーンライン個別についてのコメントになりますが、後々もっと広域的輸送状況の変化という側面から見て「 民営鉄道の乗り越えられない「壁」とは?−東急田園都市線「減速ダイヤ改正」が示す物− 」の続編的位置付けで、「東急大井町線急行運転」の試乗記と合わせて書く予定でいます。
 取りあえずは速報的な試乗記&感想ですが、お気軽にお楽しみ頂けると幸いです。

 「参考サイト」 ・ 横浜市交通局グリーンラインHP  ・ 横浜市交通局 新線建設 市営地下鉄(グリーンライン)中山〜日吉間  ・ 横浜市営地下鉄グリーンライン (wikipedia)

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 ☆ 横浜市交通局グリーンライン訪問記

 (1) 港北ニュータウンの中心の一つ センター南駅

 センター南駅は、センター北駅と並んで横浜市営地下鉄ブルーラインとの接続駅で有り、港北ニュータウンの中心といえる場所です。センター北駅周辺は阪急百貨店を中心に大型ショッピングセンターが有りますが、センター南駅周辺は東急百貨店に加えて、都筑区役所・証和大学病院などがあり、商業施設に加えて行政機関等も集まっています。
 センター北〜センター南間は港北ニュータウンの「鉄道の足」である横浜市営地下鉄ブルーラインとグリーンラインが平行して走っていて、線路別の複々線なっています。但しブルーラインは18m車6両編成で運行されているのに対し、グリーンラインは小型車両4両編成で運行されていて、輸送力的には大きく差がついています。実際センター南駅では両線がコンコースを供用して居ますが、現在は利用者の比率は見た目で7:3位でブルーラインの方が利用客が多い感じです。

センター南駅〜センター北駅間を走るグリーンライン

 早速ホームに降りてみます。ホームにはホームドアが付いていて居ますが、上部が開放されているため地上駅で有る事も加わり非常に明るい駅となっています。只「ホームドアが有る」という点ではワンマン運転に備えてホームドアを新設したブルーラインと変わりません。しかしホームも車両のサイズに合わせて小さくなっている感じです。
 ホームには既に日吉方面行き電車を待つ人々が20名〜30名程度います。グリーンラインの運行間隔は7分半間隔とブルーラインと同じ運行間隔です。しかし両線では輸送力が倍近く違いますから、それだけ「既存のブルーラインの流れの方が強い」と思って居る可能性が高いです。

センター南駅に入線する日吉行き

 暫く待つと中山から来た日吉行きが到着しましたので、早速乗車して日吉を目指す事にします。到着した列車からは7〜8名/両の人達が降りてきます。今までもセンター南駅から都筑ふれあいの丘・川和・中山の各駅周辺を経由するバス路線は多数(73・124・310系統)有りました。ですから需要は有った事は間違い無く、そのバス利用客が開業に伴い上手くグリーンラインに転移して来たとも見れるでしょう。
 センター南駅からは乗降の結果、若干乗客が増えて発車いたします。しかし車両自体は小型4両編成で、地下鉄としては最低限の輸送力です。この輸送力でありながら、全体で均して座席が半分も埋まらない程度の利用客では、地下鉄としては心細い限りです。この状況は「開業当初だから利用が定着して居ない」とも見れますが、今後如何なるかが心配です。

日吉行き車内 @センター南駅〜センター北駅間


 (2) グリーンラインと東急東横線との接続駅 日吉駅

 センター南駅からグリーンラインに乗って、片方の拠点駅で有る日吉駅を目指します。
  日吉駅 は東急東横線との接続駅で、駅ビル・百貨店等の大型商業施設もあり地域の拠点となって居ると同時に、慶応大学等の学校も有り賑やかな街です。日吉でグリーンラインと接続する東急東横線は、最速達列車で有る「東横特急」こそ停車しないものの、 乗降人数約13万人 で渋谷・横浜・中目黒・武蔵小杉に次ぐ5番目の乗降客数を誇り、本年6月には東横線の複々線という形で 東急目黒線が日吉まで延びて きて、より拠点性が高まる事が確実となっています。

慶応大学生で混雑する東急日吉駅前

 グリーンラインは日吉本町駅から民有地の下を通り日吉駅西側の狭い道を通りながら、東急東横線に直行する形で東横線直下〜慶応大学敷地内に跨る形で日吉駅を造っています。その為グリーンライン日吉駅の出入口は地下のコンコース経由で東横線の西側・東側に有ります。又東側の綱島街道の地下には駐輪場も設けられています。
 特に東側の慶応大学正門脇に設けられた出入口は、普通の出入口より広めに造られていて広場的スペースも有ります。しかし周辺部は未だ工事中で仮囲いが有る状態で、駅前の綱島街道の復旧工事と合わせて落ち着くまでにはもう少し時間が掛かるかもしれません。

慶応大学脇に有るグリーンライン出入口@日吉

 グリーンラインの日吉駅は、地下4階にホーム・地下3階にコンコースという形態になって居ますが、地下3階のコンコースに有るグリーンラインの改札口の向かいには、東急東横線の改札口が有りその改札口からは東横線ホームに直接アクセスする事が出来ます。
 確かにグリーンラインのホームは地下4階ですし、東横線ホームは掘割の中(実質的には地下1階)ですから上下的には3フロアの移動が有りますが、エスカレーター・エレベーター等の施設が完備されていますし、自動改札2箇所もPASMOがあれば実質的にシームレスに通過できますので、移動距離の割りには苦労なく乗換が出来ます。
 同じ地下鉄⇔東急の乗換であるあざみ野駅の乗り換えに比べると、歩く距離・バリアの存在等で見れば日吉での乗換の方が便利な感じがします。果たしてこの乗換の利便性の差がどれ位利用客に評価されるかが注目です。

グリーンライン改札と東急改札が地下で隣接@日吉


 (3) 4月3日12時半過ぎ グリーンライン全線試乗 (日吉→中山)

 グリーンライン日吉駅を一通り見た後、今度は横浜線に乗り換えて橋本経由で京王線国領を目指す為に、グリーンラインに全線乗って中山駅を目指す事にします。
 時間は丁度12時半頃、丁度昼食の時間帯であり移動に関しては流れが少ない時間帯でしたが、慶応大学の入学式が終わった時間帯でその出席者が居たり、春休み中で親子連れの客が居るなどして、座席がサラリと埋まり出入口付近では立ち客が出る位の乗客が乗ってきます。

出発を待つ中山行きグリーンライン@日吉

 日吉駅を出発すると日吉本町・高田・東山田・北山田と停車して行きます。日吉本町・高田・東山田は既存の郊外住宅地で北山田は港北ニュータウンの北側の縁に当ります。沿線を見ると「核」となる駅は他線との乗換駅である日吉・センター北・センター南・中山の4駅で有り、その中でも商業集積から見ると日吉は「頭一つ抜ける」という感じでいました。その為基本的には「乗客は日吉から中山に向けて漸減になる」と見ていました。

  
グリーンライン乗車状況 左:日吉 中:センター北 右:川和町

 しかし私の試乗した4月3日12時半過ぎは、必ずしも乗車前の流動の予想の様にはなりませんでした。確かに日吉本町・高田・東山田・北山田の4駅では日吉からの乗客が降車して行きますが降車客以上の乗車が有り、何と日吉〜中山間で一番混んで居たのは北山田〜センター北間でした。確かに客層は「如何にも沿線住民」という人が多かったですが、その乗客の大部分が見事にセンター北で降車して行きます。客層から見た感じでは「阪急百貨店に買い物かな?」という感じでした。
 その後数が少なくなれども、センター南・都筑ふれあいの丘でも乗降がありますが、センター南では乗車の方が多く・都筑ふれあいの丘では降車客の方が多い感じでした。都築ふれあいの丘駅周辺では マンション有料老人ホーム 等の開発が進んでおり、グリーンライン沿線で今一番開発が盛んな地域です。今後はこの地域がグリーンラインに取り重要な地域になるかもしれません。しかしそれが一駅進んで川和になると開発が全然進んでいない状況になります。その為川和では乗降客は他の駅より一段減った感じになります。

川和町駅に停車中のグリーンライン

 チョット時間に余裕が有ったので、川和駅で数分ですが下車してみます。川和駅は丁度柿生〜市ヶ尾〜新横浜〜横浜市街地を結ぶ横浜上麻生道路の交差点の所にありますが、この地域は比較的昔から開発が進んでいたものの、港北ニュータウンの範囲から外れしかも鶴見川の支流の谷本川が流れていて低地になっており、開発が進んで居ません。昔大学時代の友人がこの近くに住んでおり15年近く前にこの辺りを良く訪ねて居ましたが、川和駅周辺は「駅が出来た」以外はその当時と殆ど変わって居ません。
 その開発が進んで無い事を生かしてか?この谷本川の脇にグリーンラインの車庫が造成されています。車庫との出入に関しては川和駅脇に有る引き上げ線を使って行われているようですが、その引き上げ線が2線有りしかも乗務員乗降用の施設が狭いホームみたいな感じで有るため、ハッと見た感じでは、川和駅は2面4線かな?と見えます。果たしてこれだけの施設が必要だったのでしょうか?本当は駅の外に出てゆっくり見たかったのですが、時間が無かったので次の電車で中山駅を目指します。

川和町〜中山間にあるグリーンライン車庫

 (4) JR横浜線との接続駅 中山駅

 さて川和で途中下車した後は、隣駅でJR横浜線との接続駅で有る終点の中山を目指します。
 中山駅は横浜線の中でも比較的大きな駅で、快速の停車駅で有るのと同時に他線との接続の無い駅で見ると、相模原・渕野辺と並ぶ大きな駅です。駅周辺は北口・南口で見比べると、駅の南側には昔からの市街地が広がっていますが、昔からの市街地が広がっているだけ有り雑然として居て駅前広場も整備されていない状況です。それに対して近くに川が有る北口側は新たに開発が進みつつ有る状況で、その為駅前広場等も整備されています。
  グリーンラインの中山駅 は、丁度北口広場の直下〜JR横浜線ホームの下に有る形となり、地下2階にグリーンラインのコンコースがあります。

中山駅に停車中のグリーンライン

 中山駅は横浜線との接続駅ですが、街の規模・商業集積という視点でみれば、もう片方の拠点で有る日吉と比べると大きく劣りますし、大規模商業施設が集積しているセンター北・センター南に比べても劣るといえます。
 しかも接続路線で見ると、渋谷へ直通の日吉での東横線接続に比べて、中山で接続する横浜線は横浜・町田へ向かう環状鉄道であり対横浜アクセスで港北ニュータウン内からはブルーラインが有り中山乗換を選択する人は少ない事から、中山駅は拠点駅で有りながら今回利用したセンター南・日吉と比べて利用客は少なく見えました。

中山駅グリーンライン改札口

 けれども、日吉でもグリーンライン⇔東急東横線の乗換に関してシームレスな乗換が可能な様に施設が造られて居ましたが、その様なシームレスな乗換に関する施設的な配慮は中山でのグリーンライン⇔横浜線での乗換でも行われています。
 中山駅では、地下4階にグリーンラインのホーム・地下2階にグリーンラインのコンコースが有りますが、地下2階コンコースの自動改札を出た先にはエスカレーターが有り、それを昇るとJR中山駅のグリーンライン乗換専用の改札口が設けられており、そこから地上のホームへ直接アクセス出来るようになっています。

地下鉄コンコースからエスカレーターを上がるとJR改札口が有る@中山

 日吉駅もそうですが、中山駅もグリーンラインから他線へ、地上に出る事なくしかもバリアフリー対応のエレベーター・エスカレーターで直接乗り換える事が出来ます。しかも乗換の所要時間は日吉で約2分・中山で約3分と短時間で乗換が出来るようになっています。現代の地下鉄は色々なの制約からドンドン地下深く建設される様になっています。という事は他線との乗り換えに関してもどんどん不便になりつつ有る傾向が有ります。その中で色々な制約がありながらグリーンラインの日吉・中山の乗換は短時間で便利に乗換が出来るようにインフラが作られています。この点は評価して良いのでは?と感じます。

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 ☆ あとがきに代えて 〜グリーンラインは「帯に短し襷に長し」?〜

 今回時間にして約1時間チョットという駆け足でしたが、港北ニュータウンの「第二の足」として建設されたグリーンラインを見て廻る事が出来ました。
 この地域、私にしてみれば「土地勘の有る地域」です。大学時代には川和に友人が住んでいた為友人を訪ねるために良く訪れていましたし、現在でも都筑ふれあいの丘に仕事の得意先が有るため良く港北ニュータウンのこの地域を訪問します。そういう意味ではこの地域は馴染みが有る地域といえます。
 その様な地域に開通したグリーンラインですが、今回開通したグリーンラインに乗って大学時代の友人が今から約15年前に「将来は地下鉄が出来てこの辺りも便利になるんだ」といっていた事を思い出しました。その事からもこのグリーンラインは沿線地域では長らく期待されていた路線で有ったといえます。

 しかしながらグリーンラインは、当初は日吉で東急線と直通運転を行う普通サイズの地下鉄での建設が構想されて居ましたが、最終的には平成9年の免許取得の前の平成8年にリニア方式の小型地下鉄が採用され、東急線との相互直通運転が断念されて、現在のような形となっております。
 小型のリニア地下鉄に関しては、大江戸線のように車両編成を長くすれば其れなりの輸送力を確保は出来ますが、グリーンラインの様に「小型リニア地下鉄の車両で4両編成という短編成運転」では輸送力は「LRTよりかは多いが、モノレールや新交通システムと同じ位」という程度にとどまります。
 実際開業直後の今回利用してみて、一見すれば混んで居る様に見えますが、小型のリニア地下鉄の車両で有る事を考えれば、実際の輸送量は確かに「小型のリニア地下鉄で十分の需要」という程度の需要しか無い様に見えます。この様な輸送量では確かにリニア地下鉄で十分だったかもしれません。
 一般的に普通サイズの地下鉄を作れば1km当り200〜250億円の建設費が掛かります。そうすると全長13kmのグリーンラインの場合2600億円〜3250億円の建設費が掛かる事になります。しかしトンネル断面積が約半分で済むリニア地下鉄の場合、一般的に見れば建設費が削減される事になると考えられます。しかしそう簡単には行きません。一概に比較は出来ませんが都営地下鉄の場合フルサイズの新宿線に比べて小さいリニア地下鉄の大江戸線でも、建設費は新宿線より大江戸線の方が高い状況です(参考資料: 都営地下鉄の概要 )。実際グリーンラインでも コスト削減 に努めても 建設費 が当初3002億円→約2500億円という金額で、1km当りの建設費は約192億円となっており「普通の地下鉄よりチョット安い」レベルに留まっています。
 確かにコスト縮減はする事が出来ました。しかしこれで失った物は大きかったのでは?と感じます。もしこれが普通サイズの地下鉄で造られていた場合、当初の構想通り東急への乗り入れも可能で「港北ニュータウンから都心への直通路線」とする事も可能でした。
 又実際問題として東急との直通運転が「色々な仕方の無い事情」で出来なかったのであれば、「何故リニア地下鉄で無ければならなかったのか?」という疑問が残ります。単純に新交通システムであれば建設費は1km当り約80億円といわれています。輸送力的にはリニア地下鉄も新交通システムもそんなに変わりません。もしコストを落とすのであれば「新交通システムの採用」の方が好ましかったのでは?と感じます。

 これらの話は、インフラが出来てしまい開業した今となっては、「遅きに失した話」で有る事は分かっています。
 しかしグリーンラインの現在の輸送状況・沿線の状況・もっと広域のレベルでの鉄道輸送の状況を総合的に考えると、現在のリニア地下鉄という輸送システムは、どちらにしても中途半端で「帯に短し襷に長し」で有るように感じられます。
 グリーンライン自体に関しては、東京のベットタウンとして開発が進んでいる沿線の状況から「如何なる形で有っても必要な路線」で有った事は間違いありません。現在から過去を振り返る話にはなりますが、グリーンラインに関しては「リニア地下鉄」という選択肢だけでなく、「広域のレベルでの鉄道輸送の状況」から見ればコストは嵩みますが東急線直通とワンセットの普通地下鉄建設という選択肢や、「現在の輸送状況」という需要面と「低コスト」というコスト面から新交通システム建設という選択肢も有ったのではないかと感じました。
 いずれにしても、今の段階で「何が正解だったのか?」というのは簡単に結論の出る話ではありませんし、構想から10年以上の期間が掛かる鉄道建設ですから当初から「全てを見通して交通モードを選択する」事は困難で有る事は承知しているつもりです。只今回グリーンラインを利用してみて、率直な感想として「帯に短し襷に長し」という事は感じました。
 その様な「中途半端」というイメージを感じたグリーンラインが今後どの様になっていくか?興味を持ちながら注目して行きたいと思います。




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