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整ったインフラと洗練されたデザインの路面電車に乗って

−岡山電気軌道とMOMO試乗記−



TAKA  2006年04月28日





(東山電停で折り返し作業中のMOMO)



 「参考HP」
 「 岡山電気軌道㈱HP 」「 岡山電気軌道㈱電車営業部HP 」「 両備グループHP
 「 岡山電気軌道路面電車の歩み (両備グループHP)」「 RACDA (路面電車と都市の未来を考える会)HP」

 「参考文献」鉄道ピクトリアル2000年7月増刊号:路面電車〜LRT
       鉄道ジャーナル2006年6月号(いちご電車をよろしく〜地域と共に走り始めた和歌山電鉄貴志川線の表情〜)

 今回3月25日〜26日に休日を生かして「 神戸周辺訪問 」と「 神戸空港・新北九州空港訪問 」「 スカイマーク羽田〜神戸線・スターフライヤー北九州〜羽田線 」を訪問してきましたが、神戸〜北九州の移動の間に「只移動するだけでは面白くない」と思い、「先進的な路面電車で有名な岡山・広島のどちらかで下車して先進的な路面電車の現状を見てみよう」と思い、時間と内容を天秤にかけて規模が小さく新型のMOMOが良く話題になる岡山電気軌道を訪問してみることにしました。
 岡山電気軌道といえば岡山県内の交通企業体である両備グループの一企業で、規模としては路面電車の中でも小さい会社(全長4.7km)ですが「超低床型LRTのMOMOの導入」「水戸岡鋭治氏のデザイン戦略」「RACDAの市民活動」等で一躍全国で有名になった会社です。又此の頃では南海貴志川線の引き受け先になり「 わかやま電鉄 」を作る等、地方公共交通の活性化に対して積極的な活動をしている会社です。
 今回は非常に駆け足の訪問(26日14:46岡山着〜16:15岡山発の間の約1時間半)でしたが、何とかMOMOに試乗し、東山線・清輝橋線の内MOMOが走っていた東山線に試乗することが出来ました。岡山電軌とMOMOに関しては色々な方がレポートやコメントされていますが、私もせっかく訪問したので岡山電軌とMOMOについてレポートしたいと思います。


 ☆ 岡山電気軌道東山線に試乗して(岡山駅前〜東山〜小橋)

 26日姫路から14:46着の新幹線で岡山に到着しました。到着時に車窓から駅前広場とその先にある岡山電軌の岡山駅前電停が見えます。なんせ岡山滞在時間は1時間半しか有りません。到着したら直ぐにMOMOを捕まえる為に電停へ直行です。
 RACDAが「路面電車と街づくり」の中で岡山電軌の乗入を提案している岡山駅前広場を足早に通り過ぎ、岡山駅前の電停に向います。そこで次のMOMOの時間を確認すると・・・何と行ってしまったばかり(14:43発)でした。これに乗れていると後が楽だったのですが、此処は下手に動かず次のMOMOを待つ事にして、駅周辺をブラブラと歩き回ってみます。
 岡山駅前電停は降車・乗車のホームが分かれていて、手前の降車ホームで人を降ろした後、駅よりの乗車ホ−ム(方向別になっている)で乗客を乗せて出発する形態になっています。路面電車のターミナルとしては良くできた形だと思いますが、確かに降車ホ−ムは一度歩道を大廻りしないと駅には行けませんし乗車ホームも大通りを渡った先になるので、短距離乗車が主の路面電車にしてはバス・タクシー(どちらも駅前広場に入っている)より悪いターミナル立地と言うのは確かにマイナスです。

  
(左:岡山電気軌道岡山駅前電停全景  右:岡山駅前電停で発車待ちの東山行き)


 駅前・駅周辺を暫く歩いた後、15時近くなったので岡山駅前電停に戻ります。そうすると丁度MOMOが降車ホームに入ってきた所だったので、写真を取ったあと道路を大回りして乗車ホームに向かいMOMOに乗車して東山を目指します。
 東山線は距離は3.15kmの路線ですが、東山線は5分毎の高頻度で運転されており加えて途中の岡山駅前〜柳川間は清輝橋線(約9分毎間隔で運転)も合わせて一緒に運転されているので、岡山駅前周辺を走っている車両の数も多くとても「短区間の小さな路面電車」と言う感じでは有りません。

  
(左:センターポール化された軌道(岡山駅前)  右:センターポール化された軌道(県庁通り))


  
(左:センターポール区間の電停(門田屋敷)  右:東山線終点の東山電停)


 MOMOに乗ると前は混んでいたので一番後ろに陣取って様子を見ながら、東山を目指します。東山線は岡山駅前〜城下間は岡山駅前のメインストリートである駅前〜後楽園線を走っています。この区間は正しく岡山電軌の象徴的な線区とも言える区間であり、片側3車線の道路の真ん中に走っていますがセンターポール化が進んでいて道路の真ん中に線路・ポールが纏まっていて「近代的な路面電車の風景」と言える風景です。
 岡山電軌では西大寺町〜中納言間の京橋を渡る旧道区間を除き、国道53号線を通る清輝橋線も駅前〜後楽園線・城下筋・国道号線を通る東山線はセンターポール化が完了しています。道路が狭い区間でも殆どセンターポール化が達成されていて、電停も安全地帯付きで殆どが島式に配置されています。
 欲を言えば限が有りませんが(電停に屋根が欲しい等)、他の地域の状況から考えると岡山電軌の路線は路面電車が道路上を走る空間としては極めて整備されている空間であると言えます。道路空間的には東山線でも岡山〜西大寺町間でセンターリザベーション化も可能です。其処までやれば(完全専用軌道化された軌道を除くと)日本一インフラの整備された路面電車になるでしょう。
 これだけ優れたインフラの軌道の素晴しさを感じながら、MOMOに乗り東山線の終点を目指します。終点の東山も相対式のホームですがちゃんと安全地帯が作られていて安全に乗降が出来る様になっています。只電車の折り返しは路上で行われており、トップの写真の様に長時間路上に止まる姿が見れます。それ以外は極めて近代的な路面電車の姿です。

  
(左:道路と完全併用の併用軌道(西大寺町)  右:路面ペイントだけの電停(小橋))


 只幾ら優れた岡山電軌と言えども流石に「古典的レベル」の軌道も残っています。唯一センターポール化が出来ていない、西大寺町〜門田屋敷間の京橋を渡る旧道を走る区間です。(自動車のメインルートは南側の新京橋を通るルート)
 東山まで乗った後、中納言で車窓に見つけた「きび団子」の名店と思しき古い店構えの「きび団子」の店で御土産を買いながら、小橋〜中納言周辺の状況を見る為にもう一度東山線に乗り小橋に戻ります。
 小橋で下車しますが、此処は「岐阜」を思しき路面にペイントしただけの「NO安全地帯」の電停です。此処は裏通りになるので車の通行量は極端に多くは有りませんがそれなりに有ります。この様な状況では流石に電車から降りるのに多少勇気が必要で、電車の後方をよく確認してから慎重に降りて急いで道路の端に移動します。東京ではバス・路面電車ともに無いスリリングな降り方ですが、昔 岐阜に行った時 に徹明町で初めて安全地帯の無い路上に降りてビックリした事を思い出しました。

 やはり路面電車ですから、路面電車が順調に走れるか?利用者が安全かつ快適に利用できるか?は、その走行空間である道路の環境に左右されます。実際岡山電軌を見てもセンターポール化が進んで、走行環境・電停等が整備された場所では利用者は比較的快適に利用でき、安全地帯の無いペイント電停の小橋・中納言とは大違いです。
 その点では小橋・中納言以外は安全地帯付きの電停整備が行われている岡山電軌は日本の路面電車のレベルで考えるとかなり整備されていると言えます。
 しかしこれで「路面電車の走行がスムーズにできるレベル」までの整備が進んでいるとは残念ながら言えません。参考文献によると94年の東山線の所要時間構成は実走行41.7%・信号待32.2%・客扱24.2%・右折支障1.9%となっています。これをみると明らかに信号待ちが多いと感じます。(同じ調査では清輝橋線は実走行73.3%・信号待19.2%・客扱5.1%・右折支障2.4%となっている)この様な信号待ちを強要される状況を解決し定時性を向上させる為に、例えば同じ岡山電軌のバス(岡電バス)が採用している PTPS(公共車両優先システム) を採用する等の方策も考えなければなりません。
 又実を言うと中納言で御土産の「きび団子」を買った後、清輝橋から清輝橋線に乗り岡山駅に戻る為タクシーに乗り中納言から清輝橋へ向ったのですが、途中国道2号線→国道53号線が混雑していたので「何が起きたのか?」と思って居ると、国道53号線清輝橋の手前で路面電車と自動車が接触事故を起こして止まっていました。私自身は新幹線の時間が有ったので清輝橋線試乗を諦めタクシーでそのまま岡山駅へ向いましたが、この様な自動車との接触事故も路面電車のリスクとしては無視できない物が有ります。
 この様なリスクに対しては、今のセンターポール化だけでなく一歩進めてセンターリザベーション化等の対策を取る事が必要であると言えます。岡山電軌の場合清輝橋線の大部分・東山線の岡山〜西大寺町間ではポールで仕切る等の簡易センターリザベーション化も可能なほどの道路幅員は有ります。
 今の状況でも路面電車走行環境のインフラとしては岡山電軌はかなり高いレベルに有ると言えますが、インフラ面でも未だ改善する余地が有るのもまた事実です。只岡山電軌の中で鉄道事業(路面電車)だけを見ると4.7kmの距離と435百万円の営業収入しかない事業です。その中で「あれもこれも」と言うのは難しいでしょうから、この路面電車のあり方を含め岡山市・道路管理者等と上手く協調しながら「岡山市内の交通機関として必要なインフラの整備」について今後とも積極的に考えていく必要があると言えます。


 ☆ 超低床車両MOMOと岡山電気軌道のデザイン戦略について考える

 さて今回岡山電軌を東山線だけですが試乗する事が出来ました。「岡山電軌の特徴は?」と言う事になると「日本で一番短い路面電車」とか色々な特徴が出るとは思いますが、一番特徴的なのはLRT車両の先駈けのひとつであるMOMOの導入であると言えます。
 今回完全に狙っていましたが、MOMOにも試乗する事が出来ました。このシーメンス・新潟鉄工所製のMOMOは熊本の導入されたLRTに続いて採用された(日本での)第二世代と言えるLRTです。( 新潟トランシスHP )今やLRT自体は珍しくなく熊本で導入された後、輸入・国産を含めて色々な所で導入されています。その中でこの岡山電軌9200系の同系車は高岡・富山でも採用され、日本で唯一「複数の都市で採用されているLRT車両」であり、かなり完成度の高い車両になっています。
 しかし岡山電軌の9200系MOMOは2002年7月に導入されてから既に3年9ヶ月が経っていますが、今まで導入された日本のLRT車両の中で特に注目を集めています。何故今でもこれだけ注目を集めるのでしょうか?その要因は「導入に際し市民活動である RACDAの運動・寄付 が影響を与えた」「導入に際し 水戸岡鋭次氏にデザインを委託 し、デザイン的に素晴らしいデザインの車両が出来た」と言う様な事が有ると思います。今回はMOMOのデザインの側面について見てみたいと思います。

  
(左:岡山駅前電停で降車中のMOMO  右:岡山駅前電停で乗車中のMOMO)


  
(左:MOMOの車内@岡山駅前  右:MOMOの車内@東山  )


 水戸岡氏はJR九州のデザイン顧問や両備グループのデザイン顧問を務め、JR九州の個性的な新型特急車両をデザインした事で一躍有名になった人です。水戸岡氏のデザインしたJR九州の車両群やMOMOは鉄道車両は、建築家である岡部憲明氏がデザインした小田急VSEと並んで「 鉄道のデザインの概念を変えた 」と車両であると言う事も出来ます。
 それらの新デザインの車両は、「木・皮・アルミ等の素材感を前面に出し、高級感をアピールしたデザイン」で有り、今まで鉄道車両で使用される事の無かった素材・デザインが多用されている事が特徴であると言えます。加えてMOMOはJR九州や小田急のような「特別な特急車両」に特別なデザインが採用されたのと異なり、今までデザインが疎かにされて来たと言える「日常使う車両」に斬新なデザインがされた所に特徴があります。

 実際上の写真のように町中でMOMOを見ると、外観はシルバーのアルミ系の素材間のある色で落ち着きと上質感を出しつつ、チョットメタリックが入ったブルーがアクセントに入り存在感を感じさせつつ落ち着きを感じさせる色彩デザインになっています。車両的には全く同型式の 万葉線の赤momo と比べると、「シルバー+青→落ち着き・赤+黒→存在感、目立つ」と言うイメージの差が有り「同じ形でも色が変るだけでこんなに違う物か?」と言う事になります。
 又内装は木調の床に座席も木を使い非常に高級感を出させています。又天井にはアルミのスパンドレルとスポットライトを使用しとても路面電車とは思えない車内を演出しています。本来は木製の座席はクッションも無く長時間の使用には厳しい物が有りますが、岡山電軌では長く乗っても10〜15分ですから木製座席に硬さは気にならず、乗客は「ベンチの感覚」で使う事が出来て逆に「木の素材感」が車内の高級感を引き出しています。
 デザインは「主張」を示す物です。その点MOMOは「高級感」を前面に出す事で「古い・安っぽい」と言うイメージが有る路面電車のイメージを変える事が出来たという点で、最低限のLRTの利便性にプラスする物が有ったからこそこれだけ注目を集めたのだと思います。その点は「街への調和・落ち着き・高級感」をアピールするMOMOのデザインは、「赤+黒のデザインで斬新さと変化と新型車両導入」をアピールした万葉線の赤momoと同じ様に、デザインで思想とイメージをアピールした点で大きな成果が有ると思います。


(岡山電軌東山車庫内の電車(手前2両は「KURO号」「東武日光軌道線号」))


 今回MOMOに試乗して、改めて「デザインの重要性」と言う物を感じました。確かに特急列車等の「金を多く出してくれるお客さんが乗る車両でイメージリーダー」と言う車両にお金を掛けてデザインをする例は沢山ありました。しかし「色々なデザインが氾濫している街の中で、デザインをアピールする」と言うMOMOの戦略は、一般車両のデザインに疎い鉄道業界に一石を投じたと行っても過言ではないでしょう。
 鉄道ジャーナル06年6月号の両備グループの和歌山電鉄開業に関する「イチゴ電車をよろしく」と言う記事の中で、両備グループの小嶋代表は水戸岡氏について「(水戸岡氏は)「岡電はケチなそうですが、ペンキ一斗缶を買えますか?それだけで街は変ります。」と言うので、試しに「2缶買える」と言って渡したら古びた車庫を見事に変身させた。それで両備グループのデザイン顧問をお願いしている」とコメントしていますが、正しくその通りです。
 デザインは色を変えただけでイメージはがらりと変ります。上記写真の「KURO号」「東武日光軌道線号」は岡山電軌3000系を塗り替えた物(KURO号は内装も変えている)ですが、色を変え内装を変えるとそれだけでイメージは大きく変ります。それは上記の「ペンキ一斗缶で町を変えられる」と言う水戸岡氏の発言の通りだと思います。
 MOMOに関しても同じ効果が有ったと思います。未だに1編成しかありませんが、このMOMOのデザインは岡山電軌と路面電車のイメージを大きく変えたと思います。正しくこの1編成が「ペンキ1斗缶」だったのだと思います。デザインは正しく「主張」です。如何に効率よく主張しイメージを形成して行くかはこれからの世界では非常に重要な事であると言えます。
 その点で鉄道に関して理解のある水戸岡氏を前面に出した両備グループ・岡山電軌のデザインの戦略は、JR九州の特急列車のデザイン戦略と並んで、非常に効果の有るものだと思います。岡山電軌・RACDA・水戸岡氏の三者が仕掛けたMOMOのデザインは、路面電車のイメージに大きな一石を与え「LRTは近代的で高級感の有る物」と言うイメージを与えたと言う点で、非常に効果の有ったデザイン戦略だったと思います。


 今回駆け足でしたが岡山電軌&MOMOに試乗してきましたが、岡山電軌は日本最短の路面電車で規模は非常に小さいですが、優れた走行空間のインフラと洗練されたデザインのMOMOを武器に「小粒だがピリリと辛い」山椒の様にアクセントの効いた路面電車事業者であると言う事が出来ます。
 確かにセンターポール化した走行空間は素晴しいインフラですし、MOMOは素晴しいLRTです。又KURO号などのデザインを重視したリメイク戦略もそれなりに存在感を示しています。只これらがある程度整備された現状では、小休止と言う感じの「閉塞感」が漂っていると感じるのは私だけでしょうか?。
只次の一手はRACDAが言っている「岡山駅前広場乗り入れ」や「環状線等の新線建設」と言う事になるでしょうが、上記引用の記事の中で両備グループ小嶋代表が「岡山で火が付くまでは今しばらく時間が掛かりそう」と言っていますが、正しく岡山市民が先ほどのような大規模な次の一手へ向けて盛り上がるのは、なかなか難しいと感じます。
 その為に両備グループは「(鉄道事業の)岡山での微妙な閉塞感」を企業として打破する為に、規模拡大に日立・岐阜・和歌山と首を突っ込み和歌山では運営主体に名乗りを上げて現実化させたのだと思います。しかし両備グループの本丸は岡山ですし、岡山の公共交通が今のままでいいのか?と言うとそれはちょっと違うと思います。その「閉塞感漂う環境」を如何に打破するかが今の岡山(岡山電軌・自治体・市民団体)には次の飛躍の為に求められているのではないでしょうか?





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