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『地方の第三セクター鉄道の優等生』の実情は?

−『地方の第三セクター鉄道の優等生』 北越急行を訪問して−



TAKA  2006年08月26日




直江津駅に入る北越急行のエース「683系 はくたか」


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。

 「地方の第三セクター鉄道」と聞くと皆さんどのようなイメージを抱くでしょうか?「旧国鉄の赤字ローカル線を転換した鉄道」「過疎地域を走る」「乗客が少ない」「赤字運営である」このようなイメージが一般的です。これは悲観的なイメージで有りますが、「地方の第三セクター鉄道」の実体で有る事は間違い有りません。
  旧国鉄特定地方交通線 を転換した第三セクター鉄道の大部分が、経営が赤字であり同じく輸送密度がきわめて低い状況、もっと言えば旧国鉄赤いローカル線として廃止→第三セクター化された時より悪化した状況で有る事は残念ながら事実です。
 実際「数字で見る鉄道2005(H15年度)」に掲載されている「旧国鉄赤字ローカル線転換第三セクター」は現在36社存在しています。その会社の利用実態・経営状況を特定のボーダーラインで線引きし、ボーダーライン以下の会社・以上の会社を抽出して見ると、下記の表の通り「状況の厳しい(ワースト)会社」「状況の良い(ベスト)会社」が焙り出されてきます。

 ※下記表①②どちらの表も数値は「数字で見る鉄道2005(H15年度)」より平成15年度の数字をピックアップしています。
 ※此処での「旧国鉄赤字ローカル線転換第三セクター」には「鉄建公団A・B線引き受け第三セクター」も含みます。

「①全事業経常赤字1億円以上・輸送密度1,000人/日以下の旧国鉄赤字ローカル線転換第三セクター」
条  件該 当 第 三 セ ク タ ー 鉄 道
全事業経常赤字1億円以上×北海道ちほく高原鉄道・三陸鉄道・秋田内陸縦貫鉄道・会津鉄道・△のと鉄道・野岩鉄道・わたらせ渓谷鉄道・いすみ鉄道・天竜浜名湖鉄道・長良川鉄道・北近畿タンゴ鉄道・井原鉄道・土佐くろしお鉄道 計13社
輸送密度1,000人/日以下×北海道ちほく高原鉄道・三陸鉄道・由利高原鉄道・山形鉄道・秋田内陸縦貫鉄道・△のと鉄道・野岩鉄道・わたらせ渓谷鉄道・いすみ鉄道・天竜浜名湖鉄道・樽見鉄道・明智鉄道・長良川鉄道・×神岡鉄道・三木鉄道・北条鉄道・錦川鉄道・若桜鉄道・阿佐海岸鉄道・南阿蘇鉄道・高千穂鉄道 計21社
両方が該当する鉄道×北海道ちほく高原鉄道・三陸鉄道・秋田内陸縦貫鉄道・△のと鉄道・野岩鉄道・わたらせ渓谷鉄道・いすみ鉄道・天竜浜名湖鉄道・長良川鉄道 計9社
 ※状況の基準は経営基準のライン引きの為、下記の様な基準で条件を設定しました
  「赤字一億円以上→経営規模から考え存続に支障が有るほど、赤字が巨額の第三セクター」
  「輸送密度1,000人/日以下→特定地方交通線第二次廃止対象路線基準の50%の輸送密度(転換時より輸送人員・効率が落ちて居る可能性が高い)」
  ※会社名の前の印は「平成15年以降に×→全線廃止・△→一部路線廃止が行われた」事を示しています。


「②全事業経常赤字1,000万円以下もしくは黒字・輸送密度2,000人/日以上の旧国鉄赤字ローカル線転換第三セクター」
条  件該 当 第 三 セ ク タ ー 鉄 道
全事業経常赤字1,000万以下or黒字の会社北越急行・鹿島臨海鉄道・伊勢鉄道・智頭急行・甘木鉄道・平成筑豊鉄道・松浦鉄道・くま川鉄道 計8社
輸送密度2,000人/日以上阿武隈急行・北越急行・鹿島臨海鉄道・愛知環状鉄道・伊勢鉄道・智頭急行 計6社
両方が該当する鉄道北越急行・鹿島臨海鉄道・伊勢鉄道・智頭急行 計4社
  ※状況の基準は経営基準のライン引きの為、下記の様な基準で条件を設定しました
  ※「全事業経常赤字1,000万円以下→チョットの赤字or黒字の基準で設定(1,000万円の赤字なら長期赤字でも存続可能と判断)」と言う意味で設定してます。
  ※但し「営業赤字1,000万円以下」に基準を変えると、「北越急行・鹿島臨海鉄道・伊勢鉄道・智頭急行・甘木鉄道・松浦鉄道」の6社になる。
  →この6社は純粋に事業収入で、黒字orチョットの赤字で済んでいる事になる。
  →平成筑豊鉄道・くまがわ鉄道の2社は鉄道事業の営業赤字が1,000万円を超えているので、利益の出る副業or赤字補填の補助金の可能性が高いと推測されます。
  ※「輸送密度2,000人/日以上→特定地方交通線第二次廃止対象路線基準はクリアなので、合理化すれば鉄道存続の最低ラインの輸送量は有る」という意味で設定しています。


 この①の表で「赤字ワースト→北近畿タンゴ鉄道・輸送密度ワースト→神岡鉄道」になります。しかし厳しい第三セクター鉄道の中では「全線廃止」と言う厳しい決断を迫られた会社も有ります。それには「神岡鉄道(輸送密度ワースト1)」や「北海道ちほく高原鉄道(赤字ワースト2・輸送密度ワースト3)が該当します。今後とも特にワーストの方で「両方該当」になっている会社では、「一部路線廃止・全線廃止」と言う状況に追い込まれる会社も出てくると言えます。
 しかし②の表の「黒字ベスト・輸送密度は両方とも北越急行」になります。北越急行は①の会社が羨む「全事業経常黒字983,538千円・輸送密度7,403人/日」と言う素晴しい成績を収めていて、『地方の第三セクター鉄道の優等生』と言えます。
 この北越急行の優れた成績は瞬間風速ではなくほぼ毎年コンスタントにこの数字に近い成績を出しています。何故北越急行はこれだけの成績を収める事が出来て『地方の第三セクター鉄道の優等生』となる事が出来るのでしょうか?
 今回富山訪問時に富山→東京間の移動と朝の時間調整を利用して、北越急行を訪問・利用する事がで来ました。しかも「快速・普通・特急はくたか」と運行されている列車種別全てを利用することが出来ました。今回のこの訪問で北越急行の現地を見て『地方の第三セクター鉄道の優等生』は何故生まれたのか?現地を見て北越急行の状況・経営を分析して見ることにしました。

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 「参考資料」 ・ 北越急行 HP  ・鉄道ピクトリアル98年4月増刊号「甲信越・東海地方のローカル私鉄」
        ・鉄道ジャーナル99年6月号「単線鉄道の可能性を見直す」  ・鉄道ジャーナル02年6月号「在来線高速化の現状」
        ・数字で見る鉄道2003年度版(H13年度)・2005年度版(H15年度)

 「北越急行 主要指標」
年度営業キロ輸送人員定期比率輸送密度職員資本金営業収益営業費用全事業経常損益
H13年59.5km3,238千人16%7,087人/日96名4,568百万円3,814,275千円2,782,935千円988,860千円
H15年59.5km3,371千人7,403人/日94名4,568百万円4,002,499千円3,025,311千円983,538千円
 ※数値は「数字で見る鉄道2003(H13年度)・2005(H15年度)」「年鑑日本の鉄道2004(H13年度・定期比率)」から引用しています。
 ※空欄は「上記資料にデータ無し」を示しています。

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 ☆ 北越急行試乗記(1)直江津6:00→六日町7:07「快速 越後湯沢 行」

 今回北陸には「 急行能登 」で向かったので、富山着が早すぎたので直江津で途中下車し時間調整方々北越急行を1往復訪問して、『地方第三セクター鉄道の優等生』である北越急行の状況を見てみる事にします。
 「急行能登」の直江津到着が4:13で北越急行の上り始発が直江津発6:00の快速越後湯沢行きなので、その間の約1時間45分の間駅からチョット歩いた国道沿いのガストに向かい朝食と休憩の時間を取る事にします。(こう言う時に24時間営業の店が有ると便利だ)食事をしてガストから直江津駅に戻ると5:45頃で、6:00発の快速に乗るには丁度良い時間です。直江津〜六日町の切符を買うと1,140円です。直江津〜犀潟間がJR線で合計の距離が約62.5kmと言う事を考えると、JR本州三社普通運賃より高い物のJR三島会社普通運賃より安く、地方の第三セクターではかなりリーズナブルかな?と言えます。

   

左:直江津駅で発車を待つ 「快速 越後湯沢 行」   右:「快速 越後湯沢 行」車内 @直江津

 切符を買いホームに下りると既に6:00発の快速越後湯沢行きは既に入線しています。車両は HK100型 2両編成で、1両目はセミクロスシート・2両目は転換クロスシートです。この列車は朝1番の直江津〜東京連絡列車で越後湯沢で7:20発とき302号に接続し、東京にはビジネスに最適の時間帯で有る8:44に到着します。
 そういう意味では「ビジネス列車」と言う位置づけで設定された列車で、その為に1両は転換クロス車を配置しているのでしょう。しかし流石に夏休みの中日だけあり、ビジネス利用は殆ど有りません。しかし観光利用を中心とする利用で1両目→座席の3分の2・2両目→座席の3分の1が埋まる程度の利用が有ります。
 「何を基準に」と言うと難しいと言えますが、ローカル線の朝一番の始発列車として見るならば、かなりの利用で有ると言えます。人口約21万の上越市と新幹線を連絡すると言う効果は、ビジネス・観光・一般利用の各点でも大きいのかもしれません。

   

左:一直線に伸びるスラブ軌道 (犀潟〜くびき)    右:160km/hの目標速度を示す看板つきの信号 @虫川大杉

 信越線を犀潟まで走った後、複線の信越本線から分岐して単線の北越急行線に入ります。高架に上がり信越線を跨いだ後、右に曲がり北陸自動車道を越えて頚城平野の田んぼの中を高架で真っ直ぐ進みます。
 単線高架の軌道は「60kg/mレール・ロングレール・スラブ軌道」と言う新幹線並みの軌道です。北越急行は軌道だけでなく 鉄道設備全般が160km/h高速運転対応 になっています。その新幹線並みの軌道を普通列車が100km/h位の速度で進んで行くのですからスラブ軌道の反射音が気になるものの極めて安定した走りです。
 新幹線接続を最大限に生かす為のインフラで有る北越急行の「高規格軌道施設」ですが、そのインフラは160km/h運転で東京と北陸を速達する「特急はくたか」だけでなく、比較的高速運転の普通列車・快速列車で東京と結ばれる北越急行沿線の上越・中越地方にも大きな恩恵をもたらしていると言えます。

   

左:松代駅構内    右:十日町駅構内

 ほくほく線の快速は直江津・犀潟・くびき・うらがわら・虫川大杉・ほくほく大島・松代・十日町・六日町と停車していきます。「速達性を目指し通過」と言うより「利用客の少ない駅を通過」と言うのが快速運転の実態で有ると言えます。その為快速停車駅でも乗降無しor有っても1人〜2人の乗降と言う状況です。

「北越急行各駅の1日当たり乗降人数(調査日97/4/23)」
駅  名犀潟くびき大池いこいの森うらがわら虫川大杉ほくほく大島
乗降人員517人89人14人286人129人105人
駅  名まつだい十日町しんざ美佐島魚沼丘陵六日町
乗降人員267人859人73人5人47人1087人
 ※上記の乗降人数は「鉄道ピクトリアル98年4月増刊号甲信越・東海地方のローカル私鉄」内の「現有私鉄解説 北越急行」より引用。
 ※この人数に特急利用者は含まない。特急利用者は約6,500人/日。犀潟・六日町乗降人員にJR直通客を含む。


 比較的乗降人数が多い駅に停まる快速でも、上記の様に「各駅共乗降無しor有っても1人〜2人の乗降」になるのは、表の乗降人数を見れば明らかです。しかし旧松之山町・旧松代町の玄関口であるまつだい駅は道の駅併設で規模も大きく、乗降も2〜3人の降車と7〜8人の乗車と他の駅より多少乗降客も多い感じです。しかし幾ら玄関口と言えども旧松之山町(2,888人)・旧松代町(3,969人)の人口ではこの乗降数でも「良く乗っている」と言う事になるでしょう。
 まつだい以上に乗降が多かったのは、沿線の中心地である十日町です。十日町はJR飯山線との乗換駅であり同時に沿線の自治体の一つである 人口62,939人十日町市 の中心市街地です。十日町では5名位の降車客と10名以上の乗車客が有り、最終的には十日町〜六日町間が乗客が一番乗車していた区間になりました。

   

左:「快速 越後湯沢 行」車内 (十日町〜六日町)    右:六日町の北越急行車庫

 十日町を過ぎると、魚沼丘陵を超える為に10kmを超える魚沼丘陵トンネルを越えて六日町盆地に入ります。トンネルを抜けると緩い曲線を描きながら終点の六日町に向います。左側に上越線が見えてくると終点の六日町駅になります。最終的には六日町到着時点が一番乗客が多い形となりました。
 今回は北越急行が目的だったので此処で降りて折り返すことにしましたが、六日町でも10名近い降車が有りました。六日町は新しく出来た人口62,761人の 南魚沼市 の市役所も有り新幹線の駅の有る浦佐と並んで市の中心地です。
 又六日町は北越急行に取っては「本社所在地」「車庫の所在地」であり運行上の中核を担う場所です。北越急行への出資比率と考えれば新潟県54.84%・上越市10.33%・十日町市10.33%ですからこの両市のどちらかに本社や拠点を置くのが正しいのでしょうが、「新幹線連絡」が北越急行の売りで有るならば、やはり新幹線連絡拠点に近く上越線と接続している六日町に本社・運行拠点を設置するのが合理的と言う事になるのでしょう。

 今回乗車した快速の利用客は「越後湯沢乗換の新幹線接続客」と「地域間利用客」に二分でき、その内の地域間利用客の主な目的地が六日町で有るという事が乗降客の流れを見ると判ります。又六日町降車時点での乗客の顔ぶれを見ると直江津で乗っていた人も結構居ました。新幹線連絡と地域間移動が主体である事もあり、乗客の利用距離はかなり長い距離のようです。
 今までは魚野川水系の六日町盆地・信濃川水系の十日町盆地・頚城平野と魚沼丘陵・東頸城丘陵で仕切られていた地域を串刺しにして結ぶ北越急行が出来てもう直ぐ10年になりますが、今まで地形的制約があって交流が少なかった地域間にも人の流れが出来て定着してきたのかも知れません。

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 ☆ 北越急行試乗記(2)六日町7:40→六日町9:00「普通 直江津 行」

 六日町で休憩後、今度は普通列車に乗って直江津に折り返す事にします。休憩方々喫茶店で眠気覚ましのコーヒーを飲もうと町に出ましたが、六日町の駅前には喫茶店もファーストフードの店もありません。やはり人口6万人弱の町の駅前ではその様な店は期待できないのかもしれません。仕方なく駅の待合室で缶コーヒーでモーニングコーヒーを代用します。
 7時半過ぎに再度切符を買ってホームに下りると六日町折り返しのの直江津行きが丁度到着した時で、30人位の人が跨線橋を上がってきます。降車客の内六日町下車と上越線乗換の比率が1:2位です。六日町が目的地の人には少し速い電車なのかも知れません。

   

左:六日町駅で発車を待つ「ゆめぞら号」    右:「普通 直江津 行」車内 @六日町

 ホームに下りると、直江津行きの列車が止まっています。直江津行きの車両は北越急行のイベント車両の「 ゆめぞら号 」です。この車両は長大トンネルが多い北越急行の特性を生かして映像を放映するシアタートレインと言うイベント車両です。(この列車では放映されて居なかったが・・・)
 この列車にはイベント列車に有りがちな観光客もチラホラ居ましたが(直江津に海水浴に行く高校生なども居た)、実際は通勤利用と地元の客が殆どで転換クロスの車両に15〜20名/両の客が乗車しています。

   

左:北越急行と関越自動車道    右:"トンネルの中の駅" 美佐島駅

 定時に出発した直江津行きは、普通なのに100km/h位の速度でほくほく線を疾走していきます。ショッピングセンターの脇を抜け関越自動車道を超え、六日町近郊の魚沼丘陵駅で1人の乗客を乗せた後魚沼丘陵を越える赤倉トンネルに入ります。北越急行には魚沼丘陵を越える赤倉トンネル・東頸城丘陵を越える薬師峠トンネルと鍋立山トンネルと言う3本の長大トンネルがあり、さながら「トンネル路線」と言う感じがします。
 北越急行は単線でありながら普通列車+新幹線連絡特急を高密度に運行するためにかなり高密度に交換施設が作られています。その為10kmに及ぶ長大トンネル内にも交換所を設ける事で、交換所の等間隔化・高密度運転の実施が行われています。トンネルの中の交換施設は西武秩父線の正丸トンネル等にも有りますが、その中でも赤倉トンネルの場合トンネルの中に「美佐島」と言う駅が有ります。トンネルの中の駅自体も珍しいとも言えませんが、どちらも長大トンネルを複数抱えた「トンネル路線」としての北越急行の特色を示して居ると言えます。

   

左:十日町駅での対向列車との交換風景    右:十日町の駅前風景

 赤倉トンネルを抜けると十日町の駅です。十日町の駅では直江津7:03発・越後湯沢8:32着の列車と交換します。此方の列車も5名程度の乗客が乗車し15名程度の乗客が降車しましたが、湯沢行きの列車には20名近い人たちが列車を待っています。南魚沼市・湯沢町・新幹線接続に便利な列車でしょうがそれだけでは無いようです。十日町は飯山線との接続駅で、信濃川水系に沿った飯山線は長岡方面への最短距離の路線ですが、長岡方面の殆どの列車が越後川口乗換を強いられる上に、十日町発6:00・6:28・8:19・12:24と言う極めて疎らな本数で使い辛いと言えます。この様な状況から、十日町〜長岡方面の客も北越急行六日町経由に流れている事が六日町〜十日町間の需要の多さの要因で有ると推察します。
 その様な事から考えると、北越急行に取ってはマイナスの話ですが、十日町の人たちの心境としては「飯山線を増発して欲しい」と言う望みが有るのかもしれません。大体毎時1本の北越急行並みとは言わずとも、朝ラッシュ時に2時間の穴・午前中に4時間の穴は酷すぎると言えます。こんなに運転しないのなら十日町〜越後川口間は要らなく十日町で北越急行接続で飯山線は十分役割を果たせて、代わりに北越急行六日町〜十日町間で区間運転した方が十日町市民には便利かもしれません。

   

左:松代駅で交換するはくたか1号    右:ほくほく大島駅と鍋立山トンネル

 十日町を出て信濃川を渡り薬師峠トンネルを越えると松代です。今でこそほくほく線が出来たので東京から2時間チョットに短縮されましたが、昔は山奥の僻地で非常に交通の不便な地域でした。その様な点からみて北越急行は地域間連絡だけでなく地域内交通にも貢献している事は間違い有りません。但し沿線の人口が少ない為、地域内交通の貢献は大きなウエイトにならないのが問題と言えます。
 松代では7〜8分の長時間停車で対向列車のはくたか1号との交換を行います。北越急行では運転は「特急優先」で有る事は周知の事実です。その中でも普通列車の長時間停車に適さないトンネル内信号所はなるべく使わないように配慮しているようです。この列車も松代でなく鍋立山トンネル内の儀明信号所交換→普通列車との交換を虫川大杉→くびきに変更すれば2回の長時間停車が解消しそうな気がするのですが・・・。やはり其れをし無いと言う事は要因としては「単線上でのダイヤ構成の為1箇所を変更しても他の所で詰まる」「トンネル内信号所をなるべく使わない様にする」と言う事が考えられますが・・・果たして真相はどんな所なんでしょうか?

 松代を出ると3本目の長大トンネルである「 鍋立山トンネル 」に入ります。このトンネルは地山が極めて悪く有りとあらゆる工法を用いて最後には手掘りで掘削し、3年の中断を挟んで合計21年間掛けて開通させた、 極めて困難な難工事 で有った事は有名な話です。
 山国で有る日本では高速で走る路線を建設するとなると必然的にトンネル建設が付き纏います。トンネル建設工事は「同じ条件で掘れるトンネルは2つ無い」と言う困難さが有ると同時に、経験から解決策を練るという経験工学的な技術を伴う、職人技に近い極めて困難なインフラ構築工事です。
 丹那トンネル・清水トンネル・関門トンネル・北陸トンネル・青函トンネル等々、今まで長大トンネルの開通は鉄道史に置いても重要なエポックメーキングとなってきました。その長大トンネル掘削と言う困難の上で我々は現在この鉄道の速達性を甘受している事を認識すべきでしょう。その事は首都圏と北陸を短絡させた鍋立山トンネルを含むほくほく線の3本の長大トンネルとて例外ではありません。
 「線形の良い高速で走れる路線を造る」と言う事は簡単ですが、実際に行うとなるとそんなに簡単な事では有りません。その困難な土木工事と世界に冠たるトンネル掘削技術の上に今の鉄道の高速運転は存在している事からも、特に地形が厳しい日本の場合鉄道と土木技術は気っても切れない関係に有ると言えます。「鉄道は鉄道の技術だけで成立する物ではない」と言う事を鍋立山トンネルは再確認させてくれます。

   

左:特急の高速運行対策のホーム簡易締め切り扉 @うらがわら 右:1線スルー・ノーズ可動型ポイント等の高速対応の交換施設 @くびき

 鍋立山トンネルを出ると、直ぐにほくほく大島駅が有り其処からは虫川大杉・うらがわら・大池憩いの森・くびきと比較的駅が連続します。虫川大杉駅は キューピットバレイスキー場 の最寄駅でホーム片面は特急停車可能な9両分のホームが有ります。私の乗った列車は此処で普通列車と交換の為又長時間停車します。
 虫川大杉を出て次のうらがわら駅周辺には十日町以来の市街地(チョット大げさだが・・・)が広がっています。うらがわら駅で観察するとホームの入口には柵があり、特急列車通過の時にはホームに人が入れない様になっています。それだけ特急は高速運転をしてその備えは万全と言う事なのでしょう。  この「うらがわら」には昭和43年までは軽便鉄道の 頚城鉄道 がほぼほくほく線と並行する形で浦川原〜新黒井間を結んでいました。しかし軽便鉄道が赤字で廃止された所に、幾ら高規格でも鉄道を作ってもそんなに需要が有るとは正直思いません。事実頚城平野に出てきて駅周辺に市街地が有るのは「うらがわら」だけで他の駅の周りには殆ど家すら有りません。これでは地域輸送によって立つ鉄道が成立する要素は少ないと言えます。
 実際十日町で減った乗客は、松代・うわがわらで多少の乗降が有った以外殆ど動き無くほくほく線の終点犀潟を通り過ぎ直江津まで乗車しました。その点からも他の地方第三セクター鉄道並みの細い北越急行の普通利用客も六日町・十日町・直江津を中心に結ぶ需要に沿線の松代・うらがわらの需要が加わる程度しか存在しない現実が明らかになっていると言えます。

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 ☆北越急行試乗記(3)高岡18:47(直江津20:08)→越後湯沢20:59「はくたか23号 越後湯沢 行」

 朝に快速・普通で往復した北越急行ですが、有る意味「北越急行の真の姿は「はくたか」による新幹線連絡輸送」と言うのが実態です。北越急行1往復後、富山・高岡と訪問した後その日のうちに東京に帰る予定だったので、最終の上りの"はくたか"である「はくたか23号」で東京に帰ることにして、(実際にはその後長岡経由の北越が1本有る)北越急行の真髄である「はくたか」による新幹線〜北陸連絡輸送の実態を見てみる事にしました。
 この日氷見から氷見線で高岡に着いたのは18:30分過ぎで、はくたか発車のほんの15分前でした。その為飲み物・弁当を買ってはくたかが来るホームに着いた時には、すでにホームに数十人の人が列車を待っていました。強いて言えば自由席車より指定席車に並ぶ人のほうが多い状況でした。やはり新幹線とあわせて指定席を取る人が多いようです。その為か「はくたか」の編成は指定席のほうが車両数が多くなっています。

   

左:681系(JR西日本車)はくたか23号 @高岡    右:はくたか2号 8号車車内 (直江津〜十日町間)

 この日私が取ったのは喫煙の2号車窓側席でした。4日前に予約した段階ですでに禁煙席は満席で私は煙草を吸う事も有り喫煙席を選択しましたが、やはり帰省には早い14日夜の列車と言えども乗車率はかなりのものです。
 但し高岡に入ってきた段階で私の車両は乗車率が4割強と言う状況です。人口約455千人の 金沢市 ・人口約182千人の 高岡市 ・人口約420千人の 富山市 ・人口約210千人の 上越市 が並ぶ「はくたか」の停車駅ですが、其の各都市からの乗車比率は4:1.5:4:0.5位の感じでした。「はくたか」には以外に各都市満遍なく利用があるようです。高岡を5割強の乗車率で出発すると十数分で富山に到着です。富山ではホームに長い列が出来ていて人気の無い喫煙車もほとんど満席になります。
 富山を出ると整備された軌道の北陸本線を高速で進みます。ほくほく線の160km/h運転と並んで北陸本線内で130km/h運転が出来た事が高速運転可能な681系・683系への車両統一と合わせて「はくたか」を首都圏〜新幹線連絡〜北陸間の輸送の主役に押し上げたと言えます。其の点では1960年代後半の電化・複線化実施時に難所の親不知周辺の線路の付け替え・トンネル掘削による改良工事が行われていた事が今の時代でも大きな意味を持っていると言えます。

   

左:681系(JR西日本車)はくたか23号 @越後湯沢    右:越後湯沢での降車風景

 その後北陸地域最後の停車駅直江津で数名/両の乗客が乗った後、ほくほく線に入りトンネルで丘陵地帯を付きぬけ一気に越後湯沢を目指します。
 流石に8時近くなり真っ暗になり景色は見えませんが、モーターの唸り音や流れる光を見ると明らかに北陸本線走行時に比べて速度が速いのがわかります。160km/hが出ているかは解りませんが、少なくとも150km/h程度は出ている感じです。それでもトンネル走行時の音が若干うるさく感じる以外はそんなに不快な車内環境ではありません。流石新型特急車両だけ有るといえます。
 ほくほく線内で十日町に止まり数人の乗客を拾った後、赤倉トンネルを過ぎ六日町から上越線に入れば乗り換え点の越後湯沢はすぐそこです。ほくほく線の高速運転を経験したあとの上越線はそれこそゆっくり流して走っているとしか感じません。上越線は「距離が短いから大勢に影響無い」と言うのが真実でも、他の区間が高速運転なので余計この区間がまどろっこしく感じます。

 石打を過ぎたころから車掌の案内放送が始まり、右手に新幹線のガーラ湯沢駅が見えてくるともう越後湯沢です。案内放送が流れ出した辺りから車内は一斉に落ち着かなくなり我先に降車準備を始めると同時に、気の早い人は車内を後ろに向かい歩き出したりドアの前で降車の順番待ちをしています。もしかしたら新幹線の指定席を持っていない人も多いのかもしれません。
 越後湯沢に到着すると各ドアから降車客が一斉に降りてきてホームに人が溢れ東京の駅と見間違うばかりに混み合います。其の降車客はほとんどが新幹線への乗り換え客です。混雑時には1列車当たり500名を超える( 681系 の定員は536名)人々が、全区間を乗りとおしてくれるのですから、「はくたか」利用客は北越急行にしてみれば正しく上得意客でしょう。越後湯沢の降車風景を見ているとその感を強くします。

   

左:越後湯沢駅 新幹線乗換改札口風景    右:とき350号を待つ乗客

 在来線ホームでの写真を取り終え、新幹線連絡のコンコースに向かうと其処は乗り換えのとき350号に乗る為に先を急ぐ人で混雑しています。この列車今回の旅行で唯一「目的列車の指定席が取れなかった列車」で指定席が満席なのは確実です。私は約20分後の臨時の"とき"の指定席券を持っていたので、お土産の笹だんごを買ったりして時間を調整してからホームに上がりますが、ホームにはかなりの人が待っています。
 とき350号が入線してくるとすでに新潟・長岡から乗車の客で自由席者は空席がほとんど無く車内は込み合っています。越後湯沢からは1本後のときや越後湯沢発で座れること確実のたにがわを狙う人も居て最終的には自由席車では15名/両程度の乗客が乗って行き、指定席車の通路にまで人が立って発車していきました。
 この列車は200系10両編成できましたが、混雑時には新潟・長岡乗車客+湯沢での乗り換え客になると200系では輸送力不足であることは明白です。特に湯沢乗り換え客は指定席券を持っていないと苦痛か時間のロスを選択しなければならない状況になってしまいます。200系新幹線が新潟+長岡乗車客に加え681系9両の特急の乗客を受けるのですから有る意味当然です。
 このような混雑状況が恒常化しているのであればこれは好ましくありません。少なくとも大宮以南の線路容量から10分程度間隔の続行運転が難しいのは解っているので、E1系orE4系の2階建て新幹線を輸送需要に応じて適切に投入してもらい根元の輸送力を確保する事が、「はくたか」利用客確保の点から中間で輸送を担当する北越急行にとっても必要であると言えます。

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 ☆ 北越急行を訪問して 〜『地方の第三セクター鉄道』の優等生の現状と将来〜

 今回夏休みを利用して北越急行を訪問して快速・普通・はくたかと言う順でほくほく線全区間と走る全部の種別を乗ってきましたが、この1往復半の訪問で「北越急行の実際の利用実態」と「北越急行が何故地方第三セクター鉄道の優等生」と言うほどの経営数字を残す事が出来たのかと言う、今回の最初に掲げた命題の解答の一端を見る事が出来たと思います。
 以下において訪問してみてきた事を踏まえて、当初挙げた命題である何故『北越急行は地方の第三セクターの優等生』と成れたのか?と言う話と「北越急行の今後」について、考えてみたいと思います。

 (1)「はくたか」が運ぶ「首都圏⇔北陸地域間輸送」が北越急行を支える?

 今回北越急行を訪問して感じた事は、有る意味当然の事ですが「北越急行の根幹は「はくたか」による「首都圏⇔北陸の地位間輸送」だな」と言う点です。これは開業当初から変わらないと言えますし、その当時からの統計の数字どおり棚と言えます。
 10年前のデータですが訪問記(1)97年の1日当たり普通・快速列車の乗降人数が各駅とも数百人〜千人程度と言う状況の中で、「特急の通過客は約6,500人/日」と言う数字が特急利用客の多さを示していますし、其れは単行or2両編成で20往復の普通列車と6両or9両で11往復(+臨時3往復)の特急列車の輸送力の差でも明かですし、同じ区間を乗ったとしても特急利用客は1人当たり最大「特別急行料金400円(51km以上)+指定席料金100円+グリーン席料金500円」余計に落としてくれるのですから、北越急行の経営を支える根幹は「特急利用客」で有る事は間違いありません。
 
 単純に計算して北越急行の輸送密度は7,403人/日です。この内殆ど全線で数字がONされる特急利用客が6,500人/日ですから、普通利用客の密度は903人/日になります。(数字の引用年度等が統一されていないのであくまで概算です)此処から計算すると、特急客:普通客の比率は88:12になります。又1人当たり普通客収入(平均乗車距離の最大値25kmの普通運賃)は460円・1人当たり特急客収入(全線普通運賃+特別急行料金+指定席料金)は約1,450円になり、特急客の方が約3.15倍収入が多くなります。つまり特急利用客は極めて単価が高い乗客でありその利用者がかなり多いと言う事を示しています。
 これ等の数値はあくまでアバウトな計算ですが、少なくとも「普通利用客よりかも遥かに特急利用客の方が多く、収入も多い」と言う事は分かります。(会社の詳細な収入の内訳等がわかれば、この様なアバウトな計算でなくて良いのですが・・・)この様な「特急客と普通客の比率」・「特急客と普通客の収入比」を見れば、「好調な北越急行の経営を支えているのは、首都圏⇔北陸を移動する特急"はくたか"の利用者」と言う事は明白で有ると思います。

 逆に言えば北越急行がもし特急列車が無くなり、普通列車だけのローカル鉄道になった時には北越急行は極めて厳しい状況に陥る事になると言えます。輸送密度は1,000人/日以下に落ち込む事は間違いないでしょうし、収入とて今の1割以下に落ちる事は間違い有りません。実際は原価も落ちるでしょうが、多分原価以上に収入の落ちが大きくなり「赤字」と言う経営的には厳しい状況に陥る可能性も高いと言えます。
 つまり「特急はくたか利用客は北越急行の生命線」と言う事が出来ます。北越急行から「はくたか」が無くなれば北越急行は「地方第三セクター鉄道の優等生」から転落し、最初に分類した「赤字1億円以上・輸送密度1,000人/日以下」と言うデッドラインとも言える分類に入ってしまう事は間違い有りません。正しく「北越急行の危機」と言う状況になります。

 (2)『地方の第三セクター鉄道の優等生』 北越急行の最大の敵は「北陸新幹線」?

 しかし北越急行最大の問題は、「はくたか」が無くなると言う「北越急行の危機」が現実の物となりかねない状況に置かれている事です。正しく「はくたか」消滅は北越急行にとって「今其処に有る危機」であるのです。
 その北越急行を追い落とそうとするライバルは、「 整備新幹線 」の一つで現在長野まで来ている「 北陸新幹線 」です。当初は平成10年着工の長野〜上越間のみフル規格で倶利伽羅峠・親不知を含む区間のみスーパー特急方式での建設が予定されていましたが、平成13年には上越〜富山間・平成17年には富山〜金沢間が着工し、約8年後の平成26年度末の長野〜金沢間の一体完成を目指し着々と工事が進んでいます。
 「参考資料: 北陸新幹線の歩み  ( 北陸新幹線建設促進同盟会HP )」

   

左・右:現在長野〜金沢間で建設中の「北陸新幹線」(糸魚川周辺のはくたか車内より撮影)

 これは北越急行に取っては極めて重大なライバルであると言えます。当初の長野〜上越間の延伸であれば、上越駅の建設予定地が北陸本線に面していない為「越後湯沢〜ほくほく線〜直江津〜北陸方面」の「はくたか」と「 新幹線上越新駅 〜直江津(此処で方向転換)〜北陸方面」の新幹線アクセス列車の間で未だ勝負の余地が有り、関係者の意向も有りますが「はくたか」と「北陸新幹線アクセス特急」並存の余地が有ったと言えます。
 しかし富山・金沢への延伸が決まった現在、行き先の越後湯沢が需要地ではなく、真の目的地で有る対東京輸送で北陸新幹線と完全にバッティングする上に速度では絶対に敵わない「はくたか」は、北陸新幹線金沢開業時点で廃止される宿命に有ります。

 北陸新幹線自体は昔から計画が存在していたので、この様な状況は北越急行開業当初から「いつか来る事が分かっていた危機」であると言う事が出来ます。しかしライバルと言う競り合う相手と言う意味の言葉が適当な状況ではなく、絶対的差がついた正しく「敵」と言えるほどの強大な存在で有ると言えます。
 この「北陸新幹線」が間違いなく平成26年度末までに北越急行からドル箱の「はくたか」を奪い去り、北越急行を一地方ローカル鉄道に転落させます。「形の変った平行在来線問題」とも言えなくは無い問題ですが、北陸本線並行在来線引受第三セクターの様に「貨物会社の使用料」や「富山平野で沿線人口が有るので近郊輸送も出来る」と言う収支的に底支えをしてくれる物が、「はくたか」1本足打法の北越急行には有りません。その分「北陸新幹線開業」で一番ババを引く鉄道で有ると言えます。
 この様な状況で北越急行は平成26年度末以降も生き残ることが出来るのでしょうか?

 (3)「北陸新幹線」金沢開業後に北越急行が生き残る道は有るのか?

 平成26年末の「北陸新幹線」金沢開業で、北越急行の最大の収益源である「はくたか」が廃止になる危機の下で、将来北越急行が生き残る道は有るのでしょうか?最後にその点について考えて見たいと思います。
 実際問題として沿線自治体の上越市・十日町市・南魚沼市の人口は合わせても約335千人しか居ないですし、今の「はくたか」の目的地の越後湯沢の有る湯沢町も新幹線の駅が有るからこそ乗り入れていただけであり、人口と言う面では 湯沢町 の人口は8,968人しか居らず鉄道を支える需要の根元とはなりえない規模しか存在しない状況に有ります。
 しかしこの地方は冬を中心に気象条件が厳しく、道路もほくほく線の平行国道である国道253号線も有る物の道路も険しい為、地域交通の維持の安定性と言う点からも、何とかほくほく線は維持して行く前提で考える事にします。果たして方策は有るのでしょうか?

 ①只ひたすら溜めた「余剰金」で赤字を耐え忍ぶ
一つは「 智頭急行の配当問題を考える 」で「配当か?内部留保か?」と言う問題で述べたように、確実に来る困難に供え只ひたすら内部留保を溜めて、それを基金代わりにして「はくたか」消滅後の経営危機に備えると言うのも一つの方策で有ると言えます。
 実際高速道路開業が迫る智頭急行は「シンボル的配当」と言う玉虫的方策で大株主の鳥取県に迫られた配当を実施しましたが、北越急行は設立当初から『北越急行は設立当初に「配当しない」との方針を決めている。』(4/18 日本海新聞 )との方針を決めていました。その為 北越急行決算資料 によると資本金4,568百万円にせまる3,722百万円の余剰金を蓄えています。
 これだけの余剰金が有れば、平成26年以降に年間1億5千万円の赤字を出しても25年近くは自治体等の補助を受けなくとも単独で耐える事が出来ます。加えて後8年時間が有る上に今は純利益が585百万円/年出ていますので、未だ余剰金を積む事は可能で平成26年度には余剰金が資本金を超えている可能性が高いと言えます。そうなると30年は1億5千万円/年の赤字には耐える事が出来ます。此れも生き残りの為の一つの方策で有ると言えます。
 しかし問題は「余剰金の存在が事業の永続性を保証しない」と言う点に有ります。幾ら余剰金があっても赤字が続けばいつかは余剰金はなくなります。一定期間を凌ぐのであればこれで良いですが、赤字がずっと続く状況で有る場合いつか来る「余剰金がゼロになる時」を想定する必要が有ると言えます。

 ②地域の観光を振興し観光需要で集客を図る
 もう一つの方策は、毎年5億円近くの純利益が出ている上に37億円の余剰金が有る北越急行の状況から、その資金を地域の観光資源に投資して特に首都圏から観光客の集客を計る事で、今の地域内需要を補完する定期外需要を「はくたか」から規模が小さくなっても「観光需要」に切り替えると言う方策です。此れも一つの方策です。
 ほくほく線沿線は 松之山温泉キューピットバレイスキー場 等の観光資源もそれなりに有ります。(参考HP: 松之山観光協会 )又東京から越後湯沢乗換で3時間掛からない近さは観光に大きなプラスになると言えます。これ等を生かして観光資源開発に力を注ぐ事で鉄道利用客を増やすと言う方策も有ると言えます。
 事実北越急行ではHP上で観光案内の一環として 日帰り温泉蕎麦・食い処 の詳細案内やクーポン券配布などのPRを行っていますし、沿線で行われている「 大地の芸術祭 」に 協賛 したり、観光客向けのシアタートレイン「 ゆめぞら 」を運行したり、「シアタートレイン「ゆめぞら号」を活用した鉄道の魅力向上への取り組み」「沿線市町村と首都圏との交流事業の展開」が評価され『 日本鉄道賞 選考委員会特別賞 』を受賞したりしています。
 ですから北越急行自体は「観光開発で地域活性化を図りその結果北越急行への利用客増を確保しよう」と言う発送の下で行動を起こしていて、この策は実行中と言う事ができます。
 しかし観光地は差別化が大変です。スキーや食べ物の蕎麦や飲み物の日本酒などは、わざわざ北越急行沿線に来なくても上越線沿いで上越新幹線の浦佐駅からも近い六日町盆地の中で楽しむ事が出来ます。ほくほく線沿線まで来ないと無いのは「松之山温泉」位です。その中で如何にして観光客をほくほく線沿線まで引き込むかが難しいと言えます。
 加えてインフラ重視でリゾート施設を作っても当り外れが激しく、この地域では「 グリーンピア津南 」と言う巨大観光施設を作りながら苦戦している例が有ります。この二の舞は避けなければなりません。そうなると巨大施設建設より、地元に根ざした観光開発が必要になります。これは「言うが易く行うは難し」であります。其れを如何に実行して行くか?北越急行とこの地域の観光開発に課せられた課題は困難で重いと言えます。

 ③JR東日本の協力を仰ぎ生き残りの方策を考える
 これは極めて抽象的な表現ですが、直通運転をしている事なども有りJR東日本からの北越急行への出向者が多く、北越急行がJR東日本と関係が深い事を考慮して、( 社長はJR東日本出身 )出向者の処遇と身の丈にあわせた合理化への協力を含めてJR東日本の協力を仰ぎ生き残りの方策を考えるということです。
 一つは問題の根元がJR東日本が運営主体となる「北陸新幹線」である事を考慮して、「形を変えた迷惑料」としてJR東日本から「寄付金」と言う形で「はくたか」廃止時に補助を受ける事も一つの方策です。其れを北越急行の余剰金に加えて赤字の補填をすると言うのも一つの方策です。先日北陸新幹線に関連して「富山港線廃止→富山ライトレール開業」と言う事例が発生しましたが、この時にLRT化事業にJR西日本が10億円寄付しています。これには平行在来線問題や富山駅周辺連続立体化事業が絡むなど複雑な要因が絡み合いますが、北越急行が何かしらのフォローをしてもらう参考になるでしょう。
 もう一つは、余剰金37億円を持参金に「路線を維持する」と言う条件をつけて、北越急行をJR東日本に合併してもらうと言う手です。両端がJR東日本線に接続している以上ほくほく線がJR東日本線でも可笑しくは有りません。しかし赤字転落確実路線をJR東日本が只では引き取らないでしょうから、「持参金」と「存続の条件」とJR東日本の北陸新幹線が我々を窮地に追い込んだと言う「情」を絡めて説得して合併させると言うのも一つの方策で有ると思います。
 しかし何れにしても、「はくたか」直通運転が無くなる平成26年度の「北陸新幹線開業」後も、JR東日本と親密な関係を築いて行く事は北越急行に取っては必要なことです。その中で「JR東日本に出来る事」を協力してもらいその支援で存続を図ると言う事も非常に需要になってくると思います。

 最終的にはこれら①〜③の方策を全て組み合わせて可能な方策を取り生き残りの方策を図ると言うのが、平成26年度には必ず訪れる『ポストはくたか時代の北越急行』に取っては重要な方策で有ると言えます。
 見方を変えればこれで「北越急行も普通の地方第三セクター鉄道になるだけ」と言う事も出来ます。しかし北越急行の走る地域は過疎地域であり沿線の活性化も観光の活性化も非常に難しい状況で有ると言えます。この中で収益源を失った北越急行が如何にして生きて行くかが重要な問題です。
 この様な状況の中で地域の交通を如何にして維持して行くか?しかも固定費が大きく大需要に適する鉄道を需要が無い地域で如何に成立させるか?「路線の立地」と「施設の優秀さ」で成功してきた北越急行にとって非常に重い課題で有ると言えます。

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 ☆ 結 論 に 変 え て

 今回北越急行を訪問し色々と見てきて、やはり『地方第三セクターの優等生』である事は間違いありません。極めて優れたインフラに、通過需要を上手く吸収できる路線立地が加味されて今の北越急行の成功がもたらされた事は検討してきた通りです。
 これはもって生まれた素質と言う側面が強く、他力本願的側面が強く「他の地方第三セクターで真似が出来るか?」と言えば正しくNOであると言えます。このような通過需要が収益をもたらしてくれると言う恵まれた第三セクター鉄道は、北越急行以外には一番最初の黒字・輸送密度2000人/日以上クリアの第三セクターに該当する智頭急行・伊勢鉄道しか有りません。どちらも「短絡線」的立地と優れたインフラが通過需要を引き込む事になりそれが収益源となっていると言うのが正しい状況です。これこそ『地方第三セクター鉄道成功の要因』であると言えます。

 しかしこれはなかなか真似できる事では有りません。地方第三セクター鉄道でも「優れたインフラ」「地域間輸送を担える短絡ルート」と言う成功の要因を抱えながら赤字・低輸送密度に苦しんでいる会社もあります。
 例えば「野岩鉄道・会津鉄道」がこれに該当します。ルートは福島県会津地方と首都圏を短絡する会津西街道ルートに沿い、野岩線に関しては鉄建公団A・B線のため電化され良いインフラを持っています(会津鉄道は、旧国鉄ローカル線の為一部しか電化されていない等インフラは劣っている)。しかしこのルート乗り換え無しの直通輸送すら無い状況で、両者共赤字1億円以上で野岩鉄道はデッドラインともいえる「赤字1億円以上・輸送密度1000人/日以下」と言う状況です。
 (詳細は「 AIZUマウントエクスプレス鬼怒川温泉直通記念訪問記夏の「会津路」一周記 」参照)
 またごく単純に考えれば、角館で秋田新幹線と接続し秋田県北部の大館・鷹巣地域と新幹線を短絡している 秋田内陸縦貫鉄道 もその様な事例に該当します。しかし北越急行は成功し、野岩鉄道・会津鉄道や秋田内陸縦貫鉄道は成功していません。そのため大きな赤字に苦しんでいます。何故このような差が出るのでしょうか?

 何故その様な差が出たかといえば、それは「時間的速達性の差」と「通過需要を支える後背人口の大きさの差」に有るといえます。
 『地方第三セクターの黒字経営の優等生』と言える北越急行・智頭急行は両方とも大都市である東京・大阪と後背の地方を2時間半〜3時間半程度で結び一番便利な交通機関と認知され、利用率は極めて高くなっています。その為には両者は鉄建公団A・B線から工事再開時に高速化・高規格化のための追加投資(北越急行で自社負担分で43億円・智頭急行が20億円)を行い、高速運行可能な最先端の車両を導入して、極めて優れた高速サービスを提供しています。似たような「地方と都市or高速輸送鉄道を短絡する第三セクター鉄道」である野岩鉄道・会津鉄道や秋田内陸縦貫鉄道はこの様な投資をしていません。特に野岩鉄道はこの投資が無かったが故に観光にも使える立地を生かせなかった可能性があります。
 (智頭急行に関しては「 経営における「株主配当か?内部留保か?」の究極の決断とは? 」も合わせてご参照ください)
 加えて需要の根源たる後背の地域の人口の差は、利用者の数に直接影響してくるといえます。北越急行の場合はくたか主要停車4駅(直江津・富山・高岡・金沢)の自治体人口の合計は約1,267千人・智頭急行の場合鳥取県内のスーパーはくとの主要停車駅の鳥取・倉吉の人口の合計は約253千人に対し、野岩鉄道・会津鉄道の後背となる福島県南会津地方の人口は約145千人にすぎず、秋田内陸縦貫鉄道に至っては沿線人口(仙北・北秋田の両市と上小阿仁村)は約76千人に過ぎず、角館での秋田新幹線連絡輸送の後背地となりえる大館市まで入れても人口は約158千人に過ぎません。
 まして富山・金沢の数多い産業立地やに比べて、 鳥取三洋電機 などが有る鳥取や規模が小さいものの 富士通のグループLSI製造会社 が進出している会津等は救いが有りますが、秋田内陸縦貫鉄道のある秋田県特に大館などの山間の地域はこれと言った産業立地が無いのでビジネス需要も少ないでしょうし、それらが会津の場合郡山経由新幹線が主流となっており、秋田の場合は経済性と高速性に優れる高速バス盛岡経由新幹線や速達性抜群の大館能代空港経由の飛行機に逃げてしまいます。これでは通過需要は取り込めません。
 この様な環境・条件・インフラレベルの差が第三セクターの優等生と落第生の差を分けたと言えます。北越急行・智頭急行とて普通列車利用客だけを見れば、落第生入りは間違いないレベルです。この2社がもし高速化投資をしないで通過需要が呼び込めない状況で開業していたら、落第生グループのかなり厳しい所に入ってしまう事は間違いありません。そういう意味では「数少ない機会を生かして育てる事が出来たからこそ優等生になれる」と言う事になると思います。

 しかし「優等生」とは良い物です。物事が一つ上手く行くと何事も良い方向に向かうとは世の摂理ですが、北越急行の場合は「地方第三セクター鉄道の優等生」だけ有り、正しく其の条件に当てはまっていると言えます。
 今回色々と北越急行のことを調べましたが、先ず驚いたのはホームページの充実振りです。北越急行のHPには普通の人が使える「 時刻表運賃表 」や「 沿線の観光案内 」から始まり、詳細な会社案内の「 ほくほく線のご案内 」や、記録的要素も多く専門的内容も大いに含んだ「 ほくほく博士 」まで有り、硬軟併せ持ちしかも誰にとって見ても充実したサイトであると言えます。他の第三セクター鉄道のサイトも色々見ますが、此処まで充実したサイトは他には無いといえます。
 ここまで出来るのも「黒字で経営も安定している第三セクター鉄道」だからなのかな?と改めて感じました。このHPにもかなりお金が掛かっているでしょう。この様なPR活動は儲かっているからこそ出来る事です。
 この様な事からも、北越急行は『地方第三セクター鉄道の優等生』と言うだけ有り、会社も非常に安定していて「安心して利用できる」状況に有るといえます。赤字は会社を荒ませて人を荒廃させ安全を脅かします。それで苦しんでいるところは多数ありますが北越急行はその様な事を微塵たりとも感じません。ですから「地方第三セクター鉄道の優等生」ともいえますし「優等生」だからこそ色々な面で地域・社会に貢献出来るのだと言えると思います。

 又地元もこの様な地元密着を標榜し黒字で余力の有る第三セクターを持つ事は大きなメリットが有る事になります。「赤字補填をしなくて良い」と言う後ろ向きな理由ではなく、地元の活性化に積極的に協力してくれる余力を持っているということは、地域の活性化にとって重要な側面を持つ事になります。
 これらは利益が出ている会社だからこそ出来る事です。赤字第三セクターでは「地域の芸術祭への協賛」や「シアタートレイン新造」などは出来ません。利益が出ている第三セクターだからこそこの様な地域への協力・共存を図ることができて、地元とWin・Winの関係を築く事が出来てしかも地域を活性化させ其れにより利用客増が図れる「善の循環」を作ることが出来るのです。その点でも「事業で利益を出し、利益を地域に還元して地域に貢献する第三セクター鉄道」と言う『地方第三セクター鉄道の優等生』の存在は重要で有ると言えます。

 どちらにしても今の北越急行が「会社経営」「鉄道運営」両面にわたり、安定し磐石の状況で『地方第三セクター鉄道の優等生』である事は間違いありません。しかも地域と協力して共存共栄を上手く図ろうとしています。北越急行の長期的将来に幾多の困難が控えているのは検証の通りですが、今会社が持っている意気を生かして、地元と共に今後とも努力して困難を打破して欲しい物です。





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