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鉄道模型おきらく研究室:レイアウトと列車のページ
最大勾配と牽引力
〜長編成用のレイアウトは最大勾配を小さく〜
'03/03/16 | 新設 |
'04/05/11 | 誤植訂正
勾配抵抗の式の誤りを田端機関区D51さんの
ご指摘で修正しました.
田端機関区D51さんありがとうございました. |
はじめに
レイアウトのプランを練るときに線路配置を決める必要がありますよね.線路配置を決める上で,走行性能に大きく影響するのは最大勾配と最小曲線半径です.最小通過半径は別項で扱うこととして,ここでは最大勾配について考えてみます.動力車だけなら楽々登れる勾配でも,トレーラーが多くなると空転して興ざめですし,ひどいときにはスリップして立ち往生したりしてしまうこともあります.ですから,レイアウトで運転したい列車の長さによって,最大勾配が違ってくるはずです.そこで車両の牽引力を測って,最大勾配を考察してみます.
初めてお読みになる方は最後のほうの「まとめ」から逆に,遡ってお読みください.
('04/5/12追記)
田端機関区D51さんの
走る蒸気機関車の模型を考える
を合わせてお読みいただけると理解が深まります.大変な名文かつ,実物の豊富な知識裏付けされたご研究です.
第1段階:牽引力の測定
計測車両
下表の4台です.
表 供試車両
測定方法
摩擦係数(粘着係数):傾斜法
まず,試験風景をご覧下さい.
図1 試験概要 |
レールの上に車両を乗せ,線路(TOMIX)を傾けます.傾斜が小さいうちは列車は空転せずに登りますが,傾きが大きくなると空転します.空転しない最大の勾配の角度をβ求めます.このとき車両に働く重力と牽引力とが釣り合っていますので,牽引力Fは
F=W Sin β
で表せます.ここで,Wは車両の重量です.そこで,重量Wをはかりではかれば牽引力がわかります.(本来は,牽引力を荷重計などで直接測りたいのですが,資金不足なので上述の方法にしました.)
また,試験は前進だけおこないました.79618は前後非対称なため,直進だけは両方向おこなって,後ほど補正します.
線路はTOMIXを使いました.半径は次のとおりです.
・直線
・R354
・R317
・R243
測定結果
結果
登坂可能勾配はこのような結果になりました.
曲率が大きい(半径が小さい)ほど,牽引力が低下しています.
図2 登坂可能勾配(rad) |
なお,79618の登坂可能勾配が大きいのは前進で試験したためです.摩擦係数が大きいゴム輪が第4動輪だけにあるので,前進での坂を登るときのゴム輪の接地荷重は平坦で最大牽引力を発揮しているときよりも増えます(このような結果が出るのが勾配法の短所でしょうね).そのため,登坂可能勾配が大きくなります.前向きと逆向きの登坂可能勾配の平均は0.40です.
ところで,横軸を曲率(半径の逆数)にしています.この横軸のとりかたは実物をまねました.
図2の縦軸の値に重量をかけると牽引力になります.ただし,この牽引力は動輪周上のものですので,勾配では,動輪周上の牽引力から機関車の重さによる勾配抵抗分を引いたものがトレーラーを牽引する分の牽引力(引張棒牽引力)になります.
平坦直線路での計算結果が下の図です.
図3 平坦直線における牽引力(gf単位表示) |
勾配や曲線上の牽引力も図2の縦軸に重量をかけれることでもとまります.ただし,この牽引力は動輪周上のものですので,勾配では機関車の重さによる勾配抵抗分を引いたものがトレーラーを牽引する分の牽引力(引張棒牽引力)になります.角度α(rad)における引張棒牽引力を式で書くと
引張棒牽引力
=登坂可能勾配(β)×重量-α×重量
=(β-α)×重量—————(0)
で求まります.
(ご参考:x%勾配なら,α=x/100radです)
ちなみに,牽引力の直線と曲線との比は下図のようになります.
図4 曲線における牽引力の低下 |
上図中の式の係数を使うと,直線での牽引力にかかわらず曲線での牽引力の低下が直接比較できるので便利です.EF58(KATO)や79618は250Rで約4割ほど牽引力が低下します.一方,EF66(TOMIX)やDD51(KATO)の牽引力は1割の低下です.なお,図4の中の回帰式のxの係数(EF58なら101.43)は曲線抵抗係数で単位はmmです.
曲線抵抗係数を使うと,牽引力は式(1)で表せます.
曲線や勾配における牽引力
=直進登坂可能勾配(βo)×重量×(1−曲線抵抗係数×曲率)
=直進登坂可能勾配(βo)×重量×(1−曲線抵抗係数/曲線半径)—————(1)
(単位:gf)
第2段階:牽引定数
図3の横軸はgf単位表示なんです(1gfは1円玉にかかる重力と同じです)が,これではどの位の列車を引っ張れるのかわかりませんよね.そのためには,「gf」単位の代わりに「両」で牽引力をあらわすのが便利です.そこで国鉄やJRでは牽引力をあらわすのに牽引定数という方法をつかっています(ご存知の方も多いと思います).これは重量10tの仮想的な車両を想定して,これを何両牽引できるかであらわしたものです.牽引定数の一例をお示しします.
実物の牽引定数の例(単位:両)
| 勾配 |
| 10‰ | 20‰ | 25‰ |
EF58 | 90 | 50 | 40 |
DD51 | 100 | 55 | 40 |
(ご参考:20級の客車は,だいた2.5〜3両ぐらいに相当します.)
ちなみに,空積状態のワム80000がちょうど,仮想車両1両(換算1両)に相当します.ですから,EF58もDD51も25‰ではワム80000を40両(現車40両)牽引できることがわかります.また20m級客車は,仮想車両2.5〜3台分に相当します(換算2.5〜3両)ので,25‰では牽引定数が換算40両のEF58もDD51もブルトレ14両(現車14両)がやっとですね—————という具合に表現できるので牽引定数は便利です.そこで,このHPでは牽引力を牽引定数で表すことにします.
ところで勘違いしやすい?のですが,牽引力を10tで割ったものが牽引定数ではありません.10tの車両を引っ張る力ですので,牽引力を「10t車の走行抵抗」で割ったものが牽引定数になります.このことは勾配によって牽引定数が変わることでお分かり頂けると思います.
そのためには,10t車相当のトレーラーの平均的な抵抗を調べる必要があります.一番簡単な方法は実物で10t車に相当するワム80000を模型でも1「両」にする方法ですが,実際に牽引するのは,20m級のボギー車であることが多いと思います.そこで20m級車両が2.5〜3「両」に相当するように,10t車相当の模型車両をきめます.
走行抵抗は,車重の影響が大きいでしょうから,まず,17台の重量を調べてみました.
図5 車両の質量 |
上図の中の相関式から,20m級では28g前後が目安です.実際の20m級客車は,「10t車」2.5〜3台分ぐらいに相当するそうです.ですから,キリよく
「10gの標準的な模型車両」を「10tの実物車」
に見立てることにいたしましょう.
(余談ですが,TOMIXのワム80000は8gでしたので,実車同様,ワム80000は,ほぼ1「両」に相当します.)
くりかえしますと
10gの仮想模型車両を1「両」と数える
ことにします.したがって,
10g車を何台引っ張れるかで牽引力を表す
ことになります.そのためには,10g車を引っ張るためにはどの位の力が必要か,言い換えれば10g車にどの位の抵抗があるのかを知る必要があります.
そこで,勾配法で計ってみました.線路を傾けても動き出さない最大の勾配の角度(rad)が抵抗係数になります.
(参考図)線路を傾けても動き出さない最大の勾配の角度(rad)の直線と曲線における比較 |
まず直線での結果です.これは平坦な直線での発進抵抗係数に相当します.
図6 発進抵抗係数 |
ここで
発進抵抗係数=発進抵抗/車両重量
です.上図から発進抵抗係数の平均は0.024でした.そこで,丸めて
標準的な発進抵抗係数=0.025
と決めました.
ところで,曲線では抵抗が増えます.そこでR243での発進勾配をもとめて,直進での発進勾配との差をとると,曲線での抵抗分が求まります.この値を曲率(=1/243mm)で割って「曲線での抵抗の増加率」をもとめました(図3の式の係数に相当します).その結果を下図にしめします.
図6 曲線での抵抗増加
スニ40の曲線抵抗係数が負になっていますが,おそらくこれは実験の繰り返し回数が少ないためだと思われます.何度も試験をくりかえせば,曲線抵抗の平均値は,正のある値に収束していくと思われます.ここでは,実験誤差の大きさの程度を知って頂くために,あえて再試験をしないで,負の値を示しています. |
上の図の平均は2.3mmです.そこでキリよく2.5mmに丸めました.ですから
10g車の曲線抵抗係数 = 2.5/曲線半径(mm)
と決めました.ですから,250Rを走行したことによる走行抵抗は車両重量の1%分で,これは勾配1%分に相当します.なお,図3の中の回帰式のx係数は機関車の曲線抵抗係数で,20〜100mmぐらいですので,トレーラーの約10〜50倍ですですから,曲線による列車全体の走行抵抗はトレーラーよりも,機関車(動力車)のほうが多いようですね.
寄り道コーナー
専門書によると実物の曲線抵抗係数は
曲線抵抗係数=0.6〜0.8m/曲線半径(m)だそうです(1).ゲージ比で見るとNゲージのほうが抵抗係数が小さいですね.
Nゲージ | 2.3mm/ 9mm=0.26 | 実物 | 0.7m/1.067m=0.66 |
(1)天野ほか,図説鉄道工学P110,丸善出版,平成4年 |
さて,以上で走行抵抗を求める準備ができました.
(10g車)「1両」の走行抵抗つぎのようにして求まります.
・発進および平坦を走行しているときの抵抗=発進抵抗係数×10gf=0.25gf
・勾配の角度α(rad)における勾配抵抗=α×10gf
(ご参考:x%勾配なら,α=x/100です)
・曲線半径R(mm)における曲線抵抗=曲線抵抗係数×10gf/R=25/R gf
したがって,上記を合計すると
走行抵抗=0.25+10α+25/R gf—————(2)
となります.この計算例を下図にお示しします.
図7 10g車の走行抵抗 |
第3段階:測定結果の牽引定数表示
いよいよ機関車の牽引力を10g車に換算します.
(ここから読み始める方のためにご説明しますと,牽引力の単位がgfだと何両牽引できるかわかりにくいために,「(換算)両」の単位で表すことにします.大雑把には,ワム80000を牽引できる両数で表し,これを「牽引定数」と呼ぶことにします.)
大雑把には,牽引定数とは,ある機関車がワム80000を引ける両数のことです.
ワム80000画像 |
勾配や曲線における「10g車」の抵抗は式(2)でわかります.また,勾配や曲線における機関車の牽引力は式(1)でわかります.
したがって,勾配α(rad),曲率半径Rにおける牽引定数は,牽引力を10g車の抵抗で割ったものですから
牽引定数=(βo-α)×重量×(1−曲線抵抗係数/曲線半径)/(0.25+10α+25/R)—————(3)
となります.ここで,βoは機関車の直進登坂可能最大勾配です.
式(3)で計算した結果は次の通りです.
さて,曲線半径によって牽引定数が変わってきますので,ややこしく感じるかもしれません.大抵のレイアウトはエンドレスなので曲線があります.ですから,列車は曲線を通る必要があります.そのため,直線だけの牽引定数は直接の役には立たないので曲線における牽引定数だけを議論すればよろしいでしょう.どの曲線半径を用いるべきかは一概には言えませんが,厳し目の条件で牽引力を見積もったほうが良いと考えて,R250における牽引定数で議論することにします.下図は各機関車の牽引定数を比較した結果です.
図9 牽引力の比較 |
なお図9の計算に用いた式は,式(3)にR=250(mm)を代入して求めた式(4)を使いました.
R250における牽引定数=(βo-α)×重量×(1−曲線抵抗係数/250)/(0.35+10α)—————(4)
ところで,上の図の牽引定数は平板の上で測定した結果です.しかし,勾配上のカーブで枕木を水平に設定すると線路がねじれます.そうすると3点支持台車でないかぎり垂直荷重が抜ける輪があります.摩擦が大きいゴム輪の荷重が抜けると牽引力がさがります.仮に4軸8輪にゴム輪が2輪の場合,1つのゴム輪の荷重が0になるとおよそ2割くらい牽引力が低下します.ですから他の要因も考えて牽引定数に3割の余裕を確保することにします(もうすこし実験を重ねて3割の余裕が妥当かを調べてみたいと思います).
第4段階:あなたの列車が登れる勾配
それでは本題であるレイアウトの議論に入ります.
ケース1)長編成(トレーラー7両)の列車が登れる勾配
とりあえず,(現車)7両編成の客車を牽引させるとしましょう.そうすると客車1両が10g車約3両に相当しますので牽引定数20両が必要です.そして余裕分の6両(換算)を加えると合計で牽引定数26両になります.牽引定数26両になる勾配は次のとおりです.
表 牽引定数26両(現車7両)の勾配
| 勾配% | EF58 | 3.9 | DD51 | 4.3 | EF66 | 5.9 | 79618 | 2.4 |
|
79618は別として,大型機であるEF58やDD51クラスが,R250で実際の車両(現車)7両を安定して牽引できる限界の目安は4%あたりの勾配だと考えます.
ケース2)ローカル列車が登れる勾配
今度は79618に客車(現車)2両を牽引させることを考えてみます.客車1両は10g車換算で約3両ですから,10g車6両分で,3割の余裕をみても高々8両です.どの機関車も8%勾配でしたら,(換算)20「両」はあります.3割の余裕を見ると14「両」ですので,20m級客車5両(現車)弱ぐらいに相当します.それでしたら,8%勾配でも余裕がありそうですね.
まとめ
ケース1とケース2をまとめると,
・長編成用のレイアウト(≒大型レイアウト)は最大勾配を小さく(トレーラー7両なら4%以下)したほうが良い,
・大型機が牽引するなら小編成用のレイアウト(≒小型レイアウト)では最大勾配を大きく(トレーラー2両なら8%)しても差し支えない
—————とまとめられそうです(当たり前のような気もしますが・・・・).ですからレイアウトの記事のなかの「最大勾配」の数値を直接参考にすると危険です.むしろ「レイアウトの長さ×最大勾配」のような指標なら,サイズの影響をうけにくいので直接比較するのに便利そうですね.
おわりに
本来は牽引定数の計算結果を実験で検証したいのですが,手持ちの線路がありません.牽引定数の余裕を3割に丸めるなど,余裕を持たせすぎているような懸念があります.また,牽引力も本来は荷重計で測定したいところです.そこで,実験結果をお持ちの方がいいらっしゃいましたら,ご教示いただければ幸いです.また,精度の話のほかに,牽引力やトレーラーの測定例が十分ではありません.勾配法でもかまいませんので,測定結果をご提供頂けると幸いです.皆様の結果やご意見などがありましたら掲示板にどんどん書き込んでくださいね.
追記
(2003年11月4日追記)
牽引定数測定結果の追加
図9のデータ拡充のため
機関車データベース
で調べた機関車について,牽引定数を算出しました.11台のデータが追加されています.
なお,このときは簡便のために曲線抵抗係数をもとめないで,R243の曲線上における登坂可能最大勾配β'o(rad)を求め,次式で求めました.
牽引定数=(β'o-α)×重量/(0.35+10α)
付図1 追加実験した牽引定数
(図9と比較しやすいように,9600とDD51は図9のものを再録してあります) |
なお,R243をR250と考えています.
付図1から,9600の牽引力は,付図1の中では平均よりも明らかに大きいことがわかります.
したがって,長編成の列車を5%勾配で安定して牽引できるのは,限られた機関車だけになりそうです.
寄り道コーナー
実物と模型の牽引力を比較してみました.
EF58 |
DD51 |
実物の牽引定数は25‰(2.5%)までしかわかりませんでした.2.5%までは実物のほうが長い列車が牽引できますが,2.5%以上の急勾配は模型のほうが長い列車を牽引できそうですね.ところで,実物は模型よりも右下がりですね.これは,実物は模型に比べて車輌重量で粘着力を稼いでいるためだと思います.そのため,勾配が大きくなると,機関車自体の勾配抵抗が模型に比べて大きくなります.したがって,実物の右下がりの度合いが模型よりも大きくなるんですね. |
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