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悲願は急坂を越えた〜神戸くるくるバス
その2・「くるくるバス」発進!

渦森台4丁目にて(2004年2月撮影)

※この作品は「【検証】近未来交通地図」に掲載されたものを補筆、改稿したものです。

初出:2004年2月〜4月
特記なき写真は2005年5月撮影


●前夜の印象(神戸市バス38系統〜31系統:阪神御影〜渦森台〜JR本山駅前)
「くるくるバス」運行開始直前の2月19日夜に市バスで渦森台に行ってきたのですが、さすがに市交側も危機感を持ったのか、阪神御影、JR住吉、住吉台入口の赤塚橋に調査員が出て乗降をチェックしていました(ちょうど引き上げ時間帯のようで渦森台エリアの存否は確認できず)。
乗り込みを見ると阪神御影とJR住吉からの乗客が半々程度で、立ち客が出るレベル。もっとも阪神御影からの乗客は上下の直特からという感じが無かったのが特徴です。

まとまった降車は赤塚橋以降の各停留所。ちょうど谷間のような渦森橋が多いのが意外でしたが、住吉台と渦森台に挟まれたエリアの住宅街があるようです。気づいたのは降車客が押し並べて坂下方向に歩くこと。中間地帯の住民だと、坂の上側まで乗って降りるという生活の知恵でしょうか。
コープこうべの店がある渦森台2丁目からの乗客には驚きましたが、終点(4丁目に位置する)まで乗っており、坂道を考えたら乗るんでしょうね。

渦森台終点で少し夜景を眺めて31系統で折り返しましたが、乗ってきた38系統が「東灘区役所前(止め)」の標示を出して下っていきました。魚崎車庫入庫の都合のようですが、31系統にも岡本2丁目(止め)があり、いずれも山は下るが最寄り駅に着く前に店仕舞いという意味の無い系統です。おまけに車庫入りの都合で、終点の降車停留所が通常便と異なっており、全く使いようが無いわけです。

渦森台で発車を待つ東灘区役所前(止め)の38系統
(2005年8月撮影)

神戸市バスは深夜バスの設定が無く、この38系統も22時を回ると終バスという早仕舞いが特徴ですが、渦森台側から見ると22時台にある3本がすべて区役所止めで、21時台で「下界」に降りる公共交通が無くなっているわけです。
隣りのJR六甲道から出る36系統鶴甲団地行きも、最終近くなると折り返しの回送の便を考えて終点の1個手前(実際にはループ区間なので2つ先の鶴甲3丁目まで乗れる)の鶴甲二丁目止めになっており、運行するなら乗客不在、もしくは回送すれば良いのに使えない営業による無駄と全く理解不能な運行です。

渦森台行きの38系統(阪神御影)(2005年7月撮影)


●くるくるバス試乗(渦森台ルート)
さて2月22日の日曜日、両ルートを試乗しました。
13時前にJR住吉に着くと、市バス、阪神電鉄バス、神戸フェリーバスの乗り場から出ると聞いてましたが案内が見えません。よく見るとバスベイの最先端に蛍光色のプレートに「くるくるバス」と手書きのポールというか何というかがありました。背の高さはカラーコーン並みで、ちょっといくら何でもという感じでした。

これが「ポール」です...(2004年2月撮影)

確か0分が住吉台行き、30分が渦森台行きと思って待っていたら、現れたご婦人が時刻表を見て、「あれ?13時は無いですね」と一言。住吉台は13時、渦森台は12時半が抜け目になっており、これにはもう一人の待ち人の女性もびっくりです。

仕方がないので駅ビルで時間を潰し、気を取り直して13時半に乗るべく乗り場に来ると、今度はもう6人くらいが並んでいます。「バスサポーター」のたすきをしたボランティアの方がチラシを配り、果ては呼び込みまでしていたのには驚き。後で別のボランティアの方に伺うとこの方は今回の社会実験の代表である大阪外大教授の方のようです。停留所やバス車内の案内には神戸大(旧神戸商船大)、関西学院大、神戸高専、甲南女子大のボランティアがあたっています。

住吉の折り返し時間は6分間ですがちょっと遅れて到着。後部にリフトを持つ座席定員16人のマイクロバスですが、2人のボランティアを除き、私を入れて14人で出発です。車内は見事に高齢者、しかも老婦人一色です。東灘区役所前までは38系統と一緒でしたが、ここから山手幹線に入り、阪急御影から甲南病院、鴨子が原3丁目を経由する「直登コース」で渦森台へ。阪急御影で若い女性2人が乗りましたが、結局降車は渦森台エリアばっかりでした。

乗り合わせた老婦人がくるくるバスへの期待と不備な点を問わず語りに話してきてましたが、そのうち皆がバスへの感想と意見を言うようになり、ボランティアの2人は聞き手に徹してます。停留所の位置がまだ掴みきれていないので、「XX棟は」「XXさんのところは」と非常にローカルな話題が飛び交い、あそこが近い、いやこちらではと意見交換に花が咲きます。
渦森台エリアは市バスの3個所に対し、都合9個所の設置。8の字+αのパターンで経路を違えて上り下りしています。市バスが15分程度で走るのに対し、30分近くかかりますが。木目の細かさで勝負という感じです。

渦森台の一番てっぺんである4丁目の展望公園入口が終点ですが、最寄りで降りるため乗り通しが多いです。若干早く着いたようですが、完全な住宅地なのでバスが待つわけにも行かず、一回りして時間調整してました。

●くるくるバス試乗(住吉台ルート)
そのまま2丁目のコープ前まで乗せてもらい、歩いて鴨子が原3丁目から市バス19系統で下りました。普段は甲南病院先回りの時計回りで鴨子が原、住吉山手を回りますが、朝8時台は神大付属小、中の利便を図り逆回りで付属先回りの運行です。もっとも、そうしないと御影に下りる通勤客と付属への通学客が重なって収拾が付かなくなります。
その19系統は阪急御影から真っ直ぐ阪神御影に下りるためJRに乗れません。10人ほどの乗客の行方が興味深かったですが、阪急駅で1人、JR駅に近そうなポイントで1人と、阪神駅への客が多かったです。

市バス19系統(阪神御影)(2005年7月撮影)


15時の住吉台ルートは16人。リフトなしの車両で座席定員は20人程度です。渦森台ルートとうってかわって若い女性、母子連れが中心です。このあたり、まがいなりにも市バスがある渦森台と違い、公共交通が皆無だったことも影響しているのでしょうか。年齢層に大きな隔たりがあるとは言え、どちらも女性がほとんどというのも興味深い結果ですが。

赤塚橋までは38系統と同ルート。そしてバス通りと別れて住吉台に入るといきなりの激しい急坂。ローに落としたエンジンが唸り、エンジンやブレーキの負荷を考えると運行の難しさがうかがえます。道が狭く、かつ渦森台のような大規模開発でないせいか、渦森台より急峻なイメージを感じます(実際には渦森台のほうが標高は高い)。それと、家々に大型の四駆が目立つのも、流行というより実用目的なのかもしれません。
住宅街を上り詰めたところの大型マンション、エクセル住吉台前が終点ですが、こちらも住吉台内が循環運転のため乗り通しが多いです。

エクセル住吉台ここが終点だった

最初は下りて赤塚橋まで歩くつもりでしたが、ルートが違うことと小雨が降ってきたのでJR住吉まで帰りも乗せてもらうことにしました。同朋保育園前の乗降が多く、県営住宅を抜け、バス通りに戻ります。
JR住吉が東行きで入るため、山手幹線から御影中町経由でJR住吉に戻りました。(渦森台ルートも同じ)こちらは17分程度の行程でした。


●試乗を終えて
19日の時にも市バス車内で、調査員を見て「くるくるバス」が始まるから、と評している人が何人かいましたが、22日はすでに「くるくるバス」の名称がすんなり出てくる利用者もおり、住民の関心は相当高いようです。特に2月12日の神戸新聞、また直後に朝日(神戸版)にも記事が出ており、知名度はあるようです。
乗客から、無料で申し訳ないのか、乗務員やボランティアにお菓子や飲み物の「差し入れ」というほのぼのとしたシーンも見られましたし。

坂の町、高齢者に優しく NPO法人が循環バス(02/12神戸)

ただ、JR住吉の「停留所」を挙げるまでもなく案内がやや不案内で、途中停留所は電柱や街路樹に括り付けたり、果ては民家の塀に直張りで、それも停留所名を明記したものではなく時刻表と地図のついたチラシのカラーコピーです。

民家の塀に貼られていた案内(渦森台4丁目)
(2004年2月撮影)


乗客からは、車内や停留所配付のチラシの時刻表や地図が分かりづらいという声があり、一部には見やすいバージョンも出たようなので、その辺の配慮が必須です。
乗客を見てると、特に渦森台ルートは「新しいバスを試す」という感じで、話に聞いたバスが何処に止まるのか、というチェックの目が光ってました。逆に言うとこの無料期間にどれだけ周知するか、そして乗って「良かった」と思わせるかが全ての鍵でしょう。
その意味で、試乗時の車内のように何処に停まるのかがいまいち分からないという声は早期に吸収、改善が必要です。

バス停の設置も市バスよりは細やかですが、もう少し、という部分もあります。特に渦森台ルートの往路、2丁目コープ前に寄せたために団地内を回ってバス通り(渦森会館前)に復帰しますが、復路にある渦森台二丁目Aが無いとか、住吉台ルートの場合は往復とも通るのに復路しか停まらない同朋保育園前(皮肉にもここの乗降が多かった)、落合橋とか、チラシに経由を謳いながら停車しない白鶴美術館前とか、粗が目立つのも事実です。


●複雑な思い
ボランティアの方に聞くとどうも準備不足が否めないとのことでしたが、住民の関心を考えると、3月の有料運行の帰趨が興味深いです。特に3月は運行時間帯が2月の8〜18時から7〜20時に拡大され、さらにJR住吉→阪急御影→鴨子が原→渦森台→住吉台の深夜便が22時半と23時半に出るなど、運行形態も本格的になりますので、また見に行こうと思います。
今回のこの社会実験、市バスのサービスを補完というよりも、停留所の設置や深夜便など、市バスの不備を突いた対抗とも言えます。
もっとも、本来はせっかく市が運行しているのですから、福祉行政などの側面から市が自ら行っていて然るべき話であり(そういう時こそ外郭団体である「交通振興バス」の出番では?)、「市バスを補完するコミバス」が期間限定ながらもNPO主導で実現したことには複雑なものを感じます。

実際、マスコミ報道では、敬老パスで市バスになら無料で乗れるのに、近くから乗れるなら200円でも利用したいという高齢者の声が掲載されましたし、今回乗りあわせた方の声でも、歩くのが大儀なときは結構タクシーを利用せざるをえないようであり、「無料パス」という運賃政策より優先されるものがあることに気が付かなかったのか、という感じです。
いかにも泥縄という感のある市交の「調査」を見る利用者の目も、「何を今更」という感じでしたし。

ただ、住吉台ルートの車内に21日の渦森台ルートの利用者数が出てましたが、10往復で105人だそうです。22日の朝日(神戸版)では立ち客の出た車内の写真を載せ、「2路線盛況で発進」とあり、試乗時の様子では同時間帯の市バスが15〜20人前後の乗客だったことを考えると、時間帯によっては健闘だが、どうしても客足が伸びない時間があるようです。
ニーズはあるがこれをいかに利用に結び付けるのかが今後の恒久運行への鍵であり、その意味でJR住吉駅頭での「客引き?」も涙ぐましい努力といえます。
本来、交通が不便な地域の対策を考えるべき市を相手に回して、事業化が可能なレベルの実績を残すべく営利の権化のように振る舞わざるを得ない姿は、今の地域交通の持つ複雑さを映しているといえましょう。

●無料期間の成績は
そして2004年3月1日から有料運行が始まりましたが、それに先立つ28日に無料運行での定着ぶりを見てきました。

JR住吉を16時半に出る渦森台行きは18人の乗車。先日と異なり母子連れなど年齢層が下がってましたが、女性中心であるのは一緒でした。
山手幹線から阪急御影に向かう途中の西村珈琲店前で乗降、阪急御影でも乗降があり、22人になり補助席が出されました。先日と違い甲南病院や鴨子が原で都合10人の降車があり、上手に使われているようです。
車内の「前日の利用者数」を見ると、住吉台線が200人強、渦森台線が220人強とあり、1便あたり10人を超えています。実際には片輸送の傾向が強いため、利用者側の感覚としての乗車率はいつも正座席が埋まるレベルというものではないでしょうか。
ただ、累計欄が両線とも400人台と言うのはおかしく(27日が200人強、21日も100人強乗っており、試乗した22日を含む22〜26日の5日間で100人程度になってしまう)、集計の精度はどうなっているんでしょうか??

渦森台2丁目のコープ前で降り、渦森橋まで下ってから三百階段を直登してエクセル住吉台に向かいます。六甲山腹の住宅の限界地のためイノシシが当たり前のように出る地域ですが、階段では猫が何匹もひなたぼっこしているだけでした。階段自体は4分ほどで登りきりましたが、最後はひざが笑い出す有り様で、これを毎日通勤、しかも帰り道でと考えると力が抜けます。

エクセル住吉台から帰り便に乗りましたが、13人で到着し、2人降車の2人乗車。こちらは今度は先日より年齢が上がった感じですがやはり女性中心。ただ、JR住吉から乗り通した11人は総て同朋保育園前で降りており、双方向に停留所がいるでしょう。
そして赤塚橋で1人乗せてJR住吉に戻りました。

評価としては、毎時1本でほぼ片輸送の形態で、往復平均1便11人であれば立派な成績と言えます。
特に28日の試乗では、現在直通するバスが日中毎時1本の37系統だけというJR住吉−阪急御影間、また直通が無いJR住吉−鴨子が原地区での利用が目立っており、上手く移動ニーズを掴んでいるようにも見えます。

ただ、有料化でどうなるか。エクセル住吉台停車中に回数券を車内発売してましたが、1人が「朝買いました」と言っただけで無反応であり、気掛かりです。私も無料期間に何度も乗車しており、支援の意味も込めて2,000円券を買いましたが、ナンバリングは0009番で、もう一台のバスやコープこうべの3店舗での販売もあるだけに速断は出来ませんが、ちょっと売れ行きが芳しく無いように見えます。

もっとも、有料運行は1ヶ月間だけであり、最低でも12枚2,000円というのはちょっと買いづらいかも。6枚1,000円にしたほうが良かったのでは。
また、渦森台2丁目でバスを降りたら、コープの向かい、登り方向に向かう車線でタクシーが数台客待ちをしており、平地ならわずかな距離でも660円払って、という人がそれなりにいることがうかがえるわけで、有料化した途端に散々というのは考えづらいのですが、どうでしょうか。

そして有料化に伴い朝7時台の運行と、深夜便の運行が始まります。
深夜便は渦森台の上には入らず、2丁目からバス通りを下り赤塚橋から住吉台に入りますが、意外なのはそのままJR住吉まで客扱いすること(22時30分、23時30分発で23時15分、0時15分着)。タクシーに乗ることを思えば、一回りした落合橋あたりでも使えますね。
ちなみに深夜便の料金は400円で回数券は2枚。ただし5000円のサポート券(無記名持参人式定期券)は追加料金無く乗車可能で、今月に(対回数券比較)16回以上深夜バスに乗るのならサポート券がお得なようです。

このあたり、深夜便の利用状況も含めて、もう少しウォッチしていきたいと思います。


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