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悲願は急坂を越えた〜神戸くるくるバス
その3・有料化でどう変わったか

荒神山住宅前にて

※この作品は「【検証】近未来交通地図」に掲載されたものを補筆、改稿したものです。

初出:2004年2月〜4月
特記なき写真は2005年5月撮影


●有料実験スタートにみる明暗
3月1日から有料運行が始まったくるくるバスですが、公式サイトにある乗降者数の表がようやくスタートしました。

見て驚いたのは、無料期間中は概ね拮抗していた感のあった渦森台線と住吉台線で大きく明暗を分けていること。両線とも12往復運行で、4日までの4日間で渦森台が1便平均3.4人、住吉台が9.4人と3倍近い差になっています。住宅街と市街地という片輸送になりやすい路線形態を考えると、住吉台線はピーク方向で見れば平均15人程度はキープしているイメージで、このまま推移すれば福祉対応なんてものではなく、商業化も充分可能なものではと思います。
一方の渦森台線ですが、やはり有料になると市バスが頻発するので、狙い乗車まではおよばないと言うところでしょうか。ただ、無料だから乗ったけど、というのはちょっとつれないと言う感じです。

さて、このデータでは端折られている深夜便(JR住吉22時半、23時半の2便)ですが、ちょうどその時間帯に住吉を通りがかる機会がありましたので見てきました。
結論からいうと、ちょっと苦しいスタートと言うところで、3月1日の22時半は7人、3日の23時半は5人(遠目なので若干見誤りはあるかもしれません)と、渦森台経由住吉台という「両効き」のコースを考えると少ないです。
ただ、22時半の場合は18分に最終の渦森台行き市バスがあり、大阪方面ですと快速電車を1本早くすれば間に合うだけに、ちょっと効果が薄い時間です。それを考えると23時半の少なさには驚いたんですが、その時間帯、住吉駅北口のタクシー乗り場を観察したところ、電車1本につき10台出るかどうか、というレベルであり、深夜帯の需要自体が少ないのかもしれません。くるくるバスが出るのは南口の2号線沿いなんですが、バスの発車直前に下り快速が来るのですが、バスへの乗り継ぎどころか南側に出てくる人も閑散という感じで、六甲ライナー方面が若干賑わう感じでした。
ちなみに三宮など神戸市街ですと、飲んだ帰りなら中心街からそのままタクシーに乗ってもこのエリアなら2,000円台後半でしょうから、電車+タクシーやバスというのは案外選択されないかもしれません。

渦森台2丁目からの夜景(2005年8月撮影)

まだ1週間、といっても社会実験は1ヶ月だけですからもう1/4が過ぎたと考えるべきですが、足元の実績を見て見えてきた結果と問題点を挙げるとすればこういうところでしょう。

☆渦森台線
同じ値段で広い意味で同じ区間を走ってもなかなか難しい。特に敬老パスが使える層にとっては市バスならタダということで逃げられたか。
あとは渦森台でのバス停もちょっとニーズとずれている感じがするし、鴨子が原ではバス停が少ない。鴨子が原や阪急御影からJR住吉という市バスの直通が無い、もしくは少ない区間など、市バスとの差別化を前面に押し出した集客策が欲しい。
場合によっては渦森台内の利用は100円とするなど細かい需要を拾う必要も。

☆住吉台線
合格ラインに達しているが、住吉台地区内でのバス停配置に工夫が欲しい。特に同朋保育園前からエクセルまで停留所が無いのは需要を拾っていない。

☆両線に共通する事項
JR住吉発のみ東灘区役所前に停車しているが、JR住吉周辺で一方向きで回って折り返す運行形態のため、区役所への足が無い。JR住吉から区役所は天井川である住吉川へ向かっての上り坂である。
両路線とも東灘区内を走っているわけで、区役所(および区民センター、本局である東灘郵便局)へのアクセスに難があるのは拙い。

☆深夜便
もともとの需要が少ない可能性もあるが、深夜便があることで遅くまで遊んでも大丈夫という安心感を与えることで需要を開拓する方向性が必要。
あとは、無料運行時や、日中便とは全く異なった客層がターゲットであり、そういう層への周知が徹底していない懸念もある。主婦や老人層には知られているが、サラリーマン層は実は知らない可能性も。

運行時間が5分ほど伸びるが、現行の渦森台2丁目からバス通りを赤塚橋に向かうのではなく、いったん3丁目あたりまで上がるほうが良いのでは。2丁目だと住宅街の一番下である。

☆その他
もう少し広報・宣伝活動を積極的に行うべきでは。
また、サイトの情報も、メディアで伝えられたCS神戸の中の「くるくる発電所」のさらに内部に潜んでおり、しかも時刻表が無いなど分かりにくい。
CS神戸の「くるくるバス」関係のページ

その点、運行を受託したみなと観光バスのサイトのほうが専用のコーナーを設け、時刻表も掲載するなど分かりやすい。

あと、無料運行開始時には当地の新聞に比較的大きく掲載されたが、恒久運行ではなく社会実験なのだから、フォロー記事が欲しい。

***
このまま行くと、住吉台線はうまく行けば継続運行が可能なレベルに持って行けるかもしれませんが、渦森台や深夜便はちょっと厳しいかもしれません。
深夜便は乗合タクシーでの対応も考えられますが、距離的にはそんなに離れていないため、通常のタクシーに対する価格優位性を取りづらい問題があります。

住吉台は公共交通そのものが無く、急な坂道や「300段階段」のような階段道でバス停にアクセスするしかないエリアですから、これまでの結果も頷けます。
前も書きましたが、本来NPOではなく市がきちんとフォローすべき問題であり、もし市の直営が無理であれば、みなと観光のような業者に業務委託を早い時期にすべきでした。

ちなみに神戸市の広報番組(サンテレビ、現在は放送終了)に「神戸リポート」という番組がありましたが、 2001年7月15日の放送 でこの渦森台、鴨子が原、住吉台のまちづくりを取り上げており、まちづくり協議会で「坂の街を木目細かく巡回するコミュニティバスの運行が必要」という課題があげられているとあります。

神戸市の広報番組で、神戸市条例に基づく公的組織である協議会で課題として上げられている、と謳われたにもかかわらず、今回NPOによる社会実験が始まるまでフォローが無かったのは、諸般の事情はあるでしょうが、事実として残ります。


●若干の雑感
3月6日、住吉周辺に用事があったのでクルマで向かったついでに、昼から断続的に吹雪となった沿線を走ってきました。

鴨子が原から渦森台へ上がり、住吉台を一回りしたんですが、途中甲南病院の下で渦森台線とすれ違いましたが、側窓のスモーク&装飾のせいで乗車数は分かりませんでした。一方で38系統は結構乗ってる感じ。19系統は5〜6人といったところでした。

渦森台4丁目を一回りして、3丁目から渦が森小学校の裏手を回ってみましたが、渦が森幼稚園のところで右折できず(スクールゾーンとして諸車通行止)、焼が原との境を下りて渦森橋の少し上のところでバス通りに出てしまうため、結局は渦森会館から中を通る現在のルートがベストのようです。

住吉台から赤塚橋に下りる際、親子連れが何組もバス通りとの道を行き交う姿を見ましたが、現実に坂を上り下りしてバスに乗っている人がいるわけです。コミバスが無くても市バスに乗ることは間違いなく、赤塚橋や渦森橋でのサービスで良しとする見方も出来ますが、今日のような荒天を考えると詮無い気持ちです。

こうした坂を下ってバス通りへ向かっていた

あと、何とかならないのか、と思わされる話をエリアの知人から聞いたのですが、住吉山手、鴨子が原、住吉台のエリアの小学校は渦が森小学校だそうです。
住吉山手あたりですと通学路に指定されているのは赤塚橋付近まで降りて、バス通りの対岸にある道路を通り、渦森橋付近から登るという難路です。知人は甲南病院の近くで最近分譲されたマンション住まいですが、価格帯や間取りからファミリー層が多いのですが、校区と通学路に驚いており、高学年はともかく、低学年はどうやって通っているのか不思議です。
このあたり、スクールバスの運行というような対応も考えられるわけで、「くるくるバス」のような地域対策が出来ないものでしょうか。


●検証記事と今後の課題
試験運行も2/3が過ぎようとしたタイミングでようやく検証記事が出ました。

くるくるバス、細かいルート好評 東灘で試験運行(03/17神戸)

渦森台線と住吉台線の「明暗」とその分析は概ね私が感じたものと同じですが、渦森台線の「苦戦」は敬老パスというよりも市バスのフリークェンシーのほうが大きいのでは。というのも、先日たまたま平日午前に手続関係で東灘区役所と東灘署をはしごした際に、38系統のバスを東灘区役所前→JR住吉駅前→中御影と利用したのですが、その際にJR住吉での降車時の様子を見たところ、車内の半分以上が高齢者に見えたんですが、意外と敬老パスの利用が少なく、逆に昼間割引回数カードや定期券の利用が目につきました。

このあたり、昼間割引カードは割引率が高く、普通区均一定期券は普通区ならどの系統でも乗れる(JR住吉まで乗ったあと、三ノ宮からまた別の系統に乗れる)など、価格競争力や付加価値があるわけで、このあたりも苦戦の理由でしょう。

なお、NPOのサイトの乗降数を見ると、両線の明暗もさることながら、住吉台線の利用が特徴的です。
つまり、平日の利用が休日の倍近くに達しており、朝7時頃、夜8時前まであることから、通勤通学利用といった都市近郊路線の「王道」の利用が付いたということでしょうか。

記事では「本格運行の実現は乗客数次第」とありますが、少なくとも住吉台線は実現へのハードルをクリアしたのではないでしょうか。時間帯によっては「増発」してフリークェンシーによる誘発効果があるかというような「試験」も考えてもよさそうです。

●深夜便に試乗して
いよいよ社会実験も残りわずか。輸送人員を見ると渦森台線も危機感からか3桁をキープするようになり、平日は両線で400人台を確保しています。
無料時期に何回か乗った後、見ることはあっても乗る機会が無かったのですが、3月27日の夜に、念願の深夜便に乗ってきました。

23時15分頃にバス停に行くとバスも人もいません。さすがにこれは、と思いつつ見てましたが、定刻に若干遅れてバスがついても乗客無し。最初の乗客が来たのを機にバスに乗車しましたが、住吉台までで降りてしまっては帰れないので(小一時間歩けば帰れるが...)一周する旨を添乗している方に告げました。
大阪方面からは20分頃の普通、そして26分の快速を受けるのですが、出足は鈍く、定刻23時半に少し遅れての出発も私を入れて9人でした。
乗客が乗る際に一人一人挨拶してましたが、乗客の中には4月以降の運行を聞く人もいました。どうやら本格運行については運行主体等の問題もあり未定のようですが、バスの無い住吉台、JR住吉にダイレクトに出れない鴨子が原など、「1ヶ月間の夢」で終わらせたくないところでしょう。

この時間、後は23時41分発の阪急御影から乗るくらいでしょうが、いちおう全停留所で乗務員と添乗員が停車・通過を確認。その阪急御影からは5人が乗車しましたが、甲南病院、鴨子が原での降車が多く、市バス19系統の深夜バス的な使われ方のようです。
発車間際に駆け寄ってきた人がいましたが、住吉山手に最近出来た分譲マンションの専用バスと勘違いしたようです。子細は判りませんが、現地に住む知人が「専用バスがある」と言っており、この時間にあるのならたいしたものです。深田池のところで日本交通のマイクロとすれ違いましたが、それでしょうか。

急坂を上がるに連れ夜景が広がります。甲南病院、鴨子が原3丁目の降車が多く、渦森台コープなど渦森台エリアは1人だけ。住吉台は同朋保育園が目立ちました。
ミニコープからは事実上回送で、添乗員の方と少し話しましたが、深夜便がやや少ないものの、2便で30人はキープするようになったこと。日中便は乗ってるが、急勾配路線で運行コストが嵩み、ハードルが高いなど特徴もあるようですが、少なくとも日中の住吉台線はこれで無理なら何を求めるのかと言う感じです。
結局駅まで乗らずに駅北口の有馬道商店街北口に当たる東京三菱銀行前で降り、バスは山手幹線を去っていきました。

住吉駅で見ていると北口からタクシーに乗るのは1列車に10台程度。渦森台、住吉台でもそんなに多く見かけず、深夜需要自体が少ないようで、本来終バスが1時間伸びたら左党は見逃さないはずなのに伸びない理由を垣間見たようです。
もっとも、JR住吉で帰りの上り電車を待ってると、0時22分の最終姫路行き快速に乗る人も20人ほどおり、駅周辺の様子を考えると六甲アイランドから最終の六甲ライナーで来たようであり、また、遅れの快速から最終0時26分発の六甲ライナーに急ぐ乗客も多かったです。さらに0時32分の普通大阪行きはかなり混んでおり、摂津本山では100人は降りるなど、卒業・異動のシーズンで深夜需要は多いのです。
結局、需要に応える交通機関があれば「もう一軒」に応じ、なければ後ろ髪を引かれつつ中座しているのでしょうか。周知と定着で充分目があるような気もします。

住吉駅前とくるくるバス(2004年2月撮影)



●「ありがとう」で終わらせないために
くるくるバスの試験運行は結局「予定通り」3月31日で終了しました。
くるくるお出かけネットワークの 乗降者数の記録ページ には、「現在、くるくるバス本運行の早期実現を目指して、取り組んでおります。」とありますが(当時の表現)、今後どうなるか、掛け値無しの交通不便地域もあるだけに気になります。

さて、上記ページには9日間の無料運行、31日間の有料運行の数字が出ましたが、渦森台が無料2,188人、有料3,369人。住吉台が無料2,268人、有料7,406人となりました。
渦森台の伸び悩みは意外でしたが、住吉台の数字は終日全期間で各便(上り下り別で勘定)の乗車が約10人と堂々たるものです。特に最終日の31日はお名残乗車も多いでしょうが552人と、平均で20人を超えており、座席定員16〜20人のマイクロバス使用の路線と言うことを考えると立派と言えます。

これで継続運行にならないのですから住民もなぜ、というところでしょうが、都市再生事業の社会実験という位置付けですから、本運行に至るには、免許や各種審査などが必要なのでしょう。
とはいえ、今後の「定着」そして「普及」を考えると、1台で回せて終日利用平均が10人超の路線なんか、探してもなかなか発掘できるものでは無いわけで、早期の本運行の実現が望まれます。


さて、今回の社会実験を振り返ってみましょう。

地元での認知度はかなりあり、直前に地元紙への掲載もありました。
そういう中での運行開始ですが、最初の9日間を無料のお試し期間にしたことは、周知を図るうえでも良かったと思われます。

ただ、有料運行になり、渦森台と住吉台で明暗を分けたことは示唆に富んでいます。
結局、コミュニティバスといえども、利用者が利用しなければ意味がないわけで、今回のケースですと、計画にゴーサインを出した総務省、受託したCS神戸、運行担当のみなと観光バスとともに、肝心の住民がそのバスを利用するかどうかが総てなのです。

その意味で、住吉台は尻上りに利用を伸ばし、渦森台は有料化とともに激減し、最後に何とか数字を整えたわけで、住吉台はこのバスを育て、渦森台はこのバスを育てなかったと結論付けても過言ではないでしょう。もちろん、渦森台(および鴨子が原)は市バスもあり、値段が一緒なら利便性が高い市バスに流れるのは必然ですから一概に住民を責められませんし、受託者側も、市バスとの差別化をもっと大胆に図るべきでした。

今後の行方ですが、取り敢えず需要が確実な住吉台を軸に定期運行の実現を進めるべきでしょう。
あとは運行コストをどう負担するか。「山岳路線」ゆえ車両への負荷が高く、コストがかさむため、それをどうまかなうか。また、社会実験中はボランティアの添乗員がいましたが、まあ欲をいえばきりが無いですが、一般路線化となれば、案内テープや運転手による対応というのは充分許容範囲でしょう。

このあたりは、同じみなと観光バス運行の阪急岡本駅南−六甲アイランドのバスがどう成立しているかが参考になるでしょう。時間帯によっては乗ってるんでしょうが、今回の住吉台線ほど平均して乗っている様子でも無いわけで、収支を償っているのは280円というやや高めの運賃なのか、六甲アイランドあたりの広告料が下支えしているのでしょうか。
そう考えた時、例えば200円ではなく、「登り賃」として250円程度の運賃設定にするとか、住吉駅近辺の商業施設(六甲ライナーつながりで六アイ関係でも良いでしょう)から広告料や協賛金を頂戴するといった「資金計画」も考えるべきです。

300段階段


***
日曜日、雨上がりの渦森台、住吉台を桜見物がてら回ってきました。
数日前まであった「バス停」も無く、運行継続を求める類の掲示も無く、あの運行が嘘のよう、何事も無かったかのようでしたが、唯一、住吉台の街角に自治会名による「くるくるバス、ありがとう」の看板が出ていたのを見て、救われる思いでした。

無料、有料あわせて延べ15,000人強の利用者を得た「くるくるバス」という社会実験。「ありがとう」だけで終わらせるには惜しい成果であり、これからがスタートと信じたいです。


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