このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

立花北枝

『北枝發句集』(北海編)


天保3年(1832年)、『北枝發句集』(北海編)。 梅室 素芯序。

北枝發句集

北枝發句集序

風俗文選 に北枝叟の略傳をのせて、北方之逸士といへり。やつがれ同郷に生れて、少壯の頃より、叟が實傳を聞ことすくなからず。そが中に美談あり。叟常に杉あじろの大笠をかぶり、樫の太杖をつきはしらかし、足にまかせて吟行けるを、街にむらがる童部ども是を見て、やよ北枝おぢ、何事ありていづち行たまふぞと、かしましくもあさみ問へば、吾はほ句拾ひにありくなりと答へて去りぬ。是を興ありとして、わらはべのならひ、あこぎにも此事につのりて、日ごろにもなれど、けしきをもかへず。吾はほひろひに歩行なりと、いく度も同じさまにこたへられしとなん。是らをもて其ひとゝなりを思ひやるべし。はた、はせをの翁も、ある時のたはむれながら、北枝とは發句師の約言ならんと申されし事もありとなん。されば翁も叟がほ句はめでられし事いちじるし。さるに其發句どもの世に傳ふるもの稀なるは、一かたの恨みなるべし。こゝに加賀の北海、遊歴のついで、西はしらぬひ、東はこさふく嶋のさかひまで、はひわたりて、こゝにもとめかしこに拾ひ、そがあらましを梓にのぼせて、北枝發句集と題せり。いまだ全きにあらずといへども、氣格と手段とを見るに足れり。依ておこがましくも、はじめに一言を述る事しかり。

天保壬辰春
   梅室素芯

   春

手拭を籠に納めて闇の梅

髭白きかたうど得たり梅花

   亡師百日の忌 廿三日

とひのこす歎の數やうめの花

鶯も笠着てあがれ小屋の屋根

田を賣ていとゞ寐られぬ蛙かな

夕風の何吹あげておほろ月

つぼふかき盃とらむ桃の花

   元禄三のとし大火に、庭の櫻も埃
   に成たるを

燒けにけりされども花はちりすまし

   春日奉納

此神の山なればこそ花に鹿

   夏

ほとゝぎす啼て入けり南禪寺

   秋

來る秋は風ばかりでもなかりけり

   翁へ簔を贈りて

白露もまだあらみのゝ行へかな

秋風や羽織をまくる小脇ざし

蟷螂や露引こぼす萩の枝

   野田の山本を伴ひ歩行て

翁にぞ蚊屋(※「虫」+「厨」)つり草を習ひける

魂祭甥の居たらば茶のかよひ

馬かりて燕おひゆくわかれかな

    多田の神社 にまうで、木曾義仲の
   願書、ならびに實盛のよろひ兜を
   拜す。

くさずりのうらめづらしや秋の風

   山中温泉にて

子を抱て湯の月覗くましら哉

寐てからに角のしるべや鹿の妻

菊の香になくや山家の古上戸

   冬

   翁の事、霜月三日の暮がたにうち
   きゝて

きゝ忌にこもる霜夜の恨みかな

立花北枝 に戻る



このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください