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立花北枝
『北枝發句集』
(北海編)
天保3年(1832年)、『北枝發句集』(北海編)。
梅室
素芯序。
北枝發句集
北枝發句集序
風俗文選
に北枝叟の略傳をのせて、北方之逸士といへり。やつがれ同郷に生れて、少壯の頃より、叟が實傳を聞ことすくなからず。そが中に美談あり。叟常に杉あじろの大笠をかぶり、樫の太杖をつきはしらかし、足にまかせて吟行けるを、街にむらがる童部ども是を見て、やよ北枝おぢ、何事ありていづち行たまふぞと、かしましくもあさみ問へば、吾はほ句拾ひにありくなりと答へて去りぬ。是を興ありとして、わらはべのならひ、あこぎにも此事につのりて、日ごろにもなれど、けしきをもかへず。吾はほひろひに歩行なりと、いく度も同じさまにこたへられしとなん。是らをもて其ひとゝなりを思ひやるべし。はた、はせをの翁も、ある時のたはむれながら、北枝とは發句師の約言ならんと申されし事もありとなん。されば翁も叟がほ句はめでられし事いちじるし。さるに其發句どもの世に傳ふるもの稀なるは、一かたの恨みなるべし。こゝに加賀の北海、遊歴のついで、西はしらぬひ、東はこさふく嶋のさかひまで、はひわたりて、こゝにもとめかしこに拾ひ、そがあらましを梓にのぼせて、北枝發句集と題せり。いまだ全きにあらずといへども、氣格と手段とを見るに足れり。依ておこがましくも、はじめに一言を述る事しかり。
天保壬辰春
梅室素芯
春
手拭を籠に納めて闇の梅
髭白きかたうど得たり梅花
亡師百日の忌 廿三日
とひのこす歎の數やうめの花
鶯も笠着てあがれ小屋の屋根
田を賣ていとゞ寐られぬ蛙かな
夕風の何吹あげておほろ月
つぼふかき盃とらむ桃の花
元禄三のとし大火に、庭の櫻も埃
に成たるを
燒けにけりされども花はちりすまし
春日奉納
此神の山なればこそ花に鹿
夏
ほとゝぎす啼て入けり南禪寺
秋
來る秋は風ばかりでもなかりけり
翁へ簔を贈りて
白露もまだあらみのゝ行へかな
秋風や羽織をまくる小脇ざし
蟷螂や露引こぼす萩の枝
野田の山本を伴ひ歩行て
翁にぞ蚊屋
(※「虫」+「厨」)
つり草を習ひける
魂祭甥の居たらば茶のかよひ
馬かりて燕おひゆくわかれかな
多田の神社
にまうで、木曾義仲の
願書、ならびに實盛のよろひ兜を
拜す。
くさずりのうらめづらしや秋の風
山中温泉にて
子を抱て湯の月覗くましら哉
寐てからに角のしるべや鹿の妻
菊の香になくや山家の古上戸
冬
翁の事、霜月三日の暮がたにうち
きゝて
きゝ忌にこもる霜夜の恨みかな
立花北枝
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