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岡本綺堂 (おかもと・きどう) 1872〜1939。 |
『半七捕物帳1・お文の魂』 (青空文庫) |
短編。「ふみが来た。ふみが来た」──。お文という名の女の幽霊に夜な夜な悩まされている旗本・小幡伊織の妻・お道と幼い娘・お春。「もう小幡の屋敷にはいられませんから、暇を貰って頂きとうございます」。びしょ濡れの女の幽霊の意外な正体と、我が子を思う母の愛を利用する不埒な悪僧…。「江戸時代に於ける隠れたシャアロック・ホームズ」である神田の岡っ引・半七の探偵談を描いたシリーズ第1話。最初の捕物帳でありながら完璧な出来栄えに驚嘆。江戸の風情を堪能。 |
『半七捕物帳2・石燈籠』 (青空文庫) |
短編。老舗の小間物屋「菊村」の娘・お菊が行方不明になり、その数日後、お菊の母・お寅が何者かに刺殺された。ふらりと家に帰って来て、また姿を消してしまったというお菊が犯人なのか? 「ゆうべも娘は頭巾をかぶっていたんだね」、「ええ。やっぱりいつもの藤色でした」。石燈籠に残された足跡から犯人を突き止める半七の名推理──。「これがまあ私の売出す始めでした」。駆け出し時代の半七の手柄話を描いた捕物帳シリーズ第2話。半七が岡っ引になった経緯が興味深い。 |
『半七捕物帳3・勘平の死』 (青空文庫) |
短編。年末恒例となっている素人芝居の最中に、何者かにすり替えられた真剣によって和泉屋の若旦那・角太郎が死亡した。主人と妾の間に出来た継子である角太郎を邪魔に思った和泉屋のおかみさんの仕業なのか? 角太郎と仲働きのお冬との関係を知った半七は、威勢良く和泉屋に怒鳴り込むが、だらしなく酔い倒れてしまい…。「やい、こいつら。よく聞け。てめえたちは揃いも揃って不埒な奴だ。いけしゃあしゃあとした面をしていたって、どの鼠が白いか黒いかもう睨んでいるんだ」──。半七の人情味が素晴らしい第3話。 |
『半七捕物帳4・湯屋の二階』 (青空文庫) |
短編。「いつも手柄話ばかりしていますから、きょうはわたくしが遣り損じた懺悔話をしましょう」──。愛宕下で湯屋を開いている子分の熊蔵から、怪しい若侍二人が暮も正月もお構いなしに毎日、湯屋にやって来て、何やら物騒な相談をしていると聞かされた半七。湯屋の二階に彼らが預けて行った箱の中には、何と干からびた人間の首と奇怪な動物の頭が! 興味をそそるストーリー展開からユーモラスな収束へ、見事な書きぶりの捕物帳シリーズ第4話。 |
『半七捕物帳5・お化け師匠』 (青空文庫) |
短編。「何だ。なにがあった」、「人が死んだんです。お化け師匠が死んだんです」──。慾の深い踊りの師匠・歌女寿(かめじゅ)が、蛇に頸を絞められて死亡した。歌女寿に散々こき使われた末に衰弱死した姪・歌女代の魂が蛇に乗り憑(うつ)ったのか? 頸に巻きついていた蛇の様子から、蛇除けの御符(ふだ)売りに着目し、色絡みの事件を解決していく半七の名推理。歌女代と経師職(きょうじや)の倅(せがれ)・弥三郎の悲しい恋物語…。捕物帳シリーズ第5話。 |
『半七捕物帳6・半鐘の怪』 (青空文庫) |
短編。「どうも人間らしい」、「やっぱり化け物かしら」。火事でもないのに半鐘が鳴るという事件が起こり、町内の人々は不安にかられる。若い女が襲われたり、洗濯物の着物が歩いたり…。悪戯小僧の権太郎の仕業だと思われたが、またしても半鐘の音が…。「そりゃあ好い兄貴だな。おめえは仕合わせだ。その兄貴をおれが今、ふん縛ったらどうする」、「おじさん、堪忍しておくれよう」──。意外な犯人を突き止めていく半七の活躍を描いた捕物帳シリーズ第6話。自身番と辻番の違いなど勉強になって面白い。 |
『半七捕物帳7・奥女中』 (青空文庫) |
短編。永代橋で茶店を営むお亀の娘・お蝶が何者かにさらわれた。どこかの大名の下屋敷と思われる大きい邸に連れ込まれたお蝶は、なぜか美しい着物を着せられ、美味しいものを食べさせられ、大切に扱われる…。 「併しこの事は決して他言はなりませぬぞ。またそのうちに迎いに行くかも知れませぬが、その時はどうぞ来てくれるように…。今から頼んで置きますぞ」。偽者の奥女中まで登場しちゃう不可思議な誘拐事件の真相は? 子ゆえに狂う母の心…。ハッピーエンドな収束が快い捕物帳シリーズ第7話。 |
『半七捕物帳8・帯取りの池』 (青空文庫) |
短編。奇怪な伝説のある「帯取りの池」に、女の美しい帯が浮かんでいるのが発見された。その帯の持ち主は、何者かに絞め殺された若い娘・おみよだと判明する。行方不明になっている古着屋の息子・千次郎が、おみよと関係があったと知った半七は…。「この芝居ももうこれで大詰めだろう。おい、千次郎。正直に何もかも云ってしまえ」──。帯取り殺人事件の意外な真相を描いた捕物帳シリーズ第8話。今回もすこぶる面白い。 |
『半七捕物帳9・春の雪解』 (青空文庫) |
短編。「どうもあすこは工合(ぐあい)が悪いんでしてね。気味の悪いような家でしてね」。女郎屋「辰伊勢」の寮で出養生している花魁(おいらん)の誰袖(たがそで)に贔屓(ひいき)にされている按摩の徳寿だが、何だか気味の悪い座敷にぞっとして、按摩を断るようになったと聞いた半七。行方知れずになっている辻占売りの娘・おきんとの関連は? 「その辻占売りの娘というのは容貌がいいんだな。年は十六七…。むむ、間違げえのありそうな年頃だ」──。「辰伊勢」の寮の秘密を描いた捕物帳シリーズ第9話。 |
『半七捕物帳10・広重と河獺』 (青空文庫) |
短編。二本立て。(1)旗本屋敷の屋根から身元不明の女児の死体が発見された。広重の絵をヒントに意外な犯人を推理し、屋根の上の死体の謎を解く半七の活躍。「死んだ者より、生きたものを助ける工夫が大切だから、これからすぐに木場へまわって、この訳をよく云い聞かせてやらなけりゃあならねえ」──。(2)「ほんとうに河獺(かわうそ)なんぞが出ては困りますね」、「あいつは全く悪いいたずらをしますからね」。妾(めかけ)のお元の家から帰る途中、何者かに顔を引っ掻かれ、財布を盗まれた道具屋の隠居・十右衛門。お元の許婚(いいなずけ)であった瓦職人・政吉に嫌疑が掛かるが…。嫉妬と悪だくみ…。捕物帳シリーズ第10話。 |
『半七捕物帳11・朝顔屋敷』 (青空文庫) |
短編。「狐に化かされたか。それとも神隠しか」──。旗本・杉野大之進の息子・大三郎が、学問の試験を受けに行く途中、忽然と姿を消した。朝顔の花が咲くと必ず家に凶事があるので、杉野の屋敷は「朝顔屋敷」と呼ばれていた。大三郎のお供をしていた中小姓(ちゅうごしょう)の平助と中間(ちゅうげん)の又蔵が怪しいと睨む半七…。「お屋敷は朝顔屋敷…朝顔を大層お嫌いなさるように承って居ります。その屋敷のお庭にことしの夏、白い朝顔の花が咲きましたそうで…」。子ゆえの闇…、朝顔の祟り…。捕物帳シリーズ第11話。 |
『半七捕物帳12・猫騒動』 (青空文庫) |
短編。近所でも評判の孝行息子・七之助と暮らす老女・おまき。おまきが飼う二十匹の猫のいたずらに悩まされてきた長屋の住民たちは、猫を海に沈めてしまうが、その数日後、おまきは不審な死を遂げる。手先の熊蔵から猫騒動の話を聞いた半七は…。「すぐに盤台の方をじろりと見て…おや、きょうはなんにも持って来なかったのかいと、こう云ったときに、おまきさんの顔が…。耳が押っ立って、眼が光って、口が裂けて…。まるで猫のようになってしまったんです」──。怪談&ミステリー。捕物帳シリーズ第12話。 |
『半七捕物帳13・弁天娘』 (青空文庫) |
短編。質屋「山城屋」の小僧・徳次郎が、死に際に「わたしは店のお此(この)さんに殺された」と言って病死した。山城屋の娘・お此は、どういうわけか縁遠く、婚約した男たちは皆、変死を遂げていた。この一件にかこつけて山城屋を強請(ゆす)る徳次郎の兄・徳蔵夫婦だが…。徳次郎は果たしてお此に殺されたのか? あるいは山城屋に対しての根も葉もない言い掛かりなのか? たしかな急所が掴みにくい、頗るあいまいな事件の真相とその余波…。半七の推理が楽しめる捕物帳シリーズ第13話。 |
『半七捕物帳14・山祝いの夜』 (青空文庫) |
短編。箱根へ行く途中、小田原の旅籠屋に宿泊した半七だが、そこで強盗殺人事件に出くわす。臨時に家来にした喜三郎が犯人であると知った若侍・小森市之助は、責任を取って、お供の中間(ちゅうげん)・七蔵を手討ちにし、自分も腹を切る覚悟を決める。慌てて助けを求めに来た七蔵を、逃がしてやる半七だが…。「逃げてもようがすかえ」、「おめえがいなければ旦那を助ける工夫もある。すぐに逃げなせえ」──。箱根の関所越えに関する事情が興味深い。捕物帳シリーズ第14話。 |
『半七捕物帳15・鷹のゆくえ』 (青空文庫) |
短編。鷹匠(たかじょう)の光井金之助が不注意で逃がしてしまった将軍家の鷹を、内密に捜索することになった半七。鷹が逃げた目黒の方に足を向けた半七は、立ち寄った蕎麦屋の娘・お杉が、鷹匠の吉見仙三郎と逢い引きしていることを知り…。「わたくしは全くなんにも知らねえんですから」、「まだ強情を張るか。貴様も大抵知っているだろうが、鷹を取れば死罪だぞ。貴様の首が飛ぶんだぞ」。小悪党の悪知恵…、いつの代にも絶えない金持の僭上(せんじょう)…。捕物帳シリーズ第15話。 |
『半七捕物帳16・津の国屋』 (青空文庫) |
中編。帰り道に気味の悪い若い娘と道連れになった常磐津の女師匠・文字春。その娘は、酒屋「津の国屋」の貰い娘(こ)だったお安で、家をむごたらしく追い出された末に、変死していた。文字春は幽霊と道連れになっていたのだ。「お安さんの祟りで、津の国屋さんは今に潰れるかも知れませんよ」、「どうも困ったもんだ」。その後、津の国屋は次々と災難に見舞われ、遂には店の女房・お藤と番頭の金兵衛の心中事件まで起きてしまう。事件を捜査する若い岡っ引・桐畑の常吉は、幽霊騒動の意外な真相を突き止めていく…。「よく知らせてくれた。じゃあ、これから出かけるとしよう。これでこの一件もたいがい眼鼻が付いたようだ。師匠、今にお礼をするよ」──。いつもよりちょっと長めだが、怪談を中心に据えたストーリー展開でぐいぐい読ませる。今回、半七は脇役に徹し、文字春と常吉を主役にした趣向。めでたい後日談がお気に入りの捕物帳シリーズ第16話。 |
『半七捕物帳17・三河万歳』 (青空文庫) |
短編。鬼っ児のような牙の生えた赤ん坊を抱いたまま行き倒れた男。手のひらの鼓胝(つづみだこ)から、死んだ男は三河万歳(まんざい)の才蔵(太夫の相手をする道化役)の松若だと判明する。赤児の身元を調べる半七は、芸を仕込んでいた猫を殺された香具師(やし)の富蔵を詮議するが、富蔵は火事で焼け死んでしまう…。「すると、その鬼っ児と猫の児と何か係り合いがあるんでしょうか」、「そりゃあまだ判らねえ。が、それがどうも気になる」──。安定した面白さの捕物帳シリーズ第17話。 |
『半七捕物帳18・槍突き』 (青空文庫) |
短編。往来の人間をむやみに突き殺すという物騒な犯罪「槍突き」が流行する中、駕籠屋が乗せた若い娘が槍突きに襲われてしまう。しかし、駕籠(かご)の中にはなぜか黒猫の死骸が! 老年の岡っ引・七兵衛は、駕籠屋に空(から)駕籠を担がせて、化け猫釣りを試みるが…。「あの野郎、熊や狼を突く料簡で人間をずぶずぶ遣りゃがるんだから恐ろしい」。武芸に長けた侍や浪人の仕業かと思いきや、竹槍と竹薮から犯人を突き止めていく七兵衛の活躍。若い娘の意外な正体が面白い捕物帳シリーズ第18話。 |
『半七捕物帳19・お照の父』 (青空文庫) |
短編。柳橋の芸妓・お照の父・新兵衛が何者かに寝込みを襲われて殺された。善人だと評判だった新兵衛が、近頃しきりに江戸を離れたがっていたのはなぜか? そして、怪しげな六十六部(行脚僧)との関わりは? 両国の観世物小屋の河童(小僧の長吉)を取っ捕まえた半七は、遺恨の末の悲劇を知る…。「おいらのお父っさんの仇なんだ。おいらあ其の仇討を立派にしたんだ」──。半七の亭主関白ぶり(?)もちょっと垣間見える捕物帳シリーズ第19話。 |
『半七捕物帳20・向島の寮』 (青空文庫) |
短編。向島の奥の寂しい所にある米問屋「三島」の寮に奉公に行ったお通(つう)は、土蔵に祀ってある大蛇に食物を供えるよう云い付けられるが、暗い土蔵の中には若い女が閉じ込められていた。「三島」の娘・おきわが、店の奉公人・良次郎と駆け落ちしたまま行方知れずになっていることを知った半七は…。「おまえの話でみんな判った。もう案じることはねえ。良次郎はきっと連れて来てやるから、二、三日おとなしく待っているがいい」。不可解な駆け落ち事件の真相と、向島の寮の土蔵の秘密を描いた捕物帳シリーズ第20話。 |
『半七捕物帳21・蝶合戦』 (青空文庫) |
短編。白い蝶が異常発生した本所・竪川。「今年はおそるべき厄年。但しそれには必ず何かの前兆がある」と予言していた弁天堂の尼・善昌が、何者かに首を斬り落とされて殺害された。「おい、おめえはさっきあの木像を嗅いで、どんな匂いがした」、「なんだか髪の油臭いような匂いがしましたよ」。弁天堂に近しく出入りしていた女髪結・お国が、ゆうべから姿が見えなくなったと知った半七は──。昔も今も宗教と犯罪は深い関係。捕物帳シリーズ第21話。 |
『半七捕物帳22・筆屋の娘』 (青空文庫) |
短編。筆屋「東山堂」の看板姉妹の姉・おまんが毒死した。徳法寺の若僧・善周も毒死したため、二人は別々の場所で毒を飲み、心中したのではないかと思われたが…。妹・お年の縁談話と、筆を取り換えにきた若い女との関連は? 「どうだい。いっそ常磐津の師匠なんぞを止めて御用聞きにならねえか」、「ほほ、随分なことを云う。なんぼあたしだって、撥(ばち)の代りに十手を持っちゃあ、あんまり色消しじゃありませんか」。半七の妹で、常磐津の師匠をしているお粂の助けを借りながら、心中事件の意外な真相を突き止めていく半七の活躍を描いた捕物帳シリーズ第22話。抜群に面白い。 |
『半七捕物帳23・鬼娘』 (青空文庫) |
短編。「いつかは弁天娘のお話をしましたから、きょうは鬼むすめのお話をしましょうか」──。鼻緒屋の娘など三人が相次いで喉笛を啖(く)い切られるという奇怪な連続殺人事件が発生。白地の手拭をかぶり、白地の浴衣を着た鬼娘の仕業だと町内は騒然となる。子分の庄太と共に捜査に乗り出した半七は、近所の鶏が盗まれるという事件が度々起きていることを知り…。「おれの考えじゃあ、この一件は二つの筋が一つにこぐらかっているらしい」。神田の岡っ引・半七の活躍を描いた捕物帳シリーズ第23話。 |
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