このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





里48の小変化





■まえがき

 平成24(2012)年度初日から都バス里48系統の運行に小さな変化があった。もっとも、江北六丁目団地以南の利用者にとっては変化の幅が微少に過ぎて、変化が生じた事実すら認識されない可能性もある。しかしながら、この小変化は、日暮里・舎人ライナー開業に伴う交通流動変化の最終系ともいえる。

 それは同時に、日暮里・舎人ライナー沿線利用者の交通機関選択がみごとなまでに合理的・科学的に収束しつつある、という事実が示されたということでもある。これについて以下、概観してみよう。

里48-2
行先表示に「加賀団地(循環)」と掲げた里48-2
江北陸橋下にて  平成24(2012)年撮影






■短命路線・王46

 本題に入る前に、王46について説明しなければなるまい。王46とは、江北橋東詰の都市計画道路開通に伴い新設された(平成15(2003)年 3月開業)、歴史の新しい系統である。さらに日暮里・舎人ライナー開業に伴い、江北六丁目団地経由のルートに変更されている(平成20(2008)年 3月ルート変更)。

 加賀団地−王子駅前を結ぶ意義がどこにあったか、疑問は残る。その証拠に、運行本数は少なく、日中は 2時間に 1本程度にすぎなかった。筆者は朝ラッシュ時に江北陸橋下を右折していく王46(王子駅前行)を何度も見かけているが、車内に見える人影はせいぜい数名で、時間帯からすれば閑散としたものだった。

 王46の意義とは、王40の混雑区間である豊島五丁目団地−王子駅前の輸送力補強便を、加賀団地まで伸ばして都営交通ネットワークを拡張した、ということになるだろうか。

路線図
里48及び周辺系統路線図
(今回ダイヤ改正関連の主要部のみ表示)


 王46は一部区間が残るとはいえ、その系統名は消滅する。営業期間はわずかに 9年余。改廃が激しいバス路線といえども、短命路線の範疇に含まれるのは間違いないところだ。

※都バスHPの路線図では、王46は未だ全線全区間が表示されている。これがミスでないならば、なかなか意味深長である。
※都バスHPの路線図は 4月末までに修正された。





■里48と王46の統合

 以上を踏まえたうえで、里48の変化をまとめると、おおよそ以下のとおりである。

   1.王46の江北陸橋下以南を廃止
   2.王46の江北六丁目団地以北を里48に統合
   3.里48は「見沼代親水公園駅前行」里48と「加賀団地(循環)」里48-2に枝分かれ
     江北六丁目以北の運行本数が日中毎時 1本程度に

 1は利用者の少ない区間を廃止した、ということである。2は、王46において利用者の少ない区間を、里48につなげて存続させた、ということである。ここまでは王46に属する事象で、利用者の少ない末端区間を敢えて存続させるための方策、ともいえる。

 もともと王46は 「はるかぜⅥ」 と経路が重なっている。しかし、王46と「はるかぜⅥ」が競合しているとはいえない。「はるかぜⅥ」は新日本観光自動車の基幹路線、運行本数も多く、相当多数の利用者を擁している。これに対し、王46は閑散路線にすぎず、1・2はいずれ必要となる措置ではあった。

里48-2-3 はるかぜⅥ
左:里48-2(乗車なし)  右:はるかぜⅥ(6名が乗車)
いずれも押部にて  平成24(2012)年のほぼ同時刻に撮影


 重要なのは3である。里48は、日暮里・舎人ライナー開業以降運行本数が激減したとはいえ、運行本数は日中毎時 2本程度を確保していた。今改正後も、日暮里駅−江北六丁目団地間では運行本数は大きく変わらない。

 里48-2との枝分かれと、江北六丁目団地折返便の多用により、江北六丁目団地−見沼代親水公園間では運行本数が日中毎時 1本程度まで減少する点が、目立たないながらも実は大きな意味を持つ変化と指摘しなければなるまい。しかも、土日祝日になると同区間では運行間隔が 1時間以上空く時間帯まで生じるから、さらに看過できない。

 日暮里・舎人ライナーの運行本数は日中毎時 8本が標準である。運行間隔が空く時間帯でさえ毎時 6本(10分間隔での運行)程度を確保している。里48は江北六丁目団地以北において日暮里・舎人ライナーとの競合どころではなく、もはや補完すらできない運行本数にまで落ちこんだといえる。





■交通流動の科学

 交通流動は科学として解明できる。人文科学に属する部分が多く、誤差が大きい課題はあるものの、その基本は科学的、即ち統計的・数理的に表現することが可能である。里48や日暮里・舎人ライナーもその例外ではありえない。

 交通流動を統計的・数理的に具体的に表現するならば、交通機関の選択確率を示す説明変数はおよそ以下のとおりである。

   1.目的
   2.(総)所要時間
   3.運賃
   4.運行本数
   5.アクセス条件
      :
      :

 これら説明変数は、統計的な利用者の行動データから得ることができる。即ち、利用者へのアンケート調査など経ることなく、交通流動は数理と科学に徹して解析できる。

 ここでよく誤解があるのは、「そんな経路(交通機関)を選択するわけがない」というものである。例えば、まったく並行する鉄道路線があったとして、片方の運賃水準がもう片方の倍もあれば、「高い方の鉄道など利用するわけがない」とする意見は強いはずだ。これは一見もっともそうでありながら、実はこの意見を発する者の主観にすぎない点に、よくよく注意すべきである。実際には、高い運賃の鉄道にも選択確率が生じているから、利用者がゼロになるということはありえない(ただし利用者数が少なく経営は傾くだろうが)。

※この典型例としては、三条京阪−山科間の経路選択を挙げることができる。この経路で、京阪京津線を選択すると運賃割高となるが、敢えて京阪山科から乗降する利用者も極めて少数ながら存在している。


 人間は「自分をモノサシにして他人を計る」弊を備えがちなイキモノではある。しかし、古諺にもいうではないか。「十人十色」「百人百様」と。「自分が為す選択」と「世の中の大勢が為す選択」との不一致はよくあることにすぎない。まして「自分が為す選択」を「世の中の大勢が為す『べき』選択」と混同する主張は、単なる自己の主観とモノサシの押しつけにすぎず、きわめて非科学的・非論理的なものと断じざるをえない。

里48-2
行先表示に「加賀団地(循環)」と掲げた里48-2
江北陸橋下にて  平成24(2012)年撮影


 もう一点よく誤解があるのは、数理的に導かれる「時間価値」である。導き方によって多少幅があるとはいえ、首都圏の通勤目的であればおよそ30〜50円/分ほどの水準になる。この時間価値とは、 1分という時間の価値を貨幣換算すると30〜50円になる、という意味なのであって、所要時間を 1分短縮すると即30〜50円の現金を得するわけではない。

 よって、時間短縮に対価を支払いうるか否か、人により選択がわかれるのは当然である。対価を払ってまで所要時間短縮を求めるか、あるいは対価を吝嗇して遅い所要時間を甘受するか。人によって判断が異なることはおおいにありうる。

 筆者は既に「自分が為す選択」を持っている一方、「世の中の大勢が為す選択」が如何なるかは更に興味がある。この興味が以下の設問につながるのである。





■里48と日暮里・舎人ライナーにおける交通流動の科学

 筆者の当時の問題意識はまさに上記のとおりであって、実は過去にも記事にしたことがある( 5年前2年前 )。改めて記すならば、

   ●速達性に長けているが運賃の高い日暮里・舎人ライナー
   ●運賃は安いが高速性に劣り定時性も低い里48

 のいずれが利用者により選択されるのか、切実に知りたかったのである。

 筆者の数理的な感覚からすれば、日暮里・舎人ライナーの選択確率が圧倒的に高くなるはずであった。しかしながら、日暮里・舎人ライナーの運賃水準の高さから、特に距離の長い区間を中心として、対価を吝嗇し里48にとどまる層も少なくないのでは、という読みもあった。これは事前段階では見極めがつかなかった。

 日暮里・舎人ライナー開業から 4年経ち、交通流動の変化はおおよそ収束した。利用者の選択基準はほぼ明確になり、大勢は決した。圧倒的多数の利用者は、里48でなく日暮里・舎人ライナーを選択した。平日の通勤利用者のみならず、通勤以外の利用者まで、専ら速達性を重んじたのである。

里48
運賃低廉なれど速達性で圧倒的に劣る里48
江北駅前にて 平成20(2008)年撮影


 その結果が、このたびの里48の小変化である。里48における、江北六丁目団地以北での日中大減便である。通勤以外の利用者は時間価値が低く、所要時間よりも運賃の低廉さを優先する傾向があるから、率直にいって意外だった。

 もっとも、冷静に考えれば、当然すぎるほど当然の帰結、ともいえる。里48と日暮里・舎人ライナーの所要時間差は、江北以北において実質的には20分以上もある。時間価値を10円/分と低めに設定してさえ、運賃差が 200円以上でなければ効用が均衡しないのだ。さらに運行本数にも差がありすぎる。それゆえ、利用者の大部分が日暮里・舎人ライナーの効用を多と認め、専ら選択するようになったのであろう。

 もう一点付け加えると、江北駅以北在住の住民にとって、日常の用事は竹ノ塚・西新井・北千住などで済ませるものであり、日暮里方面を目的地とするニーズは実は薄い(特に買物目的であれば日暮里付近にめぼしい店がないのが致命的)。よって、バスに乗るならば、東武バスセントラル・「はるかぜ」各系統のほうが目的に合致する。里48の日中運行本数が極小化しても、困る住民が少ない、というのが実態なのだろう。





■里48に残された意義

 零落しつつある里48を存続する意義はどこにあるのか。これは運行本数の設定に如実にあらわれている。平日朝ラッシュ時間帯の日暮里方面はほぼ10分毎の運行で、それなりに高頻度を保っている。筆者は実は里48のヘビーユーザーであり、速達性に欠け運行本数も少ない里48を、利用者が敢えて選択する理由を、自らの行動を通じて体感し続けている。

 最大の理由は、日暮里・舎人ライナーの混雑である。平日朝ラッシュ時の日暮里・舎人ライナーの混雑はひどい。筆者最寄の江北はまだ良い部類で、高野では寿司詰め、扇大橋では乗りこむのも一苦労という混み具合になることも珍しくない。この激しい混雑を嫌気する利用者は、少なからず存在するはずである。

 筆者も混雑を嫌気する一人で、確実に着席できることから里48を積極的に選択している。所要時間が長くかかる難点は、着席による体力温存とバランスする。どうしても急ぐ場合には日暮里・舎人ライナーを選択すればよい。

 他の乗車が多い停留所は、江北駅前と扇大橋駅前である。特に扇大橋駅前からの乗車は多い。日暮里・舎人ライナーの混雑を嫌気する利用者層が相応数存在することがわかる。……ただし、利用者の混雑回避行動も昔話になろうとしている。 ロングシート化 に加え、 昨年末のダイヤ改正による増発 を経て、日暮里・舎人ライナーの混雑はかなり緩和されてきた。それに連動してか、扇大橋駅前から里48への乗車は明確に減少した。

※なお、筆者は自分が利用している範囲のみしか実見していないため、利用者が前後の便にシフトしている可能性もある。実際、少なくとも 3名がより早い便の乗車にシフトしたのを目撃した。
※扇大橋を基準にすると、日暮里・舎人ライナーと比べ里48は、所要時間が実質的に10分以上遅い。普通運賃を比べると、日暮里まで70円、西日暮里まで20円、里48の方が安い。この所要時間差と運賃差では、混雑回避に対する効用を高く認める利用者を除き、里48が圧倒的に不利になるのは当然である。

里48
運賃低廉なれど速達性で圧倒的に劣る里48
江北陸橋下にて  平成24(2012)年撮影


 筆者は江北陸橋下が最寄停留所で、旧ダイヤでは7:23発(江北六丁目団地始発)の里48に乗車するのを常としていた。これが新ダイヤでは7:25発の里48-2、即ち加賀団地始発の便への乗車と変わった。王46と里48江北六丁目折返便を単純につなげたという、きわめて合理的なダイヤ改正ではある。

 里48-2になったことで、筆者の一人掛席への着席は難しくなったが、確実に着席できる状況は変わらない。席が埋まるのは江北駅前で、以前は扇三丁目ないし扇二丁目で立客が生じていたことを思えば、満席になるタイミングはやや早まった。ただし、最混雑断面はかえって緩和されている。

 里48-2車中には、江北駅前で降車して日暮里・舎人ライナーや王40・東43へと乗り継ぐ利用者も若干存在する(王40への乗継は王46定期券の代替措置か?)。途中の停留所からの乗車は江北陸橋下を含めはっきり減少しており、特に扇大橋駅前からの乗車は前述したとおり激減している。バスでは常連の顔を記憶しやすく、それゆえに見知った顔がいなくなると素直にさびしい。

 この趨勢が続けば、里48は衰退の一途を辿り、朝ラッシュ時の運行本数も漸減していくのであろう。それが大勢とあれば受け容れるしかないにせよ、確実な着席を求め「時間」という対価を払っている身としては、いささか切ないのが本音である。……おっと、公論を書き進めていたつもりが、最後だけ私情が絡んでしまった(^^)ゞ。要するに、筆者の「自分が為す選択」は「世の中の大勢が為す選択」から懸け離れている、ということである。





元に戻る





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください