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名古屋新交通システム訪問記



TAKA  2006年02月12日



   

(左:万博八草駅でのリニモ   右:走行中のガイドウエイバス)


 去年の名古屋は「悲願の万博」実施に伴い、「イベントに伴うインフラ整備」が進み、直接・間接で関係する物でも、「セントレア開港・リニモ開通・おおなみ線開通・名城線環状化完成」等色々な新規開業がありました。
 去年12月の名古屋・重慶訪問時に、名古屋で「 岐阜市内訪問 」「 セントレア訪問 」に合わせて、「名古屋の新交通システム」2路線も合わせて訪問してきました。
 そういう訳で今回、「愛・地球博」にも行く事ができなかったので、リニモを見るには時期外れになってしまいましたが、名古屋訪問を機会に「名古屋の新交通システム」を駆け足で見学する事にしました。

 ☆(序論)新交通システムとは何?

 今回「リニモ」「ガイドウエイバス」を見てきましたが、今回「リニモ」も「ガイドウエイバス」も「新交通システム」と括っていますが、一体「新交通システム」とは何なのでしょうか?
新交通システムと言えば、狭義に言えば「ゆりかもめ」「ポートライナー」等の、「案内軌条式公共交通システム」つまりゴムタイヤ駆動の軌道システムと言う事になり、リニモやガイドウエイバスは「中量輸送システム」と言うのが正しい事になります。
 つまり輸送力的には「バス<中量輸送システム<鉄道」と言う図式が成立し、その中量輸送システムと言う広義の形態の中に狭義の「新交通システム」「リニモ」「ガイドウエイバス」と言う輸送システム全てが入るということだと言えます。

 しかしその表現がイマイチ好きになれません。個人的には「近年技術開発で登場した新しい交通システム(つまり「リニモ」「ガイドウエイバス」等)」こそ「新交通システム」と呼ぶべきでは無いか?と考えます。
 その概念で考えると、名古屋には「リニモ(愛知高速鉄道)」「ガイドウエイバス(名古屋ガイドウエイバス)」と言う、2つの「日本で此処にしか無い、最新鋭の新交通システム」が有る事になります。
 今まで東京では「モノレール」や「案内軌条式公共交通システム」は色々見てきましたが、なかなか東京を出る機会の無い私にとっては、新交通システムとしての「リニアモーターカー」(上海のトランスラピットには乗った事が有る)や「ガイドウエイバス」には今まで乗車した事が有りません。
 そういう訳で、今回「最新鋭の新交通システムとは如何なる物か?」と言う事を見てみようと思い、年末過密スケジュールの中での訪問でしたが、リニモとガイドウエイバスに一回試乗する事にしました。
 
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 ☆参考資料(参考サイト)・訪問経路

 「リニモ概要 ( 愛知高速鉄道HP )」「 東部丘陵線の概要 (愛知高速鉄道㈱)」 
 「 愛知高速交通㈱東部丘陵線の特許申請について (国土交通省)」
 「ガイドウエイバス概要 ( 名古屋ガイドウエイバス概要 )」
 
 「訪問経路」12月30日 名古屋駅7:29〜地下鉄東山線〜7:54藤が丘8:00〜リニモ〜8:17万博八草
           万博八草8:29〜愛知環状鉄道〜8:44高蔵寺8:55〜名古屋ガイドウエイバス(名鉄バス)〜9:30大曽根
 
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 ☆リニモ・ガイドウエイバス 訪問記

 「  リニモ(愛知高速鉄道)訪問記  」

 「  名古屋ガイドウエイバス(ゆとりーとライン)訪問記  」

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 ☆(結論に変えて)「リニモ」「ガイドウエイバス」の意義は?

 この様に今回「リニモ」「ガイドウエイバス」を訪問してきましたが、一言で言えば、「リニモ」も「ガイドウエイバス」も輸送力に応じた「適材適所の新交通システム」であると言えます。
 同時に実験線的要素の強い路線であると言う事が出来ます。「リニモ」の技術である HSST は元々中部HSST開発が大江実験線で開発していた技術で、名古屋発祥の技術が名古屋で実用化されたと言えます。その点で言えば「湘南モノレール」と同じ様にショールーム的路線と言えます。似たようにガイドウエイバスも、海外には実用例があれども、日本には「案内装置が着いたバス」と言う物は有りませんでした。その「バスより多いが鉄道より少ない」輸送力を確保する例として初めて採用された物で、其処に実験的要素が「無いとは言えない」と考えます。

 ☆リニモの意義は?
 
 「リニモ」は元々は「東部丘陵地域の開発」を目的に作られた路線で、運輸政策審議会答申で「中量輸送機関を採用する」となっていた所に、「名古屋で実験されていたHSSTの実用試験線」「万博輸送&アトラクション」的な要素が加わったと言うのが、この路線の役割で有ると思います。
 実際に当初は万博会場跡地は住宅地に開発の予定がありましたし、沿線には未開発地が広がっていますが、「豊田研究所」などの研究施設や、愛知工業大学・県立芸術大学・県立大学等の大学等も出来ていますし、トヨタ博物館・県立陶磁資料館等の博物館等も有り「あいち学術研究開発ゾーン」として整備が進んで整備されています。又杁ヶ池公園駅直近にはショッピングセンター(アピタ)等も出来ており、住宅地としての開発も始まっています。
 「リニモ」はその地域への公共交通手段として作られたものであり、その中で「東部丘陵線導入機種選定委員会」で「・建設予定地が60‰もの急勾配が続く丘陵地であること ・システム自体の先進性」等の理由で磁気浮上式鉄道が一番好ましいとの選定を受けてシステムとして選択されています。

 ですから「リニモ」の存在意義は、運輸政策審議会答申で示された「東部丘陵方面への公共輸送」と同時に、選定委員会で図らずしも「先進性」と言う言葉で述べられた「万博にあわせたHSSTの実験ショールーム」と言う意味合いが強いと言えます。
 その役割は今の段階でそれなりに果たしていると言えます。特に「実験線・ショールーム」的役割は、万博輸送で「リニモ」の知名度は大いに上がっていますので、その役割を十二分に果たしています。その点では「400kmで走るリニアモーターカー」の「上海トランスラピット」と似た性格が有ると言えます。
 実際に走行速度が違いますが、「リニアモーターカーが実用化できた」と言う点で、同じ様な常温超伝導のシステムであるリニモも、先に高速域での実用化に成功したトランスラピットに追い付いたといえます。日本ではトランスラピットに対抗する高速交通は、山梨実験線で実験中のJR東海のリニアモーターカーが有ります。中国はドイツの技術丸抱えでの実用化ですが、日本ではこれで「都市交通のリニモ」と「幹線輸送のリニアモーターカー」の2つの技術が存在する事を、万博を通じアピールする事が出来ました。この意義は大きい物が有ると思います。

 
 (上海トランスラピット(04年1月1日撮影))

 後は「東部丘陵地域の公共交通」と言う「東部丘陵線」と言う路線そのものに課せられた本来の役割ですが、これは地域の開発が進まないと難しいでしょう。只リニモの開業で、利便性は上がっていますし、色々な施設も出来てきています。ですからその役割も徐々に果たせるようになると楽観的に推測します。

 ☆ガイドウエイバスの意義は?

 「ガイドウエイバス(ゆとりーとライン)」は名古屋の西北地域である庄内川と小幡緑地に挟まれた地域(志段味地区)の公共交通整備のために作られた路線です。
 この地域は地形的には南北を障害に挟まれていますが、その地形障害の先には北にJR東海中央線・南に名鉄瀬戸線が数キロの範囲で走っており、地形的障害から流動は平行路線には流れず、県道15号線・県道30号線のバスで大曽根(名古屋市内)に向かって流れる流動がメインですが、志段味地区までバス利用となると時間も掛かり混雑に巻き込まれ、公共交通の整備が求められていた地域です。
 只この地域は都心寄りでは、中央線新守山・瀬戸線守山自衛隊前・喜多山の各駅がが数百m〜2kmの距離に有り、志段味地区では有る程度の開発は進んでいても、未だ人口定着が多くは進んでいないと言う現状が有り、道路が混んでいる現状では路面電車的LRTは不適切ですし、新交通システムと言ってもモノレール・案内軌条式公共交通システム・HSST等では輸送力が過剰になる可能性が有り、その点から輸送力はバスだが定時性が高いガイドウエイバスが選ばれたと言えます。
 このシステム選択には 桃花台新交通 の経営失敗(今では廃線問題が浮上している)が影響している可能性が有ります。桃花台新交通はニュータウン定住人口減が原因で利用者が需要予測を下回り、そのためで苦戦しています。その事を踏まえ、この路線ではより簡便で低コストのガイドウエイバスが選ばれた可能性は有ります。

 現在 経営的にはガイドウエイバスは苦戦 していますが、このシステムで無かったらもっと苦戦していたかもしれません。ガイドウエイバスの経営を助けているのはガイドウエイバス特有のシステムの柔軟性が有ると言えます。もしこれが他の新交通システムだったらもっと酷い結果になっていた可能性も有ります。
 その理由は「ガイドウエイバス区間以外にも普通のバスで乗り入れられる柔軟性」と「混雑区間だけガイドウエイバス」を作れば、「後は乗入できる普通のバスで対応」と言う二つの柔軟性が有ると言えます。これがガイドウエイバスでなければ、小幡緑地までの建設では足らず、志段味地区までインフラ構築して延長する事になっていたらガイドウエイバス以上の建設費が掛かります。
 その点混雑に影響する最低限の区間のガイドウエイバス建設だけで公共交通確保の効果を示せて、しかも小幡緑地から先は一般路線で各地域に拡げる事が出来るガイドウエイバスは、この地域に取りベストの公共交通であったと言えます。

 確かに「バスが高架になっただけ」とも言えるガイドウエイバスは、インフラを構築する規模から考えてイマイチ非合理的で有ると考えられます。しかしこのシステムは意外な柔軟性が有ります。
 今のゆとりーとラインに関しても、輸送力を増強したければ連接バスを導入すれば、今のバスの1.5倍以上の輸送力を確保する事も可能です。又安全対策に「レーダーを使用した衝突防止装置」を導入すれば、安全にバスを増発する事も可能です。(今でもゆとりーとラインには十分増発余地は有るが・・・)
 
 
 (神奈川中央交通の連接バス(05年8月撮影))

 又今回万博でトヨタが開発して導入した IMTS をガイドウエイバスに導入した場合、連接バスを導入しなくても合理的に輸送力を増強する事も可能です。
 それらの方策を導入しても、今ガイドウエイバスで示しているような「公共交通サービスを『点と線』から『面』に拡げられる柔軟性」と言うメリットは失われる物では有りません。これは他の新交通システムでは得られる物では有りません。
 輸送力的にガイドウエイバス導入が好ましいと思える場所は沢山有ります。又ボトルネック区間だけガイドウエイバスを導入する事でバス輸送が劇的に改善されると思われる場所も多々有ります。その点では「一番導入しやすく」しかも「発展性が有るシステム」の存在を示した意味は大きいです。
その様な「導入条件に柔軟性が有るシステム」「拡張性・将来性の有るシステム」の可能性を示せたと言う点でも、日本で始めてガイドウエイバスが導入された意義が有ると言えます。
 

 この様に近年名古屋に導入された新交通システムは、日本に此処しかないと言うような極めて独創的なシステムで有ると言えます。今回はその独創的な新交通システムを狙って試乗してきましたが(本当は万博に行ってIMTSにも乗りたかったが・・・)その名古屋の新交通システムは実用性が有り将来性の有るシステムで有ると言えます。
 ガイドウエイバスは日本だけの技術では有りませんが、日本国内ではゆとりーとライン以外に色々な都市・区間で導入検討が可能なシステムです。又IMTSとの融合等で、一層の発展が望めるシステムであるのも大きなポイントで有ると言えます。
 リニモは世界に此処だけしかない日本独自の交通システムです。リニアモーター技術はこれからの交通の世界で、鍵を握る技術の一つである事は誰も否定できません。その中で「都市交通へのリニアモーターカーの導入事例」を示したのは大きなポイントです。リニモの技術は「(有る程度の)高速運転が出来る中量新交通システム」として海外に売り込む事も可能です。リニモの海外売込みが出来れば、そのデモンストレーション実験線として東部丘陵線をリニモで建設した価値は有ると言えます。
 この様にリニモ・ガイドウエイバス共に将来性の有る新交通システムで有る事は、今回の訪問で実感する事が出来ました。今都市の公共交通としてLRTの導入が議論に上がっています。しかしLRTだけが理想的な公共交通機関では有りません。LRTを導入するよりガイドウエイバスを導入した方が良い区間は沢山有ります。同じくゴムタイヤ式で「遅い」と言うイメージの有る、モノレール・案内軌条式公共交通システムが各区間で導入されている中で、特に似た様な案内軌条式公共交通システムの代替システムとしてリニモの導入は検討対象になると言えます。
 その様な実用化の結果が示された中で、早く国内・国外「第二のガイドウエイバス・リニモ」導入都市が名乗り出て、これらの技術が拡がりを見せて、より一層飛躍する事を期待したいと思います。
 





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