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新たな急行運転は東急の大幹線を救うのか?

- 東急大井町線 急行運転 試乗記 -


TAKA  2008年04月20日


大井町線急行運転の証!? 旗の台駅で緩急結合する急行と普通




 ☆ ま え が き

 「東急電鉄」と言えば、鉄道・不動産・流通を中心に連結売上で見れば大手民鉄トップクラスの売上・規模を誇る企業集団であり、その中核で有る東急電鉄本体の鉄道事業は東横線・田園都市線の2大幹線を中核に東京23区南西部〜神奈川県東部を中心に100.1kmの路線網を持ち2,678千人/日の乗客を輸送し328,660千円/日の売上げを上げており、大手民鉄有数の利用客数・売上げを稼ぎ出す路線網を持っています。
 その様に東急電鉄の鉄道事業は輸送密度で大手民鉄で一番多い(259千人/日)という極めて効率が良く収益性の高い路線網を持っています。しかし「効率がよく収益が上がる」という事は、裏返すと「常に混雑していて一歩間違えれば輸送力不足」という事になります。
 東急電鉄に関していえば、その「輸送力不足」問題は深刻な問題となっています。その為「目黒線地下鉄乗入・東横線田園調布〜日吉間複々線化・田園都市線二子玉川〜溝の口間複々線化」等々輸送力増強に関して積極的な投資を行っています。

 しかしそれでも東急電鉄の「輸送力不足問題」は根本的には解決して居ません。その傾向は東横線と比して「沿線人口・面積が多い。住宅開発・人口流入が今でも進んでいる。輸送力増強工事が進んで居ない」状況に有る田園都市線が顕著であり、田園都市線の朝の混雑率は194%と東京メトロ東西線の混雑率198%に続く高い水準にあります。
 なので東急電鉄でも、6ドア車投入・急行の準急化等の「 田園都市線混雑対策 」を行って居ますが、それだけでは根本的な解決には至って居ません。
 その為東急電鉄が「田園都市線混雑への抜本的対策」として行っているのが、「大井町線急行運転&二子玉川〜溝ノ口間複々線化工事」です。複々線化で大井町線を溝ノ口まで乗り入れさせると同時に、大井町線で急行運転を行い高速化させる事で田園都市線の乗客を「大岡山乗換目黒線経由都心方面」「大井町乗換京浜東北線経由都心方面」にバイパスさせる事で、最終的に溝ノ口〜渋谷間で混雑緩和を図るというプロジェクトで、約1400億円の工事費が掛かる大プロジェクトです。

 このプロジェクトは「紆余曲折」「多大な困難」に直面していたプロジェクトです。それは過去にも「TAKAの交通論の部屋」でも「 渓谷は本当に泣いているのか? 」「 「東急」という名の「焼き鳥」の「串」を訪ねて 」書きましたが、「大井町線改良工事」の中でも大きなプロジェクトで有る「等々力駅地下化工事」が地元の反対で凍結状態になっている事です。しかし等々力駅地下化工事の暫定代替手段として上野毛駅バリアフリー化工事&上り待避線新設工事が実施され等々力駅に建設予定の待避施設の暫定供用に目処が付いた事から、08年3月28日に「 大井町線急行運転 」が開始されました。
 私自身「田園都市線・大井町線」と「等々力駅地下化反対問題」に関しては、興味があり色々と書いています。その取り上げたプロジェクトが取りあえず形になって姿を見せました。今回もう一つの「田園都市線沿線で起きた変化」である「 横浜市営地下鉄グリーンライン開業 」と合わせて、最後に「田園都市線の混雑緩和が如何なるのか」という事を議論する「前座」として、今回始まった「大井町線急行運転開始」の現地を訪問してみる事にしました。

 ● 参考HP ・ 東京急行電鉄HP  ・東急電鉄 - 大井町線の急行運転を開始 - ・東急電鉄の取り組み - 大井町線改良・田園都市線複々線化工事 -
   TAKAの交通論の部屋(東急田園都市線・大井町線 沿線関連記事)
   民営鉄道の乗り越えられない「壁」とは? (田園都市線ダイヤ改正) ・ 「東急」という名の「焼き鳥」の「串」を訪ねて (大井町線)・ 渓谷は本当に泣いているのか? (等々力駅地下化問題)


 ☆ 急行運転開始に伴い整備されたインフラ設備

 今回開始された東急大井町線ですが、東急電鉄の中で大井町線は「東横線」「田園都市線」という2大幹線と「支線」に近い目黒線・池上線を結ぶ路線であり、しかも中延で都営浅草線・大井町でJR線・東京臨海高速線と接続していて、前回は「「東急」という名の「焼き鳥」の「串」」と評しましたが、放射状路線が多い東京で数少ない「環状方向に走り各線を結んでいる路線」となっています。
 しかし東急大井町線は、大井町でJR京浜東北線と接続しており、都心アクセスも容易で有った事から1966年の溝ノ口〜長津田間開業から1979年の新玉川線直通運転開始までの間、東急多摩田園都市から都心へのアクセスルートとして活用した過去があり、「東急各線を結ぶ路線」の役割の他に「田園都市線の都心アクセスルート」としての役割も持っていました。
 今回の「大井町線急行運転」は、過去に担った「田園都市線の都心アクセス機能」を復活させる事で、田園都市線の混雑緩和を図ろうとするプロジェクトです。そのカギとなるのが「急行運転による速達化」であり、「急行運転を可能にするインフラ改善」で有るといえます。

  
インフラ改善の実例 左:待避線が整備された旗の台駅 中:駅舎改修と同時整備された上野毛駅上り待避線 右;旗の台での緩急結合

 元々今回の田園都市線救済を目的とした 大井町線急行運転計画 では、95年の計画当初は「 等々力(上り)・尾山台(下り)に待避線新設、自由が丘駅ホーム延伸、大岡山に渡り線新設(目黒線に直通運転) 」という計画でしたが、2000年に計画が変更され「 尾山台の待避線計画の中止、等々力・旗の台(共に上下線)に待避線新設、大岡山駅の渡り線を中止、大井町駅改良工事を追加 」がなされて、工事の竣工年度も2004年→2008年に延長され、その上等々力駅の地下化工事が地元の反対で着手できず、 上野毛駅のバリアフリー化・上り待避線新設工事 を別途行い、何とか大井町線の急行運転開始に漕ぎ着けています。
 実際このインフラ改善が無ければ、田園都市線救済に効力を発揮する大井町線の急行運転開始は出来ませんでした。すでに当初の計画より4年工事が遅れて居ますが、「減速ダイヤ改正」が必要なほどの田園都市線の危機的状態を救うには「ギリギリのタイムリミット」で完成したインフラ改良工事で有るといえます。
 この計画の経緯を見れば東急が当初考えた計画は何一つ実現できず、2000年の計画修正からやっと計画が動き出し、それでも等々力で躓いて上野毛に代替施設を造り、何とか急行運転開始に辿り着いた「ドタバタの改良工事計画」で有るともいえますが、それでも何とか急行運転開始に辿り着けた東急電鉄の努力は評価出来ると思います。
 鉄道がインフラ産業で有る事からも、鉄道の輸送改善には基礎となるインフラの改善が必要であり、それが必要な都市部ではインフラ改良への障害も多く必然的に輸送改善を行い辛くなるのは仕方ないといえます。この大井町線の急行運転に関するインフラ改良工事もこのパターンに嵌ってしまって居るといえますが、その中で実質的に計画が動き出した2000年から8年間で、等々力問題の躓きが有りながら良くぞ此処までインフラ改良を行い急行運転開始に持っていったと思います。東急にも色々計画段階での拙さ等も有ったのかもしれません。しかし今のインフラ改善の結果を見れば東急電鉄の努力は評価しても良いと思います。


 ☆ 4月3日18時半頃 東急大井町線 急行試乗記

 大井町線の急行運転開始は3月28日のダイヤ改正からでしたが、大井町線の急行にもナカナカ乗りに行く事が出来ませんでした。本当なら朝ラッシュ時の状況を見に行きたい所ですが、朝にナカナカ時間を取る事が出来無いので夕ラッシュ時に現地訪問をする事に切り替えて、4月3日昼休みに(年度末新規開業路線の一つの)横浜市交グリーンライン試乗を終わらして、国領〜喜多見と仕事で廻って5時頃に用事を終わらせた後、成城学園前からバスで二子玉川に出て、二子玉川から大井町線を往復して急行運転の状況を見る事にしました。
 しかし夕ラッシュ時の急行に試乗するのであればラッシュ輸送の起点側の大井町に移動しなければなりません。そのため二子玉川から急行・普通に乗りながら今回の急行運転開始に伴う改良工事の場所等の写真を撮りながら大井町へ移動し、大井町駅に着いたのは18時ごろでした。取りあえず一度駅外に出てお茶をした後、再度駅に入ったのは18時半前でした。

 
左:大井町駅に停車する急行&普通  右:旗の台で急行待避の普通はガラガラで出発

 大井町線ホームに入ると、急行が入線して来ます。丁度18時22分発の無待避普通が出た後で、1番線に旗の台で急行に抜かれる普通が停まり、2番線にこの時間帯は15分毎の運転で有る急行が入線して来た状況です。この時間は急行が大岡山・自由が丘・二子玉川へ先着という事もあり急行を待つ人もホームに散見出来ます。
 今回は比較的乗客が多い5両目中程に乗り二子玉川を目指す事にします。大井町駅は頭端式ホームだけ有り後からドンドン乗客が来て前の方に流れて行きます。乗るお客は先発普通より急行の方が多く、28分発の先発普通は全員着席だが立ち客チラホラの状況で先発して行きます。30分発の急行電車は普通が出た後ドンドン乗客が増えて、結局普通と比べると「立ち客多数」という状況で出発します。次の旗の台で緩急接続の為、旗の台以遠に向かうのであれば急行に乗ってくる客も居るので、その分急行への集中が進むのかもしれません。

 大井町線急行の最初の停車駅は旗の台です。旗の台は池上線との接続駅ですが、それ以上に今回の急行運転開始に備えて駅が2面4線化され待避設備が整えられ緩急接続が出来るようになっています。ホームには素手の乗客がかなりの数待っており、乗換の為に降りる客と交差して乗降時には混雑している感じがしました。見た感じは池上線との乗換より緩急接続の方が多い感じです。其処からも旗の台緩急接続は大きな意味が有ったといえます。
 旗の台での緩急接続&池上線との乗換で、プラスマイナスで見ると全体の乗客は増えた感じで、この急行の大井町〜二子玉川間での最混雑区間は旗の台〜大岡山間となりました。

  
急行電車車内の状況 左:大井町駅出発段階 中:旗の台〜大岡山間 右:大岡山〜自由が丘間
  
急行停車駅での乗降風景 右:緩急結合乗換客が目立つ旗の台駅 中:乗降半々の大岡山駅 左:降車が多い!? 自由が丘駅

 旗の台の次の停車駅大岡山では、都心部で東京メトロ南北線・都営三田線と直通運転している東急目黒線と対面接続で接続しています。大井町線の乗り換え駅で「対面接続」が実現しているのは二子玉川と大岡山だけであり、急行運転の意味には大岡山での接続で東急目黒線方面に乗客がバイパスしてくれる事を期待している点も有りました。しかし急行停車駅の乗降で大岡山駅は一番乗降が少なくしかも乗降がほぼ同数で、東急が期待した「田園都市線乗客が大岡山経由でバイパスする」という事は、その狙い通りになって居ないと感じました。
 大岡山の次は東急東横線との接続駅で有る自由が丘です。自由が丘で接続しているのは「東急の大幹線」である東横線だけ有り、乗換需要は前から非常に多くありました。その傾向は急行運転開始後も変わらず、この急行の乗客の半分近くは自由が丘で降車してしまいました。確かに大井町線急行運転の最大の目的は「田園都市線救済」で有る事は明らかですが、副次的効果として「大井町線が接続する東急路線間の接続強化」という狙いも有ると思います。その副次的狙いも十分効果をあげて居る事が、自由が丘での乗降を見ると明らかです。

 かなりの乗客が自由が丘で降車して車内が明らかに空いた状況で、急行電車は終点の二子玉川を目指します。しかし自由が丘から先は急行のスピードが上がりません。元々大井町線は高速運転に適した線形では有りませんからそんなに高速運転を期待は出来ませんが、原因はそれではありません。大井町を8分前に出た無待避の普通が前を走って居るため、後続の急行が痞えてしまうからです。これは「等々力に待避線が出来なかった」弊害だといえます。この待避線がないが故に二子玉川行き急行は自由が丘〜二子玉川間で減速を強いられます。この減速はイメージ的にも大井町線急行に取ってはマイナスでしょう。
 終点二子玉川では、降車客の大部分が向かいに有る田園都市線ホームに乗り換えます。二子玉川自体も商業集積があり拠点性のある街ですが、通勤需要が主体のこの時間の場合目的地はより奥の田園都市線周辺のベットタウンという事になり、必然的に二子玉川で田園都市線に乗り換える事になります。
 此処では急行電車と、その後の旗の台で待避された普通列車の2本の列車の乗換状況を見てみました。その結果・・・二子玉川での乗降が多いのはやはり急行です。空席が見える状況で来た普通に対して立ち客多数で到着した急行では利用者の全体の数が違います。そこは大井町・旗の台などの遠方〜二子玉川乗換を使う人に取っては「急行」という速達列車に乗客が集まる傾向が強いのでしょう。これだけを見ると「急行利用客→田園都市線への乗換客」は多いといえます。この利用客数が朝ラッシュ時にそっくり逆方向の二子玉川から大井町線普通or急行に乗り換えてくれれば、今回の急行運転開始は成功で有ったし、今回の乗換風景はその成功を裏付けて居ると言えます。

 
左:急行降車客は田園都市線を待つ? @二子玉川  右:急行指向は強い? 次の普通の乗換客は少ない



 ☆ 大井町線急行は「東急の大幹線」田園都市線を救うのか?

 この様に、駆け足で見た「東急大井町線」の急行運転開始後の状況でしたが、大井町線急行運転開始は今年3月に有った数多くの「ニューフェイス」の中でも、「既存路線の急行運転開始」という内容も影響して比較的地味な存在で有ると言えます。
 元々大井町線は東急線を串に刺して二子玉川と大井町を結んでいる重要路線ですが、東急の中でも東横・田園都市の2大幹線の間に挟まれた支線系路線であり、しかもターミナルが山手線から外れた京浜東北線大井町と言う事も有り、非常の存在が薄い路線でした。似た様な路線環境の京王井の頭線がターミナルが渋谷で有った事と渋谷と中央線を急行で短絡した事で注目と乗客を集めたのと大きな差が有ります。

 しかし大井町線は「東急各線を結ぶ支線」ですが、末端の二子玉川で接続している田園都市線と一番深く結びついていて大きな影響を受けています。
 実際現在の田園都市線渋谷〜中央林間の内、二子玉川園〜溝ノ口間は昭和18年に改軌の上大井町線に編入されていますし、昭和38年に田園都市線と改称された上昭和41年に溝ノ口〜長津田間が開業し、昭和54年に新玉川線との直通運転開始により改めて二子玉川園〜大井町間系統分割されが大井町線となり現在の形になるなど、田園都市線とは過去に一体で有るなど東急の他の路線と比べると非常に深い形で結びついています。
 その様な歴史的経緯が有り、現在でも大井町線は都心部での旅客バイパス機能という形で田園都市線と深く結びついています。この機能が今や東急に取り非常に重要な意味を持つ様になっています。それは東急田園都市線の混雑緩和に寄与するからです。

  
東急の心中が透けて見える? 左:所要時間短縮宣伝のラッピングトレイン 中:田園都市線より大井町線急行が強調されるポスター 右:新ルートでの臨海副都心アクセスをアピールするラッピングトレイン

 東急田園都市線に関しては「 民営鉄道の越えられない「壁」とは? 」で過去に取り上げて居ますが、その混雑は多摩電園都市の開発進展に伴い加速度的に乗客増が続いており、民鉄で見ると東京メトロ東西線に続く二番目の激しさで 新聞の記事で話題 になるほどです。
 その様な混雑状況に東急とて手を拱いていた訳では有りません。現在東急田園都市線は朝ラッシュ時に20m4ドア車10両編成で毎時28本運転という「複線鉄道の限界」といえるレベルの頻度で運転されています。又当初は5〜6両だった編成両数も現在では10両になっていますし、増発の為に91年に 新型ATC を導入するなど輸送力増強に努めてはいます。加えてその様な「常道的手段」での輸送力増強は限界に達し、「座席折畳み6ドア車の導入」「朝ラッシュ時の急行→準急への格下げ」など、奇策による改善策まで行われるようになっています。
 実際多摩田園都市を中心とする東急田園都市線沿線への人口流入による人口増加の流れは未だに止まらず、今後とも輸送量が増加するであろう事が予想されており、田園都市線の混雑改善に関しては「小手先の改善」では対応できず抜本的な改善を必要とする状況になっています。
 しかしながら、東急田園都市線は二子玉川以東は地下線であり現実問題として10両編成以上の編成増強や複々線の建設等の「輸送力増強」は巨額を要する改良工事を伴い非常に困難であり、しかもターミナルで有る渋谷駅も駅のインフラに対して乗降客が集中し過ぎており、「パンク寸前だが改良も困難」という八方塞で、田園都市線は輸送量は増えども根本の部分で輸送力増強は困難という「打つ手がない」状況になっています。

 そこで、田園都市線の混雑緩和の方策として取られたのが、大井町線の急行運転開始によるバイパス機能向上です。
 大井町線は自由が丘・大岡山・旗の台で東急各線と接続すると同時に、大岡山では此処での乗換1回で東急目黒線経由で都営三田線・東京メトロ南北線に行く事が出来ますし、終点の大井町で接続する京浜東北線は品川・新橋・東京という東京都心部の再開発の進む地域にダイレクトにアクセス出来ます。
 そういう「都心アクセスルート」を持つ大井町線に、田園都市線の渋谷経由で都心を目指す乗客をバイパスさせるために、大井町線の急行運転が行われる事になりました。
 流動をバイパスルートに迂回させる為には、何か「インセンティブ」を与えなければなりません。幾ら路線が有っても「遅い・少ない」では乗客は転移しません。その中で東急は東京23区南西部に大きな路線ネットワークを有しています。そのネットワークを活用して大幹線で有る田園都市線を混雑から救う為の方策が「大井町線急行運転」です。急行運転開始により、二子玉川〜大井町間が朝で6分短縮されて品川・新橋・東京へのアクセスには渋谷経由より大井町経由の方が乗換が一回増えるものの早くなります。この「速達効果」をインセンティブに田園都市線からの乗客の転移を狙うのが「大井町線急行運転」の目的で有ると言えます。
 田園都市線本体に関しては、特に根本の二子玉川〜渋谷間で改良工事を行い「国道246号線の下に複々線を造る」や「渋谷駅を大改良拡張する」事で混雑の抜本的緩和を行うのは、数千億の事業費が掛かると同時に極めて困難な土木工事を伴う事になり、現実的には「不可能」に近い状況です。
 その中で「現状で出来る最善の策」として行われたのが、大井町線急行化と二子玉川〜溝ノ口間複々線化です。この事業の投資額は1,400億円と巨額ですが少なくとも二子玉川以東で「効果の有る改良工事」を行うより金額は少なくて済みます。しかも急行運転による高速化で一定の大井町線バイパス客の増加と、二子玉川〜溝ノ口間の複々線化で溝ノ口で南武線から流入してくる客の負担を減少させる事が出来ます。

 要は東急に取っては「大井町線急行化&田園都市線二子玉川〜溝ノ口間複々線化」は、巨額の費用が必要な大幹線である田園都市線にとっては「抜本的な輸送改善」である根本の部分での改良ではありません。しかしその抜本的改善策は「東急の社運を賭ける」程の大事業になってしまいリスクが高すぎます。その為より簡単なバイパス線建設という効果も限定的ですが低コストの輸送改善策で何とか「田園都市線の混雑緩和を図る」事で、何とか抜本的改善策は避けたいという意図が透けて見えます。
 ですから、東急は今危機に有る田園都市線救済の為に、2008年度内の複々線完成までもう少し時間の掛かる今の時期に「見切り発車」ともいえる「大井町線急行運転」を先行させたのだと言えます。しかも「大井町線急行運転」開始に合わせて、大井町線への乗客転移を即すべく色々な宣伝を打っています。
 東急にしてみれば「少しでも早く大井町線急行運転を始めて大井町線ルートを定着させると同時に田園都市線の混雑緩和を図りたい」という祈りにも似た心境で有ると思います。確かに今の田園都市線の朝ラッシュ時輸送は限界に近づいています。何せ2007年に「 朝ラッシュ時限定の減速ダイヤ改正 」を行う程なのですから、その追いこまれた状況は危機的です。
 だからこそ東急にしてみれば、『大井町線急行は「東急の大幹線」田園都市線を救うのか?』ではなく『大井町線急行に何とか「東急の大幹線」田園都市線を救って欲しい』というのが偽らざる心境で有ると思います。
 実際の所は4月の新年度を向かえて定期の切り換えが進まないと、通勤客の転移は進まないと思います。又今の段階では未だ二子玉川止まりの為、溝ノ口〜大井町間では乗換が1回絡む為、溝ノ口乗降客と南武線からの乗換客が大井町線急行に流れる可能性も低いと言えます。そう言う意味では複々線溝ノ口完成前の現状では、大井町線急行運転が田園都市線の混雑緩和に及ぼす影響は限定的かもしれません。
 しかしながら「急行による速達効果」を前面に出して、何とか大井町線急行に田園都市線利用客が転移して、現在の196%の混雑率が出来れば目標の173%にまで少なくとも目標未達でも180%台前半の程度まで落ちれば、田園都市線は一息付く事が出来るでしょう。東京急行電鉄は「祈る気持ち」でそうなる事を願っているのではないでしょうか?




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