1.チョッパ制御によるパワーパック
パワーパックは、車両の速度をコントロールする重要な役目を担い、これが無いと鉄道模型を走らす事のできない程、最低限必要なものと言えます。
このパワーパックには現在、電気抵抗値を直接変化させる事で、モーターをアナログ的に電圧変化させ速度を調整する抵抗制御と、一定の電圧で電源のオンオフを繰り返すこと(パルス)で、モーターにかかる電圧をデジタル的に制御するチョッパ制御の2種類が主流になっています。
そのチョッパ制御のうち、パルスの発生させている時間(オンの時間を0%〜100%(デューティ比)まで変化させる)を変化させる事で電圧を制御するPWM(Pulse Width Modulation … パルス幅変調)制御が主なものとなっています。
私も鉄道模型を始める際に真っ先にパワーパックを購入しました。しかし、結構大きく手軽に走らすには準備がめんどくさい(それほどの手間でもないが…)ため、手始めに作ったパワーパックはトランジスタへ送る電圧を抵抗で制御するもので、
カーサロンモリ
さんや
Bトレ三昧blog
さんの作成されたパワーパックを参考に作成しました。(
シンプルなトランジスタ制御のパワーパック
にて)
それはそれで、とても使いやすいものですが、私のレイアウトが小規模で、一周1m余りなのですぐに一周して、まるでコマネズミがクルクルと車を廻しているかの様に余りにも目紛しいので、より低速で安定したトルクを求めて、ネットを探して見つけたのが、このPWM制御のパワーパックでした。
まずは試しと、秋月電子の
DCモータ・コントローラーキット
を買って作成しました。
(注意/このキットを作成しての感想は、元々6V程度を想定して設計されているので、電池用と思った方が良い様です。(これは9V電池専用コントローラに改造中です…自己責任でやっています)また、低速運転時に「うさぎ跳び現象(速度が落ちたと思ったら、急に加速する様な状態を繰り返す)」を起こします(注)私のテストしての感想です)ので、極端な低速運転には向かない様です。でも、価格と電子工作作成の腕試しには良いキットです。)
このキットを作りながら、ネット内のPWM制御の資料を基に理解できた事は「一定のパルスを発生できる「発振回路」を利用すれば、少ない部品で比較的簡単にPWM制御パワーパックができる」でした。そこで各種ICを利用して「PWM制御パワーパック」を研究・作成してみました。
なお、PWM制御の理解には、
PWM制御
(沼津高専電子制御工学科MIRS開発データベースより参照)で勉強させていただきました。
2.IC555を利用したパワーパック
まず手始めに、発振回路として一般的に良く知られているIC555を利用して回路を作成してみました。(IC555については
データシート
を参照して下さい)
なお、この発振回路は、マルチバイブレータと呼ばれ、パルスを発生させるのに良く用いられます。
このマルチバイブレータには、自力でパルスを発生し続ける無安定マルチバイブレータ(普通マルチバイブレータはこの無安定マルチバイブレータを意味します)と他からのトリガー(動作(スイッチング等)または反応(センサー等))によってパルスを発生する単安定(ワンショット)マルチバイブレータとがあります。
今回の回路は、「趣味の電子回路工作」さんの
555発振器
を参考にさせていただきました。
また、この回路は単純にマルチバイブレータの周波数を変更し、そのパルスをトランジスタにより増幅する方法で、電圧をコントロールしています。そのため、PWM等による制御は行なわれず、チョッパ制御のみを行なっています。
上記がその回路図です。(なお、保護回路(ポリスイッチ等)が抜けてます。切替えスイッチとトランジスタの間に入れると良い様です)
その際に重要な発振周波数については、VR=0Ω−10kΩ、R1=330Ω、C=0.01μFの組み合わせにより、13kHz〜218kHz(理論値)の周波数を発振させています。
ダーリントントランジスタは、手元に有った2SD1830を使用し、IC555からの出力(3ピン)を47kΩ(R2)で絞ってテストしたところ、12V入力で秒速5cm程度(スケール速度30km/h程度)の低速運転が可能でした。トルクも問題なく感じられました。
なお、低速運転を長時間続けると、トランジスタがかなり熱を帯びてきますので、放熱は充分に行なう必要が有ると思われます。
また、R2の抵抗を少なく(1kΩ程度)すると6V〜9V程度の電池でコントロールするには丁度いい出力を得られる様です(テストの結果 … 12Vでは、低速のコントロールができませんでした)ので、携帯用のコントローラ作成には良いかと思います。
周波数等の計算に当たって、計算を簡単に行なうためにExcelで計算シートを作ってみました。
('09/04/29付けにてシートの修正あり)
PWM等作成時、周波数の計算を補助するソフト
IC別周波数等計算サポート(Excel版)
参考:
趣味の電子回路工作
… [TOP]>[電子回路工作 素材集]内
ブレッドボードラジオ
… [TOP]>[デジタルICの実験]内
回路パターンをEAGLE ver5(
CadSoft Online
)で自動作成後、修正を加えてみました。
ワイヤーの色や一部修正が必要な部分があるかもしれませんので、上記、回路パターンは参考程度にして下さい。
※EAGLEの使用方法は、
趣味の電子回路工作
(目次>EAGLEによるプリントパターン自動作成)を参照して下さい。
実際の回路を作成してみました。(ハンダの載りが悪いのはお愛嬌という事で)
後は12Vの入力部分とスイッチをケースが決まり次第つける予定です。また、トランジスタにはヒートシンクが付いています。(写真撮影のため、仮に外しました)
(結構こじんまりしているので、予定では、ATC研究室の「駅等での自動停止・発進」の回路を同基板上に乗せられないか検討中です)
追記:完成後、改めて感想をまとめたいと思います。
3.IC4069(CMOSインバータ)を利用したPWMパワーパック
今回の回路は、「KEMの鉄道サウンド」さんの
リモート式パワーパックを作る
内のPWMパワーパック回路図を基に、「趣味の電子回路工作」さんの
矩形波発信器(2)
を参考にさせていただき、改良したものです。
IC4069は、C-MOSタイプのICで3V〜16Vと非常に幅の広い電圧で使えるため12Vのパワーパックで直ぐ使える事から、今回採用しました。(次のIC4584も同様の理由です)
同じC-MOSタイプの74××04も同じインバータICなので、利用できます。ただし、このICは5V±0.5Vの範囲で使う必要があるので、電源の減圧等が必要となります。利点としては、反応速度が早く、消費電力が少ない事などです。
上記がその回路図です。
発振周波数については、VR=0Ω−500kΩ、R1=1kΩ、C=0.01μFの組み合わせにより、約180Hz(理論値)の周波数を発振させています。
完成後、実測したところ、160〜170Hzの周波数でした。(秋月電子の
マルチメータ P−10
にて測定)
回路図をブレッドボードの再現し、テストしてみました。
ダーリントントランジスタはIC555の時と同様で、2SD1830です。
ボリュームを絞ると約180Hzの周波数が発生します。少しボリュームを廻すと車両が動き出します。その際のトルクは充分ですが、低い周波数の時に発生するノイズがかなり大きい様に感じます。ただ、出力が大きく取れるのか、低速を長時間続けても、トランジスタの発熱が少なく、IC555使用時より放熱を意識しなくてよい様です。
実際の回路をユニバーサル基板上に組んでみました。
トランジスタは撮影後、下記写真の様に取り付けてあります。テスト時に発熱が少なかったので、ケースを小さくして作成しました。
また、トランジスタ脇のダイオードは、ショットキーバリアダイオードです。他2個のダイオードと違いますので、注意してください。
完成後、テストをしましたが、低速時のトルクも充分(デューティ比40〜50%程度…測定の方法が悪いのか、値が確定出来ませんでした)で、懸念していたトランジスタの発熱も殆ど感じられませんでした。(30分程度、低速で運転し、確認)
ただし、モーターの発するノイズ音は気にする人にとっては、結構大きく聞こえるかもしれません。(私は、それほど気にしませんが…)もし、気にされる方は、発振部のコンデンサーCを小さくして、発振周波数を上げると良いでしょう。どれだけ上げると良いかは、ブレッドボード等で試験し、決定されると良いでしょう。頑張って下さい。
追記:この回路を元に
量産型!?PWMパワーパック
に発展させています。そちらも、ご参考下さい。
4.IC4584(C-MOSシュミット・インバータ)を利用したPWMパワーパック
今回の回路は、鉄道コミュニティサイト
「トレイン・トレイン」
内の紅さんのブログ
「紅の鉄道模型」
より
PWMパワーパック作成
の記事を参考にさせていただき、ICを74HC14(5V動作)から同じC-MOSシュミット・インバーターの4584(3〜18V動作)に変更して作成してみました。
また、「趣味の電子回路工作」さんの
矩形波発信器(1)
や「ブレッドボードラジオ」さんの
シュミットインバータによる発振回路
を参考に勉強させてもらいました。
上記がその回路図です。
発振周波数については、VR=0Ω−250kΩ、R1=10kΩ、C=220pFの組み合わせにより、約24kHz(周波数の確認済み)の周波数を発振させています。
発振周波数は、IC74HC14の時よりも、IC4584使用時は、7割程度の発振周波数になりますので、その点に注意が必要です。(発振周波数を計算するソフトも一部修正しました)
回路図をブレッドボードの上で再現し、テストしてみました。(1回路分)
MOS-FETは、紅さんのパワーパックを参考に2SK2201を使わせてもらいました。
今回は
簡易デジタルオシロスコープ
が手に入ったので、R1の抵抗値を変更してテストしてみた結果、上記の組み合わせが最適との結論になりました。
220kΩ → 9kHz(デューティ比が最小で40%と高く、停止せず)
100kΩ → 14.5kHz(デューティ比が最小で30%程度、停止せず)
10kΩ → 24kHz(デューティ比25%程度より走行する)
ボリュームを絞った状態で停止状態から、徐々にボリュームを上げて行くとデューティ比が高くなり、25%を越えた辺りから動き出し、懸念していた低速時のトルクも十分あり、30%程度で長時間(3時間程度走行)の走行においても、FETの発熱やモーターの状態等も問題は見られませんでした。
また、周波数が高いため、モーターからのノイズも聞かれず、かなり使えるパワーパックになりそうです。
加えて、IC1個で2回路分取れるので、複線を一台のパワーパックでコントロール出来ると考えています。
後は、また作成後にコメントしたいと思います。
※製作にあたっての注意!
IC4584を使ったパワーパックは作成しましたが、作成中にICを3個ばかり壊してしまいました。どうも私の回路中に欠陥があったようです。
回路図では、ICとMOS-FETの間が直結されていますが、IC出力とFETゲートの間に抵抗を入れ、その抵抗とFETゲート間にGNDへつなぐ様に抵抗を入れる事が重要でした。
詳しくは、
量産型PWMパワーパック
の回路図を参考にして下さい。
また、再度作成した際は、改めてコメントを追加し、回路図にも修正を加えますので、それまではその点にご注意下さい。
5.IC4584を利用したPWMパワーパック 〜リベンジ〜
前回の反省を踏まえて、回路図の修正を行ないました。
変更点は、発振回路とMOS-FET間の電流制限抵抗とスピードアップコンデンサ等の追加です。
電流制限抵抗は、発振回路(IC)からの出力電流が約40mA(実測)あり、この逆流によりICが破損した可能性が高いので、入れてあります。(因にMOS-FETは電圧制御なので、電流が少なくとも充分に稼働します。)
また、スピードアップコンデンサは、IC出力パルス波の立ち上がりを良くするために入れてみました。コンデンサ容量は今回250pFとしましたが、パルス波形や出力(モータの起動状況)などを勘案しながら、最適なコンデンサ容量を決定すると良いでしょう。
なお、前回は確認できませんでしたが、モータ等の負荷を加えて出力時の波形を確認しましたが、かなりの逆起電力の発生が見られました。この点からも、逆起電力防止のフライホイールダイオード(ショットキーバリアダイオードが最適)の存在が重要である事が確認できました。
尚、スピードアップコンデンサやフライホイールダイオードについては、「
電子回路で遊ぼう!
」内の「電子回路」>「トランジスタ回路入門」の「
トランジスタをスイッチとして使う
」を参照させて頂きました。とても良い資料なので、是非ご一読を!
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