このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

上級ディベート教材の家

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  歩道橋は必要か


 みなさんの家の近くに歩道橋がありますか。よく利用しますか。それとも、歩道橋を無視して道路を横切ってしまいますか。
 歩道橋は昔はあまり見ませんでしたが、自動車の普及 にともなって 、歩道橋も増えてきました。今では、交差点はもちろんのこと、学校の近く、駅の近く、歩道橋は都市の一つの景観として定着しています。
 今回はこの歩道橋 をめぐる 「熱い戦い」を考えてみます。なお、課題文は実際にあった事件を元に書かれたものであります。地名はすべて仮の名前にしてあります。


これが歩道橋です(課題文の歩道橋とは無関係です)



 東埼玉県(ひがしさいたまけん:仮名)内の歩道橋 をめぐって 行政と警察が熱い「撤去論争」を 繰り広げている。

 歩道橋の管理者である川鳩市(かわはとし:仮名)は「利用率が極めて低く、近くには横断歩道もあり、もはや 無用の長物 となっている」として、撤去する方針を 打ち出した

 一方の警察は「歩行者の安全を守るために、歩道橋は 欠かせない ものである」と反論している。

 問題の歩道橋は、川鳩市上里(うえさと:仮名)地区にある「上里駅前歩道橋」で、幅10mの県道(二車線)を またいでいる 。昭和40年代の初めに設置され、当時は、この付近に横断歩道がなく、上里駅の利用客には大変喜ばれ、大いに利用されていた。

 ところが、昭和50年の終わり頃、歩道橋のそばに信号機付きの横断歩道が完成すると、事態は一変した。ほとんどの人が横断歩道を利用するようになり、歩道橋を渡る人は大幅に減ってしまった。

 今では、「歩道橋の階段があるので、歩道が狭くて歩けない」「古くさくて、景観がよくない」「後ろの駐車場の出入り口をふさいでいる」などと批判が続出し、すっかり じゃまもの扱い されている。



 そこで、川鳩市はある週の月曜日に利用者の調査を行った。その日は一日合計2995人が歩道橋または横断歩道を使って駅にきた。しかし、歩道橋を利用した人はわずか85人 に過ぎなかった 。川鳩市は「全体の2.8%しか利用していないので、撤去しても影響はない はずだ 」と判断し、歩道橋の撤去を決定した。

 ところが、警察はこれに 「待った」をかけた 。「たとえ少数でも利用者がいる 限り 、撤去するのは好ましくない」というのが理由である。警察によれば、県内には約530の歩道橋があるということだ。大部分は昭和40年代のいわゆる「 交通戦争 」の頃に設置されたもので、当初は交通弱者を守る安全施設として、非常に注目された。ところが、最近は「回り道になる」「階段を上るのが面倒くさい」などという理由で、 そっぽを向かれる ようになった。




 県内での歩道橋撤去は、これまで地域の再開発事業で撤去されたものがいくつかあるそうだが、安易に撤去を認めると、次々に取り壊される 恐れがあり 、歩行者の安全が 脅かされる のではないかと警察では心配している。

 一方、川鳩市側は「調査の時、歩道橋を利用した85人のうち、80人は幼稚園児が近くの公園の行き帰りに利用したもので、大人の利用者は数人に過ぎない」ので、実質的には歩道橋の利用者はいなかったと考えてよいと主張している。市長も「問題の歩道橋は、利用者が極端に少なく、地元住民からも要請があるので、撤去の計画を進めている」と話している。

警察は今のところ横断歩道での事故がないので、問題は起きていないが、事故はいつ起こるかわからないので、なるべく歩道橋を利用して欲しいと訴えている。
 
 人と車が平面で交差しないという優れた利点を歩道橋は持っている。一方で歩道橋は階段を上らなければならないし、雨の日などは滑りやすく危険だという意見もある。老人や体の不自由な人にとって、階段はきつい。また、道路とは人が歩くためにあるもので、もともと歩行者のものだ。それが車が増えたことによって、歩行者が歩道や歩道橋に 締め出された のである。本来ならば、車が歩道橋を走るべきなのだ。

 「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というようなジョークが流行する 反面で 、歩行者の犠牲が急増している。歩道橋の新しいあり方を真剣に考える必要があるようだ。








 

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