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中里介山 (なかざと・かいざん) 1885〜1944。




※小説「大菩薩峠」に出てくる主な登場人物の紹介は、 こちら


大菩薩峠21・無明の巻  (青空文庫)
長編。
甲州・上野原の月見寺で寺の娘・お雪の保護を受け、養生する机竜之助。清澄の茂太郎を連れて、月見寺にやって来たおしゃべりの盲法師・弁信を、「音無しの構え」で斬ろうとする竜之助の心…。

駒井甚三郎の子・登を産んだお君だが、産後不良のため、お松や宇治山田の米友に看取られ、死んでしまう…。

「友さん…それでは、わたしを間(あい)の山(やま)へ連れて行って下さい…駒井の殿様へよろしく申し上げて、さあいっしょに帰りましょう…鳥は古巣へ帰れども、往きて還らぬ死出の旅…」。

遊女・東雲(しののめ)の身請けが叶わず、絶望する宇津木兵馬…。栃木の大中寺に逼塞(ひっそく)した神尾主膳は果たして改心した?

主な登場人物をざっと挙げてみると、こんなにたくさん…。

机竜之助、宇津木兵馬、神尾主膳、駒井甚三郎、お松、お君、宇治山田の米友、ムク犬、お絹、お角、お銀様、お雪ちゃん、裏宿の七兵衛、がんりきの百蔵、道庵先生、慢心和尚、弁信法師、清澄の茂太郎、水車番の与八、郁太郎…。

これだけのメンバー(まだまだ増えますよ)を明るく楽しく温かく時に無常にありがたく満遍なく動かしていく著者の手腕に改めて敬服! ますますのめり込んでいく大長編時代小説・第21話。

大菩薩峠22・白骨の巻  (青空文庫)
長編。
湯治のために、信州・白骨(しらほね)温泉へ向かう机竜之助と少女・お雪だが、塩尻峠で不埒な剣客・仏頂寺弥助たちに因縁をつけられてしまう…。

「あれ、大変です、斬り合いが始まってしまいました、どうしましょう、どうしましょう、大勢して先生一人を殺そうとしています、かわいそうだわ、目の見えないものを、あの憎らしい人たちが寄ってたかって──」。

愛する竜之助を追って江戸を出立するお銀様…、江戸へ戻って来た神尾主膳と早速に同居する妖婦・お絹…、誰に対しても「様」を付けて呼ぶと宣言する長者町の道庵先生…、お君の遺児・登を連れて、武州・沢井の水車番・与八のところへ引き移るお松…。

女軽業の親方・お角の家に出入りする金助と、お角の娘分・お梅のやり取りが落語みたようで笑える。大長編時代小説・第22話。

大菩薩峠23・他生の巻  (青空文庫)
長編。
お銀様が机竜之助の行方を探していると知った宇津木兵馬は、奇なる因縁でお銀様と行動を共にするが…。

「わたしは好きな人を探しに行く、あなたは、どうでも、その人を殺さなければならないのですね」
「その通りです、彼を討たんがために、わたくしはこの年月を苦心致しました」
「けれども、わたしは、またあの人がなければ、生きていられないのですよ」

信州・白骨温泉に到着した机竜之助とお雪ちゃんは、好色の後家婆さんと意気地なしの男妾(おとこめかけ)・浅吉と同宿になる。一方、清澄の茂太郎は、月見寺にやって来たがんりきの百蔵に捕まってしまい、弁信法師と離ればなれになってしまう…。いよいよ旅に出発した長者町の道庵先生と宇治山田の米友のハチャメチャ珍道中…。

無邪気で人懐っこいお雪ちゃんの純粋さや、大声でヘンテコな自作の歌を歌う茂ちゃんの子供らしい様子、与八とお松が始めた寺子屋の平和で幸福な情景などを読むにつけ、国枝史郎「猿ヶ京片耳伝説」、宮沢賢治「風の又三郎」、壺井栄「二十四の瞳」をちょっと思い出し、心が洗われる。大長編時代小説・第23話。

大菩薩峠24・流転の巻  (青空文庫)
長編。
軽井沢で長者町の道庵先生とはぐれてしまった宇治山田の米友は、無頼漢に酷い目に遭わされる道庵を、得意の杖槍で助け出す。死んだお君のことを引きずり、ふさぎ込む米友を、「霊魂不滅説」を説いて慰める道庵だが…。

「友様……人間には魂と肉体というものがあって、肉体は魂について廻るものだ、肉体は死んでも魂というものは残る。早い話が、家でいえば肉体は、この材木と壁のようなものだ、たとえばこの家は焼けてしまっても、崩れてしまっても、家を建てたいという心さえあれば、材木や壁はいつでも集まって来るぞ。で、前と同じ形の、同じ住み心地の家を、幾度でも建てることができるぞ……いいか、その心が魂なんだ。だから人間に魂が残れば、死んでもいつかまた元通りの人間が出来上って来る、だから何も悲しむがものはねえ……お前の尋ねる人も魂が残っているから、いつかまたこの世へ生れて来るんだ、しっかりしろ」  

信州の松本で、市川海老蔵ならぬ海土蔵(エドぞう)一座の歌舞伎を見物する道庵と米友など、今回のお話は二人の珍道中がメインとなっていてめちゃ楽しい。「友様」、「先生」と呼び合う二人の主従関係は超最高! どこまでも面白い大長編時代小説・第24話。

大菩薩峠25・みちりやの巻  (青空文庫)
長編。
純潔であるにもかかわらず、自分は妊娠したのではないかと苦悩するお雪ちゃん…、徳川の御宝蔵を拝むため江戸城へ潜入するも、何とも言えない「浅ましさ」を感じてしまう裏宿の七兵衛…。

「何をクヨクヨしているの、お雪ちゃん……もしねんねが生まれたら、大切に育ててお上げなさいな、それがイヤなら、おろしておしまい、間引いておしまい、殺しておしまい」。

房州・洲崎(すのさき)で一家のように暮らす駒井甚三郎たちのところに闖入してきた異国人のマドロス君…、浅間の宿に宿泊する宇津木兵馬の部屋に闖入してきた泥酔の芸妓・松太郎…。この二人の闖入者による二転三転の騒動が何とも楽しい。大長編時代小説・第25話。

大菩薩峠26・めいろの巻  (青空文庫)
長編。
机竜之助の父・弾正に拾われて育てられ、机家の水車番となった生い立ちの与八。不明だった実の親が明らかに! その人物は?

「ねえ、与八さん、もし、お前の本当のお父さんという人が、悪い人だったら、どうしますか」
「悪い人だって、親は親だからなあ」
「でも、その悪いというのが、ただ喧嘩が好きだとか、お酒のみだとかいうばかりじゃなく、もしかして、悪い罪を犯している人だったらどうします」
「悪い罪を犯したって、犯さなくったって、血を分けた親子の縁というものは、切っても切れねえだろう、ねえ、お松さん」

偶然の成り行きで浅間温泉の芸者・松太郎と道連れとなるが、厄介な仏頂寺弥助たちと再会してしまう宇津木兵馬…。小田原でさらし者にされてしまったがんりきの百蔵を助けてやる女軽業の親方・お角…、般若の面を頭にのせた姿から「海竜(うみりゅう)」が出たと村中で大騒ぎになってしまう清澄の茂太郎…、実家である藤原家の屋敷を火事にしてしまったお銀様の心と、おしゃべり弁信法師のありがたい説教…。

木曽福島までやって来た長者町の道庵先生と宇治山田の米友の旅。生活のためやむなく娘を売って馬を買ったという百姓と出会った道庵先生は…。

「待っていなさい、もう一応考え直してみるてえと、娘を売って馬を買う、娘を売らなきゃあ馬が買えねえ、馬を買わなけりゃ一家が養えねえ、一家を救おうとするには馬を買わなきゃあならねえ、馬を買うには娘を売らなきゃならねえ、娘を売るてえと……ああ面倒臭い、どうどうめぐりをしているようなもんだ、何とか、いい工夫は無(ね)えものかなあ」

川で溺れた人も助けちゃう道庵先生と米様はエライ! 中里介山版「東海道中膝栗毛」ますます絶好調! 主要な登場人物たちの日々をほんわかしみじみ描いていく大長編時代小説・第26話。

大菩薩峠27・鈴慕の巻  (青空文庫)
長編。
机竜之助が吹く尺八の音とも知らず、信州・白骨温泉まで引き寄せられて来た宇津木兵馬。親切なお雪ちゃんの世話を受ける兵馬だが、果たして敵(かたき)である竜之助の存在を感じることができるか?

「……それから先生、昨晩は夢をごらんになりましたね」
「夢なんぞは毎晩のように見るよ、昨晩に限ったことはありません。そら、明るい目で物が見えないだろう、だから、物を見ないで、夢を見るのが本職のようなものさ」
「そうおっしゃればそうかも知れませんねえ。いったい、どんな夢をごらんなさるの」
「どんな夢といって、夢のことだから、とりとまりはないのさ。けれども不思議だな、夢を見ているうちだけが、人間らしくなるよ」

この小説の骨子である(はずの)机竜之助と宇津木兵馬の対決がなかなか実現しないのは、「原稿の回数をひきのばすため」ではなかったのですね(笑)。大長編時代小説・第27話。

大菩薩峠28・Oceanの巻  (青空文庫)
長編。
銚子の海で沈没した外国の密猟船。念願の蒸気機関を入手するため、沈没船の引揚作業を行うことにした駒井甚三郎…。
一方、清澄の茂太郎は、房総第一の高山に登って、仔牛の「チュガ公」と戯れたり、洲崎(すのさき)の陣屋に戻って、岡本兵部の娘・もゆると一緒に、浦賀に現れた黒船を眺めたり…。

「おや、お前はチュガじゃないか、ああ、チュガだね、チュガ公……」。

親がいない同士の茂ちゃんとチュガ公の交流が素晴らしく心温まる。いつもながら茂ちゃんの出まかせの即興歌がヘンテコで何だか楽しい大長編時代小説・第28話。

大菩薩峠29・年魚市の巻  (青空文庫)
長編。
名古屋までやって来た道庵先生と宇治山田の米友の珍道中…。一方、お銀様も女軽業の親方・お角さんに連れ出されて名古屋へ…。
机竜之助を連れて白骨温泉を出立しようと思い定めるお雪ちゃんの白川郷への憧れ…。飛騨の平湯の温泉に着いた宇津木兵馬は、死んだ嫂(あによめ)・お浜と邂逅する…。

「憎めないのは、わたしばかりじゃない、兵馬さん、お前だって、本心からあの人を憎んじゃいないのでしょう」
「そんなはずがあるものですか、倶(とも)に天をいただかざる仇敵です」
「強いて憎もうとしているんじゃありませんか」
「そんなはずはありません」
「許しておやりなさい、ね、兵馬さん」

岡本兵部の娘・もゆるが、酔いどれのマドロス君に辱めを受けたと知った駒井甚三郎だが、当のもゆるからマドロスを許してやってほしいと言われ…。船を製造して海外へ移住するという駒井甚三郎の計画を聞かされ、自分の前途への希望を見出す裏宿の七兵衛…。

とっつかめえた/とっつかめえた/星の子を/とっつかめえて/五両に売った/五両、五両/五両の相場は誰(た)が立てた/八万長者の/ちょび助が……

得意の即興歌を歌う清澄の茂太郎を見兼ねて、「星の歌」を教えてあげる駒井甚三郎だけど…。科学vs即興! 茂ちゃんが出てくると、嬉しくて、楽しくて、何故か涙腺が緩んじゃう。オールスターキャストが繰り広げる大長編時代小説・第29話。

大菩薩峠30・畜生谷の巻  (青空文庫)
長編。
机竜之助を連れて、憧れの白川郷を目指し白骨温泉を出立したお雪ちゃん…。飛騨の高山にやって来た宇津木兵馬は、英気溌剌ゆえにこの地に幽閉されている高村卿の公達(きんだち)にすっかり気に入られ…。

名古屋での待遇の良さに有頂天になっている道庵先生は、大聴衆の前で講演するが…。香具師(やし)に売られて行く可哀相な小熊と出会った宇治山田の米友は、「絶対的にこの熊を救わなければならない」と思い決める…。

「ムクはいい犬だったなあ、いい犬だよ、あんないい犬は、天下に二つとはありゃあしねえ、今はどこにどうしていやがるか」「こいつは、ムクの子かも知れねえ」「こっちで買うんだ、この熊はよそへはやれねえ……」。

今回も先生と米様のドタバタ喜劇が楽しめる大長編時代小説・第30話。



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