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中里介山 (なかざと・かいざん) 1885〜1944。




※小説「大菩薩峠」に出てくる主な登場人物の紹介は、 こちら


大菩薩峠31・勿来の巻  (青空文庫)
長編。
時節柄、房州・洲崎(すのさき)も物騒となり、安全な場所まで船出することにした駒井甚三郎。駒井の船に乗るため、郁太郎(竜之助の子)と登(駒井の子)を連れて、武州・沢井を出立するお松。日本中の霊場巡りをしたいという水車番の与八と涙のお別れ…。

「なあ、会うは別れのはじめ、別れは会うことのはじめなんだから、歎くことはねえだあね。お松さんが、東の方へ行って船に乗り、わしが西の方へ行って霊場巡りをしたからといって、会える時節になれば、またいつでも会えまさあね」

しばらく鳴りを潜めていた“辻斬り”の病が兆す机竜之助…。根岸に閑居している神尾主膳は、この頃、何をやってもさっぱり面白くないそうで…。

「郁……郁坊」、「与八さん」、「郁坊か」、「与八さん」、「郁……」、「与八さん」、「お前、戻って来たのカイ」。

与八と郁太郎の肉親以上の心の結びつきに涙がポロポロ…。大長編時代小説・第31話。

大菩薩峠32・弁信の巻  (青空文庫)
長編。
女好きの新お代官・胡桃沢に拉致されてしまったお雪ちゃん。それを知った机竜之助は、胡桃沢の首を斬り落とし、胡桃沢の愛妾・お蘭を連れて飛騨・高山から逃亡する…。

「あなた様があれほどな大罪を犯しなさらなければ、わたしの身体が欲しいと思召(おぼしめ)すならば、わたしの身体だけを奪ってお持ちになればいいのに、飛騨の国のお代官を殺してしまっては、飛騨一国の小石の下にも、草の根本にも、身を置くところはございません」
「困ったな!」
「全く、あなた様は悪いことをなさり過ぎました」

ひとまず陸前・石巻へ向かって蒸気船「無名丸」を出航させる駒井甚三郎…、巡礼の旅に出発した水車番の与八と郁太郎…、砂金堀りの少年・忠作と再会したお絹…、焼ヶ岳が噴火してもまったく動じない弁信法師…、例の折助連(安直と金茶)の反逆に慌てて名古屋を出立する道庵先生と宇治山田の米友…。

神尾主膳の屋敷を遊び場にしていた少女が吉原に売られる話や、盗賊である父親の磔刑(はりつけ)に立ち会う少女(小尼)の話など、小さなエピソードも印象に残る。

人を斬り殺して、女と駆け落ちするパターンは第一話を彷彿とさせ、女の助けと血を見なければ生きていられない宿命の悪のヒーロー・机竜之助、久々に本領発揮! 物語が動き出した感のある大長編時代小説・第32話。

大菩薩峠33・不破の関の巻  (青空文庫)
長編。
高山方面のメンバー(机竜之助、お雪ちゃん、弁信など)と、名古屋方面のメンバー(お銀様、米友、お角など)が関ヶ原に集結! 再会や新しい出会いで物語はこの先どうなる?

「ねえ、友さん、お前、さっきのことをどう考えました」
「さっきのことって何だえ」
「おや、この人はもう忘れてしまったのかい。ほら、道庵先生のおともの方を断って、わたしたちと一緒にこれからの旅をすることさ」
「うーむ」

甲州・有野村の藤原家の当主・伊太夫(お銀様の父)にすっかり気に入られる水車番の与八と郁太郎…、お絹(マダム・シルク)のお蔭で異人相手の商売を思いつく砂金堀りの忠作…、お松に対する兵部の娘(もゆる)の嫉妬が悩みの種となる駒井甚三郎…、関ヶ原で前代未聞の大模擬戦をやる破目に陥る道庵先生…。

「友さんなら、かまいません、こっちへお入りなさい、そうして、わたしのために背中を流して頂戴な!」

火傷の素顔を人には絶対に見せない覆面のお銀様が、米友に心を許している様子に安堵を覚える。大長編時代小説・第33話。

大菩薩峠34・白雲の巻  (青空文庫)
長編。
牡鹿(おじか)郡の月ノ浦に蒸気船「無名丸」を着船させた駒井甚三郎。裏宿の七兵衛の働きで、旅絵師・田山白雲と駒井は久々に再会する。

岡本兵部の娘(もゆる)を連れて船を逃げ出してしまうマドロス君…、町奉行の内命を受けた仙台の盗賊・仏兵助(ほとけひょうすけ)に捕縛されてしまう裏宿の七兵衛…。

「お前は本当にいい犬ですね、いつもこんなにしてもとの御主人のお君さんを護っていたのですね。でも……お前ほどの神(しん)に通じた強い犬でも、それでも人間の運命というものは、どうすることもできませんでした、お君さんの身を守ったけれども、命を助けることはできませんでした。今、その親切を、わたしたちにしてくれる……」

毎回、登場人物たちの口を借りて語られる中里介山の博識ぶりに驚嘆しきりの大長編時代小説・第34話。

大菩薩峠35・胆吹の巻  (青空文庫)
長編。
胆吹山(いぶきやま)の麓(ふもと)の広大な土地を購入し、思い通りの理想の国を作ろうと開墾事業を始めたお銀様。お雪ちゃんの夢の中で議論を交わすお銀様と机竜之助…。

「拙者の考えでは、理想郷だの、楽土だのというものは、夢まぼろしだね。人間の力なんていうものも底の知れたものさ。天は人間に生みの苦しみをさせようと思って、色だの、恋だのという魔薬をかける、人間がそれにひっかかって親となり、子を持つようになったらもうおしまいさ。生めよ殖やせよだなんて言ってるが、ろくでもない奴を生んで殖やしたこの世の態(ざま)はどうだ。理想の世の中だの、楽土なんていうものは、人間のたくらみで出来るものじゃない、人間という奴は生むよりも絶やした方がいいのだ」

当主・伊太夫(お銀様の父)に請われるまま、有野村の藤原家に腰を据えた水車番の与八は、いつの間にか周りに集まってきた村里の子供たちに、お松ばりに勉強を教えたり、道庵ばりに怪我を治したり…。与八の善行ぶりに自然と涙が溢れる。もはや神であられる。大長編時代小説・第35話。

大菩薩峠36・新月の巻  (青空文庫)
長編。
飛騨の高山で再会した芸妓(げいしゃ)・福松(松太郎)に泣き付かれ、一緒に加賀の白山へ向けて出立する宇津木兵馬…、宇治山田の米友に心を許すお銀様は、米友を誘惑(?)…、性の問題で活発に議論する道庵先生とお雪ちゃん…。

「先生は、卑怯なんでございますね、もし、その上わたしが、では子を堕(おろ)す仕方はどう、またそのいい薬があったら教えて頂戴と、本当に切り出したらどうなさいます。それから、間(ま)びくというのは、どんなことか、その仕方や実例なんぞを挙げて教えて下さいと伺ったら、どうなさいます。ごまかしたっていけません、わたしはこれでもすべて物事に徹底しないと、やめられない学問の癖があるのでございますから、途中でおやめになっては罪です、わたしが許しません、先生らしくもない」
「よし来た、じゃあ、聞くがな、お雪ちゃん、お前は孕(はら)んだことがあるかい、ないかい」
「えッ」

宇津木兵馬との絡みで度々登場してきた剣客・仏頂寺弥助と友人・丸山勇仙が何と自殺! 厄介キャラで端役だったとはいえ二人の自殺は衝撃的だ。「何故に生きねばならないかの疑問と、これより先へは一寸も歩けない倦怠」が自殺の理由なのだから、人ごとじゃない?! 大長編時代小説・第36話。

大菩薩峠37・恐山の巻  (青空文庫)
長編。
恐山からやって来た長剣短身の青年・柳田平治と、北上川の渡頭(わたしば)で出会った田山白雲。駆け落ちしたマドロス君(ウスノロ氏)と兵部の娘・萌(もゆる)を取り押さえた白雲は、二人を「無名丸」に連れ戻す…。

「オ嬢サン、アナタ、モウ、ワタシノモノアリマス、逃ゲラレマセン」
「ばかにおしでないよ、お前さんなんて、ウスノロのくせに」
「アナタ、モウ、ワタシニ許シタデス、ワタシモウ、アナタ離サナイデス」
「しつこい奴ね」
「アナタ可愛クテタマラナイデス」
「可愛がって下さるのはいいけれど、それほど可愛いものなら、わたしを大切にして頂戴、ね、ね」

道連れの芸妓(げいしゃ)・福松と飛騨・小鳥峠を行く宇津木兵馬は、自殺した仏頂寺弥助と丸山勇仙の亡霊と邂逅(かいこう)する…。机竜之助に小指を殺(そ)ぎ落とされてしまうがんりきの百蔵…、富士山へ登山参詣した帰りだという老婆に親切にする水車番の与八…、長浜の知善寺に寄留している浪人・青嵐居士(せいらんこじ)と知り合う宇治山田の米友…。

「まあまあ、お前さんは、歳(とし)どんじゃないの、歳どん」
「は、は、は、こりゃ珍しい、両国の親方じゃないか」

両国の女軽業の親方・お角は、新撰組の副将・土方歳三(ひじかたとしぞう)と近づきだった! 兵部の娘・萌(もゆる)のツンデレぶりも面白い大長編時代小説・第37話。

大菩薩峠38・農奴の巻  (青空文庫)
長編。
草津の辻で冤罪の晒し者になってしまった宇治山田の米友。打首まぢかの大ピンチ! 琵琶湖上でお月見をするお雪ちゃんだが、机竜之助に「死にたい」という願望を訴える…。

「一思いに、苦しませないでね」
「よしよし」
「あ、切ない」
「まだ締めやしない」
「でも、先生、こうして確かに殺して下さるんですね」
「お前が、あんまり死にたがるから」

奥州の台(だい)の温泉(ゆ)で、捕方の仏兵助(ほとけひょうすけ)に追い詰められた裏宿の七兵衛。湯壺の若い娘・お喜代を人質に取るが…。

「いったん男に肌を見られた女は、もう、ほかへお嫁に行けねえんだそうでございます」
「な、な、なんですって」
「もし、あなた様はこの娘の面倒を見て下さらなければ、この娘は死ぬよりほかは行き場所のない子なんでございます」
「な、な、なんですって」

生命の危機に直面する三人(米友、お雪、七兵衛)の運命や如何に! 大長編時代小説・第38話。

大菩薩峠39・京の夢おう坂の夢  (青空文庫)
長編。
琵琶湖上で心中らしき男女を助け上げる女軽業の親方・お角。この男女の正体はもしや? お銀様と伊太夫の親子を対面させようと奔走する不破の関守氏…。百姓一揆の気運が高まる中、胆吹王国の留守を預かる青嵐居士の手腕…。

裏宿の七兵衛とお喜代も無事に乗り込んだ駒井甚三郎の無名丸は、陸中・釜石を出帆して太平洋上へ…。旧友・中川健斎(山城・田辺の医者)と再会した長者町の道庵先生…。勝海舟の父親が書いた自叙伝「夢酔独言」を夢中になって読む旗本・神尾主膳…。

机竜之助の夢魂の中で展開される新撰組の近藤勇と伊東甲子太郎の抗争! さすがの描写力で暗殺場面を読ませる。

「上代に於て源氏物語、近代に於て八犬伝、この二つは日本に於て、名立たる長篇大作でげして、世界にも類のないものだと承りました。尤(もっと)も未来に於きましては、大菩薩峠などというやつが出て参りまして、これは八犬伝に源氏物語を加え、これに何倍をしてもまだ足りない代物(しろもの)と聞きましたが、こんなのは化け物のようなもので、人間の仲間へは入りません、よろしく敬遠黙殺の——」

紫式部の源氏物語、曲亭馬琴の南総里見八犬伝をはるかに凌駕する前代未聞の長篇大作・第39話。

大菩薩峠40・山科の巻  (青空文庫)
長編。
山科の光悦屋敷を買い取ったお銀様に、重要美術品の蒐集を提案する不破の関守氏…。京都に現れた机竜之助は、色里・島原で遊んだり、新撰組の斎藤一と交流したり…。福井で温泉宿を持つ夢を見出した芸妓・福松と手際よく別れた宇津木兵馬だが、何か大事なものを落として来たような気になる…。

「それにしてもあたし、福松て名はドコへ行っても変えないことよ、それは、あなたにわかり易いために、何家の福松っておたずねになれば、すぐにドコのドの小路(こうじ)にいるということが、すぐにわかるように、福松って名はいつまでも変えないわ」

引き続き、勝海舟の父・夢酔道人の自叙伝「夢酔独言」に読みふける神尾主膳…。郁太郎(竜之助の子)の教育のことを考える与八…。

「与八、お前は貧乏に生れて、棄児にされたその運命を恨んではいけないぞ、その運命というものが、お前を教育する恩人だということを忘れちゃいけないぞ、わしがこうして長年の病気を、人は不幸だと思うけれども、わしにとってはこの病気によって教育されたことが大きい、それと同じこと、人間がよくなる、悪くなるということは、物があり余って、立派な親、師匠がついているいないということではないぞ、貧乏はこの世界の最もよい教師だということを忘れるなよ」

この物語も次回が最後だと思うと、寂しくて、悲しくて、涙が出てくる…。世界第一の長篇小説・第40話。

大菩薩峠41・椰子林の巻  (青空文庫)
長編。
太平洋上の無人島に上陸した駒井甚三郎の無名丸。遂に理想の国建設の第一歩を踏み出す。船長と秘書の関係だった駒井とお松が電撃結婚! 一方、神尾主膳はお絹と仲良く京都へ行くことに。こちらも幸せ気分。

「わたしは極めて平静の心を以て、これを言いますが、お松さん、あなたはわたしと結婚しなければなりません、駒井甚三郎は改めて、お松どのに結婚を申し込むのです、秘書として、助手としてではない、妻として、あらゆるものを駒井に許すのです、それをわたしは今ここで、あなたに要求したい」
「承知いたしました、わたくしは、あなた様のお申出でを、このまま素直にお受入れ致します」

机竜之助は胆吹山の女賊に殺されたと思い込む宇津木兵馬…。洛北岩倉村の岩倉邸の前で大騒動を起こす宇治山田の米友とがんりきの百蔵。久々面目躍如! 机竜之助は大原・寂光院の美しい老尼の世話に…。

「およそ自分の理想の新社会を作ろうとして、その実行に取りかかって、失敗しなかったものは一人もありません、みな失敗です、駒井さん、あなたの理想も、事業も、その轍(てつ)を踏むにきまっています、失敗しますよ」

読み終わった達成感よりも、読み終わってしまった寂寥感の方が…。足掛け五年ぐらいかけて全巻を読了した次第だが、これだけ長く「大菩薩峠」の世界に浸っていると、登場人物たちが身近に感じられ、もはや他人とは思えない。登場人物たちの身の振り方も大よそ決まった感じとはいえ、作者死亡のため未完のまま終ってしまったのは残念でならない。せめて机竜之助と宇津木兵馬が対面する場面(もはや対決は望まず)を見たかった…。これから寂しくなるなあ。そうだ、もう一度、第一巻から読み返そっと。



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