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ロマンスカーMSEの東京メトロ乗入れの効果を考える

−積極的ダイヤ施策と企業・沿線の価値向上の関係−



TAKA  2007年10月28日




ロマンスカー都心乗り入れの主役60000型MSE(Multi Super Express)@海老名車両基地(10月29日午後ホームより撮影)


※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 物事何事もそうですが「固定観念」に凝り固まって見ていると視野が狭くなり冒険的な物の見方が出来なくなります。
 鉄道をある程度知る人間にとって「大手民鉄の有料特急が地下鉄に乗り入れる」という事は「夢」や「妄想」の世界の話で有り、現実の世界の話としては考えづらいもので有ったといっても過言ではないと思います。
 ですから2005年7月に公表された 小田急ロマンスカーの東京メトロ千代田線への乗り入れ という話には正直驚かされました。正しく「驚天動地」というのが私の感じた心境です。私も05年に交通総合フォーラムで「 VSE投入に続くロマンスカー活性化の「次の一手」が登場? 」を、06年にはTAKAの交通論の部屋で「 「夢」で語られる事が「現実」になる時代が来たのか? 」という一文を書きましたが、小田急電鉄に関して色々な側面から見てきた私も此れには本当に驚かされました。
 今回2008年3月からの直通ロマンスカー運転開始について、乗入車両の60000型MSE(Multi Super Express)の完成・公表に合わせて 乗入れ内容の詳細が公表 されましたが、これ又驚かされる物でした。乗り入れ開始直後は「手堅い需要に裏付けされたライナー需要対応の夕ラッシュ時下り運転」がメインになるのかな?とは思っていましたが、その様な安易な予想は覆されてしまいました。
 このロマンスカー乗り入れに関するダイヤ改正の骨子は「平日は「ビジネス特急」を計4本(上り1本、下り3本)・休日は日中に北千住⇔箱根湯本間を直通で結ぶ「観光特急」ほか、計6本(上り3本・下り3本)・臨時で有楽町線への乗り入れ(臨時列車として、土休日のうち年間30日程度)・成城学園前のロマンスカー停車駅追加」という内容になりました。
 確かに内容を見ると「一気に三段跳びだな」と驚く内容です。私としても「6両1編成+4両2編成しかないMSEを此処まで使うか!」といいたくなるほどの充実した内容で「メトロへの乗り入れは堅実なライナー需要が成功すれば観光対応へも進化するだろう」と段階的な進化を考えていたので、「ここまで思いきった乗り入れダイヤを組む」と言う事は驚かされましたが、その内容について「小田急グループの経営戦略」という視点から考えると「大胆なダイヤ構成」とは言えますが「なるほど説明がつくな」という物だと、興奮が冷めて冷静に考えると思えてきました。
 この事について交通総合フォーラムで和寒様が先に「 小田急MSE北千住さらに新木場へ 」という一文を書かれているので、私は少し視点を変えて「小田急グループの経営戦略」という点から今回のロマンスカー乗り入れについて考えて見たいと思います。

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 ☆小田急グループの経営戦略から見た「ロマンスカー千代田線乗り入れ」

 小田急グループの経営戦略の基本は「 グループ経営理念・事業ビジョン 」と言う形でHPにも出ていますが、要は鉄道を中心とした「総合生活産業」として鉄道を軸に交通・不動産・流通等のグループ全体の事業を沿線に展開して沿線地域に利便性を提供すると同時に収益を上げていくというのが基本的な姿勢といえます。
 この考え方自体は鉄道会社としては決して珍しくない考え方です。珍しくないと言うより一番ポピュラーな経営戦略です。鉄道を軸に交通産業グループとして規模の大きい東急グループ・阪急グループも正しく「沿線に鉄道を軸に周辺産業を展開しそれを軸に全国展開を図る」という事で成長してきました。あくまでも鉄道事業者の「事業の根幹」は鉄道沿線に有りそこから成長して今の形を作り上げているのです。その点からいえば小田急の考え方も又「王道の戦略」といえます。
 その中で大須賀賴彦小田急電鉄社長を始め小田急グループのトップが良く使う言葉に「グループ価値の向上」「沿線価値の向上」という言葉が有ります。これは「沿線価値を向上させれば其処を収益源にしている小田急グループの価値も上がる」という考え方で有り、此れも又特段に珍しい話では有りません。
 しかも小田急沿線は極めて高いブランドイメージを持つ多摩田園都市を中心とした東急沿線・「阪急平野」との異名を持つ阪急沿線と並んで、極めて高いブランドイメージを持っています。又「小田急」という3文字の言葉自体にも「ロマンスカー」「箱根の観光地」「世田谷成城の高級住宅街」等のハイエンドなイメージが重なり高いブランドイメージを持っています。
 東急・阪急に並ぶといっても過言でない小田急の高いブランドイメージを上手く使い、沿線の価値を高めて、その価値向上分を自分たちのグループの収益にも反映させる事で企業として成長していくのが小田急グループの基本戦略といえます。

 この「沿線価値向上」の為に上手く最大のブランド「ロマンスカー」を使っているのが今の小田急です。
  50000型ロマンスカーVSE の試乗の時にも触れましたが、華の有る新型特急を投入する事でロマンスカーブランドをイメージアップさせると同時に小田急のドル箱の一つで有る箱根観光の活性化を図った事例も有りますが、ロマンスカーに限らずダイヤ改正でお客様の利便性向上と表裏一体の関係で沿線価値の向上(=自社の収益向上)に結び付けている事例は裏を良く考えて見ると幾つも散見されます。
 一番象徴的なのが「ロマンスカー新百合丘停車」による新百合ヶ丘のイメージ向上です。今や新百合ヶ丘は 全線で10位108,803人/日の乗降 が有り、その為ロマンスカー停車と快速急行登場で新百合の利便性はかなり向上しましたが、新百合には幾つもの小田急電鉄のショッピングセンターが有りこれらはどれも好調です。やはり此れは新百合ヶ丘の地域のポテンシャルが上がったと言う事が大きな効果になっておりロマンスカー停車がその大きなプラスになったのと同時に、その効果は多摩急行停車・区間準急乗り入れ等で利便性が増し小田急電鉄のマンション販売が好調な栗平を中心とする小田急多摩線沿線にも広がり大きな「沿線価値の向上」「グループ価値の向上」をもたらしています。
 この事を今回のロマンスカー千代田線乗り入れに当てはめると、「何故此れだけ大胆な施策を行ったのか?」という事が見えてきます。成城学園前への停車は昨年9月オープンの駅ビル「成城コルティ」や高架下賃貸施設を中心とした世田谷エリアの「沿線価値向上」へのロマンスカー停車によるイメージアップを狙っていると見えますし、「メトロはこね」の設定は「箱根観光の活性化」による箱根の価値向上を狙っている事は容易に考えられます。それに千代田線への乗り入れ自体は年5%程度の伸びがある千代田線乗換客へのサービスを充実する事で千代田線沿線へ小田急のブランド的影響力を広げる事を狙って居るといえます。
 しかも今回小田急ロマンスカーは「始めて地下鉄で都心へ乗入れた有料特急」と言う冠を手に入れ、東京の中心の一つ霞ヶ関・大手町へその足跡を残す事がで来ました。このイメージ効果も同時に大きい物だと言えます。加えて和寒様ご指摘の「後背人口の多い北千住発着による首都圏北東方面一円をも視野に入れた広域流動をとりこむ壮図」は小田急の挙げる「 3つの事業領域(ドアツードア・ライフスペース・リビングスタイル)と成長シナリオ(サービスの質的向上・サービスメニューの充実・沿線エリアの面的充実) 」の中でドアツードア(交通事業)における沿線エリアの面的充実(千代田線・東京北東部への足がかり)という意図が秘められているといえ正しく「企業戦略の一環」と言う事が出来ます。
 今回の「ロマンスカーの千代田線乗り入れ」に関して行われた施策には、「沿線価値向上」「グループ価値の向上」と言う戦略の下で、「ロマンスカーブランドを使い如何にして価値向上策を行うか」という事についてVSE登場に続く第二弾の施策として行われたといえます。この用に考えれば今回の「ロマンスカー千代田線乗り入れ」も「思いきった事をした」とはいえますが突拍子もない事ではないといえます。


 ☆それでは説明がつかない「新木場乗り入れ」のサプライズ

 しかし「小田急グループの経営戦略」から考えてもその真意を読む事が出来ないのが「臨時で有楽町線への乗り入れ」です。
 土休日を中心に有楽町線新木場に乗り入れると言うのは確かに「今回の発表最大の最大のサプライズ」であり、和寒様がいわれた様に「 合理的根拠を示しつつ事前にこれを予測できた方はいないと思われる 」程のサプライズであるといえます。実際私も予測どころか想像も出来ませんでした。確かに前例と言う点では過去に 東京湾大華火祭に伴い唐木田〜新木場間で直通運転 をした事が有りますが、イベントに伴う年に1回の運転と今回のある一定の頻度での予定臨時列車運転ではインパクトの大きさが異なります。この様な事からも新木場乗り入れは「技術的には可能でも誰も実現するとは思わなかった直通運転」で有ったといえます。
 このサプライズ直通運転が予想出来なかったか?といえば、今までの小田急グループの事業展開で江東・湾岸地域等の有楽町線沿線を視野にいれた物が何も無かったからです。北千住への乗り入れは地域に小田急グループの事業展開は無いですが、小田急グループ自体で「千代田線代々木上原〜綾瀬間全線が乗り入れ区間で沿線に準じる地域」と言う認識がある為「北千住発着で箱根観光の広大な後背地を得る」と言う発想は決して驚く事では無いといえます。有楽町線・新木場乗り入れにはその様なグループとしての布石が今まで殆ど無かった状況での乗り入れになり、その為にこの様なサプライズを呼んだといえます。
 実際「需要は有るのか?」と言う点では、新木場から1回乗り換えれば舞浜の東京ディズニーランド(TDL)&ディズニーシーへアクセス(TDS)出来ますしお台場の臨海副都心へもアクセス出来ます。加えて途中の豊洲は再開発が進んでいますから小田急線沿線からこの地域への「観光・行楽需要」はそれなりに有ると言えます。ですから「沿線の利便性向上」にはそれなりに寄与しますし臨時列車を運転する程度の手堅い需要は確保出来る事は間違い無いです。
 確かに今小田急グループは御殿場ファミリーランドがアウトレットモールに変わり向ヶ丘遊園が閉園して再開発されるなど遊園地事業から実質的に撤退している為、「遊園地業界の雄であるTDL&TDSにロマンスカーが客を運ぶ」という事に心理的抵抗感が無くなった事も今回の乗り入れの背中を押して居るとも予想は出来ます。
 実際営業的な成功の裏付けが合ってこそ今回この様な臨時運転を設定したのでしょうが、この様な設定を考える自体「小田急電鉄はずいぶん大胆な発想をするようになったな!」と思います。確かに営業的には成立する要素が強い列車ですが、既存の発想にとらわれていれば普通は出来る物では有りません。其処から見れば「一度ブレークスルーしてしまえばどんどん壁を壊す事が出来るのだな」と今回改めて感じさせられました。


 ☆「ロマンスカー千代田線乗り入れ」が示す経営とダイヤの相関関係

 確かに今回のロマンスカー千代田線乗り入れは、当初想定の通勤特急のホームウェイを設定するだけで無く、北千住〜箱根湯本間運転の観光列車設定と有楽町線新木場への臨時乗り入れ等、当初構想発表時にアナウンスされていた内容を大幅に越えるものになりました。
 けれどもこのロマンスカー乗り入れは「新木場乗り入れサプライズ」を除いて、決して「大バクチ」等では無く「小田急グループの経営戦略から計算された物」で有ると言う事は間違い有りません。特に「メトロはこね」運転は冷静に解析すれば VSE投入箱根ロープウェイ近代化 など近年目立つ投資を続けていた箱根観光への交通の側面での梃入れ策(と言うか話題作り策)の一つで有り、成算と言う計算の上で行われた物と思う事が出来ます。
 私自身「MSEは通勤仕様だから箱根に乗入れてもVSEで集めたロマンスカー&箱根への注目を引き継ぐ次の一手になるか疑問」とは思って居ましたが、 東武スペーシアの新宿乗り入れ 程劇的なインパクトは無くても観光のニーズが存在する100万人を越える後背を持つターミナル北千住への乗り入れは、実際に発表されて見れば「近くにロマンスカーが来れば箱根を身近にするインパクトの有る物だな」と言う点で箱根観光を活性化させるものだと感じさせられました。


小田急第二の都心ルート千代田線乗り入れの主役60000型MSE&4000型 @海老名車両基地(10月29日午後ホームより撮影)


 鉄道会社も民間会社で特に大手民鉄各社は上場会社ですから、収益を上げて企業価値を向上させる事は企業の社会的使命として重要な事であり、公共交通機関としての鉄道事業者で見れば「社会的に安定した輸送を提供する事」と「収益を上げて企業価値を上げる事」は企業存立の車の両輪であるといえます。
 その様な使命を達成するために企業が方針として作る物が「経営理念・経営ビジョン・経営計画」等の経営指針で有り、企業はその指針に従い目的を達成する為に指針に基づいた生産・販売等の経済的な活動を行い成果を上げる事を目指します。
 それが小田急電鉄を中心とする企業集団小田急グループの場合、「グループ価値の向上」「沿線価値の向上」が経営指針の根底に有る物で、それに取り重要な経営資源が「小田急」「ロマンスカー」等の全国区のブランドで有り、実際に価値向上・収益確保に使われる商品が実際の鉄道ダイヤで有り関連する副業という事になります。
 ですから鉄道会社の場合経営指針が示す目標に対して、それを実現させる為にその指針へ向かう為に経営資源のブランドを使い商品のダイヤを作成する事になります。その様に考えれば鉄道のダイヤは常識的に考えれば当然ですが、鉄道会社の経営方針に沿って作られる物になります。
 小田急電鉄の今回のロマンスカー千代田線乗り入れに関しては、箱根を含めた沿線価値の向上・箱根観光事業や沿線の不動産事業のグループ価値の向上と言う側面から、堅実な通勤需要相手のロマンスカーのラッシュ時地下鉄乗り入れだけでなく、千代田線沿線・東京東北地域から箱根への観光需要を集めてきて直接輸送による収益効果に加え、箱根の知名度向上によるアナウンス効果で箱根観光を活性化させると言う沿線価値の向上を図り、ロマンスカーが初の地下鉄乗り入れと言うアナウンス効果でロマンスカーブランドのイメージアップでグループ価値の向上を図る事を目的にダイヤが設定されたという事が出来ます。
 その様に考えれば当然の事ですが「鉄道会社の経営とダイヤには相関関係がある」という事になります。ですからよく鉄道会社の経営方針を見定めていれば有る程度ダイヤの改正の方向性が見えてくるといえます。今回私も「大幅な積極策より当座は様子見かな?」と思っていたので此処まで踏み込んだダイヤを組んでくるとは想定できず読み違えてしまいましたが、その点からもやはり「鉄道会社の輸送の進む先を見定めるのはしっかり経営的な側面を見定めないといけないな」と改めて感じさせられました。

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 今回のロマンスカー千代田線乗り入れの内容公開で色々な所で注目を集めましたが、それは色々な所で波及効果を引き起こしているようです。
 ロマンスカー千代田線乗入れ内容の公開直後の10月20・21日に小田急の ファミリー鉄道展 が開かれました。鉄道展自体は毎年開かれていますが、今年は「小田急電鉄創立80周年」という事も有り「歴代ロマンスカー(SE・NSE・LSE・MSE)を並べての撮影会」や「MSEの一般初公開」等の近年無かったイベントが企画されていました。今回のロマンスカー千代田線乗り入れ内容の公開は正しくMSE一般公開に先立ち公表された物ですが、その様な効果が有り今年の鉄道展には昨年の約23,000人の以上の約50,000人を集めて大盛況だったとの事です。いつもは仕事の営業上鉄道展には行くのですが今年は仕事が有り行けなかったのでその混雑の状況を見る事が出来ませんでしたが(お蔭で1週間経っても自分で取ったMSE写真を持っていない・・・)、行列が数百メートル並ぶほどだったと聞いています。
 盛況の理由は「MSE公開と千代田線乗り入れ内容のアナウンス効果」や「(小田急電鉄史上初?の)歴代ロマンスカー勢ぞろいの効果が大きい」ではないか?という話を聞きましたが、どちらにしても「ロマンスカー人気の大きさ」を示している証拠の一つといえます。確かに20日以降の鉄道系ブログ等では何処でも「MSE」の話を取り上げていて海老名の鉄道展にもかなりの鉄道マニアが集まった事は間違い有りませんが、一般来場者も例年以上に多かった様です。此れが多分(私の地元の)西武レッドアロー公開となっても此処まで人が集まらないでしょう。その様に考えれば「ロマンスカー」の人気は非常に大きいと言う事が出来ます。
 沿線に都心から高級住宅地・日本有数の観光地を抱える小田急電鉄の場合、やはり「ロマンスカー」は「通勤輸送」と並んで鉄道輸送の根幹です。しかもロマンスカーは日本で有数の知名度がある列車・車両であり、その知名度効果は 長野電鉄に嫁入りしても発揮 されるなど極めて大きい物が有ります。小田急電鉄が沿線・企業グループの価値を上げるためにはそのブランド力を最大限に使う事が重要で有るといえます。又そのブランド力は「常時注目を集める事」により磨きがかかる物でその意味でもVSE登場・千代田線乗り入れなどで近年と見に注目の集まっているロマンスカーのブランド力はさらに高まって居るといえます。
 今後とも「ロマンスカー」ブランドを向上させる事は小田急グループの価値向上と沿線価値の向上の為には必要不可欠の物であるといえます。その為にもVSE登場・MSE千代田線乗り入れで注目を集めた後二の矢・三の矢としての「話題造りのための一手」が重要であるといえます。果たして次に何が出てくるのか?興味深いといえます。




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