東武3月ダイヤ改正訪問記
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東武3月ダイヤ改正は何を変え・何をもたらしたのか?





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 この様に今回3月18日の東武鉄道のダイヤ改正に対して 改正前の3月12日改正後の4月1日 の二日にわたり現地を訪問して、今回の東武の白紙ダイヤ改正が「如何な物で何をもたらしたのか?」を駆け足ですが見てきました。その事を踏まえて結論に変えて今回の白紙ダイヤ改正の焦点である「4大施策」とも言える「半蔵門線直通増発・特急新宿乗り入れ・快速の区間快速格下げ・南栗橋と久喜の系統分割」について、今回のダイヤ改正が「何をもたらし何を変えたのか?」「これからの方策と修正すべき点」等について私の意見を述べたいと考えます。

 (1)「半蔵門線直通増発・準急立て替え」は大成功?

 先ず一つ目のダイヤ改正の焦点であった「半蔵門線直通・準急立て替え」は、私の見た感じでは大成功であったと思います。
 正直言って特に昼間は「20m6両編成毎時6本の準急⇒20m10両編成毎時6本の急行」への変更は、準急系の運行車両数が66両(準急36両+区間準急30両)⇒78両(急行60両+区間準急18両)と約18%も増加するので輸送力過剰になるのではないかと危惧していました。
 しかし実態としては浅草発着の縛りの関係で6両が最大編成になり混雑していた準急を10両都心直通運転に立て替えた事で準急の混雑を緩和でき、加えてダイヤのスジ的に陰の脇役になっていた区間準急の編成数を調整することで、利用率に合った状況に調整でき、今の東武線の輸送状況に合わせることが出来ました。
 この点において今までの東武の輸送システムの矛盾を解消して、利便性とニーズに合わせた最適の形に合わせる事が出来た点で、今回のダイヤ改正は「最大の需要者(近郊利用客)のニーズに合わせた」ダイヤ改正であったと言う事が出来ます。
 
 この事は同時に交通総合フォーラムで和寒様が「 鮮明な輸送体系変革〜東武鉄道のダイヤ改正 」で述べられた通り「大都市圏輸送」への脱皮を示す事であると思います。
 実際生まれが東京と上毛地域を中心とした北関東地域を結ぶ鉄道であった東武鉄道は、今までずっと「大都市近郊輸送と中長距離輸送が同居している」状況であったと言えます。その様な状況の中で東武鉄道は「輸送の絶対量が伸びる可能性が高い」大都市圏輸送への転換に力を入れてきています。東武鉄道が大都市近郊輸送鉄道へ決定的に脱皮を始めたのは1962年の日比谷線直通運転開始であったことは間違いありません。その後昭和49年に竹ノ塚までの複々線完成・昭和63年に草加までの複々線化・平成9年に北千住駅大改良完成・平成13年の北越谷までの複々線化・平成15年に半蔵門線直通運転開始と一貫して大都市圏輸送部門の強化に力を注いできました。それは遠距離運転系統の分離つまり浅草発着列車の分離(その為に浅草に変るターミナルとして地下鉄直通を推進した)と栃木・群馬発着列車の分離(その為に複々線を推進し、近郊区間の緩行線の日比谷線直通との一体化を進めた)の歴史であったと言えます。
 (「 東武鉄道の歴史 」参照)
 今回のダイヤ改正では浅草発着で両毛地域を結ぶ普通系優等列車の準急を完全に切り捨てて、その代替として近郊輸送用の急行をターミナル浅草をパスしてより都心の半蔵門線直通で設定した事で、東武鉄道はやっと東武伊勢崎線系統の大都市近郊輸送鉄道化が完成した事になります。
 その点からも今回の「半蔵門線直通増発・準急立て替え」は「久喜・南栗橋系統分割」とコインの表裏一体であると言えます。今回の「半蔵門線直通増発・準急の急行立て替え」による大都市近郊輸送形態への脱皮は「久喜・南栗橋系統分割」と言う犠牲を払っても、万難を排して実施する価値はあった改革であったと言えます。


 (2)JRとの特急直通は日光鬼怒川観光を活性化させ、東武にメリットをもたらすか?

 続いて二つ目のダイヤ改正の焦点であった「栗橋連絡線建設・新宿〜日光鬼怒川特急新設」も成功であったと思います。少なくとも今回の白紙ダイヤ改正の「二枚金看板」である「半直増発・JR直通」は両方とも成功であったと言えます。
 今回のJR直通運転は、実際的なインフラ投資は最低限の「 栗橋連絡線建設 」だけであり、車両は485系の改良と既存の100系スペーシアを有効活用するという極めてローコストで、大きな効果(宿願の特急都心直通を果たす)を引き出す「理想的なプロジェクト」であったと言えます。

   
(左:栗橋連絡線(東武側施設を東武車窓から見る)   右:栗橋連絡線(東武側施設をJRホームから見る))


   
(左:栗橋連絡線(乗務員交代ホーム他)   右:栗橋連絡線(JR渡り線を渡る直通特急))


 今回の直通連絡事業・観光輸送活性化事業の場合、今まで「小田急・JR直通特急「あさぎり」の車両更新・沼津延長」「 箱根観光活性化の為に新型ロマンスカー導入 」に比べると、新型車両を導入している訳でもなく「東武の都心ターミナル確保の悲願・JRの根元利益獲得」と言う願望・野心の割りに極めてローコストで実施されています。
 しかしローコスト事業に対して、現在得られているその効果は「期待以上」と言う事が出来るでしょう。1日4往復の列車だけでは実際問題として、日光・鬼怒川への観光需要は全体で考えたらそれだけでは実際問題として殆ど伸びないでしょう。しかしその実需に対しそれ以上の注目を集めていると言えます。
 其れは「宣伝効果」と言う所であると思います。今回日光・鬼怒川へ新しいルートが出来ましたから、その宣伝は各所で行われています。「PREMIUM JAPAN 日光・鬼怒川」と言う名の下、一番頭の表紙に掲げたポスターが、東京圏のJRの駅を中心に各所に張られていますし、JRの駅では積極的にアピールが行われています。


( JR池袋駅にある日光・鬼怒川への観光案内)


 今回のJRを巻き込んだ宣伝行動はきわめて大きいと言えます。今まで東武が単独で宣伝をしても東京東部・北部の一部地域に限られていた物が、JRと直通運転をする事で、東京全域で「日光・鬼怒川観光」をアピールする事が可能になりました。この宣伝効果は非常に大きいと言えます。
 そこで宣伝の効果で「日光・鬼怒川観光をしよう」と言う事になっても、実際問題として新宿発着の列車は4往復しかなく、大量に有るのは浅草発着の東武の列車です。JRとの直通運転による宣伝の効果を実際の受け皿として受けるのは東武の浅草発着のスペーシアと言う事になれば、東武にもたらされる効果は非常に大きいと言えます。
 その様な間接効果まで考えた場合、今回の新宿直通特急運転開始は、東武鉄道にとって実需以上の効果が有る可能性が高いと言えます。又東武の鉄道輸送で無視の出来ない「日光・鬼怒川観光輸送」が長期低迷から抜け出すことが出来れば、東武鉄道に取っては直通運転で一部乗客を栗橋でJRに流失させてもそれ以上の利益を得られる「美味しいプロジェクト」になるかもしれません。
 後は「この盛り上がりを如何に実態に結びつけ、将来に継続させていくか?」です。これから東武鉄道はこの点で宣伝と話題作りその手腕を求められる事になると言えます。その時には小田急のVSE投入に習って「新型車両投入」もその活性化の選択肢として上がるかも知れません。


 (3)今回のダイヤ改正の最大の下策は「土休日の快速の区間快速化?」

 今までは「今回のダイヤ改正の成功点」を中心に見てきましたが、全てが成功であるとは思いません。少なくとも失敗も有ると思います。その最大の失敗は「快速の区間快速化」施策の中での「土休日快速の区間快速化」です。
 多分今回の「快速の区間快速化」の真意としては「今まで快速を利用していた栃木・今市地区の需要と日光・鬼怒川・野岩線沿線の観光客を特急に誘導しよう」と言う野心が有ったと思います。しかしこの東武鉄道の野心は、残念ながら「取らぬ狸の皮算用」になる可能性が高いと言えます。
 元々東武快速利用客の中で観光客は「ローコストに観光に行きたい」と言う層が利用していたと言えます。多少の出費を惜しまない人は既に特急を利用していたといえるでしょう。実際この様な人たちは意外に多く居る物で、日光・鬼怒川と並ぶお手軽観光地である箱根を結ぶ小田急では「ロングシートの快速急行・急行で2時間近くかけて箱根に向う人(特に高齢層)」を時々見かけます。その様な人たちが日光・鬼怒川へ向う人たちが東武の快速を利用していると言えます。
 この様な人たちが料金が高いスペーシアに簡単に転移するとは思えません。この様な人たちは「不満に耐えて区間快速を利用するか」「旅行を取りやめる」等の選択をする可能性が有ります。その様な選択をされた場合東武にとってプラスにはなりません。

 但し今回の区間快速化の真意は「特急への乗換を期待」すると同時に「新栃木以北のローカル輸送を担わせる」と言う合理化の側面も有ります。「新栃木以南の本数増加」と言うダイヤ改正の宣伝はあくまでも副次的内容に過ぎないと推察します。
 これは「南栗橋系統分割」にも絡む問題ですが、実際問題として日光線のローカル輸送実情は残念ながら南栗橋〜新栃木間でも現在の6両編成毎時3本を完全に持て余しているといえます。前回・今回見た限りでは南栗橋以北は昼間は800系3両編成ワンマン運転で十分の輸送量しか有りません。そうなると今の輸送力は完全に過剰であると言えます。
 この様な段階で「新栃木以北のローカル輸送を快速に担わせる」と言う発想は残念ながら是認しなければなりませんが、新大平下〜東武動物公園間では各駅に停車する必要は有りません。加えてこの各駅停車化は南栗橋・幸手・杉戸高野台の乗客も2ドアクロスの快速に流し込む事になり、栗橋以南の混雑激化と言う悪い副作用も引き起こしていると言えます。
 今回のダイヤ改正で大改革が行われてしまった以上、今の段階でこれ以上の変更を直ぐ行う事は難しいでしょうが、将来の改正では「快速の新大平下〜東武動物公園間での停車駅を栗橋・板倉東洋大前に絞る」「土曜日・日曜日を中心に午前中下り・午後上りの観光客の多い時間帯の列車の快速運転化(その時間だけ新栃木〜東武日光間にローカル電車を走らせる)」と言う方策を「今回の大改革の修正」と言う形で検討する必要が有るかも知れません。


 (4)今の段階では判断の難しい「久喜・南栗橋系統分割」

 最後のなりましたが、今回のダイヤ改正の4大施策の中で一番判断・議論をするのに微妙な施策である「久喜・南栗橋系統分割」について考えたいと思います。
 この施策は前にも述べた様に「東武の大都市近郊輸送への脱皮」の為に「半蔵門線直通増発・準急の急行化」とコインの表裏一体を成す施策であると言えます。東武鉄道の鉄道事業としての採算ラインを超えているのは「東上線坂戸以南・伊勢崎線東武動物公園以南・野田線」と言う大都市輸送区間だけで有る事は、残念ながら覆しようの無い事実で有ります。
 ( 「大手民鉄の運賃改定について」P23・P24 を見れば明らかだが、東武の生産性は小田急・東急と比べ9割程度と極端に悪く無いが、稠密地区(東上線坂戸以南・伊勢崎線東武動物公園以南(支線含む)・野田線)輸送密度197,388に対し閑散区間(稠密区間以外)輸送密度17,573と言う数字が示すように、東武の経営を閑散区間の鉄道事業が足を引っ張っている事は明らかである。もし東武が稠密区間だけの鉄道になれば、輸送密度は相鉄(199,416)・京急(195,113)並みになり、優良鉄道事業者に変身するのは明らかである)
 この様な状況の中で「半蔵門線直通増発・準急の急行化」と言う「稠密区間輸送優遇施策」の代償として、設備投資をしても輸送の足かせの「両毛地区への準急輸送」を切り捨てる為の施策が「久喜・南栗橋系統分割」であり、その為の「久喜駅改良工事」であったと言えます。

   
(左:久喜駅改良工事で出来た引上線(南側折返用)   右:久喜駅改良工事で出来た引上線(北側折返用))


 上記の様な視点から考えれば、「久喜・南栗橋系統分割」は致し方ない事であると肯定せざる得ません。まして久喜は現在東北線への逸走が発生( 平成14年度で20,563人/日 )していますから、その実情を見てしまうと久喜〜館林間の輸送量を見る限り「系統分割は館林で」と私の書いた「 東武は北関東ネットワークを捨てるのか?〜東武鉄道3月ダイヤ改正〜 」の中で述べましたが、「鶏肋」で有っても捨てなければならないほど閑散区間の実情は厳しいと言うのが、輸送密度が示す実情なのかも知れません。
 但し久喜系統分割で伊勢崎線東武動物公園〜館林間で旅客量が大幅に落ちるような事態が発生するのであれば、「久喜折り返しの区間準急の久喜での急行接続・館林(もしくは太田)への延伸・普通は館林もしくは太田で接続」と言う「久喜での南北間直通サービス」を考慮した「修正」を加える必要が有るかも知れません。
 又南栗橋系統分割は「系統分割」自体には伊勢崎線系統より厳しい日光線系統の状況を見れば疑問の余地は有りませんが(逆に前にも述べたワンマン化・800系3両化ぐらい大胆な合理化が必要)南栗橋と言う分断地点が、運転上の合理性は有っても旅客流動と合っていないと言えます。只分断地点を栗橋にすると半直の栗橋延伸が必要になり運転上の問題も発生しますし、東武動物公園にすると今度は南栗橋〜東武動物公園間で半蔵門線直通急行を東武動物公園折り返しにして800系3両編成区間列車に任す場合は輸送力不足が、半蔵門線直通急行を南栗橋折り返しにして南栗橋〜東武動物公園でダブらせて運転する場合は輸送力過剰になります。(東武動物公園に引上げ線を建設することは、6両程度であれば工場で使用していたと思われる南側にある廃線跡を使い可能)その様な点から考えれば、納得できない物の南栗橋系統分割は「次善の策」とせざる得ないのかな?と考えます。その点を含め分断地点が何処が相応しいかは今後の流れを見ながら慎重に検討しなければならないと思います。

 只単純に割り切って述べれば以上の様になりますが、この久喜・南栗橋系統分割は、私が「 東武は北関東ネットワークを捨てるのか?〜東武鉄道3月ダイヤ改正〜 」で述べた様に、「東武の実質的創業者根津嘉一郎が清水の舞台から飛び降りる覚悟で増資を行い、明治40年の利根川架橋完成・足利市延伸を達成して以来、脈々と築き上げてきた東武の北関東ネットワークを事実上放棄する」事になると同時に、「久喜以北群馬地区・南栗橋以北栃木地区の分社化・閑散路線切捨て」への始まりになると言うのも、輸送密度の数字を見ると否定できません。
 「半蔵門線直通増発・準急の急行立て替え」が東武を大都市近郊輸送鉄道に変身させるという意味では、今回のダイヤ改正がもたらす意味は非常に大きいと言えますが、同時に「久喜・南栗橋系統分割」が「東武の北関東ネットワーク切捨て・群馬地区栃木地区分社化」と言うもう一つの変革への引き金を引いたと言う意味では同じ様に今回のダイヤ改正がもたらした物は非常に大きいと言えます。
 今回のダイヤ改正の内容を見る限り、「此れから東武鉄道がどのような方向に進むのか?」と言う事を含めて、東武鉄道の今後繰り出すであろう次の一手から目が離せなくなりました。今回の白紙ダイヤ改正から推測すれば、次に繰り出す一手はかなり衝撃的な内容になると言う覚悟と心構えが必要であると推察します。





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