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森川許六

『五老井發句集』(山蔭編)

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天保4年(1833年)11月、『五老井發句集』(山蔭編)自序。

天保5年(1834年)、『五老井發句集』(山蔭編)刊。

春之部

立 春
 春立や歯朶にとゝまる神矢の根

粥 杖
 古猫の相伴にあふ卯杖かな


 梅が香に濃花いろの小袖かな

   深川懐旧

 豆腐やもむかしの顔や軒の梅

   五老井記


  水すじを尋ねて見れば柳かな

 唐人のうしろ向たる柳かな


 うぐひすの鳴破りたる紙子かな

春 雨
 春雨やはなればなれの金屏風

春 風
 灸の点ひぬ間もさむし春の風

春 雪
 掃ためを捨かけておく春の雪

雲 雀
 砂川や芝にながれてなくひばり

遅 日
 懺法のあはれ過たる日の長さ

陽 炎
 かげろふや破風の瓦の如意寶珠

苗 代
 苗代やうれし顔にもなくかはず

   五斗米の爲に腰を折るに懶し。


 年々に尚いそがしや花ざかり


 茶のはりにそしつてちるや山ざくら

 百石の小村をうづむさくらかな

菜 花
 菜の花や豆の粉めしの朝げしき

海 苔
 春なれや田の青のりになく蛙

   浪花の諷竹、之道といひける時、
   しばらく行脚の頭陀をとゞめて、
   又みのゝかたへと趣(赴)んとい
   ひければ、

木 瓜
 紬きる客に取つけ木瓜の花


 藤の花さすや茶摘のになひ籠

行 春
 行春に佐渡や越後の鳥曇り

    支考 が長崎行脚を送る。

海 松
 貫之も精進の友よ海松海雲(もづく)

夏之部

衣 更
 上ひとつ脱で大工の衣がへ

   旅 懐

麥 秋
 宿々は皆新茶なり麥の秋

半夏生
 半夏水や野菜のきれる竹生嶋

   木曾路にて

田 植
  山吹も巴もいづる田うへかな

胴龜やきのふ植たる田のにごり

   五月六日武江の舘を退て

卯 花
 卯の花に蘆花(毛)の馬の夜あけ哉

   大津に住ける比瀬田に初音を聞て

郭 公
 ほとゝぎす背(瀬)田はうなぎの自慢かな

 四五月の卯波さ波やほとゝぎす

牡 丹
 蝋燭にしづまりかへるぼたん哉

   信濃・上野を過、むさしの國にい
   りて芥子の花を見る。馬頭初見
   米袋花といふ句の力を得たり。

芥 子
 熊谷のつゝみあがればけしのはな

杜 若
 日あたりや紺やのうらのかきつばた

竹 子
 竹の子に身をする猫のたわれかな

心 太
 晝がほのはても見へけりこゝろ太


 凉風や青田の上の雲のかげ

   旅 行

 凉風や峠にあしをふみかける

納 凉
 山伏の髪すきたゝて夕すゞみ

   宇治川の螢は、昔日三位入道の
   亡魂といふ(ひ)傳ふ。今の世は


 かしこさに合戰なしにとぶほたる

   八十に餘れる老祖父、子孫のさ
   かへ行ニつけて、はやく死たし
   と斗り願はれける。

土用干
 一竿は死装束や土用ぼし

夕 立
 夕立に幾人乳母の雨やどり

   木曾路にて


 棧やあぶな氣もなし蝉のこゑ

團 扇
 いそがしきから臼踏の團かな

清 水
 我跡へ缺口(いぐち)立よる清水かな

   甲斐の郡内を出て


 道はたにまゆ干すかざのあつさかな

茂 り
 山いもゝ茂りてくらしうつの山

秋之部

   うつの山を過て


 十團子も小粒になりぬ秋の風

 あさがほのうらを見せけり風の秋

 大きなる家程秋のゆふべかな

 のびのびて衰ふ菊や秋のくれ

 蚊遣火にうちは當けり秋の風

   嶋田・金屋の送り火に感をます。

天 川
 聖靈とならで越けり天の川

 かさゝぎの橋や繪入の百人一首

相 撲
 裸身に麻の匂ひやすもふとり

八 朔
 八朔に酢の利過るなますかな

名 月
 名月の是もめぐみや菜大根

十六夜
 いざよひや有馬を出て歸る人

彼 岸
 百姓の嫁の出たつひがんかな


 くるゝほどばせをにひゞく虫のこゑ

 稲刈のその田のはしやこき所

蕃 椒
 唐がらし菜摘水汲法の人

鹿
 小男鹿やころび折たるそば畑

   自畫自賛


 白雁や野馬をおとす草の露

野 分
 一番にかゝしをこかす野分かな

朝 顔
 看經の間を朝がほのさかりかな


 大名の寐間にも似たる寒かな

冬之部

時 雨
 新わらの屋根の雫や初しぐれ

   亡師一周忌に手づから畫像を寫
   し、 野坡 に送りて深川の什物
   附す。


 鬢の霜無言の時のすがたかな

 水ふろに垢の落たる霜夜かな

   宿 明照寺

落 葉
 寒山と拾得とよる落葉掻

大根引
 同日に山三井寺の大根引

十 夜
 禪門の革足袋おろす十夜哉

御影講
 御影講や顱(あたま)の青き新比丘尼


 明がたや城を取まく鴨の聲

江 湖
 鼻息や朝飯まつまの江湖(ごうこ)部屋


 初雪や拂もあへずかたつぶり

 初雪や納る江戸の人ごゝろ

    去来 が雪の門を題して、 晋子
   句をのぞまれて

 十四夜は海手に近し雪の門

網 代
 網代守宇治の駕かきとなりにけり

鷦 鷯
 鶯に啼て見せけりみそさゞい


 杉の葉の赤ばる方や冬のぐれ


 大髭に剃刀の飛ぶさむさかな

鉢 叩
 嫁入の門も過けり鉢たゝき

納 豆
 臘八や腹を探れば納豆汁

   示小坊主阿段

布 子
 訴を直にきくなり節布子

寒 菊
 寒菊の隣もありや生大根

枯 野
 血の附し鼻紙寒きかれのかな

行 年
 行年や多賀造宮の訴訟人

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