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藤沢周平 (ふじさわ・しゅうへい) 1927〜1997。




赤い夕日  (新潮文庫「橋ものがたり」に収録)
短編。「永代橋のこっちに、俺がいることは、もう忘れるんだぜ。どんなことがあろうと、橋を渡ってきちゃならねえ」。博奕打ちの斧次郎に育てられ大人になったおもん。その事実を隠して、太物商「若狭屋」の主人・新太郎の嫁になった彼女は、斧次郎の死に目に会うため、五年ぶりに永代橋を渡るのだが…。赤い夕日を浴びて土手の上を歩く二人の姿…。夫がよそに女を囲っているという噂…。──橋のむこうに、もう頼る人はいない──。“永代橋”と“赤い夕日”の情景を印象的に描いて出色。信頼で結ばれる夫婦は素晴らしい。

暁のひかり  (文春文庫「暁のひかり」に収録)
短編。暁(あかつき)の光が射し始める早朝、賭場(とば)からの帰り道で、足の悪い少女・おことと出会った壺振りの市蔵。一所懸命に歩く練習をしている彼女の姿に感銘を受けた市蔵は、腕のいい職人(鏡師)になることだけを考えていた昔の気持ちを思い出し、やくざの世界から堅気の暮らしに戻ることが出来るかも知れないという希望を抱くようになるが…。「しかし、あれはしくじったな」、「えっ! なに?」、「あの娘に、鏡を作ってやると約束したことさ」──。一度、足を踏み外してしまった人間に対する厳しい現実を描いて哀切。

悪癖  (文春文庫「花のあと」に収録)
短編。藩内の派閥争いが続く中、勘定奉行・内藤惣十郎から帳簿の調査を頼まれた中年藩士・渋谷平助。河川の改修工事の不正を暴いた平助だが、身の危険にさらされてしまう…。「おまえさまに禄をふやしてくれとはのぞみません。ただ三十五石とはいえ大切な家禄。減らすことは許されませんよ。おわかりですね。油断なくお勤めをなさいまし」。酔うと人の顔をなめる奇癖のある男を描いた喜劇。妻の叱咤や同僚の悪意に対して、日頃は心を閉ざして生きるも、酒を飲んだときだけ幸福感につつまれる彼の姿に人生の悲哀を感じる。

朝焼け  (新潮文庫「驟り雨」に収録)
短編。賭場(とば)で作った借金の返済に窮した小間物の行商人・新吉。七年前に簡単に捨てた女、今は瀬戸物屋の女房になっているお品をたずね、五両の金を借りた新吉だが、そのお金を全て博奕(ばくち)ですってしまう。胴元の銀助に脅され、成り行きで、人を殺してしまった新吉は、お品の家に逃げ込むが…。「なんてえこった。むかしの、まんまじゃねえか」──。女をあざとく裏切った男の、あまりに遅すぎる悔恨と、自分を裏切った男を拠りどころに生きてきた女の悲しい性(さが)を描いた悲恋もの。 →藤沢周平「追われる男」

穴熊  (文春文庫「暁のひかり」に収録)
短編。表の顔は古着屋だが、裏で素人の女たちが秘かに身体を売っている「赤城屋」で、上品な武家の女を抱いた博奕打ちの浅次郎。その女は、浪人・塚本伊織の妻女で、名前を佐江といい、喘息の子供を抱えて貧乏な生活をしているという素姓を知った浅次郎は、彼女に同情を覚える。床下から細工をする「穴熊」と呼ばれる賭場のいかさまを暴き出して、大金をせしめるという危ない仕事を塚本に持ち掛け、実行する浅次郎だが…。「それじゃ、少し金が張るが、あの女を呼ぶか」、「……?」、「あの女だよ。忘れたかね、あんたが探している女に似てるって女がいただろうが」──。夜逃げしてしまった恋人・お弓のことが忘れられない主人公の寂寥感を描いた秀作。

荒れ野  (新潮文庫「闇の穴」に収録)
短編。陸奥国(むつのくに)新田郡にある小松寺を目指して長旅をしている若い僧・明舜(みょうしゅん)。道連れになった髭面(ひげづら)の男から、あの山を越えれば陸奥に着くと教えられるが、どこまで歩いても野原を抜け出せず、疲れ切ってしまう。野中の一軒家に一人で暮らしている百姓女に助けられた明舜は、女の淫性な身体に溺れ、ひと月近くも女の家に滞在してしまうが…。「どこへ行ってたんです? 心配したじゃありませんか」──。泉鏡花の官能ホラー小説「高野聖(こうやひじり)」を思い起こさせる内容で面白い。

暗黒剣千鳥  (文春文庫「隠し剣秋月抄」に収録)
短編。三年前、藩主の寵愛を受け異例の立身を遂げた組頭・明石嘉門を、次席家老・牧治部左エ門の命令で暗殺した三崎修助たち五人の剣士。しかし事件を嗅ぎ付けた何者かによって、彼らは次々と闇討ちされていき、遂には修助だけとなってしまう。秘剣「千鳥」を遣う敵の正体を知った修助は…。「私、三崎さまをお待ちいたします。家の者が何と申しましょうとも。もうこのことについては、ご懸念くださいますな」、「長くは、待たせぬ」、「私、あなたさまを信じております」。修助と秦江(縁談相手)とのプラトニックなふれあいが実にいい。

暗殺剣虎ノ眼  (文春文庫「隠し剣孤影抄」に収録)
短編。執政会議の場で、藩主の浪費を糾弾した組頭・牧与市右エ門が、刺客に闇討ちされた。与市右エ門の息子・達之助は、父を殺した秘剣「虎ノ眼」の遣い手が、妹・志野の婚約相手・清宮太四郎ではないかと疑う。奉納試合で太四郎と対決する達之助だが…。父の死の二刻前に、料亭の離れで、太四郎に抱かれ、喜悦していた志野の罪悪感…。「星を見たか。よし、今度はそこにある石を見ろ。石も、星のようにはっきり見えてくるものだ。そう見えるまで、眼を凝らせ」──。これ以上ないというぐらい恐ろしすぎるラストに驚愕!

暗殺の年輪  (文春文庫「暗殺の年輪」に収録)
短編。「これが、女の臀(しり)ひとつで命拾いしたという倅(せがれ)か」。藩内抗争が再燃する中、十八年前に起きた事件の真相を調べまわる海坂藩の青年武士・葛西馨之介(けいのすけ)。中老・嶺岡兵庫の暗殺に失敗して父・源太夫が横死したこと、世間から愍笑(びんしょう)されてきた理由(母・波留の醜悪な秘密)を知った馨之介は、“黒い疑惑”にはまり込んでいく…。同輩・貝沼金吾の妹・菊乃との純愛…、居酒屋の娘・お葉のぬくもり…。「私の恨みでござる」、「なに?」、「葛西源太夫の子、馨之介でござる」──。母を憎み、自らを追い詰めていく主人公の姿が悲壮すぎる。正統派時代小説の名編。直木賞受賞作。

意気地なし  (新潮文庫「時雨のあと」に収録)
短編。女房のおちせに死なれ、乳呑児のおけいを抱えて、いつまでも暗い顔をして途方にくれている蒔絵師の伊作。同じ裏店(うらだな)に住むおてつは、そんな伊作のことを意気地なしだと軽蔑するが、居たたまれなくなり、おけいの面倒を買って出る。婚約者である大工の作次と連れ立って、出合茶屋に入るおてつだが、おけいのことがどうにも気になって仕方がなくなってしまう…。「でも、あんたがあんまり意気地なしだから」──。自分の幸福に自信を持ち、きっぱりと生き方を決める女主人公の姿が素敵だ。感動がじわじわ。

偉丈夫  (新潮文庫「静かな木」に収録)
掌編。本藩である海坂(うなさか)藩と、支藩である海上(うなかみ)藩との間に続いている漆(うるし)の山を巡る境界争い。「堂堂たる体躯、人なみはずれた寡黙、いずれも相手方を圧倒するに足りる」という理由から、境界争いの掛け合い役に選ばれた海上藩の祐筆・片桐権兵衛だが、実は彼は「馬のような体躯に蚤(のみ)の心臓をそなえる小心者」であった…。「ご返事がないところをみると、漆山を二分する線引き、ご承知ということでござるな。それでよろしゅうござるな」──。偉丈夫なのに気が小さいというギャップが面白い喜劇。

石を抱く  (新潮文庫「竹光始末」に収録)
短編。女のことで人を半殺しの目にあわせた前歴がある太物屋「石見屋」の奉公人・直太。妾宅に入り浸っている石見屋の主人・新兵衛に粗末にされているお内儀(かみ)・お仲を不憫に思う直太は、ふとした成り行きで、お仲と関係を持ち、これまでに女に対して感じたことのない、つつましい気持ちに支配される。お仲の立場を危うくしているやくざ者の弟・菊次郎を締め上げに行く直太だが…。「申しあげろ、さあ申しあげろ」。崇拝する女性のために犠牲になる主人公の姿を描いて壮絶。石抱(いしだき)の拷問の凄まじさに絶句。

一顆の瓜(いっかのうり)』  (新潮文庫「冤罪」に収録)
短編。何者かに斬られ怪我を負った若い娘・織江を助け保護した御普請組・島田半九郎だが、織江は中老・本田相模へ宛てた藩主・左馬頭利綱の密書を携えていた…。思いがけない成行から藩内の紛争に巻き込まれた下級武士の活躍を描く剣豪小説。「女は男の甲斐性というものを銭金で計ろうとする。そしてだ。ついに男の真の値打ちというものを覚ることが出来ん。あわれな連中なのだ」、「そうだ、よく言ってくれた、島田」。悪妻(?)に悩まされている半九郎と僚友・久坂甚内の姿がユーモラス。題名の意味が判るラストも笑える。

入墨  (文春文庫「闇の梯子」に収録)
短編。飯屋をしている姉・お島と暮らしている十七の少女・おりつ。十五年前に家を出て行った老父・卯助が帰って来て、店の前に姿を見せるようになる。卯助を哀れに思うおりつは、酒を飲ませるが、お島は、自分を岡場所に売り飛ばして逃げた卯助を憎んでいた。かつて関わりのあった乱暴者の乙次郎に、お島は因縁をつけられてしまい…。「どうかしたか、じいさん。これはお遊びじゃねえんだ。近寄ると怪我するぜ」。おりつと牧蔵(大工の青年)との純愛が清々しいが…。家族を路頭に迷わせた老人のけじめのつけ方を描いて壮絶。

潮田伝五郎置文  (新潮文庫「冤罪」に収録)
短編。七重どのは、それがしにとって神でござった。わが神を汚すものは、井沢であれ、他の何びとであれ、わが前に死ぬべきものでござる──。友人の姉・七重を一目見て、すっかり心を奪われてしまった青年藩士・潮田(うしおだ)伝五郎。上士・菱川家に嫁いだ七重が、少年時代からの憎き相手・井沢勝弥と密会していると知った伝五郎は…。妻・希世を遠い人間に感じてしまう伝五郎と、七重を憎悪してやまない希世の不幸…。恋する女性を実際以上に美化してしまうという心理を描いて秀逸。凝った場面展開も奏効。

うしろ姿  (新潮文庫「驟り雨」に収録)
短編。酔うと誰でも構わず家に連れて来てしまう夫・六助が、何と乞食の老婆を連れて来た。すっかり家に居ついてしまった老婆を邪険に追い出すこともできず困惑する妻・おはま。他人を養っているのは偉いと役所から褒美が出る始末だが…。「構うことはねえ。いよいよ養いきれなくなったら、おっぽり出してしまおう」、「そんなこと出来ないでしょ。近所のひとはみんな知っていることなんだし、ご褒美はもらった、ばあさんはほうり出したって言われるわよ」。口争ったまま死なれた姑の姿と、老婆の姿がダブって見えるラストが秀逸だ。

馬五郎焼身  (文春文庫「暁のひかり」に収録)
短編。誰かれの見境なく口論し、暴力を振るう嫌われ者の中年男・馬五郎。妻・おつぎの不注意から娘・お加代が水死してしまって以来、すっかり乱暴者になってしまったのだ。居酒屋で働いている若い女・お角の白い身体に溺れ、夢中になる馬五郎だが、お角にまんまと騙(だま)され、溜めていた二十両を盗まれてしまう…。「だけどあたしだって辛いんだよ。お加代はあんただけの子供じゃないでしょ。毎日辛くて、悲しくて」、「きいたふうなことを言うな」。働き者だが粗暴すぎる男の、彼なりのけじめのつけ方。壮絶なラストに涙。

梅薫る  (文春文庫「夜の橋」に収録)
短編。馬廻り組に勤めている保科節蔵の妻になって一年になる娘の志津が、時どきふわっと実家に戻って来ることに気を揉んでいる奥津兵左衛門。婚約者であった江口鉄之助にまだ心を残している志津に、江口が婚約を破棄した理由(ある事情)を打ち明ける兵左衛門だが…。「でも、打明けてくだされば、私、鉄之助さまの嫁にまいりましたものを。おそばにいて、さしあげたかった」、「そなたなら、多分そう申すだろう、と江口は言った。だが江口はそのことを恐れたのだ」。“生きるということがどういうことか”を描いて深いものがある。

裏切り  (文春文庫「夜の橋」に収録)
短編。妻・おつやが出合茶屋で何者かに絞殺された。おつやが自分を裏切って男と会っていたことにショックを受ける幸吉(親方の清蔵の店で働いている研師)。きっとおつやは男にダマされたに違いないと思い、おつやを殺した男を探し始めるが、賭場の人間に袋叩きにあってしまう…。おつやが幸吉の幼馴染である長次郎を嫌っていた本当の理由…、養生のため婚家から実家に戻っている清蔵の娘・おまちへの感情…。「男と女って、いろいろなことがあるのよ」──。きまりをつけて第二の人生を踏み出す男女の姿を描いてしっとり。

浦島  (文春文庫「玄鳥」に収録)
短編。十八年前、寄付金の紛失の責任を問われ、勘定方から普請組に勤め替えになった御手洗(みたらい)孫六。すっかり今の境遇に馴れ、居心地よく勤めていた孫六だが、今頃になって紛失事件の真相が明らかになり、孫六の疑いも晴れる。久しぶりに勘定方に復帰した孫六だが…。「貴様ら、日ごろこの御手洗孫六を見くびってくれているが、その礼に今夜は取っておきの無眼流の腕を拝ませてやろう。さあ、出て来い」──。“場違いなところにもどって来た浦島太郎”のような状態に陥った下級藩士の戸惑いを描いて面白い。

うらなり与右衛門  (新潮文庫「たそがれ清兵衛」に収録)
短編。次席家老・長谷川志摩の護衛を極秘にすることになっていた、うらなり顔の醜男・三栗与右衛門だが、上役の寡婦・以久との艶聞めいた噂によって、二十日の遠慮(軽い謹慎)という処分を受けてしまう。嘘の噂を広めたのは一体誰なのか? 対立派による家老襲撃事件によって、友人・中川助蔵が犠牲になったと知った与右衛門は…。「ひと前でうらなりと呼ばれては、礼は言えませぬ」、「なに、生いきな」──。自分の見てくれを利用して復讐を果たす“うらなり与右衛門”の姿が素敵に格好良い。

鱗雲(うろこぐも)』  (新潮文庫「時雨のあと」に収録)
短編。高熱を出して峠道で倒れていた若い娘・雪江を介抱した青年藩士・小関新三郎。病死した妹・秋尾の面影がある雪江に好意を抱くようになる新三郎だが、彼女は何やら訳ありの娘であった。悪い噂の絶えない中老・保坂権之助の倅(せがれ)・年弥の家に入り浸りになり、疎遠になっていた婚約者・利穂(としお)が自害したと知った新三郎は、年弥の家に踏み込むが…。「わしを、中老に取り入って、あげくの果てに娘を殺した愚か者と思うだろうな」、「………」、「そう見える筈だ」。二人の女性の運命と一念を描いて印象深い一編。

運の尽き  (新潮文庫「驟り雨」に収録)
短編。両国の水茶屋「おさん」にたむろしている若者の一人で、女たらしで怠け者の筆師・参次郎は、米屋の娘・おつぎに手を出すが、それがために、大男で怪力の持ち主であるおつぎの父親・利右衛門に睨まれてしまい、無理矢理、米屋の婿にされてしまう。利右衛門に下男のようにこき使われ、全身がたがたになってしまった参次郎は、仲間の家に逃げ込むが…。「たらしの参次も、あれが運の尽きだったな、かわいそうに」、「そうそ、あれが運の尽きだった」。一人前になった人間とそうでない人間との景色の相違が印象的だ。喜劇。

永代橋  (文春文庫「夜消える」に収録)
短編。前の女房・おみつと五年ぶりにばったり会った小間物屋の職人・菊蔵は、博奕(ばくち)にのめり込み、それがために子供を死なせてしまい、おみつと夫婦別れするに至った過去を思い出す。男癖の悪い今の女房・おとりに嫌気がさし、まだ一人で暮らしているおみつに惹かれていく菊蔵だが…。「女でも博奕でも、いまさらどっちでもいいことじゃないかしら。あんた、いったい何を言いに来たの」、「やり直せねえかと思ってよ」──。菊蔵さん、さすがにその考え方は男のエゴってもんじゃないですか。ほんとに男ってやつは…(悲)。

榎屋敷宵の春月  (新潮文庫「麦屋町昼下がり」に収録)
短編。江戸から来た使者・関根友三郎の危難を救った組頭・寺井織之助の妻・田鶴(たづる)だが、その後、友三郎は何者かに斬殺され、密書も奪われてしまう。執政入りできるかどうかの大事な時期にある織之助に反対されながらも、田鶴は藩の秘事という困難の中に飛び込んでいくが…。古くからの友達である三弥へのメラメラとした嫉妬…、剣客・岡田十内との死闘…。「今夜、この屋敷に来たのは正義のためか、それともご亭主のためか」──。小太刀の名手である女主人公の活躍を、様々な要素を絡ませながら描いて面白い。

冤罪  (新潮文庫「冤罪」に収録)
短編。部屋住みの身分で、いずれ婿入り口を見つけなければならない立場にある青年武士・堀源次郎。勘定方・相良彦兵衛の娘・明乃に恋心を抱くが、藩金横領の罪で彦兵衛は切腹となり、明乃も行方不明になってしまう。彦兵衛が悪事を働くような人間ではなかったと信じる源次郎は、彦兵衛の冤罪(えんざい)を晴らし、勘定組頭・黒瀬隼人の不正を暴こうとするが…。「そういうわけで、私は婿をもらう身です」、「婿!」──。事なかれ主義の武家暮らしにおさらばする源次郎の姿に共鳴。ほのぼのとしたラストが感動的で素晴らしい。

遠方より来る  (新潮文庫「竹光始末」に収録)
短編。十二年前の大坂冬の陣での“義理”を理由に、浪人・曾我平九郎に居着かれてしまった海坂藩の足軽・三崎甚平。平九郎の厚かましい態度に、女房の好江は不機嫌になるが、立派な髭の大男である平九郎を、甚平は放り出すことができず、仕舞には平九郎に金をやって女郎屋で遊ばせてやる始末。平九郎の仕官について、物頭・寺田弥五右衛門から呼び出しが来るが…。「いつまでも六杯飯を喰べられては、台所が持ちません」、「それはそうだ」。厄介な居候に手を焼きながらも、男の対面にこだわる主人公の姿が面白い。

小川の辺(ほとり)』  (新潮文庫「闇の穴」に収録)
短編。脱藩した佐久間森衛の上意討ちの討手(うって)に選ばれた海坂(うなさか)藩士・戌井(いぬい)朔之助。しかし、一緒に脱藩した佐久間の妻・田鶴(たず)は、朔之助の実妹であった。佐久間と田鶴の隠れ家を突き止めた朔之助と同行の若党・新蔵だが…。「私も嫁に行きたくないの。でも仕方がない。新蔵の嫁にはなれないのだもの」。身分の違いから結婚できない運命にあった田鶴と新蔵の不幸…。朔之助と田鶴、兄妹相搏(あいう)つ異様な光景! 武家社会の掟(おきて)によって弄される者たちの姿を描いた時代小説。



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