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藤沢周平 (ふじさわ・しゅうへい) 1927〜1997。




臆病剣松風  (文春文庫「隠し剣孤影抄」に収録)
短編。剣の達人に憧れて、瓜生家の嫁になった満江だが、夫・瓜生新兵衛は貧相で生真面目な臆病者であった。新兵衛が鑑極流の秘伝「松風」の遣い手であることも信じられず、満江は心の中で夫を軽侮するようになる。藩主の世子・和泉守の警護を命じられ、あからさまに怯える新兵衛の姿を見た満江は…。「そんなことをなさると、夫に言いつけます。ご存じないんですか。新兵衛は鑑極流の達人で、あなたをこらしめるぐらい、わけもない人ですよ」。満江の心境の変化が素晴らしく、真に格好いい男とはどういう男かを教えてくれる。

贈り物  (新潮文庫「驟り雨」に収録)
短編。日雇いでひとり暮らしをしている年寄の作十。持病の腹痛で身動きができなくなっていたところを、同じ裏店に住む子持ちの三十女・おうめに助けられ、介抱をうけた作十は、人の情けが身にしみる。逃げた亭主の借金の返済を余儀なくされたおうめの窮地を救うため、作十は昔の盗っ人仲間を誘って、ある旗本屋敷に盗みに入るが…。「でもうれしかったよ、かばってもらってさ。あたしをかばってくれる人間なんて、おじいちゃんだけだもんね」──。おうめが作十にした親切と作十がおうめにした親切の真実さに感動を覚える。

おさんが呼ぶ  (新潮文庫「時雨みち」に収録)
短編。紙問屋「伊豆屋」で下働きしている十九のおさん。八つの時、母親に捨てられて以来、極端に無口になり、仕舞いには、しゃべることができなくなってしまった。新しい納め先を求めて「伊豆屋」にやって来た紙漉(かみすき)屋の兼七の人柄の良さに接したおさんは、兼七の取引の成功を願うのだが…。 果たしておさんは口を利けるようになれるか? 「お世話になりましたなあ、おさんさん。傷の手当てをしていただいたり、洗濯をしてもらったり。あんたのことは忘れません」──。女主人公の勇気(成長)を描いて素晴らしい。

遅いしあわせ  (新潮文庫「驟り雨」に収録)
短編。飯屋で働いている二十一のおもんは、常連客である桶職人の重吉にほのかな想いを抱くが、自分は出戻りだというあきらめた気持ちでいた。手の付けられないやくざな弟・栄治のせいで、嫁入り先のそば屋を離縁されているおもんは、またしても栄治のせいで危難にさらされてしまう…。貧しい家…、病気の父親…、自分を気づかってくれる相手のいない、ひとりぼっちのさびしさ…。「だいぶ辛(つら)そうだが、世の中をあきらめちゃいけませんぜ。そのうちには、いいこともありますぜ」──。しあわせの到来を描いた嬉しい一編。

おつぎ  (新潮文庫「龍を見た男」に収録)
短編。死んだ父親が残した借金で苦しい商いを強いられている畳表問屋「戸倉屋」の若主人・三之助。十一年ぶりに幼な馴染のおつぎと再会した三之助は、料理茶屋で下働きをしている彼女と恋仲になるが…。借金の義理がある同業者「亀甲屋」の娘・おてるとの縁談…、殺人罪で逮捕されたおつぎの祖父・万蔵を救えなかった少年時代の悔恨…。「おれは心の底の方で、あのときのことをずっと気にしていたんだな。だからこの前の寄合いのときに、あんただと気づいたそのあとで、すぐに思い出したよ」。主人公の心根に感嘆!

おとくの神  (新潮文庫「霜の朝」に収録)
短編。働きづめに日雇いの力仕事をしている、大女だが大人しい性格の妻・おとくと、怠け癖があって、仕事の腰が落ち着かない、勝手な性格の夫・仙吉。女髪結いのお七と関係ができた仙吉は、おとくと別れて、家を出て行く決心をする。おとくが神さまだといって大事にしていた土器人形を、長火鉢に投げつけて、粉々にしてしまう。その人形は二人が夫婦になる前に、仙吉がおとくに買ってやったものだった…。「何でえ、後生大事にこんなものを持ちやがって。目ざわりだ」。戻る場所があるという安心に安住してきた男の悔恨を描く。

(おとり)』  (文春文庫「暗殺の年輪」に収録)
短編。すっかり落ちぶれた職人・彫宇(ほりう)の工房で働く版木師の甲吉は、病気の妹を養うため、仕方なく下っ引の仕事もしていた。人を殺して逃亡しているやくざ者・綱蔵の情婦(いろ)である若い女・おふみの家を張り込むことになった甲吉は、暗鬱で色あせた日常が華やぐのを感じる。「あたし、見張られているのを、知っていたのよ」。おふみが自分の女になることに、甲吉は心をときめかせるのだが…。「あんたが、俺に言ったことは、みんな嘘だったのか」──。幸福の幻想を抱いた若い版木師の姿を描いた捕物小説。哀切。

踊る手  (文春文庫「夜消える」に収録)
短編。同じ裏店(うらだな)に住んでいた、仲良しだったおきみの一家が、年寄り(おきみの曾祖母)だけを残して、夜逃げしてしまったと知った十歳の少年・信次。やむなく年寄りの面倒を見ることになった裏店の人々だが、食事をまったく食べようとしない年寄りに手を焼く。年寄りに食事を持っていく役目を与えられた信次は、その使命感に興奮を覚えるが…。「信ちゃん、それなに?」、「おきみちゃん家(ち)のばあちゃんのおまんまだよ。昼飯をとどけるんだ」。裏店を舞台に少年の成長を描いた好編。題名の意味が判るラストもいい。

 (新潮文庫「神隠し」に収録)
短編。百姓一揆を首謀した罪で大目付支配の探索方に追われていた手負いの武士・榎並(えなみ)新三郎を助け、稲倉の中にかくまってやった百姓の娘・サチ。不器量であるがゆえに、婿(むこ)のなり手が一人も現れず、皆から「鬼」と呼ばれている不幸なサチは、新三郎に抱かれて、この上ない幸福を感じる。しかし、新三郎がここを出て行く決心をしたと知ったサチは…。「おら、みっともねえ顔ばしてるし」、「なに、そんなことはない。ぽっちゃりして、かわいい娘だ」──。女主人公の行動と心境が印象に残る悲恋話。 →「小ぬか雨」

鬼ごっこ  (文春文庫「花のあと」に収録)
短編。十年前に盗っ人稼業を切り上げて、隠居生活を送っている吉兵衛。女郎屋から請け出して、回向院裏の裏店(うらだな)に住まわせていた若い女・おやえが、何者かに殺されてしまったと知った吉兵衛は、犯人を突き止めるため、彼女が働いていた飲み屋「岩五郎」や、女郎屋「松葉楼」を調べるが…。「ここは女郎屋ですよ。男どもが金を山わけしてたなんて、おやえはいったい、何を見たもんだろうね」。十手持ちの存在に怯えながらも、おやえの仇を討つ「むささびの吉」の生き様が(盗っ人になったきっかけも含めて)格好いい。

おばさん  (新潮文庫「時雨みち」に収録)
短編。下駄職人だった亭主・兼蔵に死なれてから、急に老け込んだようになり、すっかり元気がなくなってしまったおよね。火事で焼け出されて、住む場所がなくなってしまった桶職人の若い男・忠吉を家に置き、世話をするようになった彼女は、親子ほども年が違う忠吉との生活に張り合いを感じる。肌につやが出て、ずっと若返ったようになったおよねは、忠吉にこの家の養子になって、嫁をもらって、一緒に暮らしてほしいと願うが…。「嫁なんかいらないよ。おばさんだけいればいいよ」。しあわせというものの脆弱さを描いてやるせない。

おふく  (文春文庫「暁のひかり」に収録)
短編。岡場所に売られていった幼馴染のおふくを買い戻すため、賭場の胴元・宗左の子分になった造酒蔵(みきぞう)。借金の取立てや恐喝など悪に手を染める彼だが、おふくの所在がまったく掴めなくなってしまう。無慈悲な取り立てで少女・おなみの一家を破滅させた造酒蔵は、胸を患っているおなみに罪滅ぼしのように金を施すのだが…。「その人が好きだったのね」、「多分そうだったのだろうな。ただ可哀そうだとばかり思い続けてきたのだが」。一人の女性を幻想的に思慕し続けてきた主人公の男の暗く哀しい姿が痛切すぎる。

汚名剣双燕  (文春文庫「隠し剣秋月抄」に収録)
短編。不伝流の宗方道場で、三羽烏(がらす)と呼ばれた剣士・八田康之助、関光弥、香西伝八郎──。三年前、城中で刃傷事件を起こした伝八郎と、斬り合うことなく、逃亡を許してしまった康之助は、それ以来、臆病者の汚名を着せられてしまう。美しすぎる伝八郎の妻女・由利の呪縛から逃れられないでいる康之助は、由利と光弥の醜聞を知る…。「帯をといて」、「それはならぬ」、「なぜ? 女子がこわいのですか」、「いや」。康之助が編み出した秘剣「双燕(そうえん)」がめちゃ格好いい。面白さ抜群の“隠し剣”シリーズの一編。

思い違い  (新潮文庫「橋ものがたり」に収録)
短編。両国橋の上で、朝と夕方、若い女・おゆうと擦れ違うのを楽しみにしている醜男の指物師・源作。思いがけなく、おゆうと言葉を交わすようになった源作だが、その後、彼女は姿を消してしまう。おゆうに教えられた住所と勤め先のそば屋を訪ねてみるが…。「そんなことはない。いまだって、神さまに礼を言いたいくらいだよ。こうして引きあわせてくれたんだから」。源作が知らず知らずしていた思い違いとは? 二人の女性(おゆうと親方の娘・おきく)を対比させながら、身分よりも精神の大切さを描く。感動で涙が止まらない…。

追われる男  (新潮文庫「霜の朝」に収録)
短編。出入り職人・音吉の女房で、商売女のおせんと関係を持った履物商「筑波屋」の手代・喜助だが、すっかり音吉の怒りを買ってしまう。思いがけず、音吉を殺害してしまった喜助は、知り合いの留守宅に逃げ込み、身を隠す。追い詰められた喜助は、幼なじみだった女・おしんに助けを求めるが…。「そんな大金は、あたしだってありませんよ」、「でも喜助は、その金がないと逃げられねえんだとよ」──。何度も何度も自分を裏切った男のことを思い切れない女の悲しい性(青春の喪失)を描いて出色。 → 松本清張「張込み」

女下駄  (新潮文庫「龍を見た男」に収録)
短編。東両国の料理茶屋に通い勤めしている妻・お仲が、どこかの男と親しそうに歩いているところを見たと、取引先「松前屋」の手代・長次郎から聞かされた下駄職人の清兵衛。相手はお仲の別れた亭主・喜助に違いないと考えた清兵衛は、仕事どころではなくなり、飲まずにはいられなくなってしまう。お仲にやるつもりだった女下駄を、どこかに捨ててしまおうと思うのだが…。「ともかくこれからは、何でもかんでもみんな打ち明けて、あんたを心配させて上げる」──。山あり谷ありが夫婦の絆を強くするんだね。感動の夫婦小説。

帰って来た女  (新潮文庫「龍を見た男」に収録)
短編。六年前、ごろつきの鶴助にたぶらかされて、家を出て行った妹・おきぬが、病気になっていると知った錺職(かざりしょく)・藤次郎。女郎屋の布団部屋で酷い状態で寝かされていたおきぬを家に連れ戻した藤次郎だが…。「鶴助が、あれから一度も顔を見せねえのが気になるのだ」、「………」、「あのごろつきが、ただの親切でおきぬの病気を知らせに来たと思うかね」、「そう言われるとちょっとひっかかるけどねえ」──。口がきけず、気弱で醜男(ぶおとこ)な子飼いの職人・音吉の、一途で純粋な生き様が素晴らしい。感動。

かが泣き半平  (新潮文庫「たそがれ清兵衛」に収録)
短編。いつも大げさに泣きごとを言うため、皆から「かが泣き半平」と侮(あなど)られている普請組の鏑木(かぶらぎ)半平。番頭(ばんがしら)の石塚十蔵から、傲慢(ごうまん)な家老・守屋采女正(うねめのしょう)の暗殺を命じられた半平は、必死にかが泣いて断るが、やむなく刺客役を引き受けざるを得なくなってしまう…。「聞いたところによると、そなた、近ごろ桶屋町の長屋の女房とねんごろにしておるそうだの」、「……」。ユーモアのある楽しい作品だが、ラストのかが泣きたくてもかが泣けない半平の姿にやるせなさを感じる。

隠し剣鬼ノ爪  (文春文庫「隠し剣孤影抄」に収録)
短編。牢破りの罪人・狭間弥市郎の討手を命じられた青年藩士・片桐宗蔵。秘剣「鬼ノ爪」が、自分ではなくて道場の後輩・宗蔵に伝授されたことを恨み続けている狭間自らが宗蔵を指名してきたのだ。しかし「鬼ノ爪」は屋内争闘のための短刀術に過ぎなかった…。宗蔵の上司・堀直弥の腐った性根…、美しすぎる狭間の妻女への恋情…、宗蔵を慕う可憐な女中・きえ…。「お気持は十分にわかるが、無理を申されてはなりません。藩命は曲げられんのです」、「私の身体を、さしあげてもいいのですよ」。素晴らしい出来栄えの感動作。

拐す(かどわかす)』  (新潮文庫「神隠し」に収録)
短編。怠け者の無頼漢・又次郎に十七歳の一人娘・お高を拐(かどわか)されてしまった錺師(かざりし)の辰平。五日に一度、又次郎に金を渡し、お高の消息を聞くという日々に辰平は疲労困憊する。お高の婚約者である勝蔵は、お高の居所を突き止めるため、又次郎の後を跟(つ)けるが、又次郎に見つかってしまい、ボコボコにされてしまう…。「ちゃんと二本の足で立っていたんなら、あれはどうして家へ帰って来ないんだ?」、「俺にはわからねえ」。シリアスものかと思いきや! 意表すぎるラスト! やっぱり女性には敵わない…。

禍福  (新潮文庫「霜の朝」に収録)
短編。女の秘具などを売り歩く小間物屋にまで身を落とした幸七。老舗の糸屋「井筒屋」の婿になる道を棒に振り、水茶屋の女・いそえと一緒になったことを、不運であったと思い続けて来た幸七だが…。「お前さん、このごろ機嫌が悪いでしょ? 外歩きは疲れるのよね。だから、あたしも少しは働いて、お前さんを休ませてあげないとかわいそうだと思ってさ」──。人と引き比べて自分が運不運か幸不幸かを考えるのはさもしいことだけど、主人公の男のような心境になれれば、気が楽になるのも確か。禍福は糾(あざな)える縄の如し。

神隠し  (新潮文庫「神隠し」に収録)
短編。小間物屋「井沢屋」のおかみ・お品が行方不明になった事件を調べる岡っ引の巳之助だが、三日後に、お品が何事もなかったような平気な顔で家に帰って来たことで解決する。しかし、お品の縋りつくような、何かに怯えたような眼を見た巳之助は、まだ事件は解決していない、もうひと騒動ありそうだと確信し、井沢屋を見張り続けるが…。「やっぱり飲まずにゃいられねえ世の中だな」──。“神隠し”の意外な真相を描いた捕物帳。世の中の理不尽さが引き起こした事件と、そんな世の中を恨む巳之助の人物像との相関が見事。

神谷玄次郎捕物控1 針の光  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。小名木川で若い女の死体が発見された。事件を探索する北の定町廻り同心・神谷玄次郎は、頚動脈を刺した後に首を絞めるという残忍な手口が、三年前に若い娘が三人も殺された未解決事件の手口と酷似していることから、同一犯の仕業だと確信する。岡っ引の銀蔵と協力して、得体の知れない黒い影を追い詰めていく…。母妹を斬殺された過去を持つ同心・神谷玄次郎を主人公とした捕物帳シリーズ第1話。小料理屋「よし野」の女主人・お津世や、床屋をやっている銀蔵の女房・おみち、玄次郎のよき理解者である支配与力・金子猪太夫など、登場人物たちとの交流も毎回楽しみ。「やっぱり二階がいいな。お前は声がでかいからな」、「何おっしゃるんです」。
神谷玄次郎捕物控2 虚ろな家  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。岡っ引の銀蔵の下っ引をしている板木摺り職人の直吉が行方不明になった。女の子がさらわれるという事件が起きた蝋燭屋「菊屋」を見張っていた直吉だが、一体どこへ消えてしまったのか? 菊屋の内情を知った北の定町廻り同心・神谷玄次郎は、誘拐事件の意外な真相を突き止めていく…。「気持はわかるが、みすみす悪い奴を見のがすのも、業腹だな」、「重ねてお願い申し上げます。手紙にはお上に告げ口すれば娘は殺すと、こわいことが書いてありますので」──。藤沢周平が描く正攻法な捕物帳。シリーズ第2話。
神谷玄次郎捕物控3 春の闇  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。材木屋「奥州屋」の奉公人・増吉が何者かに殺された。紛失した奥州屋の娘・お園の簪(かんざし)を、岡っ引の銀蔵が奥州屋に頼まれて、内密に探索していた中で起きた事件だった。その簪は、お園が婚約者である米屋「神戸屋」の総領・筆之助から貰った大切な品物であったのだが…。「神戸屋の若旦那は嫌いか」、「はい」、「俺も嫌いさ。あんたは眼が高い。あんな蛸(たこ)みたいに柔らけえ男に嫁に行くことはないよ」、「………」──。簪の行方から犯人を突き止めていく同心・神谷玄次郎の手腕。捕物帳シリーズ第3話。
神谷玄次郎捕物控4 酔いどれ死体  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。物乞いをしていた中年男・甚七が殺された事件を調べる定町廻り同心・神谷玄次郎。昔、木綿問屋「吉川屋」で働いていたが、酒狂いのために店をクビになってしまい、妻子とも別れてしまった甚七。「それにしてもだ。酒は好きだが、女房に手も上げられねえようなおとなしい男が、何であんな殺され方をしたか、だ。何かあるはずだぜ、銀蔵。そいつを突きとめなくちゃな」。死体の衣服に着目し、犯人を特定していく同心・神谷玄次郎の活躍。捕物帳シリーズ第4話。酒好きにしろ、潔癖症にしろ、度が過ぎると碌なことにならない。
神谷玄次郎捕物控5 青い卵  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。裏店(うらだな)で一人住まいだった年寄りのむめが殺され、彼女が隠し持っていた小金が盗まれるという強盗殺人事件が発生した。むめが小金を持っていることを知っていた人物が怪しいと睨んだ同心・神谷玄次郎は、彼女と茶飲み友だちであった糸屋の隠居と、裏店によく顔を出していた小間物売りの長吉を割り出すが…。「それに、どうして夜でなく昼にばあさんを襲ったのか、そのあたりも引っかかるな」──。“中から何が孵(かえ)るかわからない、得体の知れない青い卵”が不気味で、末恐ろしい。捕物帳シリーズ第5話。
神谷玄次郎捕物控6 日照雨(そばえ)』  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。米屋の次男坊で、どうしようもない女たらしの重吉が、何者かにメッタ刺しに刺されて殺された。女の筋の恨みであろうと見当をつけた定町廻り同心・神谷玄次郎は、岡っ引の銀蔵に調べさせるが、なかなか有力な手掛かりが掴めない。米屋の女中が、ここ五、六年の間に、七人も入れ替わっていると知った玄次郎だが…。「どう思うかね、銀蔵」、「やっぱり男でしょうな。重吉はあれだけの身体をした若い男ですぜ。女の手で、ばらすのはむつかしゅうござんしょう」──。玄次郎の暖かい人情が素晴らしい。捕物帳シリーズ第6話。
神谷玄次郎捕物控7 出合茶屋  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。真綿商「巴屋」で起きた強盗殺人は、二人組の男の犯行だと思われたが、もう一人女がいたことが判明する。一方、畳問屋「青梅屋」のおかみ・おとせが、人に襲われ怪我をするという事件も起きる。おとせは近ごろ何者かに後をつけられていた…。「巴屋の事件と、こちらのおかみの事件が繋がったのさ。野郎二人がつるんで行くところじゃねえが、銀蔵、これからちょいと東仲町の出合茶屋に行ってみようじゃないか」──。別個の二つの事件が“出合茶屋”をきっかけにして結びついていく展開が面白い。捕物帳シリーズ第7話。
神谷玄次郎捕物控8 霧の果て  (文春文庫「霧の果て 神谷玄次郎捕物控」に収録)
短編。十数年前、母と妹を何者かに斬殺された過去を持つ同心・神谷玄次郎。札差「井筒屋」の奉公人だった娘・お佐代が殺された事件を調べていた老練な同心だった玄次郎の亡父・勝左衛門だが、そのために家族を殺されてしまい、事件の探索も中止になってしまったのだ。「わかってみりゃたわいねえもんだな、銀蔵。みんな欲だ。てめえの欲のためには、人間かなりひでえことも平気でやるもんらしいぜ」──。長年の怨念であった事件の真相を突き止め、敵の正体を知った玄次郎の「心境」が印象深い。捕物帳シリーズ最終話。



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