吉川五明



五明の句

手を負し猪のさまよふ花野かな

『春秋稿』（初篇）

日ハ花の中より暮る木槿かな

『猿墳集』

世間寝て見るへき月に成にけり

『華鳥風月集』

振そむる雪や闇より松の形

『潮来集』

紅梅のけふなれハはや夕べかな

『此まこと』

更科や何から暮て明る夜ぞ

『水薦苅』

はつ桜月は水よりいつるかな

『衣更着集』

夜の明て見れば雨降さくらかな

『春秋稿』（第六編）

蔭ありて日向ありて芭蕉靜也

『松の炭』

来ぬはすよ歯のなき口に呼螢

『春秋稿』（編次外）

しら菊や色あるものはさめやすき

『俳諧百家仙』

目にもちてまとろむ花の木蔭哉

『春秋稿』（第七編）

枯なもみいつまて人にとりつくそ

　　　閑　居

紫陽花ハ木かくれ住（む）我花か

『黒祢宜』

やぶ入のしきみ提シぞあはれなる

『さらば笠』

来ぬはづよ歯のなき口によぶ蛍

『ななしどり』

白魚や走てちきらんものハこれ

『つきよほとけ』

白菊やいろあるものはさめやすき

見てをれば雉子のねぶげのうつりけり

『鶴芝』

よき隣持けり梅に鳥の声

『風やらい』

ある人のすなるよきくの虫供養

『はたけせり』

秋もはや一ふし白き木賊哉

『続雪まろげ』

秋の山霧て書たるすかた哉

『おくの海集』

浚ひ井の水に鰥を活（いか）しけり

『古今綾嚢』

よき扇かざして通る四月哉

『随斎筆記』

雛祭り盆三日よりあはれ也

『名なし草紙』

夏山や子にあらはれて鹿の鳴

『三韓人』

ちる花や手をさし出せはさのみ又

『しをに集』

鰒喰の淋しそうなる睦月哉

『わすれす山』

夏山や子にあらはれて鹿の鳴

『おらが春』

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