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俳 書

『華鳥風月集』(桃路編)


 寛政2年(1790年)、『華鳥風月集』(桃路編)刊。 完来 序、 闌更 跋。

越の桃路ぬしハ風雅の心深く、月にあさけり風にあさむくことたえす。花をめて鳥をあはれむのあまり、はせを翁の跡をしたひ遠き百とせの忌をとふらハんとおもふこゝろせちにして、未の世になかくくちさらん名を石にきさみ、ひろく大やまとむそあまりの国々のみやひ人のこゝろすさみに……

 寛政4年(1792年)6月12日、可楽庵桃路は 芭蕉の句碑 を建立。『華鳥風月集』を供えて芭蕉翁百年遠忌を営む。



芭蕉翁

芭蕉翁百廻忌 花鳥風月集 乾

   歌仙
   翁

春もやゝ気色調ふ月と梅

巣作る鳥のちらす塵ひら
   桃路



 堀之内
埃りかと吹けハ蝶也白牡丹
   徐々

惜しけなふ折て呉たり桃分限
   巨鳰

 高田
春の月沫たツ水にやとりけり
   甘井

水の月探りて後と知られたり
   梅至

   越前

 金津
朝起や長者かもとの郭公
   二逐坊

   加賀

 金沢
長雨や牡丹のすがり浅ましき
    麦水

名月や人静まつて松のいろ
   馬仏

   出羽

 秋田
世間寝て見るへき月に成にけり
    五明

   陸奥

 南部
誰となく友のまたるゝ月夜哉
    素郷

 会津
水鳥や三との陰を巣に結ひ
   巨石

 白石
秋風や弦くひしめす狩の供奉
   鬼子

 仙台
薄衣や萩に頃よき立姿
    白居

   上野

 高崎
月かさや花見ぬ梅の匂ひ来る
    雨什

 前橋
跨んとすれハ母なり郭公
    素輪

 長沼
切立の衣に僧の花見かな
    似鳩

   信濃

 善光寺
観月や竹鑓きたふ夜なるへし
   柳荘

 野尻
葉隠れの桜見付し蝶のさま
    湖光

 稲荷山
琴弾て誰をか恨む春の月
   卜胤

 麻績
人として老の哀や鵜飼舟
   鳥峨

 戸倉
念なくも花に曇れる心かな
    古慊

 上田
篠原や野分しつまる忘れ水
    如毛

朝かけの梅まハらなる関や哉
   雲帯

世ににくきものハ鵜飼の昼寝哉
   麦ニ

宿引か梅を噂す月遠し
   井々

 諏訪
時鳥聞て寝ぬ夜を算へけり
   自徳

   美濃

 北方
風さハく夜や家近き雁の声
   再和房

   近江

 粟津
うくひすの足にかけけり蔦かつら
   沂風

   常陸

 額田
蟻飛ふ日を悠然と牡丹かな
    五老峯

   下総

 曽我野
たか浪や春をけふとき風の雁
    雨塘

   武蔵

 江戸抱山宇
居眠りハ夜も寝ぬ人か花の陰
   門瑟

 葛飾
鶯の腹合よくて初音かな
    素丸

空□の陽炎黒し梅の花
   我泉

 多少庵
梅咲や今に式部の墓詣
    秋瓜

 春秋庵
鐘つきを画にかく花の麓かな
    白雄

水仙に琴の稽古ハ二の間かな
    長翠

山陰や朝日にうとき片鶉
   帰童

名月の雲に吼るや山の犬
    成美

 雪中庵
参宮の留守の七五三あり春の風
    蓼太

鳴初て古き雲なしほとゝきす
    完来

冴くらへ冴くらへ氷の月夜かな
   普成

夜桜や坊か碪ハ衣更
    翠兄

白柄を昔かたりや華さかり
    荘丹

散にけり咲かけにけり只花盛
   午心

 鴻巣
暁の筆を探るやほとゝきす
    柳几

恋痩の月や二八の其夜より
   柳也

 青梅
花野とハなりぬから堀一の木戸
    支兀

   歌仙
   翁

花の雲鐘ハ上野か浅艸か

春おもしろの橋の夕暮
    完来

引捨し車の乾くかけろふに
   桃路

馴て羊のうちねふりツゝ
    荘丹

芭蕉翁百廻忌 花鳥風月集 坤

 山城

   歌仙
   翁

時鳥大竹原をもる月夜

をし明方に青嵐吹
    蝶夢

嗽き手洗ひ船に腰のして
    闌更

蒟蒻売も呼ハりにけり
   沂風

たまたまに二ツ三ツ居る冬の蠅
   桃路

 洛陽
一枝や花屋か店のはツ桜
  蝶夢

 半化坊
我も来て桜に咎をあふせたり
    闌更

分いれは川上寒し花に鳥
    重厚

 摂津

   歌仙
   翁

松風の檐をめくツて秋暮ぬ

手やふれたまふ盃の影
    不二

鶉啼御狩の郊裙ひちて
    若翁

 不二庵
梅咲や湯気立のほる笛の孔
    二柳

 長月庵
落る身を花に鳴込雲雀かな
    若翁

素布子の肌こゝろよし春の風
   遅月

冷しきうき名は消て朧月
   竹阿

   伊勢

梅ひとり馴れぬ旅寝に香をよせる
   二曲

見るも聞も雲雀に限るあら野哉
   魯然

 松坂
凩やおもへはつよき鶴の脛
   滄波

鶯のさも念比に初音かな
    呉扇

   尾張

 名古屋
二瀬三瀬心われして啼千鳥
    暁台

春の月澄よと見れハ明の雲
   羅城

 吉田
水鳥のかしら揃へる朝日かな
    木朶

   遠江

 浜松
しつかさや紅梅多き村つゝき
   白輅

 府中
花すりの端山を出たり春の月
   文母

 沼津
人間の夜ハまた寒し梅のはな
    官鼠

   甲斐

 藤田
時鳥ふねに無言の遊ひかな
    葛里

   伊豆

 熱海
道まてハ貰ふて来たりけしの花
   呑吐

   相模

 鴫立沢
夕くれや桜か下のわすれ笠
   西奴

 猿ケ島
諍ひハ梅に定まる春の風
    丈水

をろをろと山鳥鳴て梅の散る
    しをり

   備後

 三原
散る花にうたれて紙燭消にけり
   梨陰

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