俳　人

小野素郷

盛岡の俳人小野永二。別号松濤舎。望春亭。

『俳人住所録』 に「素郷　南部森岡　小野」とある。

岩間乙二 ・ 常世田長翠 ・ 吉川五明 と共に奥羽四天王と称された。

南部素郷望春亭ヲ造リ以テ同門雅友ヲ会ルコト一月ノ間必二ヒ也。蓋シ天和貞享之風調ヲ好ミ雪−月　花−柳ノ為ニ寝食ヲ忘レ独リ壁上ノ影ニ対シ閑窓ニ遊フコト夜々也。

『俳諧八僊歌』

　寛延２年（１７４９年）１０月２３日、盛岡の豪商和泉屋に生まれる。

　明和８年（１７７１年）３月、京に出て五升庵 蝶夢 に師事。

　天明３年（１７８３年）５月、盛岡に帰る。

　天明３年（１７８３年）、宮古津軽石の俳人里川を訪れ、 芭蕉の句碑 を建立。



海暮て鴨の声ほのかに白し

　予が盛岡滞在中談この事に及んだ時、新渡戸蓬雨氏は、すでにそのため幾分の史料及びその遺句を収拾したとの事であった。ついて借覧することを得たので、左にその要を摘むこととした。（素郷の伝記は一戸某著南部文学史中に詳記してある）

素郷姓は小野名は永二、盛岡に生る。其先は近江小野村より出づ。家世々商を営む盛岡豪家の一なり。素郷人となり温恭幼より俳譜を好み、書を 大島蓼太 に送りて添削を乞ふ。 明和中京に上り夢幻庵 蝶夢 に就き学ぶ処あり。明和九年十月十二日芭蕉翁七十九辰忌を以て蝶夢と謀り、幻住庵記を撰し、自ら一片板に書き、これを 義仲寺 に繋く。 天明癸卯の年五月盛岡に帰り、居を志家村にトし、自ら望春亭と称し、徒を集めて専ら正風の流を起す。素郷亦た書に巧みに謡曲に達す。文政三年四月二十九日歿す。年七十二。後弘化三年四月二十九日孫久通等石を新城山 芭蕉塚 の側に建て、素郷平生得意の句（自書）を鐫（ほ）る。曰く、「思無邪、梅開柳青めば夢もなし」と其句集を「柴の戸」といふ云々

　もってその一班を知るに足るであろう。なお蓬雨氏談に、素郷と同時平野平角なる者があって、常に素郷と軋礫しておった。しかし平角の覇気満々たるに比して、素郷は恭倹常に争を避けておったとのことである。

『三千里』

文政３年（１８２０年）４月２９日、７２歳で没。

弘化３年（１８４６年）、 素郷の句碑 を建立。


思無邪

梅開柳青めば夢もなし　　　松濤

素郷の句

また只の雲にして行しくれ哉

『しぐれ会』（明和８年刊）

かならすと時雨まつ日や塚の前

『しぐれ会』（明和９年刊）

卯花や土佐か画し門かまえ

『晒布集』

小夜しくれ酒盗人と呼れけり

『しぐれ会』（安永９年刊）

ひやゝかや雨の竹戸に影うつる

『春秋稿』（第二篇）

艸の戸や酒を小瓶にはぎすゝき

『春秋稿』（第三篇）

散る間だに与所目はふらじ花の山

『秋風記』

しらうめやあるじの女歌ふるす

『安佐与母岐』

磬聞は春月寒きおもひあり

『春秋稿』（第四篇）

鶴まふや真向にうつる春の水

『菅の小蓑集』

はるの野にほとけつくりも交りけり

『春秋稿』（第五編）

空見れば十一月やうめの花

『續一夜松後集』

　　　別恋

無理いふて帰るむくひや夜の雪

『宰府日記』

誰となく友のまたるゝ月夜哉

『華鳥風月集』

桐火桶人來て閑を奪ひたり

『潮来集』

誰となく友のまたるゝ月夜かな

『松葉塚』

花二日のちは寝てこそあらまほし

『衣更着集』

柴の戸やふたり揃ふも茶の袷

『春秋稿』（第六篇）

蛤の積はくつるゝすかた哉

『俳諧八僊歌』

目をあけは見ゆるものなし虫の声

『春秋稿』（編次外）

誰となく友のまたるゝ月夜かな

『俳諧百家仙』

はまくりをつめは崩るゝ気色哉

『春秋稿』（第七編）

柴の戸やふたり揃ふて茶のあハせ

『黒祢宜』

蚊屋ふたつもちてつたなき心哉

『波羅都々美』

きりぎりすなほ聞入ば羽をたゝき

古寺や春の雪ふる薄月夜

『鶴芝』

蝙蝠よ來ん世は鶴歟うぐひすか

『はたけせり』

閑古鳥青きほかには色もなし

『有磯蓑』

いざよひや花ちる蓙にさし扇

『続雪まろげ』

よき水のはしる音する若葉哉

『おくの海集』

春の霜やゆかしき人の上草履

『曽良句碑建立句集』

閑古鳥あをき外には色もなし

『繋橋』

黄檗へ児つれて行枯野かな

『古今綾嚢』

先へ立しは母なるか夕ざくら

『物の名』

陽炎の世に明暮や老大工

『続草枕』

　　　白うるりとは何物をいふにや

しら露やへちまの蔓のばからしい

『物見塚記』

梅がゝの姿をいはゞ黒茶碗

『随斎筆記』

白露やよき匂ひする山の中

『俳諧道中双六』

芒よりうまれし山をすゝきより

『なにぶくろ』

よき水の走る音する若葉かな

『信濃札』

十はかり家もミえけりゆふ柳

『青かげ』

玉（魂）まつり平家の人の通りけり

『三韓人』

太刀持と女ものいふ若葉かな

『杖の竹』

よき水の走る音する若葉哉

『的申集』

無理いふ（う）て帰る報ひ（い）や夜の雪

『迹祭』

夕紅葉赤きはものゝ尽る色

『俳諧西歌仙』

芒より生れし山よ芒より

『小夜の月』

閑古鳥青きほかには色もなし

『椎柴』

蝙蝠よ来ん世は鶴歟うくひすよ

『しをに集』

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