このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

 4時間遅れの寝台列車を降り、降り立ったのはポーランド、ポズナン中央駅のホーム。図太い鉄骨が支える屋根の下、華やかさはないが待ち客が多く賑やかだった。さて、4時間遅れのせいで、乗換え予定の列車はとっくの昔に出てしまった。ならば次の列車と調べてみると発車まで2時間ある。せっかくだから街に出てみよう。


■5月25日 ポーランド・ポズナン


 手持ちのガイドブックには4ページだけポズナンが紹介されていた。この国、第三の都市でこの扱い。まだまだ日本への情報は少ない。そのページの端の頼りない地図を参考に、市庁舎のある広場に向かうことにする。駅付近は薄暗い駅舎と、無骨な高架橋。正直、この雰囲気からでは街の情景にはさほど期待していなかった。トラム通りを線路沿いに歩き、右に曲がってしばらく歩いたら、旧市街らしいエリアに出た。路地に入ると色とりどりの壁が美しい建物が並び、ヨーロッパの旧市街らしいいい雰囲気になってきた。そして、市庁舎の広場へ出たとき息を呑んだ。旧市庁舎を四角に取り囲むように並ぶ建物のファザード。その石畳の広場の中に、ひとまわり小さな、そして個性的な壁の装飾が施された建物群が収まる。どこかのテーマパークのようなかわいい街並みに、ポーランドというあまりイメージの沸かない国で出会えたのは感激だった。広場では観光客向けのみやげ物やカフェが並び、馬車のお迎えまで来ている。カフェのテレビではF1モナコグランプリが大画面テレビに映され、若者たちが固唾を呑んで見入っている。建物の壁には日本製のカメラの広告。この国の経済発展は目覚しい。広場を後にし、教区教会へ。外観はそれほどでもないが、中に入って驚いた。大理石の柱や金色に施された装飾は、他国の教会に勝るとも劣らない。教会にはいろいろな個性があるが、どちらかといえば控えめなドイツやスイスあたりの教会に慣れていると、この内装には圧倒された。
 

 

ポズナンの旧市庁舎広場にて教区教会の内装


 トラムで中央駅に戻る。そろそろ今日の目的の列車が出る時間だ。コインロッカーから荷物を取りだし、ホームへ向かう。今日の目的はここポズナンから田舎町のヴォルシュティンへ向かう列車。なんと一日2本、現役の蒸気機関車が牽引するのだ。しかしホームの様子は静かで、石炭の焼ける匂いもしない。残念ながら据付けられていた列車はディーゼル機関車。蒸気機関車はお休みのようだった。ヴォルシュティン行はディーゼル機関車に2両の客車を連ねた3両編成。客車は二階建てで水色に黄色のツートーンという派手な外観だが、社会主義時代に製造された車両で、車内はビニールレザーの椅子が並び、暗くて質素。木枠の窓には煤煙の汚れが残る。蒸気機関車じゃないのは残念だが、客車はそのまま。雰囲気を感じることはできる。


 ポズナンを発車。せっかくだから2階のボックスに収まる。ヴォルシュティンまでは1時間ちょっと。すぐに単線の田舎道になる。乗っているのは地元民だけ。停まる度に少しずつ下車していくが、もともとボックス席に一人ずつくらいしか乗っていなかったので、車内はいつしかガラガラになっていた。

 

 終点、ヴォルシュティンに近づいた。この駅に蒸気機関車の車庫、ヴォルシュティン機関区が隣接している。駅構内に入るとその扇形の機関庫が見え、留置線には錆びた蒸気機関車が何両も放置されていた。ヴォルシュティン到着。列車を降り、はやる気持ちを押さえて、まずはホテルへ。ホテルまでの道の途中、地元のおっさんに捕まり、言葉が分からないことなどどうでもいいかのように話し掛けてくる。蒸気機関車を見に来たことだけは理解してくれたようだ。チェックインして機関庫に向かう。機関庫は博物館になっているのだが、この時間では閉館しているはずだから、様子だけでもと思い行ってみた。機関庫までは錆びた機関車の横を歩く。西日に照らされた巨大な鉄の塊が横たわる姿は、鉄道マニアにとっては何とも言い難い物悲しさはある。しかし、そんな赤錆びた機関車に連なって、美しく化粧した機関車もいた。保存活動もちゃんと行っている。機関庫に着いた。門は開けっ放しで誰もいない。叱られたらその時だと思い、こっそり入った。ポズナンでは姿を現してくれなかった蒸気機関車がここで休んでいた。10両程入る庫に機関車がぎっしり詰まり、うち3両に火が入っていた。やはり、ここヴォルシュティンの蒸機は現役だった。こっそり入ったつもりだったが、結局堂々とシャッターを切る。職員らしい人が通ったが、「ハロー」と言ったらおとがめなしだった。今日はもう動かない。ならば明日の朝を楽しみにして引き揚げる。

 

留置されている赤さびた機関車たち機関庫で休む動態の機関車



■5月25日 ポーランド・ヴォルシュティン
 

 翌朝、4:30起床、5:00チェックアウト。朝食が用意できないからといって、サンドイッチを作っておいてくれた。本当に嬉しい。こんな早朝の出発で、優しいおかみさんには申し訳ないと思う。明けきらぬ道を駅へと急ぐ。踏切から駅構内を見て、心の中で歓声をあげる。空高く灰色の煙を噴き上げた蒸気機関車が発車を待っていた。重いスーツケースを引きずって機関車に近づく。全長20メートルの標準軌大型蒸気機関車のOL49型。全身のあちらこちらから漏れる白い蒸気が、ひんやりした朝の空気に引き立てられて、煙突の煙とともに機関車を包む。ボイラーは現役の垢にまみれているが、下回りはピカピカに磨かれ、機関助士が油を差している。5:27発、ポズナン行き。まもなく発車である。

 そんな様子を撮影していたら、機関士に呼ばれた。呼ばれるがままに機関車のキャブに登る。すると、機関車のプレートや写真集は要らないかと、いかつい運転職人の顔のまま商売を始められた。欲しくなかったわけではないが、丁重にお断りして、キャブから降りる。ホームから発車シーンを撮影する。駆け込み乗車の老婦人を乗せて、背の高いすらっとした車掌が発車の合図を送ると、一気に蒸気と高い煙を吹き上げ、目の前を通り過ぎていった。後を追うように後姿を見ると、明け始めた朝の空に、大きな雲をひとつ造り上げていた。
 

発車前の点検ヴォルシュティン発車!!

 

 

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PART1 プラハとアルフォンス・ミュシャ

PART2 プラハからツィッタウへ

PART3 ドイツ蒸気機関車の旅

PART4 国際寝台列車のホントの話

PART5 ポーランドの街と蒸気機関車

PART6 クヴェトリンブルク発、蒸気機関車の旅

 

EURO EXPRESS    2008 東欧・ドイツ旅行記

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