このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

 ポーランドから国際特急でドイツ・ベルリンに戻り、ローカル列車を乗り継いで、世界遺産の街、クヴェトリンブルクへ。木組みの街を楽しんだ後は、蒸気機関車でハルツの高原を旅する。木漏れ日の中を、高原の澄んだ空気の中を走る小さな蒸気機関車に乗ってきた。

 

■ 5月27日 クヴェトリンブルク


 クヴェトリンブルクは木組みの建物が建ち並ぶ世界遺産の街。入り組んだ石畳の路地の先には1000年ほど前に立てられた城のテラスに出た。茶褐色の屋根が並ぶ何年も変わらないであろう景色を、写生会でやってきたらしい学生たちと見下ろした。ところでこの、クヴェトリンブルクに来た理由というと、実はあまり大それたことではない。ドイツらしい木組みの家が建ち並ぶ街を訪ねたいというのは漠然とあるが、それがなぜここクヴェトリンブルクになったかというと、何年か前、とある旅行代理店へ手配に行ったとき、その店の壁にこの街のポスターが飾られていて、その美しさに一目惚れしてしまった。ということ。だけだったのだが。

 

 

クヴェトリンブルクの街並み路地で出逢ったネコ


 さて、このクヴェトリンブルクから蒸気機関車が走るようになった。ハルツ山地を中心に路線を展開するハルツ狭軌鉄道の支線が、ここクヴェトリンブルクまで延長されたという。どこの国でもローカル線の台所事情は苦しいはずなのに、このニュースには驚いた。


 午後2時ごろ、クヴェトリンブルク駅からハルツ狭軌鉄道に乗る。乗車する14;30発の列車は蒸気機関車ではないが、旧東ドイツで走っていた年代もののレールバス。これに乗って途中から蒸気機関車に乗換える。定刻にクヴェトリンブルクを発車。軌間1メートルの線路に乗っかる小ぶりな我がレールバスの隣を、標準軌のディーゼルが併走する。分岐点まで速度を合わせて、別れ際には気笛をひとつ。なかなかの演出。線路は本線と分岐して丘陵をゆるくカーヴしながら進む。線路は真新しいが、途中駅の駅舎は古いレンガの建物を磨き上げて再生している。どうもこの路線は標準軌だった路線を改軌して狭軌の車両を乗り入れるようにしたらしい。


 ジャンローデに到着。ここからは蒸気機関車の出番。年代もののレールバスの隣に据付けられた客車の先頭には、黒光りした小型の蒸気機関車がくっつく。接続時間はわずかだったので、機関車には後で挨拶に行くことにする。前から機関車、荷物車、客車3両の5両編成で、1車両15名ほどの乗り。


 小さな気笛のあと、静かにジャンローデを発車。乗っている客車は静かだが、先頭の機関車は一生懸命だ。カーヴに差し掛かったとき空転するのが見えた。空転すると鼓動が急に速くなり、足回りのロッドがもつれそうな動きをする。蒸気機関車は自分の状態を全身で表している。まもなく列車は森の中を走る。木漏れ日の中、右に左にカーヴして少しずつ勾配を登る。本線蒸機に負けないドラフト音と爆煙。トンネルはあまり無い。山の地形に沿って線路が敷かれているようである。途中、崖崩れがあったらしく、復旧工事をしている区間では徐行した。

 

レールバスの運転台。触っちゃダメだよ。ハルツ狭軌鉄道の蒸気機関車99-6001号


 森の途中、アレクシスバートに到着。意外に下車客が多い。そして驚いたことに下車客のほとんどが買い物袋をぶら下げた地元民なのである。この蒸気機関車に乗るためには特別な切符など無く、普通の乗車券で乗れる。この列車ももちろんダイヤに組み込まれた定期列車。いつもの列車なのである。そりゃ、観光客も東洋から来た怪しい鉄道マニアも乗っているが、基本的には地元の足なのである。ここで機関車も小休止。タンクに水を補給する。機関車の方へ行ってみる。ジャンローデでは駆け込みで乗換えたのではじめてご挨拶である。小ぶりなこの機関車、99-6001号というタンク機関車。軸配置は1−C−1で、日本型で言えばC12をちょっと短くしたようなスタイル。線路幅は日本の狭軌とほとんど同じ1000mmなので、なかなかの迫力である。


 アレクシスバートを出ると、景色が開けてきた。高原に出たようだ。この客車のデッキは文字通りのオープンデッキで風が気持ちいい。おいしい空気に時折混ざる石炭の焼けた甘いにおいが、また、たまらないのがマニアの性。こんな高原地帯にもこまめに駅があり、律儀に停車する。乗降はゼロもしくは1〜2名である。


 高原の中の分岐駅、シュティークに到着。ここで乗換えだが、この列車はこの先、ハッセルフェルデという駅まで行って、またこの駅に戻ってくる。ならば、ハッセルフェルデまで行って戻って来たい旨を、到着前に女性の車掌に告げて切符を買おうとしたら、「その切符で往復していいよ。」と言われた。シュティークを発車してすぐ右手には、珍しいリバース線がある。列車全体を円形に敷かれたレールを一周して方向転換する線路で、1日に何本か実際に方向転換をしているらしい。列車はさらに開けた高原を行く。


 高原の中に集落が見えてきたところで終点のハッセルフェルデに到着。小さな車庫があり、中にはひとまわり大きな機関車が休んでいた。水を補給し、機回しをする。反対側の客車に連結した後はブレーキ試験も怠らない。先ほどの女性車掌が最後部で制輪子を蹴っている。準備が整ったところで折り返しハッセルフェルデを発車。ちょっとだけ走って、またシュティークに戻ってきた。蒸気機関車の旅はここで終了。来た道を戻っていく蒸気機関車を見送った後は、この高原の駅で1時間ほど待ちぼうけである。
 

シュティークにて、待ちぼうけ。

 

 

 2008 東欧・ドイツ旅行記 完

 

 ※ 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

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PART1 プラハとアルフォンス・ミュシャ

PART2 プラハからツィッタウへ

PART3 ドイツ蒸気機関車の旅

PART4 国際寝台列車のホントの話

PART5 ポーランドの街と蒸気機関車

PART6 クヴェトリンブルク発、蒸気機関車の旅

 

EURO EXPRESS    2008 東欧・ドイツ旅行記

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