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山口素堂

『山口素堂句集』 (蘆陰舎大魯閲)

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安永4年(1775年)、『山口素堂句集』(蘆陰舎大魯閲)。

吉分大魯は阿波徳島藩士。通称文左衛門。京都に出て、 蕪村 に入門。

安永7年(1778年)、11月13日、没。

山口素堂句集

浪 華 蘆陰舎大魯閲

   

   蘭亭の主人池に鵝を愛せら
   れしは筆意有るゆゑなり

池に鵝なし假名書習ふ柳陰

   西國へ下りし頃周防長門の
   間の堤に大木の柳ありける
   を

胴をかくし牛の尾戰ぐ柳かな

大井川いさめて落つる椿かな

雨蛙聲高に成るもあわれなり

    曾良 餞別

汐干つゞけけふ品川を越ゆる人

   芭蕉曾良餞別

松島の松陰にふたり春死なむ

春もはや山吹白く苣(ちさ)苦し

   

   鎌倉一見の頃

目には青葉山郭公はつ鰹

わすれ草もしわすれなば百合の花

垣根破るその若竹を垣根かな

河骨や終にひらかぬ花ざかり

澤瀉(おもだか)や弓矢立たる水の花

   木曾路をのぼる頃

夕立にやけ石凉し淺間山

暑き日も樅の木の間の夕日哉

浮葉巻葉此蓮(コノレン)風情過ぎたらむ

   追 加

その富士や五月晦日二里の旅

   

   昔此日家隆卿七そぢなゝの
   と詠じ給ふはみづからを祝
   ふなるべしと我母のよはひ
   のあひにあふ事を壽きて猶
   九そぢ餘り九つの重陽をも
   かさねまほしく思ふ事しか
   り

めでたさや星の一夜も蕣も

西瓜ひとり野分をしらぬ朝かな

    西國下り の頃

淋しさを裸にしたり須磨の月

    明 石

朝霧に歌の元氣やふかれけむ

    玉津島

霧雨に衣通姫の素顔みむ

   野水の雁の句をしたひて

麥を忘れ花におぼれぬ雁ならし

    いつくしま

回廊に汐みちくれば鹿ぞ啼く

南瓜やずつしり落ちて暮淋し

   戊寅の秋洛陽に遊び一日鳴
   瀧に茸狩して兩袖にいだき
   て歸りぬ其片袖は都の主人
   にあたへ其片袖は大津の浦
   一の隠士安世のかたへ此三
   唱を添へて送るならし

   其一

茸狩や見付けぬさきのおもしろさ

   其二

松茸やひとつ見付けし闇の星

   其三

袖の香やきのふつかひし松の露

南瓜やずつしり落ちて暮淋し

たのしさや二夜の月に菊添へて

   同隱相求といふ心を

むくの木のむく鳥ならし月と我

月一つ柳ちり殘る木の間より

   去年の今宵は 彼菴 に月をも
   てあそびて 越の人 あり筑紫
   の僧ありあるじも 更科の月
   より歸りて木曾の痩もまだ
   直らぬになど詠じけらしこ
   としも又月のためとて菴を
   出ぬ 松島 象潟 をはじめさる
   べき月の所々をつくして隱
   の思ひ出にせむとなるべし

此度は月に肥えてや歸りなむ

うるしせぬ琴や作らぬ菊の友

酒折のにひばりの菊とうたはゞや

    石 山

雲なかば岩を殘して紅葉けり

   甲斐が根

ほぞ落の柿の音聞く深山哉

   

芭蕉いづれ根笹に霜の花盛

   烏巾を送る

(もろこし)のよし野の奥の頭巾哉

   埋 火

宮殿爐也女御更衣も猫の戀

和布刈遠し王子の狐見に行かむ

此わすれ流るゝ年の淀ならむ

市に入てしばし心を師走かな

   追 加

腹中の反古見分けむ年の暮

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