このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

歩いて行けるマカオまで「90日間フリータイム」の若い女性限定ツアー

飛地の売春ツアー

飛び地や飛び地のような小さな植民地には、往々にして観光客がたくさん来たりします。飛び地自体が観光名所になっている バールレ という町や、周囲の国では禁止されているカジノなどを公認して観光客を集めている飛び地( カンピオーネマカオ )もありますが、飛び地へやって来る観光客の多くはショッピングが目的。日本からもたくさんの観光客が「高級ブランド品が安い!」とか言って香港へショッピングへ行っていますが、 ジブラルタルセウタメリリャカリーニングラード なども同様です。もっとも「観光客」の多くは、1日に国境を何回も行ったり来たりする担ぎ屋さんだったりしますけどね。

なぜまたこれらの飛び地は高級ブランド品が安いのかといえば、自由貿易港で関税がかからないから。じゃあ、なぜ飛び地には関税をかけないのかというと、そうしないと港を利用してもらえないからだ。

例えば広東省の工場が部品を輸入しようとしたとする。イギリス領だった香港の港を使うと、香港と中国と両方の関税がかかってしまい、出来上がった製品を輸出するのにも香港の港を使うと、これまた香港と輸出先の両方の関税がかかってしまう。これでは広東省の企業に香港の港を利用してもらえないし、狭い香港の市場だけでは港が発展しない。そこでいっそのこと自由貿易港、つまり「香港の関税はかけませんよ」と宣言。こうすれば、香港周辺の企業は港としての条件が良い香港を利用して貿易するようになり、香港は関税収入がなくても貿易拠点として発展することで経済的にも財政的にも潤うという仕組み。

港を中心とした飛び地や植民地というのは、そもそも列強が条件の良い港を貿易拠点や軍事拠点として占領したケースがほとんどだから、関税さえなくなれば飛び地の周囲からも利用されて、大いに発展できるだけの下地があるのだ。かつてインドにあった飛び地のようなポルトガル領( ゴアダマン など)やフランス領( ポンディシェリー など)、オマーン領の グワダル なども、飛び地だった時代は自由貿易港だったし、日本も戦前、 関東州 (大連、旅順)を自由貿易港にしていたが、これは満州の輸出入に大連港を使ってもらうための措置。

珠海の中心部。すぐ目の前のビル街はマカオだが、道路は直前で寸断
こういったわけで、港を中心とした飛び地はその余禄として他の地域なら高税率の関税がかけられそうな高級品が安く、観光客が集まってくるのだが、飛び地の観光といってもせいぜい数日間だし日帰りも多い。ところがポルトガル領だったマカオでは、すぐ隣りの中国・珠海市から「90日間マカオツアー」なるものがあった。

マカオなんて本土(半島部)だけなら半日もあれば十分。離島まで足を伸ばしても2日あれば観光スポットは見尽くしてしまう町だし、隣接する珠海からなら歩いても来れる場所だ。

で、珠海を出発した90日間ツアーご一行様は、国境で出入国審査を受けた後、とりあえず繁華街のホテルまで案内され、その後は90日間のフリータイム。ホテルがセットになっているのも最初の数日間だけで、あとは各自が勝手に宿を探してくださいと、ほとんど放置プレーな内容。一体誰がこんなツアーに参加するのかと思いきや、参加者のほとんどは10代後半から20歳そこそこの若い女の子ばかりなのだ。

中国のアヤシイ床屋街
いちおうツアーは旅行会社が募集していることになっているが、参加申し込みを受け付けているのは、マカオとの国境に面した珠海の床屋さん。赤青白の万国共通の看板がクルクルが回る横に、澳門90天遊報名処(90日間マカオツアー参加受付所)なる紙切れを貼って、ツアー参加者を募っている。

ところで中国の床屋と言えば、髪を切ってサッパリするほかに、男性の場合は下もサッパリできるという店もあって、いわば個室付き特殊浴場ならぬ個室付き特殊理髪店。そういえば台湾にもアヤシイ観光理髪庁なる店が存在していたが、そういう類のフーゾク産業だ。珠海の国境ゲートのまわりには、マカオや香港からやって来る男性を当て込んだ床屋街が栄えていた。マカオや香港と比べて、珠海の所得水準は10分の1だし、物価水準は5分の1。当然フーゾクの相場も安いということで、週末ともなれば珠海へ遊びに行くマカオの男性が多い。そういや、日本から珠海へ買春ツアー(というか買春社員旅行)をして外交問題にまで発展した某リフォーム会社もありましたね。

そこで「マカオから来た男に安く買われるくらいなら、自分がマカオへ行って高く売った方がイイ!」と考えるのが賢い女性というもの。珠海の床屋では100元(約1400円)くらいが相場だが、マカオでは200元か300元になるし、カジノへ行って財布のヒモが緩んだギャンブラーに声をかければ、1回で600元から700元(※)は稼げてしまう。こんな夢のような飛び地が隣りにあるのなら、90日間どころかずっと居たいと考えるのも当然のことだ。

※中国の通貨は人民元、マカオはパタカ、香港は香港ドルだが、中国語で書けばいずれも「元」。ここ数年は為替レートもほとんど似たり寄ったり。
しかし、マカオや香港の住民はパスポートもいらず身分証のカードを見せるだけでカンタンに中国へ行けるが、大陸の中国人はマカオや香港へはカンタンに行けない。10倍の所得格差がある「豊かな飛び地」へ行きたがっているのは、なにも売春目的の女の子だけではなく、老若男女たくさんいるわけで、マカオや香港には毎年数万数十万単位の不法入境者が殺到していた。しかし徐々に規制は緩和されていて、1990年代になるとツアーに参加すればマカオや香港に行けるようになった。そこで登場したのが「90日間マカオツアー」。買春目的のツアーと言うのは世界あちこちにあれど、文字通りの「売春ツアー」だったという次第。

で、マカオのカジノで声をかけてる相手も中国からギャンブル目当てのツアーでやって来た観光客だったりして、傍から見てると中国人民同士が外国支配下の飛び地まで来て、な〜にやってんだか・・・という感じがしますね。マカオでは売春自体は違法ではないものの、観光目的で入境したツアー客が売春で稼げば不法就労になるわけで、警察の一斉摘発で中国へ強制送還されるツアー参加者も跡を絶たなかった。

その後、さすがにヒドすぎると思ったマカオ警察が摘発強化に乗り出し、中国政府も若い女性のツアー参加者に対する審査を強化。マカオが1999年に中国へ返還されてからも、珠海とマカオとの間には依然として国境の検問所がありパスポートや身分証を審査しているが、中国人のマカオ渡航はさらに緩和されて、個人旅行も可能になった。それに中国の経済発展で、マカオとの経済格差は縮小しているので、いまでは「90日間マカオツアー」なんて怪しげなものはなくなったと思いますが。どうでしょうね?
  

返還直前のマカオを行く や、 飛び地の運営実態香港地元紙ナナメ斬り! も参照してくださいね。
 

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