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久米逸淵

『逸渕発句集』

久米逸淵の七回忌追善集。

慶応3年(1867年)7月、逸淵の息信則が『逸渕発句集』刊行。伊能穎則序。

 春之部

   嫁か君

人ハ寝てそちか春なり嫁か君

歯かためや先玉川の水の味

鶯や持てうまれし春の聲

   行脚の頃

みちのくの空の名残や冴かへる

裸身に陽炎たつや大井川

   門人西嶋 の文臺披露に

梅老て柳にゆつる垣根かな

   春秋庵嗣號

花守か子孫の数に入にけり

    木母寺

炎天の雲の露けき柳かな

筥根こす日のはり合や青嵐

 秋之部

   日光中禅寺山中赤沼か原

草鞋にも残る暑さや温泉の匂ひ

   おなしく歌か濱

さゝ波のもてゆく忘れ扇かな

   露

宮城野のよきミやけ也袖の露

   赤城山中

谷々のしつくまとめて秋の聲

    白雄 居士三十三回忌

遠くなるほと堪かたし秋の聲

   日光中禅寺山中

とんほうの生れ處や蓼のうミ

   文月廿日あまり木母寺に詣て
   梅若祭の春をおもふ

桜にも悲しかりしかちる柳

    筑波山

眼のさめて居てゆく秋の朝寝かな

   朗詠

我聲のわか身にしむや善光寺

   赤城山中古調

霧晴露落て山を裂く瀧の闇哉

 冬之部

   笹子峠

老か手のとゝく雲より初時雨

    池上

木の葉まで根にかへりけり本門寺

   鳳郎 居士

くたら野に朽ぬ名のミそ残りける

    甲斐善光寺 酒折の宮 共に寂々寥々たり

松かせや神も佛も留守らしき

    身延山 鴬谷

さゝ鳴も古巣忘れぬ谷間かな

   願くハ花のかけにてと聞えし 西上人
   節にすかりて花洛の空に首途するハ
   その如月望の日なりけり

蓑着れハ身をはなれ行餘寒哉

   大磯 鴫立庵

月を見て黙て寝たり西行忌

   □□ろ歳やわかれいそかぬ雁の聲
   筥根の関をうしろになせハ三保の
   うら波前にせまる

眼さハりの端山ハやかて不尽白し

   久能山

足もとの波音遠し八重かすミ

   岡崎青々流風□□日

初花やこゝろもつよくミな一重

    桶狭間

春雨のさめさめとふる谷間かな

花つミに問ひもて行や迷ひ道

   宇治にて

燈をねらふむしハいなせて待蛍

寝ぬ伽にほつほつとのむ新茶哉

   活花の其山草ハ尾花沢の 清風
   遺風ありて風雅の交りいと□頃に
   仮のやとりも心易し

青梅のころりころりと旅寝かな

   淡路島にワたり五月雨の空覚束なき
   海士の家にやとるも又旅の一興なり

ほし網や軒のしつくも蚊の隔て

   奈良にて

角切も合点かほなり神の鹿

三笠山秋ハ花野と成にけり

   伊賀に 祖翁の古郷 をたつねて幸ひに
   玉まつりに逢ふ

古塚やミのむしも鳴われもなく

   内外のおまへにぬかつきて

雲ハ行水ハなかれて神路山

   二見夜泊日月一瞬

花も紅葉もまほろしに浦の秋

    鳳来寺

三日月ハ見て居る人にかくれけり

   かろうして東海道に出たり

乙鳥の行空もなし田子のうら

   熱海

秋の空温泉のわく度にかハりけり

   あはれ長月九日と翌日ハいふへき
   けふのゆふへ草庵に帰り着ぬ

菊とわれといのちくらへや旅もとり

   慶應三丁卯年秋七月

   為七回忌追福 男信則梓

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