このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

 

6日目(バーセル⇒ローザンヌ)


 6時半頃、上段に寝ていた中国人に起こされる。


「パスポート持ってきたみたいだよ。」


 先に下車する私のパスポートを車掌が持ってきてくれた。中国人に礼を言って、コンパートメントの外へ出た。バーセル到着までは後20分余り。洗面を済ませ、喫煙コーナーで時間を潰す。天気は良さそうだ。6:54、定刻にバーセルSBB駅到着。横になったままの中国人に「ハヴァ、ナイストリップ!」と声を掛け、コンパートメントを後にする。アメリカ人夫婦はぐっすり寝ている様子だった。別れにしては少し寂しい。ホームへ降りる。スイスの朝は涼しい。機関車は黄色と青の広告が塗られたスイスの電気機関車、Re4/4 460型に代わっていた。


 チューリッヒに向かうシティーナイトラインを見送り、コンコースへ向かう。まずやらなくてはいけないのは両替だ。スイスはスイスフランの国。ユーロは使えない。各国紙幣に対応している両替機に1万円札を突っ込んだが、はじき返されてしまう。日本の新札にはまだ対応していないようだ。結局窓口で両替する。


 今日はローザンヌのホテルにチェックインするほかは特に予定は組んでいない。午前中はバーセルの街を歩くことにした。まずコインロッカーに荷物を預けようとしたが、コインが足りない。両替された紙幣は100スイスフランが2枚。少し気が引けたが、売店でバーセルとローザンヌの地図を買って小銭を作った。実はスイスのガイドブックを日本から持ってくるのを忘れていた。コインロッカーに荷物を預け、ファーストフード風のカフェで朝食。カフェラテはおいしかったが、一緒に頼んだオムレツのパイが口に合わず少し残した。


 コンコースは通勤客で多くの人が流れていた。そのなかで全身タイツのような格好でなにやら配っている人がいた。興味本位で近づくと、ペットボトルに入ったジュースを手渡された。どうやら飲料会社のキャンペーンのようだが随分太っ腹だ。


 準備が整ったところでバーセルの街へ出る。店々はまだ開店前。しかし通勤時間帯で人通りは多い。曲がりくねった道を地図を頼りに歩く。が、旧市街のきれいな街並みに目を奪われているうちに早速迷子になった。こうなったら好きに歩くしかない。適度な勾配の坂に古い家並みが並ぶ。こういう街を歩くのは好きだ。


 ショーケースに鉄道模型を見つける。並んでいるのはスイス型の車両が多い。日本製もある。値段は少し高め。


 何気なく路上駐車しているのはジャガー。


 道の先は城壁の看守塔。


 道路わきのパーキングメーターの形がおもしろい。


 猫に出会う。


 歩くだけで面白い。小さな広場のベンチに腰掛ひと休み。家々は直射日光を浴びて壁の色がはっきりしている。

 

バーセルに到着したCNL

カラフルな建物たち

路地で出会った猫


 そうしているうちにトラムの停留所を見つけた。迷子になりっぱなしも調子が悪いので乗ることにした。バーセルのもう1つの駅、バーセル・バードへ行くつもりだったが、どうも反対だったらしく、バーセルSBB駅に戻ってしまった。気を取り直してもう一度トラムに乗車する。今度は旧市街のマルクト広場で下車。その名の通りマルクト(市場)が開かれていた。マルクト広場からライン川の河岸に出る。路地で見つけた木組みの家の壁には「1438」と書かれている。その脇を通って大聖堂へ。大聖堂の前の広場では画学生だろうか数人が写生をしていた。木漏れ日が差す静かな場所だった。大聖堂の裏手に廻ると、ライン河岸の様子が一望できる展望台になっていた。天気がよくて気持ち良い。見えている範囲のどこかからがドイツでどこかからがフランスのはずである。ここバーセルは3国が隣接する国境の街だ。


 大聖堂裏手から回廊を通って表に出る。中庭がアーチに囲まれて美しい。大聖堂の正面には2本の塔が立っているが、一本は修復中であった。南側の塔の壁には日時計があり、影で時を映し出している。中に入る。木製の椅子が整然と並べられていて、奥からステンドグラスの光が椅子を照らし出している。石の壁からの冷気が気持ちを落ち着かせるのであろうか、教会の中に入るとどこか異空間に来た感覚になる。


 大聖堂を出てライン川に掛かるヴェットシュタイン橋を渡る。歩道と道路にはトラムが走る幅の広い橋だが、足がすくむくらいに高いところに掛かっている。眼下はライン川。その幅の広い川を、ワイヤーで繋がれた渡し舟が行き来している。なんとも不思議な風景だ。バーセルの街は高低差があるので、川面に近いところから橋まで上がってくるのは大変。それで低い河岸同士を結んでいるようだ。


 橋を渡りきりそのまま進むと、テオドール教会にぶつかる。古めかしい教会だ。その裏手で面白いものを見つけた。教会の裏のちょっとしたスペースにコンクリートの足で固定された卓球台が置いてあり、ラケットと玉さえ持って来れば誰でも使えるようになっている。屋内でプレイするよりさぞかし気持ちいいだろう。


 列車の時刻が迫ってきたので、トラムで再びバーセルSBB駅に戻る。荷物を引き上げてホームへ。列車はジュネーヴ行きのICNという列車。イタリアの技術で出来た振子式の電車だ。1等、喫煙車を探して乗り込むと、客は私一人だった。バーセルを発車。しばらくは車窓を見てくつろぐ。列車は渓谷沿いを走るので、振子電車の本領発揮といったところだ。車内も快適。黒をベースとした室内空間はお洒落という言葉がよく似合う。遠くにはアルプスの雪をかぶった山々が見える。緑の木々と、白い山、そして青い空。ため息が出るほど綺麗な風景が続く。時間はちょうどお昼時になったので、食堂車に向かった。


 白いテーブルクロスが眩しい食堂車の空間。スイスに限ったことではないが、こういうものを省略しないところが嬉しい。食堂車は街中のレストランにも劣らない。ウェイター兼シェフのおやじはイタリア風。まずはビール。でもこれは失敗。ドイツの食堂車なら当たり前のように生ビールがでてくるが、ここでは缶ビールが出てきてしまう。気を取り直して英語のメニューからスパゲッティー・カルボナーラを注文する。しばらく経って出てきたそれは少し小ぶりだが、中身は本物。小皿に盛られた粉チーズをたっぷりふりかけて食べる。


 列車はビールに停車。反対側のホームをTシャツ姿のリュックサックを背負った男性が歩いている。そこへ赤い電気機関車が引っ張る貨物列車が到着。するとその男性が機関車の運転台に入っていく。この男性、交代の機関士だった。


 乗った列車はローザンヌを経由しないでジュネーヴへ行くので、途中のイヴェルドンでSバーンに乗り換える。ヨーロッパの列車はあまり車内放送が無いと言っていたのは昔の話。乗り換え案内の自動放送が3カ国語で行なわれていた。乗り換え時間は30分程あり、その間、写真を撮って時間を潰す。構内には赤いAe6/6型という電気機関車が停車中。1952年製。反対のホームにはイヴェルドン・サントクロワ鉄道の凸型電気機関車が休憩中。ワニの絵が描かれ派手な装いだが、こちらも50年選手。ICNのような新型だけではなく、スイスでは旧型の車両もまだまだ活躍中。デザインも心地よく映るものが多い。


 乗車するSバーンが到着したので乗り込む。ユーレイルパスの恩恵に与り1等室へ。近郊型とはいえ、一昔前の応接間のような空間だった。その居心地の良さのせいか、ローザンヌまでの30分はぐっすり寝てしまった。

 

SBBの振子電車「ICN」

かわいらしいローザンヌのメトロ

今日の宿、シャトー・ドゥーシー


 目が覚めると窓の外にローザンヌの文字。慌てて列車を降りる。スイスは3度目だが、フランス語圏に来たのは初めてだ。看板の読みや雰囲気からフランスと錯覚してしまう。まずはメトロに乗って予約してあるホテルへ向かうことにする。駅前でメトロの文字を見つけてメトロの駅へ行く。そこに現れたのは1両の電車。しかもホームが斜めになっているほどの急勾配。よく見ると車輪の間に歯車が付いている。「??メトロ…って?」。乗ったのはその1両編成ではなく、坂を下る格好で到着した電気機関車と客車が2両の3両編成。白地に青いワンポイントの電気機関車はほぼ正立方体。その愛くるしさに思わず笑ってしまう。なるほど、ローザンヌは坂の街。その3両編成で坂を下るように、終点のオーシー駅に向かう。


 終点のオーシー駅はレマン湖に面したところ。道路を挟んだところに今日の宿、シャトー・ドゥーシーを見つけた。その名の通り、城を改装したホテル。古城ホテルに泊るのは初めてだ。少し薄暗い中庭から建物に入ったところがレセプション。チェックインをして部屋に入る。家具もシャワールームもレトロな雰囲気。何よりも2泊列車の中だったので、今日は部屋があることにホッとする。シャワーを浴びて一休み。


 午後からは特に予定を組んでいなかった。とはいっても、レマン湖へ来たなら、レマン湖沿いを走る列車の写真くらいは撮っておきたいと漫然と考えていた。カメラを持って再び駅へ向かう。レマン湖沿いを走る列車といえば、モントルーのシヨン城を絡めた写真は何度か見たことがあったので、モントルーへ行くことにした。ちょうど来たIR(インターレギオ)に乗車しモントルーへ向かう。

 

 途中のヴェヴェイでは面白いモノを発見。ヴェヴェイはモントルー・ヴェヴェイ・リヴィエラ鉄道というメーターゲージー(軌間1000ミリ)の私鉄の始発駅なのだが、その設備と思われる転車台が崖をくりぬいて設置してある。転車台に載せられた車両が回るとき、車両の半分は洞穴の中に突っ込んでいる形になる。山岳地帯ならではである。


 ローザンヌから約30分でモントルーに到着。隣のホームにはMOB鉄道のゴールデンパス・パノラミック車が発車を待っている。時間があればこんな列車で山岳鉄道を楽しむのもいい。


 駅を出てレマン湖畔へ。湖畔にはアイスクリームを売る露店や土産屋が出て、たくさんの人で賑わっていた。ジョギングをしたり、犬と一緒に散歩をしたり、思い思いに過ごしている。子供の姿も多い。あちこちで黄色い声が上がっている。バーセルで見つけたのと同じコンクリート造りの卓球台でゲームをしているグループもいた。


 シヨン城へは湖に沿って歩いて行ける、と日本に置いてきたガイドブックに書いてあったような気がしたので、とにかく歩くことにした。15分ほど歩いてカジノの前に来た時、シヨン城が見えた。が、相当遠い。このまま湖に沿って歩いたら何分掛かることやらといった距離である。とはいえ後戻りするのも哀しい。遠くとも目指す城は見えている。今度来られるのはいつになるかわからない。気を取り直して進む。


 30分程して、やっと城が望遠レンズに収まるくらいの大きさになった。もう少しのはず。


 1時間程歩いたところで国鉄のシヨン駅に着く。時刻表を見ると30分おきの運転だった。素直に待って電車で来ればよかった。


 そこから約10分でシヨン城の真横に到着。やっと着いた。のではない。ここまで来た目的はシヨン城を絡めた列車の写真を撮るため。城を通り過ぎて更に歩く。


 城から15分程歩いて、やっと思っていたポジションに着く。しかし雑草が多くそれをかわすために広い道路に出ると、そこにバス停が。しかも10分おきの運行。あぁ、この長い散歩は何だったのだろうか?


 再び気を取り直して1時間ほど撮影を楽しむ。お気に入りの電気機関車も撮影でき収穫だった。電気機関車というモノは、力強く、重々しいイメージが普通なのだが、赤く塗られたボディーや、小柄さを見ると、スイスの電気機関車には、なぜか可愛いイメージを持ってしまう。

 

レマン湖に浮かぶように建つシヨン城

湖畔の散歩道にて

シヨン城をバックに走る電気機関車


 帰りはもちろんバスに乗る。バスの乗車券は車内にある自動券売機で購入できた。Sバーンの始発駅ヴィルヌーヴ駅までたったの2区間で5分ほどで到着。既にローザンヌ行きの電車が入線していた。発車時間が迫っていたので乗り込む。特にアナウンスも無く発車。必死に歩いてきた区間を10分と掛からず過ぎていく。「まあ、こんな旅もいいさ。」と自分に言い聞かせる。


 ローザンヌに戻り、メトロでホテルへ直行。さすがにもう歩き回りたくなかった。夕食もホテルのレストランへ。レマン湖に面したガラス張りのテラスがレストランになっていていい雰囲気。日中は暑かったが、夕暮れ時は吹き抜ける風が涼しい。ウェイトレスに「窓、閉めましょうか?」と聞かれるがそのままでいいと応える。まずはビール。メインのサーロインステーキが運ばれてきたとき、白ワインを頼んだら笑われた。


「でもいいんだよ、好きだから。」


 と応える。このウェイトレスとは仲良くなれた。すっかりいい気分になって部屋に戻る。

 

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