このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

 

9日目(パリ⇒帰国の途へ)

 

 最終日の朝が来た。昼過ぎには雲の上だ。ヨーロッパの旅も残り半日だが、有効に使いたい。ホテルで朝食。バイキング形式の豪華なブレックファーストも今日が最後。心して頂く。さて、荷物を駅に預けてパリ観光でもしようかと思っていると、フロントで嬉しい提案をしてくれた。荷物を預かってくれるという。ありがたい。2時ごろには戻ると告げて街へ出た。

 

 昨日はモンマルトル。今日もパリの路地裏を覗いてみたい。参考書は日本の本屋で見つけた「パリのおさんぽ」という写真集。観光地ではない普段着のパリがパノラマ写真で紹介したものだ。かわいい店が集まるというサン・ジェルマンへ向かうことにした。


 メトロのサン・ジェルマン・デ・プレで下車。目の前はサン・ジェルマン・デ・プレ教会。パリ最古の教会といわれている。内部はさほど豪華ではないが、壁の堅牢さが伝わってきて落ち着いた雰囲気だ。ドイツではこういう教会は多い。少女がじっと真剣に祈りを捧げて動かない。こういう風景は日本のお寺や神社ではあまりお目にかかれない。教会の外へ出る。教会前の広場から、道の向こうにモンパルナスタワーが見えた。古い街並みの先に近代的な建物。少し違和感を覚える。かつてエッフェル塔ができたとき、街の景観を損ねると、当時のパリ市民は建設に反対したそうだが、その気持ちが何となく分かる。しかしながら現在エッフェル塔はパリを象徴する建物として親しまれている。100年後にモンパルナスタワーもそうなっているのであろうか。


 サン・ジェルマン・デ・プレ界隈の商店街を歩く。昼前なのに人通りは多い。八百屋にパン屋、肉屋、タバコ屋、花屋…と生活に密着した店が軒を連ねる。八百屋ではマダムが瓜を選りすぐり、カフェは昼前だというのに大盛況。八百屋の値札や眼鏡屋の看板までもがまさにパリそのもの。なぜこんなに街に溶け込んでいるのか。古いものもあれば新しいものもある。色彩だって色々。店のロゴを書いた看板やパラソルのフォントだってまちまちだ。なのに、まるで「パリ」というフィルターを掛けられたように、不思議に統一されたように感じてしまう。はじめてパリに来た時、カメラのファインダー越しにどこを切り取っても絵になると感じたものだが、その感動は10年ぶりの今日も変わらない。日本人の画家、荻須高徳は半生以上を賭けてこの街を描き続けた。それほどこの街は魅力的だ。しかもこの魅力は路地裏にある。

 

サン・ジェルマン・デ・プレ教会

八百屋さんにてセーヌ川河岸の名物、古本屋


 商店街を抜けると、セーヌ川の河岸に出た。交通量の多い車道を渡ると、古本屋の露店が並ぶ河岸の遊歩道。古本屋といっても最近は本の変わりに土産物を売っている店がほとんどだ。対岸はルーブル美術館。先程までの路地裏とは様子が一気に変わった。これもまたパリである。


 フランス学士院の前に掛かるポン・デザールという橋のベンチに腰掛けてしばし休憩。セーヌ川を遊覧船、バトームーシュが行き交う。ポン・デザールを渡らず、次の橋を渡りセーヌ川の中洲に浮かぶシテ島へ。ノートルダム寺院の前に出る。すっかり市内観光だ。昨日のサクレクール寺院と同じくとてつもない観光客の数だ。特に塔に登る列が数百メートルは続いていた。どうも列に並ぶのは苦手だが、礼拝堂見学の列に並ぶ。こちらは5分ほどで入れた。反時計回りで堂内を回る。ステンドグラスが美しい。薄暗い堂内に幻想的な光を放つ。この旅行で何度も見てきた光景だが、バーゲンセールのような混みようでは、雰囲気に浸ることもできない。時間は正午。ミサが始まったが、その様子を少しだけ見て外へ出た。


 今度はノートルダム寺院を背にして少し歩いたところにある花市を見に行く。メトロのシテ駅一帯で開かれている。シテ駅の出入り口も昨日のアベス駅同様、アールヌーヴォー調の装飾がなされているが、こちらはガラスの屋根は無い。温室のような建物を行ったり来たりする。見事な欄の花もある。花の他にも園芸用品が売られており、観光客以外も多いようだ。綺麗に飾られた花々を見ていると、オイルの匂いまでするようなエンジン音を響かせて一台の車がやってきた。ルノー・キャトルだ。花屋のうちの一軒の持ちものだろうか、小さな店によく似合う。シトロエン・2CVにルノー・キャトル。パリの路地には欠かせない2台だったが、最近はめっきり見かけなくなった。


 シテ駅からメトロに乗ろうとすると、係員に制止され、階段上まで戻されてしまった。駅近辺で何か行事があるらしく、駅も封鎖する様子だった。係員が、


「となりのシャトレ駅から乗ってくれ。」


 と言う。周りの客とともに、シャトレ駅に向かった。シャトレ駅はシテ島の橋を渡った対岸にあり、シャトレ広場にその入口があった。さほど広くない広場で、目の前は車の往来が激しいのにもかかわらず、小さな緑の空間にたくさんの人がベンチに腰を下ろしたり、横になったりと、思い思いに過ごしている。広場を囲むカフェはちょうどランチタイム。そんな様子を横目にメトロに乗る。行き先は、シャルル・ド・ゴール・エトワール。凱旋門の真下だ。

 

 

 

花市の裏で見つけた

ルノー4(キャトル)

ノートルダム寺院を見上げる

シャンゼリゼ通り

一番奥が凱旋門


 久しぶりにパリに来たのだから、シャンゼリゼ通りくらいは歩きたいと思ってやってきた。凱旋門からコンコルド広場の方向へ。ラ・マルセイエーズを背にして歩く。有名なブランドショップやフランスの大企業。それに多くのカフェが軒を連ねる。カフェのギャルソンの動きにこの地で働く誇りを感じる。身だしなみも身のこなしも、どこか優雅だ。新装オープンしたショッピングビルを覗いてみると、そこにはF1マシンが展示されていた。こんなイベントもシャンゼリゼならではだ。


 フランクリン・デ・ルーズヴェルト駅から再びメトロに。ベンチに腰掛けて電車を待っていると、隣に日本人の中年女性2人組みが座り、次はどのブランドショップへ行こうか検討している。やってきた電車に乗ると、向かいの席で携帯電話を使っているのはこれまた日本人の若い女性。シャンゼリゼから地下に降りたら、まるで東京メトロだ。少々閉口する。


 向かった先はブランドショップ。ではなく、クリニャンクールの蚤の市。10年前も随分観光地化されてしまったとガイドには書かれていたが、今はどうだろうか。10年前にここで初めてピンバッヂを買い集めたのがきっかけで、以後集め続けることになった。今回も掘り出し物を見つけたい。


 最寄り駅、ポルト・デ・クリニャンクール駅を降りる人は多く、人波に揉まれて市までやってきた。相変わらずよく賑わってはいたが、以前と様子が違う。市の大半は安物衣料の店になっていて、以前のように生活雑貨を売る店は数えるほどになってしまっていた。これではあまり面白くない。集まってきているのは若者ばかりで、治安も少々悪いようだった。それでもなんとかピンバッヂを扱う店を見つけて買い求めた。シトロエンのBXにエールフランスのロゴ。たぶん企業がキャンペーンなどで配布したようなものである。1つ2〜3ユーロ。こういうものが欲しかった。残念ながら扱っていたのはこの1店。早々に退散する。


 余談ながらパリのくだらないお土産を買うなら、クリニャンクールはいいかもしれない。パリ土産を売る店で、エッフェル塔のキーホルダーが1つ50セントで売っていた。ちなみに後日、日本の雑貨屋で「パリ出しか手に入らないエッフェル塔キーホルダー!」と銘打って、500円で売っているのを発見してしまった。


 これで時間一杯。北駅に戻る。北駅からシャルル・ド・ゴール空港行きのRER(パリ近郊線)が出る。ホテルから荷物を引き上げる前に切符を買っておくことにした。しかし窓口は長蛇の列。20人程の列に開いている窓口は1つ。またもヨーロッパの「あたりまえ」に遭遇してしまった。窓口の係員は決してのんびりと構えているわけでなく、テキパキと仕事をこなしている。それでも30分程待たされた。


 ホテルに戻り、礼を言って荷物を受け取る。飛行機の出発時刻まで2時間を切ってしまった。急ぎ足でRERに乗り込む。十分間に合いはするが、少し余裕が無い。


 RERでは不思議な乗客に遭遇する。まずは初老の女性。悲痛な顔をして、客席に何か紙切れを配る。何か書いてあるが分からなかったが、「お恵みを…」の意だと察した。しばらくするとそれを回収して回り、次の車両へと移って行った。次はバイオリニスト。バイオリンにラッパがついていて、音がよく響くようになっている。いきなり車内コンサート開始。1曲弾き終わると、子供がコップを持っておひねりを回収という具合だ。もちろん誰も入れていない。この親子も次の車両へ。


 列車は焦る私の心を知ってか知らずか、RERはのんびりとパリ郊外を走る。この列車で列車の旅も最後だ。

 シャルル・ド・ゴール空港駅に到着。すぐ空港かと思っていたら、バスに乗り換えターミナルへ。出発時刻1時間前にカウンターに到着。並んでいたら、


「フランクフルト行きのお客様いらっしゃいますか?」


 というようなニュアンスが聞こえたので手を挙げる。私一人だった。列から外れて、すぐに搭乗手続きをしてくれた。急いでいたので、機内預け荷物の重量オーバーを大目に見てくれて助かった。礼を言って出発ロビーへ。まだ搭乗は始まっていない。焦った割にはのんびりと出発を待つことになる。が、階下では預けた荷物を詰め込むのに大忙しのはずである。やはりチェックインは早めに。困った日本人にならないように…。


 出発まで一服と思い、喫煙コーナーを探したが見当たらない。駅やTGVでもそうなのだが、フランスは禁煙にするのはいいが、喫煙所を設けないのであろうか。仕方なくロビーの端にあるカウンターカフェでコーヒーを注文。テーブルの上に灰皿は無い。しかし、空いた紙コップを灰皿代わりにしてタバコを吸った形跡がある。周りの客は禁煙エリアなど気にせず、堂々と一服している。灰皿が無いから灰は床へ。仕舞にはカフェのマスターやフライトアテンダントまでもがそうしている。全面禁煙にしたところで、欲求は止められないということだ。そうやって押さえつければ規則を破る者が出る。しかも、みんなでやれば怖くない。誉められたことではないが、私もここで一服。


 再びフランクフルトへ。トランジットで出国審査。EU外に出ることになる。そういえば、フランスを出るときパスポートチェックは無かった。時間まで免税店を冷やかす。ふと、食事が気になった。飛行機に乗ってしまえば機内食は出るがタイミングが分からない。ならば小腹が空いた今のうちに食べてしまおうということで、空港内のレストランへ向かった。空港内とはいえ、ここはドイツ。まずはビールで乾杯。メインはシュパーゲル&シュニツッェル。大好きな一皿を最後に食せてよかった。


 などとのんびりしていたら、搭乗時間が迫ってしまった。食後のコーヒーを飲み干す。ウェイトレスに、「イッヒ・リーベ・ドイチュランド!(ドイツを愛しているよ!)」と告げると笑っていた。

 

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