桜井梅室



梅室の句

日の曇くせのつきけり青芒

『有磯蓑』

煤掃てけさもむかしと成にけり

『繋橋』

炭かまをさして飛けり夜の鶴

『しぐれ会』（文化６年刊）

雨に曲げて椿を落す雀かな

『続草枕』

　　南都にて

古寺にそたつ鴉や時雨声

『しぐれ会』（文化７年刊）

　　　雲みづの心かよふ土鍋あり、この菴泊。

ぐるりから月夜になるや雲の峰

『俳諧道中双六』

柴折バ鴬いぬる夕べかな

『信濃札』

朝寒や珍らしく成我からた

『青かげ』

夕燕ひとつは谷へ帰りけり

『三韓人』

花の雨日枝見送らぬ人もなし

『豆から日記』

松の根に日を置てたつ千鳥哉

『しぐれ会』（文化１２年刊）

柴折れは鶯いぬるゆふへ哉

『的申集』

朝がほにとりまかれけり槇の島

『迹祭』

うめ折るや朝の心の離れ際

『河上集』

折れ兼て哀のさめる木槿かな

『古今俳人百句集』

飛先の月夜になりぬ鷦鷯

『花之跡』

ぐらつゐて梅折にくき小舟哉

『小夜の月』

蓮の香や遠し近しと敷むしろ

『しをに集』

ふるまひや扇をならす秋の暮

『春秋稿』（第八編）

久かたやきかぬとしなき蜀魂

『燧袋』

久かたやきかぬ年なき郭公

『糠塚集』

田の中にそもそもよりのすすき哉

『わすれす山』

花の雨日枝見おくらぬ人もなし

『雪のかつら』

藁塚に塒（ねぐら）はなさて小夜千鳥

『杉間集』

夕立や羽おり流るゝすみだ川

『墨多川集』

あつき日や立よる陰もうるしの木

『たねおろし』

たつ鴨の腋から落す田螺かな

『五とせ集』

建に行案山子大勢送りけり

『石碑供養』

黄鳥の注連に憶する榊かな

『をばながさ』

豆人の中に万歳わかりけり

『乙二七部集附録』

しりしりとあしたへあます夜寒哉

『袖塚集』

手を負し猪のさまよふ花野かな

『蝉塚集』

朝かほにあらく当るや稲の風

『花の雲』

藪入や道の近きを本意なかり

『浜ひさし』

我影の先へ来て居る清水哉

『鄙さへつり』

腰つよく一ツ葉たてり五月雨

『潮のはな』

見おろした柳見あぐる泊りかな

『おらが春』

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