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俳 書

『花摘』(其角著)


俳諧日記。 其角 自序。

 元禄3年(1690年)秋、母の四回忌に当たり追福の一夏百句を思い立ち作製した句日記。

(上巻)

花つみ


八日  上行寺

   灌仏や墓にむかへる独言

十二日  東叡山院

   僧正の青きひとへや若楓
   角

廿四日 宗長の句をとりて

   橘の一ッ二ッは蚊もせゝれ
   角

二十八日

此日閑に飽て翁行脚の折ふし、 羽黒山 於本坊興行の哥仙をひらく

元禄二年六月にや。

    有難や雪をめぐらす風の音
   翁

   住程人のむすぶ夏草
    露丸

      湯 殿

    語られぬゆどのにぬるゝ袂哉
   翁

      月 山

    雲の峯幾つ崩れて月の山
   同

五月朔日

      うつくしきかほかく雉のけ爪かなと申たれば

    蛇くふときけばおそろし雉の声
   翁
※「蛇」は「虫」に「也」

三日

      信濃へまい(ゐ)らるゝ人、暇乞せらるゝ餞に

   梁(ウツバリ)の蠅を送らん馬の上
   其角

四日

    木下に汁も膾も桜かな
   翁

      甲陽軍鑑をよむ

あらそばの信濃の武士はまぶしかな
    去来

      いせの国中村といふ所にて

    秋の風伊勢の墓原猶すごし
   翁

    たう(ふ)とさにみなを(お)しあひぬ御遷宮
   翁

    いざさらば雪見にころぶ所迄
   翁

    何に此師走の市にゆくからす
   翁

十七日

      いらごの 杜国 例ならで、うせけるよしを 越人
      より申きこへける。翁にもむつまじくして、
       鷹ひとつ見つけてうれし と迄に、たづね逢け
      る昔をあもひあはれみて

   羽ぬけ鳥鳴音ばかりぞいらこ崎
   角



十八日

    つぼみとも見えす露あり庭の萩
   角

   紅葉狩 切込て太刀の火を見ん岩の霜



    ゆく水や何にとゝまる海苔の味
   其角

   籾の芽立の堀江棚橋
   渓石

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