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高桑闌更



『半化坊発句集』(車蓋編)

半化坊は高桑闌更 の別号。

天明7年(1787年)、刊。

 風暁夢を破て、遊子関を越んと聞へしも、実や我半化翁も、其はじめは中比の風に遊び、加の浅野川の二夜庵に三とせあまり結びたる夢も、古調の為に破れ、終に深雪ふる越路に立出て

   苦しさに休めば蚋のたかりけり

   姨捨や石に置身も月のため

   漏ざるをたのみぞ雪の薦かぶり

など風吟し客中に年を越て、霞たつ春は都の花にうかれ、ほとゝぎすの一声は淀の渡りに聞、月の清きには須磨の浦をたづね、橋立の詠には無季の格もしからんと、

   橋立や守神なくば波越ん

かくいひ捨て、暫く此辺りになん周流せられける。とりが啼あづまの方もしたはるゝ折からは、甲信の音信に笠をかたぶけて、此間に年をかさね、ふたゝび武城に二夜庵をいとなみ、漂泊の労を養れけるが、例のうかれ心より、しらぬひの筑紫がた見まくほしと、又もや都にかへり給へば、したしき人々の杖をとり笠をかくすに任せ、市中に居をしめられしが、名利のさはりもあればと、東山にかくれて故翁の

   柴の戸の月や其儘あみだ坊

と聞えしさびを「つぎて、南無庵の古しへを慕ひ、其地に芭蕉堂を結び、閑ならん事を願ふといへども、門人・遊子日々につどひ来り、閑居のいとまもなきに、うかれ神の立さらでや。

半化坊発句集 上

元日や此心にて世に居たし

山蔭や烟の中にむめの花

春もまだ雪にむなしき田面哉

   堅田に至りて、故翁の吟をおもふ

病雁(やむかり)も残らで春の渚かな

根をよけて火焚ケ桜に狂ふ人

   はじめて花供養いとなみて

活て居て望の日の花備へけり

    芭蕉堂 にて

時なれや花の中なる翁堂

花戻り銭落したる坊主哉

山吹や終には流す花のかげ

    川中島 にて

川しまやつばな乱れて日は斜

   桟谷亭を訪ふ

鳥啼て谷間も春の木立哉

  夏

   草津にて

六月やいたる所に温泉の流

温泉はあれど六月寒き深山哉

   日光中禅寺

あら涼し四十八湖を渡る風

    うらみの滝

ことによし裏みて潜る夏の滝

    室の八しま

煙たへて久しき宮の茂り哉

    親しらず

親しらば通さじ夏の海ながら

    殺生河原

暑き日や蝶鳥落て石黄

半化坊発句集 下

   稲 妻

稲妻や静ならざる秋の空

夜田苅や明て休らふ身でもなし

今宵なれや月にむかふも月の上

    阿漕が浦にて

月に猶哀あこぎが海の底

   再び此浦に来りて

十六宵も月に阿漕はなかりけり

    さし出の磯

黄昏や水にさし出のうす紅葉

    酒折の宮 もほどあらざれば

火ともしの神もめづらん月今宵

  冬

   冬木立

捨果し景色でもなし冬木立

枯芦の日に日に折て流れけり

   神無月廿日あまり、故翁の湖東行
   脚の跡を慕ひ、日野山の辺を過る
   に、 剥れたる身には砧の響哉  と
   聞へ(え)しも今はむかしにて、目出度
   御代のしるしなるにや。山も岡と
   なり、林も畑とかはりて、しら波
   の煩ひもなき折から、紫英亭にい
   たりて、暫く時雨をはらす。

剥れざる身に冬しらぬ舎り哉

  雑之部

   日 光

日面も日うらも照らす宮居哉

    善光寺

よごれたる我にも法の光りかな

    杖突坂

歩行にせん杖突坂のためし有

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