けだちて、正しく邊にゐますがごとし。
| 神風にいづれ十握(ツカ)のつばなの穂
| 居士
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| 比しも三月十七日、恒例の會式とて、
| 山下は三重四重の市店をかまえ、繁昌
| つねに万倍せり。是神徳の民をうるほ
| すならんか。
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| 神垣に市のはこびやむら燕
| 燕説
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| 同國倉敷にわたりて、露堂隱家に入。
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嚴島
賦
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| 蒼海に獨立して廻り七里の嶋あり、彌
| 山とや。本堂・虚空藏□・三鬼の宮・奥
| の院、鐘の古さは平宗盛建立と銘に記
| せり。小宮・小堂、目の行在にあり。麓
| は本社辨財天、續いて五重の塔・多寶
| 塔すべて一山の寺社數をしらず。百八
| 間の回廊潮にゆられ、左右の町屋甍を
| 並べ、晝の市聲・夜の万灯、船に立て是
| を見れば、龍の宮古を爰に押出しぬる
| かとあやしむ。
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| 硝子の國や若葉のいつくしま
| 居士
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| 月凉し回廊波に八重一重
| 燕説
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| 卯月十八日、兼て聞く橋見ん迚、岩國
| に入る。板橋五桁にして百廿間とや。
| 高さ虹のごとく、下に立て裏を見るに、
| その工みの奇なる事、から錦の糸組に
| 似たり。覺て人に傳ふべくもはらねば
| 其名斗を記す。
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錦帶橋
| 組橋やにしき織てふ菖蒲草
| 居士
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| 西國曲集 巻之二
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| 筑前の國黒崎に着。水颯・
砂明
の二子に
| 野叟が下向を待れて、一昔の物語に數
| 百里の勞を消す。
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| 蚊屋廣しいでや野の夢山の夢
| 居士
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| 此宿や槇の霖雨の乾く迄
| 燕説
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| 五月二日黒崎を別れて直方に行、頓野
| と云所、原田一定子の庵に遊ぶ事久し。
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| 隱家辞
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| 山林に入を小隱といひ、市中に在を大
| 隱といへども、其市の隱はまぎれ安く、
| 山林の隱はつとめくるし。筑の前劦頓
| 野といふ里の山際に、仕へをかへして
| のがるゝ人は一定何がしなり。三方は
| 紫竹、翠に吹れて、向ふは生垣まばら
| に門もふけす。一宇のめぐりは荒畑に
| して、無媒の徑路草しげく、居は六疊
| 二間、竹椽のみ。閑なる事彼方丈に過
| たるべし。
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| 郭公山の一字で猶ゆかし
| 居士
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| 端午は一定老人の閑居にありて、浮世
| の幟を垣越に見る。
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| もらひ粽むけや菖蒲は生(ハヘ)ながら
| 燕説
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善導寺
に参詣して、雪刀子が宅にあそ
| ぶ。家は南を面に作るべしといへど、
| 又、東より來る凉風もあれば、主の此
| 物數寄を合点して
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| 凉風をのがす日はなし二方窓
| 居士
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| 木端亭の閑居に興行
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| 凉しさを隣へ分ん菜花畠
| 燕説
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| 折しも廿四日
宰府の天神
に詣す。森廣
| 々として廣前物さびわたりて、有難さ
| いふばかりなし。其夜は此地に宿す。
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| 梅青し御袖こぼれて幾かへり
| 居士
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| 梅若葉拾へ詩の種哥のたね
| 燕説
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| 長堤五里の暑さに草臥、博多未雷子が
| 宅に入る。宵は倉庫の間に凉床をなら
| べ、更ては座敷の障子をあけて、東南
| の風に朝寐のもてなし
|
| 朝風にさすり加減や蚊屋の足
| 居士
|
| ない風を呼や八手の下凉み
| 燕説
|
| 未雷子にいざなはれて、
箱崎の八幡
に
| 詣でゝ、かの松原を廻る。
|
| 箱崎や麻に蓬の松林
| 居士
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| 熊本の城下を見懸て、折ふしの雨乞、
| 數百人の里人の鉦太鼓にはやされて、
| 何某の院に至り、使帆子に對す。
|
| 雨乞の數によばれん笠の露
| 仝
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| 長洲のおのおのに案内せられて、
宇佐
|
の宮
に詣づ。茂林の梢概すがごとく、
| 甲に似たるが故に、萬代の龜山となん
| いへる。遠く寶劔の徳を仰ぎて、
|
| 神息のみだれ燒にや霧の山
| 居士
|
| 鳥居に笠ぬぎて、くれ橋を渡り、よる
| も川・月の瀬を左右にながめて、仁王
| 門の内に入れば、神社・佛閣石ずえの
| 跡のみそれが中に殘りて、歴々と棟を
| 並べたる、本社の廣前にひぎまづきて
|
| 紅葉した中を鎮めて榊哉
| 仝
|
| きざはしや兀目彩る蔦紅葉
| 燕説
|
| 節句の九日、難波に入て
生玉
祭にあふ。
|
| 生玉に咲やこのはな菊祭
| 居士
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| 萬里のいとま乞せしもきのふと過て、
| 戀しき人にあふみなる松本の
正秀
亭に
| 入。
| 月空庵はさる事ありて京に行ば、燕説
| 法師は古翁の旧友に逢んとて、伊賀の
| 上野に別れ行ぬ。其日は雨に降られて
| 南都に宿す。
|
| 大竹を割るや町屋の鹿の聲
| 燕説
|
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|
| 西國曲集 巻之三
| | 居士
| 雲水を鳴や雲雀の三ツ鐡輪
|
| 顔はほかめく酒に蕗味噌
| 燕説
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| 帳につく長屋の禮の春は來て
|
野坡
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| あるく日はひばり寐る日は庭椿
|
野坡
|
|
| | 高吉
| 兩の手に預る杖やわらび時
|
| 鳥も羽虫をふるふ巣がまへ
| 居士
|
| 晴あがる空ゆつたりと東風吹て
| 燕説
|
| 餞 別
| | 吉 備
| 市人に見かはす笠か華曇り
| 高吉
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| 餘 興
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| 魚に餌をあたえてあそべ春の暮
| 露堂
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| 鳥の目はさぞや舞ふらん鳴子繩
| 高吉
|
| 西國曲集 巻之四
| | 居士
| 蚊屋廣しいでや野の夢山の夢
|
| 田植も客も共に飯時
| 水颯
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| だら降の跡は手際に照出して
| 燕説
|
| 落た釣瓶をあぐる鳶口
|
砂明
|
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|
| 同國頓野
| | 居士
| 杜鵑山の一字でなを床し
|
| 袴の入らぬさみだるゝ時
| 一定
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|
| 同國博多
| | 居士
| 朝風のさすり加減や蚊屋の足
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| 田植の聲の超る袖垣
| まん女
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| 樗散るたしかな雨と守り居て
| 未雷
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| 綿の相場の爰も同前
| 燕説
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|
|
| 餞 別
|
| 惜めども急ぐ物あり夏の月
| 未雷
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| 晴るゝ間もあるか五月の此別れ
| 砂明
|
| 五月雨を甲出す日にわかれけり
|
水颯
|
| いつ迄草と思ひしも此別れとなり
| ぬ。崎陽の行脚を思へば、半入唐
| の大義とも云べし
|
| 兩行脚聞け唐音のほとゝぎす
| 一定
|
| 餘 興
|
| しばらくは律儀の膝やけふの月
| 一定
|
| はじめ迚思案で降か雪曇
| ゝ
|
| 炭竈や岩間に燃る馬の沓
| 砂明
|
| 大根の二葉裂きけり比良下風
| ゝ
|
| 小洗ひの水田すみゆく早苗哉
| 水颯
|
| いなづまや鮨賣通る八ツ下り
| まん女
|
| 蚊柱の中通したる螢かな
| 未雷
|
|
|
| 筑後國
善導寺
| | 居士
| 凉風をのがす日はなし二方窓
|
| 家鴨は出る若竹の中
| 雪刀
|
| 畑物は鑷あてたがごとくにて
| 燕説
|
| 欲しがる雨にぬるゝ嬉しさ
| 木端
|
| 餞 別
|
| 空翁の顔の若きは、此道の仙を得
| 給ひけるや。今まれに逢て後會を
| 祈る
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| 死なで居て身は花咲ん夏の草
| 木端
| | 塩 足
| 杜鵑一筋鳴て通りけり
| 市山
|
| 兩翁の袂にすがるといへども、長
| 崎の急ぎあれば其歸りをまつ
|
| 待て居る風の久しやことし竹
| 雪刀
|
| 餘 興
|
| 鶯の足どりかるし笹の雪
| 雪刀
|
| 梅咲やまだ伊勢道の小淋しき
| 木端
|
| 青柳の吹かれぬ隙や下駄の音
| 市山
|
|
|
| 肥前國曲 長崎
| | 宇鹿
| 吉日の窓みな明て凉みかな
|
| 月影流す若き竹の葉
| 燕説
|
| 植つけていまだ水ひく沙汰もなし
| 居士
|
| 跡で工夫の出來る生魚
| 古道
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| 三 物
| | 居士
| 六尺の池に風あり朝凉み
|
| 乾かぬ色をもつて若竹
| 卯七
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| 雀啼く半元服をほめに來て
| 燕説
|
| 餞 別
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| たまたまに逢て、其親むこと銀河の
| 波より深し
|
| 別れては星にしらせじ旅の笠
| 宇鹿
|
| 餘 興
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| 滿月になるや眞向の馬の影
|
卯七
|
| 沖の火に行聲早し郭公
| 宇鹿
|
|
| | 居士
| 永き夜や寐物がたりの鳥の聲
|
| 大方西にまはる晨明
| 江柳
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| 萩薄隙になる身の旅だちて
| 使帆
|
| たゝむに手間のいらぬ縮綿(マゝ)
| 燕説
|
| 餞 別
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| 虫なくや一夜前からいとまごひ
| 使帆
|
| 餘 興
|
| 雨がちに咲てしまふや蜜柑畑
| 使帆
|
|
| | 居士
| 萩桔梗無事で咲けりわれもかう | 女
| 初鴈をろす北のため池
| りん
|
| 有明に錢ほしがりの名を請て
| 紫道
|
| 手織紬の物にまぎるゝ
| 燕説
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| 箱入の梅や小春にひらくらん
| 野紅
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| 雨を通して灘を一のし
| 野螢
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| 目のうへの瘤山右は何の嶽
| 朱拙
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| 窓から麥の鳴子からから
| 釣壺
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| 露川老居士、此秋此里の我人をおどろ
| かしぬ。旅寐の明暮、正風の奥義を聞
| ふに一ツとして荅ずと云事なし。五十
| 年來の大望此時に得たり。仍、季をえ
| らばず其事を述。
|
| 月よ華寸の楔のしめどころ
| 紫道
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| 兩翁を茅屋に留て、夫婦のよろこ
| びを伸(マゝ)
|
| 墨うすき繪に似て里の碪かな
| 野紅
|
| 今やと待る空翁、我里に拠らずし
| て、日田に趣き給ふと聞て、夜通
| にし駒を馳す。兼て待もふけの句、
| 筑前杷木
| 二張は釣らで語らん蚊屋の月
| 兎城
|
| 十年不遇の思ひを述て、廿日ばかり席
| をしりぞがずして語ると云詞書、長篇
| 略レ爰。
|
| 此わかれ腸をたつ瓠かな
| 朱拙
|
| いつの秋か鶴の瞳に見合せん
| 野紅
|
| 最一聲聞けや寒くと峯の鹿
| 紫道
|
| 餘 興
|
| 蕣やあぶら氣もなき花の色
| 朱拙
|
| 風馴て心やたけやおみなへし
| りん女
|
| 何段の替りか旅と國の秋
| 紫道
|
| 紫苑咲く塚やむかしの鬼の首
| 野紅
|
|
|
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| 奥刕桑折
| 雨しよぼしよぼことにあやなし梅の花
|
馬耳
|
| 江 戸
| 梅見たる紙衣もけふがわかれかな
|
衰杖
|
| 寂滅の鐘の響きや雲の峯
|
正秀
| | 江 戸
| 落かへる風より後のほたるかな
|
その女
|
| 越中イナミ
| 耳調子取て鳴なりほとゝぎす
| 路健
|
| 越中イナミ
| 忍べとの水鷄の聲か茶の木原
| 林紅
|
| 相刕
鴫立澤
| 人しれぬ秘藏娘や華葵
| 朱人
|
| ナゴヤ
| うら門の白張共や合歡の花
| 巴雀
| | 江戸杉風□
| 月見るや庭四五間の空の主
| 衰杖
| | 岩 城
| 雲晴るゝ後朝分けて月見哉
|
露沾子
|
| 名月や空と水との二住居
| 燕説
|
| 十六夜の遅さや親を疊輿
| 馬耳
|
| 奥刕須賀川
| 末枯やさらでも庵のつるし柿
| 晋流
|
| 晋流妻
| 寐ぬ星のそしりもがもな二おもて
| 霜楠
|
| 駿刕嶋田
| あかゞりもつら扶持とるや年忘
|
如舟
|
| 引かぶる蒲團短し鴫のこゑ
| 晋流
|
| ナゴヤ
| 歸華さくや隠居に産枕
| 夕道
|
| 加賀山中
| 一年を辛苦で越すや室の梅
|
桃妖
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