俳　人

水田正秀

伊勢屋主人、通称は孫右衛門。初め 尚白 に師事。

正秀　伊勢屋孫右衛門　刀さす供も連レたし今朝の春　藏燒てさはる物なしけふの月

『蕉門諸生全伝』 （遠藤曰人稿）

　元禄３年秋（１６９０年）、蕉門に入る。

　元禄３年（１６９０年）８月、芭蕉は正秀亭で句を詠んでいる。

正秀亭初会興行の時
月しろや膝に手を置宵の宿	翁
萩しらけたるひじり行燈	正秀

『笈日記』 （湖南部）

　元禄４年（１６９１年）春、 義仲寺 の境内に「無名庵」新築。

　元禄５年（１６９２年）夏、車庸・之道は勢多・石山の螢見に出向き、膳所の人々と歌仙。

即　興
	珍碩
螢見や茶屋の旅籠の泊客
湯殿の下駄に散レる卯の花	車庸
そよそよと風にはちくの皮干て	正秀
笠一繩手先へゆく鑓	昌房
百舌鳥ひくやおこしかけたる岨の月	曲水
露のよどみにむつはねてとぶ	探志
椀家具も人の跡かる舶の秋	之道

『己が光』

　元禄７年（１６９４年）５月、 『藤の実』 （素牛編）刊。正秀序。

９月２５日付で水田正秀に宛てた書簡がある。

菊に出て奈良と難波は宵月夜

また、酒堂が予が枕もとにていびきをかき候を

床に来て鼾に入るやきりぎりす

十三日は住よしの市に詣でゝ

枡かふて分別替る月見哉

壱合斗（升）一つ買申候間かく申候。

　元禄８年（１６９５年）１月２３日、 義仲寺 で芭蕉翁百ヶ日興行。

　　　芭蕉翁百ヶ日於義仲寺興行

ゆかしさをまねき合たる柳哉

『後の旅』

　元禄９年（１６９６年）、十丈は正秀を訪ねる。 『射水川』

　元禄９年（１６９６年）１０月１２日、芭蕉の三回忌に正秀は 義仲寺 を訪れている。

獨禮や香繼かはる霜のうへ

『喪の名残』

　元禄９年（１６９６年）、正秀亭で 北枝 の餞別歌仙。

於正秀亭餞別
	北枝
冬旅の前はおほきな湖水かな
鴨の上毛を蓑にかし度	正秀
心よう寐入をひたと起されて	諷竹
鱠の數をうなつひて居る	游刀
夕月の山を出るから縁のうへ	丈草

『喪の名残』

　元禄９年（１６９６年）頃伏見に移るが、数年で膳所に帰り医者になる。

　元禄１０年（１６９７年）頃、北陸行脚。

　　　北國に旅立ける比

踏初て根雪となるや椿井坂

　　　金澤にて

笠の端やかけろふ加賀の女市

『喪の名残』

　　　越のあらちやまにて

草臥て芝に眠しかんことり

『鳥のみち』

　　　能州にて

鹿渡嶋や鴈も磯なの暇乞

　　　北國の浦つたひして

郭公晝休ミセよ黒津舟

『俳諧草庵集』

　元禄１４年（１７０１年）、 『裸麦』 （曽米撰）。利牛序。正秀跋。

　元禄１５年（１６９９年）、『白馬』（正秀・ 洒堂 撰）。

　元禄１６年（１７０３年）１０月９日、浪化は３３歳で没。

ことし五月の比風雅の情にわれを
たつね給ひて、しはらく湖上の風
景をめて給ひけるも、ちかき程に
おもひ合せけれは、いとゝ哀れの
たねとはなりける
	セゝ
茅屋に俤のこる時雨かな	正秀

『霜のひかり』

　元禄１７年（１７０４年）２月２４日、 丈草 没。

經塚にならふねかひや花の風

『幻の庵』

　宝永２年（１７０５年）、魯九は長崎に旅立つ。正秀は餞別の句を詠んでいる。

近江松本の餞別
交を水にまかせて柳哉	水田利左ヱ門	正秀

『春鹿集』

　享保元年（１７１６年）、 露川 と門人燕説は西国行脚の帰途、正秀亭に入る。

享保８年（１７２３年）８月３日、６７歳で没。

大津の 「龍ヶ丘俳人墓地」 に墓碑がある。

「正秀墓」


　　　享保卯八月三日、正秀 身まかりけ
　　　るを遅く聞て、京より申遣す

行かえり大津の日なし年のくれ

『野坡吟艸』

水田正秀の句が 「芭蕉」の句碑 として建てられている。



うき草やしかも山田の落し水

正秀の句

残ル雪比良の谷々おぼえけり

『いつを昔』

宵暗や狐火に寄虫の聲

『江鮭子』

螢見や田楽さめぬ七つ鉢

『己が光』

鵯に立ち別れゆく行脚坊

『藤の実』

鯉鮒も青葉につくか城の陰

『其便』

田隣へ早稲かるじぎの日和哉

『ありそ海・となみ山』

木がらしにいつすがりてや雨蛙

『韻塞』

鶯と勢くらへかや木樵哥

狩人を呼まはるかやきしの聲

浮草やしかも山田の落し水

『鳥のみち』

草臥て芝にねむたしかんこ鳥

『染川集』

鉢たゝき修行初かおさな立

『淡路島』

郭公たとへちか道猿すべり

『泊船集』

天水に息つく猫の恋心

凩に雲のそびえ（へ）やもらひ雨

『続有磯海』

夕立にこまりて來ぬか火とり虫

ほとゝきすたとへ近道猿すへり

『けふの昔』

鳴ク方へ麥もなびくかほとゝきす

『旅袋』

おたしさや梅のすはへのかけ法師

『青莚』

　　　神無月の初越にまかるとて

今ふりてね雪となるかつばひ坂

『艸之道』

松の葉の葛屋に立や霜の朝

出来過す麦の薬や春の霜

『金毘羅會』

梅かゝや明つひろけつ破障子

『初便』

五月雨の名をけかしたる日照哉

『小柑子』

鑓持のなをふりたつるしくれかな

『藁人形』

御林や日高にとまる渡り鳥

『渡鳥集』

紅梅や紐やはつかに講ひらき

世の中や蜘手にわたる糸やなき

『すき丸太』

大和路を花順礼と名乗らはや

『漆川集』

寂滅の鐘の響きや雲の峯

『西國曲』

傘の雫も軽し春の雪

『俳諧田植塚』

宿替に猫も流浪や秋の暮

『北国曲』

春の日や茶の木畑に小諸節

『おもかげ集』

うちこぼす小豆も巾の師走かな

『岱表紙』

日の岡やこがれて暑き牛の舌

『古今句集』

月代に夢見て飛歟蝉の聲

『奥の枝折』

脇差の鞘に霜あり後の月

『さらしな記行』

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