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俳 書
『笈日記』(支考編)
乾坤 無住 | |
芳野にてさくら見せふぞ檜の木笠
| 風羅坊 |
よしのにておれも見せうぞひの木がさ | 万菊丸 |
おなじ年の春にや侍らむ。故主君蝉吟公の庭 | |
前にて | |
さまざまの事おもひ出す桜かな
| 芭蕉 |
そのとし阿波といふ所の大仏に詣して | |
丈六のかげろふ高し石の上
| 仝 |
そのゝちいがの人々に此句の脇してみるべき | |
よし申されしを | |
角のとがらぬ牛もあるもの |
土芳
|
家はみな杖にしら髪の墓ま(ゐ)り
| 翁 |
今宵誰よし野の月も十六里 |
あれあれて末は海行野分哉 | 猿雖
|
鶴の頭をあぐる栗の穂 | 翁 |
蕎麦はまだ花でもてなす山路哉
| 翁 |
松茸やしらぬ木の葉のへばり付く
| 仝 |
松茸や宮古にちかき山の形
|
維然
|
松風に新酒を澄む山路かな
| 支考 |
行秋や手をひろげたる栗のいが
| 翁 |
びいと啼尻声かなし夜の鹿
| 翁 |
鹿の音の糸引はえ(へ)て月夜哉
| 支考 |
菊の香やな良には古き仏達
| 翁 |
霜を(お)かぬ三笠のかげや神の菊
| 支考 |
銭百のちかひ出来たならの菊
| 維然 |
幾年斗にや侍らん、この宮古の西大寺に詣して | |
若葉して御目の雫拭ばや
| 翁 |
雪芝亭 | |
涼しさや直に野松の枝の形
| 翁 |
草庵をとぶらへる人に対して | |
君火たけよき物みせむ雪丸
| 翁 |
去年元禄の秋九月九日、な良より難波津にわたる。生玉の辺より日を暮して |
菊に出てな良と難波は宵月夜
| 翁 |
今宵は十三夜の月をかけて、すみよしの市に詣けるに、昼のほどより雨ふりて、吟行しづかならず。殊に暮々は悪寒になやみ申されしが、その日もわづらはしとて、かいくれ帰りける也。次の夜はいと心地よしとて、畦止亭に行て、前夜の月の名残をつぐなふ。住吉の市に立てといへる前書ありて |
舛(枡)買て分別かはる月見かな
| 翁 |
車庸亭 | |
面白き龝の朝寐や亭主ぶり | 翁 |
廿六日は清水の茶店に遊吟して
泥足が集
の | |
俳諧あり。連衆十二人。 | |
人声や此道かへる秋のくれ
| |
此道や行人なしに穐の暮
|
此二句の間いづれをかと申されしに、この道や行ひとなしにと独歩したる所、誰かその後にしたがひ候半とて、そこに所思といふ題をつけて、半哥仙侍り。爰にしるさず。 |
松風や軒をめぐつて秋暮ぬ
|
是はあるじの男の深くのぞみけるより、かきてとゞめ申されし。 |
旅 懐 | |
此秋は何で年よる雲に鳥
|
此句はその朝より心に篭てねんじ申されしに、下の五文字、寸々の腸をさかれける也。 是はやむ事なき世に、何をして身のいたづらに老ぬらんと、切におもひわびられけるが、されば此秋はいかなる事の心にかなはざるにかあらん。伊賀を出て後は、明暮になやみ申されしが、京・大津の間をへて、伊勢の方におもむくべきか、それも人々のふさがりてとゞめなば、わりなき心も出きぬべし。とかくしてちからつきなば、ひたぶるの長谷越すべきよし、しのびたる時はふくめられしに、たゞ羽をのみかいつくろひて、立日もなくなり給へるくやしさ、いとゞいはむ方なし。 |
白菊の目にたてゝ見る塵もなし
| 翁 |
是は
園女
が風雅の美をいへる一章なるべし。此日の一会を生前の名残とおもへば、その時の面影も見るやうにおもはるゝ也。 |
明日の夜は芝柏が方にまねきおもふよしにて、ほつ句つかはし申されし。 |
秋深き隣は何をする人ぞ
| 翁 |
病中吟 | |
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
| 翁 |
九日 |
服用の後、支考にむきて、此事は
去来
にもかたりを(お)きけるが、此度嵯峨にてし侍る、大井川のほつ句おぼへ(え)侍るかと申されしを、あと答へて、 |
大井川浪に塵なし夏の月 |
と吟じ申しければ、その句園女が白菊の塵にまぎらはし。是もなき跡の妄執とおもへば、なしかへ侍るとて、 |
清滝や波にちり込青松葉
| 翁 |
十日 |
その外ばせを(う)庵に安置申されし出山の尊像は、支考が方につたへ侍る。是は行脚の形見なるべし。 |
十八日 |
所願忌 |
なきがらを笠にかくすや枯尾花 |
其角
|
温石さめてみな氷る声 | 支考 |
行燈の外よりしらむ海山に |
丈草
|
去年の夏なるべし | |
去来別墅にありて | |
朝露よごれて涼し瓜の泥
| 翁 |
賛 | |
雲竹自画像 | |
こちらむけ我もさびしき秋の暮
| 翁 |
是は湖南の
幻住庵
におはす時の作也。君は六十、我は五十といへる老星一聚(いつしう)の前書侍りけるが、あやまりておぼえ侍らず。 |
茄子絵 | |
見せばやな茄子をちぎる軒の畑
|
惟然
|
その葉をかさねお(を)らむ夕顔
| 翁 |
是は惟然、みのに有し時のなるべし。 | |
嵯峨 五句 | |
ほとゝぎす大竹原を漏る月夜
| 翁 |
落柿舎
| |
五月雨や色紙まくれし壁の跡
| |
野明亭 | |
清瀧の水汲よせてところてん | |
小倉ノ山院 | |
松杉をほめてや風のかほ(を)る音
| |
嵐山
| |
六月や峯に雲置あらし山
| |
いづれの時の秋にや、
去来
・千子が伊勢まう | |
での比、道の記かきて深川に送りけるに、奥 | |
書の褒美ありて、 | |
西東あはれさおなじ秋の風
| 翁 |
去来文通 | |
囀るもかへりがけなる小鳥かな |
浪化
|
三月十二日大津
義仲寺
、 | |
古翁のつかにまうでゝ | |
かけろふや苔につきそふ墓めぐり | 仝 |
此夏賀茂祭りにまうでゝ | |
長崎 | |
剃さげのあふひをはさむ烏帽子哉 | 魯町 |
同 | |
風口に来てはねころぶ凉みかな |
卯七
|
此冬の寒さもしらで秋の暮 |
惟然
|
落柿舎
| |
放すかと問るゝ家や冬ごもり |
去来
|
名 月 | |
岩はなやこゝにもひとり月の客
| 仝 |
此夏回国の時、 | |
みのにて申侍る | |
夏かけて真瓜も見えずあつさ哉 | 仝 |
此句はみのへつかはし候へども、懸御目ニ候。 | |
尤申捨にて候。 | |
七月八日 | |
哥 仙 | |
去来 | |
猫の子の巾着なぶる凉みかな | |
塀のかはりにたつる若竹 | 支考 |
折角とちか道来ればふみ込て | 風国 |
今年元禄乙亥の夏四月二十五 | |
日、桃花坊ニおゐ(い)て、記焉。 |
元禄三年の秋ならん、
木曾塚の旧草
にありて、敲戸の人々に対す |
草の戸を知れや穂蓼に唐辛子
| 翁 |
十六夜 三句 |
やすやすと出てゝいざよふ月の雲
| 翁 |
十六夜や海老煮る程の宵の闇
| |
その夜浮見(御)堂に吟行して | |
鎖あけて月さし入よ浮み堂
|
おなじ年九月九日、乙州が |
一樽をたづさへ来りけるに |
草の戸や日暮れてくれし菊の酒
| 翁 |
蜘手にのする水桶の月
| 乙州 |
正秀
亭初会興行の時 | |
月しろや膝に手を置宵の宿
| 翁 |
萩しらけたるひじり行燈
| 正秀 |
去年の夏、又此のほとりに遊吟して、遊刀亭にあ | |
そぶとて | |
納涼 二句 | |
さゞ波や風の薫の相拍子
| 翁 |
湖やあつさをお(を)しむ雲の峰
| |
湖水田植 | |
渺々と尻ならべたる田植哉
| 仝 |
本間氏主馬が亭にまねかれしに、大夫が家名を | |
称して、吟草二句 | |
ひらひらとあぐる扇や雲の峯
| |
蓮の香を目にかよはすや面の鼻 | |
おなじ津なりける湖仙亭に行て | |
此宿は水鶏もしらぬ扉(とぼそ)かな | |
春雨やぬけ出たまゝの夜着の穴 | 丈草 |
堂頭の新そばに出る麓かな | 丈草 |
一よさに猫も紙子もやけど哉 | 丈草 |
元禄五年神な月のはじめつかたならん、月の沢ときこえ侍る
明照寺
に羈旅の心を澄して |
たふとがる涙やそめてちる紅葉
| 翁 |
一夜静るはり笠の霜 |
李由
|
次の年ならん、神な月三日の夜、許六亭にて哥仙あり。爰にしるさず。 |
けふばかり人も年よれ初しぐれ
| 翁 |
深川の草庵
をとぶらひて | |
寒菊の隣もありやいけ大根 |
許六
|
冬さし籠る北窓の煤 | 翁 |
留 別 | |
深川の草庵をいづるとて | |
木からしや跡にひかゆる冨士の山 | 許六 |
貞享元年の冬、
如行
が旧茅に旅寐せし時 | |
霜寒き旅寐に蚊屋を着せ申 | 如行 |
古人かやうの夜の木がらし | 翁 |
此時世をいかにおもひ捨給へるならん、薄 | |
を霜の髭四十一 と申され侍しも、此所にて | |
あなるよし。すでに初老にてはありけるかし。 | |
千川亭
| |
折々に伊吹を見てや冬籠
| |
斜嶺亭
| |
戸をひらけば、にしに山あり。息吹といふ。 | |
花にもよらず、雪にもよらず、只これ孤山 | |
の徳あり | |
其まゝに月もたのまじいぶき山
| |
画 讃 | |
西行の草鞋もかゝれ松の露
| |
菊
如行
亭 | |
痩ながらわりなき菊のつぼみ哉 | |
竹
木因
亭 | |
降ずとも竹植る日は蓑と笠
| |
是は五月の節をいへるにや、いと珍し。 | |
木因亭 | |
かくれ家や月と菊とに田三反
| 翁 |
おなじ比、 | |
舟にて送るとて | |
秋の暮行先々の笘(苫)屋かな
| 木因 |
荻にねようか萩に寐うか
| 翁 |
ところどころ見めぐりて、洛に暫く旅ねせしほど、みのゝ国よりたびたび消息有て、桑門己百のぬしみちしるべせむとて、とぶらひ来侍りて |
しるべして見せばやみのゝ田植哥 | 己百 |
笠あらためむ不破のさみだれ | ばせを(う) |
其草庵に日比ありて | |
やどりせむあかざの杖になる日まで
| |
貞享五年夏日
|
名にしあへる鵜飼といふものを見侍らむとて、暮かけていざなひ申されしに、人々稲葉山の木かげに席をまうけ、盃をあげて |
又やたぐひ長良の川の鮎なます
| 翁 |
夏来てもたゞひとつ葉の一葉哉
| 仝 |
鵜舟も通り過る程に、帰るとて | |
面白てやがてかなしき鵜ぶね哉
| 仝 |
落梧亭 | |
蔵のかげかたばみの花めづらしや | 荷兮 |
折てやはかむ庭の箒木 | 落梧 |
たなばたの八日は物のさびしくて | 翁 |
もろき人にたとへむ花も夏野哉 | 翁 |
似たかほのあらば出て見ん一お(を)どり | 落梧 |
稲葉山 | |
撞鐘もひゞくやうなり蝉の声
| 翁 |
このあたり目に見ゆるものは皆涼し
| ばせを(う) |
その年の秋ならん、この国より旅立て、更科 | |
の月みんとて、 | |
留別 四句 | |
送られつおくりつ果ては木曽の秋
| 翁 |
草いろいろおのおの花の手柄かな
| |
人々郊外に送り出て、三盃を傾侍るに | |
朝がほは酒盛しらぬさかり哉 | |
ひよろひよろとこけて露けし女郎花
|
是は落梧のぬし、かねて撰集の事思ひたゝれけるに、その志ならずして、すたれむ事をお(を)しみて、その方の人々此部の末に撰出し侍る。 |
落梧なにがしのまねきに応じて、稲葉山の松の下涼して、長途の愁をなぐさむほどに |
山かげや身をやしなはむ瓜畠
| ばせを(う) |
露沾
公に申侍る | |
五月雨に鳰の浮巣を見に行む
| 翁 |
岐阜山にて | |
城あとや古井の清水先問む
| 翁 |
加賀の国を過とて | |
熊坂がゆかりやいつの玉(魂)まつり | 翁 |
秋 野 | |
名もしらぬ小草花さく野菊哉 |
素堂
|
蜻蜒(とんぼう)や取りつき兼し草の上
| 翁 |
※蜒は「延」ではなく「廷」 | |
蜂の髭ににほひうつらん花の蘂(しべ) | 落梧 |
山里は万歳おそし梅の花
| 翁 |
去年元禄七年前の五月なるべし。尾張の国に | |
入て、旧交の人々に対す | |
世を旅にしろかく小田の行戻り
| 翁 |
閑居をおもひ立ける人のもとに行て | |
涼しさはさし図に見ゆる住居(すまひ)哉
| 仝 |
元禄三(四)年の冬神な月廿日ばかりならん、あ | |
つ田梅人亭に宿して、塵裏の閑を思ひよせら | |
れけむ、九衢斎といへる名を残して | |
水仙や白き障子の友移リ
| 仝 |
おなじ冬の行脚なるべし。はじめて此叟に逢 | |
へるとて | |
奥底もなくて冬木の梢かな |
露川
|
小春に首の動くみのむし | 翁 |
抱月亭 | |
市人にいで是うらん笠の雪
| 翁 |
酒の戸をたゝく鞭の枯梅 | 抱月 |
是は貞享のむかし抱月亭の雪見なり。おの | |
おの此第三すべきよしにて、幾たびも吟じあ | |
げたるに、阿叟も転吟して、此第三の附方あ | |
またあるべからずと申されしに、杜国もそこ | |
にありて、下官(やつがれ)もさる事におもひ侍 | |
るとて | |
朝がほに先だつ母衣を引づ(ず)りて
|
杜国
|
と申侍しと也。されば鞭にて酒屋をたゝくと | |
いへるものは、風狂の詩人ならばさも有べし。 | |
枯梅の風流に思ひ入らば、武者の外に此第三 | |
有べからず。しからば此一座の一興はなつか | |
しき事かなと、今さらにおもはるゝ也。 | |
ためつけて雪見にまかる紙子哉
| 翁 |
面白し雪にやならん冬の雨
| |
おなじ比ならん、杜国亭にて中あしき人の事、 | |
事取りつくろひて | |
雪と雪今宵師走の名月歟 | |
そのとし
あつ田
の御造営ありしを | |
とぎ直す鏡も清し雪の花 | |
しのぶさへ枯て餅かふやどり哉 | |
尾張の国あつ田にまかりける比、人々師走 | |
の海をみんとて、舟さし出て | |
海暮て鴨の声ほのかに白し
| ばせを(う) |
おなじ比、鳴海にわたりて | |
星崎の闇を見よとや啼千鳥
| 仝 |
巴丈亭 | |
はつかあまりの月かすかに、山の根ぎはいと | |
闇(くらく)、こまの蹄もたどたどしくて、落ぬべ | |
き事あまたゝびなりけるに、数里いまだ鶏鳴 | |
ならず。杜牧が早行の残夢、
小夜の中山
に | |
至て忽おどろく | |
馬に寐て残夢月遠し茶の烟(けぶり)
| ばせを(う) |
三聖人図 | |
月花の是やまことの主達
| |
題 二句 | |
野中の日影 | |
蝶の飛ばかり野中の日かげ哉
| |
雲雀ふたつ | |
永き日を囀りたらぬ雲雀かな
| |
覓レ閑 三句 | |
杉の竹葉軒といふ庵をたづねて | |
粟稗にまづしくもなし草の庵
| |
田中の法蔵寺にて | |
刈あとや早稲かたかたの鴫の声
| |
大曽根成就院の帰るさに | |
有とあるたとへにも似ず三日の月
| |
むかし此国より武江にくだるとて、人々に留 | |
別す | |
翁 | |
訪二杜国一紀行 | |
すくみ行や馬上に氷る影法師
| ばせを(う) |
旅宿 | |
ごを焼(たい)て手拭あふる寒さ哉
| |
いらご崎を見わたして | |
鷹ひとつ見つけて嬉しいらご崎
| |
逢二杜国一 | |
さればこそ逢ひたきまゝの霜の宿 | |
麦はえてよき隠家や畠村
| |
此時は
越人
も具せられしとかや | |
寒けれど二人旅寝はおもしろき
| |
次のとしならん、越人が方へつかはすとて | |
二人見し雪は今年も降けるか | |
隠士山田氏の亭にとゞめられて | |
水鶏啼と人のいへばや佐屋泊
| ばせを |
苗の雫を舟になげ込
| 露川 |
朝風にむかふ合羽を吹たてゝ
| 素覧 |
追手のうちへ走る生もの
| 翁 |
貞享の間なるべし。此国に抖櫢ありし時、 | |
奉納 二句 | ばせを(う) |
西行のなみだをしたひ、増賀の信をかなしむ | |
何の木の花ともしらずにほひかな | |
裸にはまだ二月のあらしかな | |
おなじ春ならん、なにがし寺に詣して | |
神がきや思ひもかけず涅盤(槃)像 | |
菩提山 | |
山寺のかなしさつげよ野老(ところ)ほり
| |
二乗葉 | |
藪椿門はむぐらの若葉哉 | |
守栄院 | |
門に入ればそてつに蘭のにほひ
| |
逢二龍尚舎一 | |
物の名を先とふ荻の若葉哉
| |
廬牧亭 | |
蔦植て竹四五本のあらし哉 | |
園女
亭 | |
暖簾(のうれん)の奧ものゆかし北の梅 | |
かへし | |
時雨てや花迄残るひの木笠 | その女 |
宿なき蝶をとむる若草 | 翁 |
讃 | |
あすは檜の木とかや、谷の老木の言へる事あ | |
り。きのふは夢と過て、あすは未だ来らず。 | |
たゞ生前一樽の楽しみの外に、あすはあすは | |
といひくらして、終に賢者のそしりをうけぬ | |
さびしさや華のあたりのあすならふ(ろ)
| ばせを |
(う) | |
蝉啼や川に横ふ木のかげり |
団友
|
師走のそらの、あそぶ方なくて | |
掛乞に我庭みせむ梅の花 | 団友 |
雲水部 |
今年元禄乙亥の春、伊勢の国より | |
武江の方へ旅だつとて | |
留別 二句 | |
露川 | |
支考
| |
鴈の声おぼろおぼろと何百里 | |
むまのはなむけしける人に | |
しら玉や梅のつぼみも一包ミ | |
餞 別 | |
見送らむ花もかすみも塩見坂 |
団友
|
見ひらくやはなの天気のあみだ笠 |
乙由
|
桑名 五句 | |
古益亭 | |
冬ぼたんちどりか雪のほとゝぎす
| 翁 |
おなじ比にや、浜の地蔵に詣して | |
雪薄し白魚しろきこと一寸
| |
此五文字いと口お(を)しとて、後には
明ぼの
と | |
もきこえ侍し。 | |
狼も一夜はやどせ芦の花
| |
花を吸ふ虻なくらひそ友すゞめ
| |
此二句も阿叟の吟なるよし。此ほとり漂泊 | |
の間なるべし。 | |
又いかなる時にか侍りけむ、たどの権現を過 | |
るとて | |
宮人よ我名をちらせ落葉川
| |
途中吟 五句 | |
支考 | |
あれ是をあつめて春は朧かな | |
布子来て夏よりは暑し桃の花 | |
小夜の中山よりかの大井川を見渡して | |
日晴れは落花に雪の大ゐ川 | |
安倍河はたゞ名のみして | |
水上は鶯啼て水浅し | |
箱根を越る日は、雪なを(ほ)降ける | |
鶯の肝つぶしたる寒さかな |
武 江 |
三月四日、武江にいたる。きのふは桃花の節 | |
なりとて | |
鶏の獅子にはたらく逆毛哉 |
其角
|
その比嵐雪亭に、句合の侍りけるが | |
其一 | |
白つゝじまねくやう也角櫓
嵐雪
|
十二日は阿叟の忌日つとむるとて、
桃隣
をいざなひて、深川
長渓(慶)寺
にまうで侍る。是は阿叟の生前にたのみ申されし寺也。堂の南の方に新に一箕の塚をきづきて、此塚を発句塚といへる事は |
世の中は更に宗祇のやどり哉
| 翁 |
此短冊を
此塚
に埋めけるゆへ(ゑ)なり。此ほつ句 | |
はばせを(う)庵の一生の無ゐなるべしと、
杉風
の | |
ぬし、語り申されし。 | |
かの塚の前に香華をそなへ、まさ木の枝を折、左 | |
右にかざしを(お)きて、いふ事も思ふ事も、なき跡は | |
しらずなりぬるよと、ふたりながら泣て出ぬ。そ | |
の後は旧草を見に行けるが、たゞ見しらぬ人の住 | |
てぞ侍るなる。 | |
むかし此叟の深川を出るとて、此
草庵
を俗な | |
る人にゆづりて | |
草の戸も住みかはる世や雛の家
| |
今はまことに、すまずなりてかなし。 | |
素堂
亭 | |
十日の菊 | |
蓮池の主翁、又菊をあいす。きのふは竜山 | |
の宴をひらき、けふはその酒のあまりをすゝ | |
めて狂吟のたはぶれとなす。なを(ほ)思ふ、 | |
明年誰かすこやかならん事を | |
いざよひのいづれか今朝に残る菊 | ばせを |
(う) | |
咲事もさのみいそがじ宿の菊 |
越人
|
かくれ家やよめなの中に残る菊 |
嵐雪
|
此客を十日の菊の亭主あり |
其角
|
さか折のにゐ(ひ)はりの菊とうたはばや | 素堂
|
木曾の痩もまだなを(ほ)らぬに後の月
| ばせを |
(う) |
十四日武江を旅だちけるに | |
餞 別 | |
高砂に足ふみもどせ山ざくら | 介我 |
咲花の中をぬけ出て尻つまげ |
乙州
|
見事なる旅の相手や花に鳥 |
桃隣
|
嶋 田 |
額 | |
五月雨の雨風しきりにおちて、大井川水出 | |
侍りけるにとゞめられて、しまだに逗留す。 | |
如舟・如竹などいふ人のもとにあそびて | |
ちさはまだ青葉ながらになすび汁 | |
さみだれの雲吹おとせ大井川 | |
竹ノ讃 | |
たは(わ)みては雪まつ竹のけしきかな | ばせを |
(う) | |
今の嶋田よし助が門も見捨がたくて | |
かぢの火も殊さらにこそ笠の霜 |
嵐雪
|
驚かぬ往来(ゆきき)や冬の大ゐ川 |
桃隣
|
三 河 | |
新城はむかし阿叟の逍遥せし地也。なにがし | |
白雪
といふお(を)のこ、風雅の子ふたりもち侍 | |
る。二人ながらいとかしこくぞ侍る。阿叟もその | |
少年の才をよみして、是を桃先・桃後と名づ | |
け申されしを、支考も名の説かきてとゞめけ | |
る也。 | |
其にほひ桃より白し水仙花 | 翁 |
是は水仙の花を桃前桃後といへるより、かく | |
はいへるなるべし。 | |
しのぎかね夜着をかけたる火燵哉 | 桃先 |
節季候のはりあひぬかす明屋哉 | 桃後 |
菅沼亭 | |
京にあきて此木がらしや冬住ゐ
| 翁 |
おなじ比、鳳来寺に参竜(籠)して | |
木枯に岩吹きとがる杉間かな
| |
夜着ひとつ祈リ出して旅ね哉
| |
彦根 |
梅が香にのつと日の出る山路かな
| |
翁 | |
なまぐさし小なぎが上の鮠(はえ)の膓 |
ひやひやと壁をふまえ(へ)て昼寐哉 |
雲水追善 | |
我泣声は秋の風
と聞しに、同事と成玉ひしか | |
なしさ。 | |
愁傷十方、なくて一字をたむけぬ | |
塚も動け我泣声は冬の風
| 東藤 |
しにゝ来てその二月の花の時 | |
当皈(とうき)よりあはれは塚のすみれ草
| ばせを(う) |
雲水発句 | |
訪山隱 | |
梅白し昨日や鶴をぬすまれし
| 翁 |
出羽の便にきこえ侍る | |
さか田 | |
山畑をこけて落たる胡瓜かな |
不玉
|
榎の実ちるむくの羽音や朝あらし
| 翁 |
金屏に松のふるびや冬籠り | 翁 |
有明もみそかにちかし餅の音 | 仝 |
白壁の間にはさかる月よ哉
|
如舟
|
此如舟は、するがの国嶋田の駅より参宮申さ | |
れしが、吾草庵をたづねて、此句申捨られし。 | |
奥深に月は隣の梢かな
|
団友
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