しのぶさへ枯て餅かふやどり哉
| 尾張の国あつ田にまかりける比、人々師走
| の海をみんとて、舟さし出て
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海暮て鴨の声ほのかに白し
| ばせを(う)
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| おなじ比、鳴海にわたりて
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星崎の闇を見よとや啼千鳥
| 仝
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| 巴丈亭
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| はつかあまりの月かすかに、山の根ぎはいと
| 闇(くらく)、こまの蹄もたどたどしくて、落ぬべ
| き事あまたゝびなりけるに、数里いまだ鶏鳴
| ならず。杜牧が早行の残夢、
小夜の中山
に
| 至て忽おどろく
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馬に寐て残夢月遠し茶の烟(けぶり)
| ばせを(う)
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| 三聖人図
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月花の是やまことの主達
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| 題 二句
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| 野中の日影
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蝶の飛ばかり野中の日かげ哉
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| 雲雀ふたつ
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永き日を囀りたらぬ雲雀かな
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| 覓レ閑 三句
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| 杉の竹葉軒といふ庵をたづねて
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粟稗にまづしくもなし草の庵
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| 田中の法蔵寺にて
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刈あとや早稲かたかたの鴫の声
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| 大曽根成就院の帰るさに
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有とあるたとへにも似ず三日の月
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| むかし此国より武江にくだるとて、人々に留
| 別す
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| 牡丹しべを分て這出る蜂の名残哉
翁
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| 訪二杜国一紀行
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すくみ行や馬上に氷る影法師
| ばせを(う)
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| 旅宿
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ごを焼(たい)て手拭あふる寒さ哉
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| いらご崎を見わたして
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鷹ひとつ見つけて嬉しいらご崎
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| 逢二杜国一
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| さればこそ逢ひたきまゝの霜の宿
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| 麦はえてよき隠家や畠村
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| 此時は
越人
も具せられしとかや
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寒けれど二人旅寝はおもしろき
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| 次のとしならん、越人が方へつかはすとて
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| 二人見し雪は今年も降けるか
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| 隠士山田氏の亭にとゞめられて
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水鶏啼と人のいへばや佐屋泊
| ばせを
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| 苗の雫を舟になげ込
| 露川
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| 朝風にむかふ合羽を吹たてゝ
| 素覧
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| 追手のうちへ走る生もの
| 翁
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元禄乙亥のとし三月二十六日、
尾城の白露庵におゐ(い)て、
記焉。
連衆四十三人
伊勢部
貞享の間なるべし。此国に抖櫢ありし時、
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| 奉納 二句
| ばせを(う)
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| 西行のなみだをしたひ、増賀の信をかなしむ
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何の木の花ともしらずにほひかな
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| 裸にはまだ二月のあらしかな
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| おなじ春ならん、なにがし寺に詣して
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| 神がきや思ひもかけず涅盤(槃)像
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| 菩提山
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山寺のかなしさつげよ野老(ところ)ほり
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| ※「野老」は草冠+「解」
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菩提山は朝熊山の西麓にあった伊勢の神宮寺。荒廃していたそうだ。
二乗葉
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藪椿門はむぐらの若葉哉
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| 守栄院
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門に入ればそてつに蘭のにほひ
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| 逢二龍尚舎一
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物の名を先とふ荻の若葉哉
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| 廬牧亭
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| 蔦植て竹四五本のあらし哉
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園女
亭
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| 暖簾(のうれん)の奧ものゆかし北の梅
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| かへし
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| 時雨てや花迄残るひの木笠
| その女
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| 宿なき蝶をとむる若草
| 翁
|
| 讃
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| あすは檜の木とかや、谷の老木の言へる事あ
| り。きのふは夢と過て、あすは未だ来らず。
| たゞ生前一樽の楽しみの外に、あすはあすは
| といひくらして、終に賢者のそしりをうけぬ
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さびしさや華のあたりのあすならふ(ろ)
| ばせを
| | (う)
| 蝉啼や川に横ふ木のかげり
|
団友
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| 師走のそらの、あそぶ方なくて
|
| 掛乞に我庭みせむ梅の花
| 団友
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今年元禄乙亥の夏五月十二日、
涼菟
斎におゐ(い)て、記之。
連衆十九人
笈日記 下巻
元禄8年(1695年)春、各務支考は伊勢から江戸へ旅立つ。
今年元禄乙亥の春、伊勢の国より
| 武江の方へ旅だつとて
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| 留別 二句
| | 露川
| |
支考
| 鴈の声おぼろおぼろと何百里
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| むまのはなむけしける人に
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| しら玉や梅のつぼみも一包ミ
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| 餞 別
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| 見送らむ花もかすみも塩見坂
|
団友
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| 見ひらくやはなの天気のあみだ笠
|
乙由
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| 桑名 五句
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| 古益亭
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冬ぼたんちどりか雪のほとゝぎす
| 翁
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| おなじ比にや、浜の地蔵に詣して
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雪薄し白魚しろきこと一寸
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| 此五文字いと口お(を)しとて、後には
明ぼの
と
| もきこえ侍し。
|
|
狼も一夜はやどせ芦の花
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|
花を吸ふ虻なくらひそ友すゞめ
|
|
| 此二句も阿叟の吟なるよし。此ほとり漂泊
| の間なるべし。
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| 又いかなる時にか侍りけむ、たどの権現を過
| るとて
|
|
宮人よ我名をちらせ落葉川
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| 途中吟 五句
| | 支考
| あれ是をあつめて春は朧かな
|
| 布子来て夏よりは暑し桃の花
|
| 小夜の中山よりかの大井川を見渡して
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| 日晴れは落花に雪の大ゐ川
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| 安倍河はたゞ名のみして
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| 水上は鶯啼て水浅し
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| 箱根を越る日は、雪なを(ほ)降ける
|
| 鶯の肝つぶしたる寒さかな
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3月4日、江戸に着き、14日まで滞在。
三月四日、武江にいたる。きのふは桃花の節
| なりとて
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| 鶏の獅子にはたらく逆毛哉
|
其角
|
| その比嵐雪亭に、句合の侍りけるが
| 其一
|
| 白つゝじまねくやう也角櫓
嵐雪
|
十二日は阿叟の忌日つとむるとて、
桃隣
をいざなひて、深川
長渓(慶)寺
にまうで侍る。是は阿叟の生前にたのみ申されし寺也。堂の南の方に新に一箕の塚をきづきて、此塚を発句塚といへる事は
|
世の中は更に宗祇のやどり哉
| 翁
|
此短冊を
此塚
に埋めけるゆへ(ゑ)なり。此ほつ句
| はばせを(う)庵の一生の無ゐなるべしと、
杉風
の
| ぬし、語り申されし。
|
| かの塚の前に香華をそなへ、まさ木の枝を折、左
| 右にかざしを(お)きて、いふ事も思ふ事も、なき跡は
| しらずなりぬるよと、ふたりながら泣て出ぬ。そ
| の後は旧草を見に行けるが、たゞ見しらぬ人の住
| てぞ侍るなる。
|
| むかし此叟の深川を出るとて、此
草庵
を俗な
| る人にゆづりて
|
|
草の戸も住みかはる世や雛の家
|
| 今はまことに、すまずなりてかなし。
|
|
素堂
亭
|
| 十日の菊
|
| 蓮池の主翁、又菊をあいす。きのふは竜山
| の宴をひらき、けふはその酒のあまりをすゝ
| めて狂吟のたはぶれとなす。なを(ほ)思ふ、
| 明年誰かすこやかならん事を
|
| いざよひのいづれか今朝に残る菊
| ばせを
| | (う)
| 咲事もさのみいそがじ宿の菊
|
越人
|
| かくれ家やよめなの中に残る菊
|
嵐雪
|
| 此客を十日の菊の亭主あり
|
其角
|
| さか折のにゐ(ひ)はりの菊とうたはばや
| 素堂
|
|
|
| 木曾の痩もまだなを(ほ)らぬに後の月
| ばせを
| | (う)
|
仲穐の月はさらしなの里、姨捨山になぐさめかねて、猶あはれさのめにもはなれずながら、長月十三夜になりぬ。
十四日武江を旅だちけるに
|
| 餞 別
|
| 高砂に足ふみもどせ山ざくら
| 介我
|
| 咲花の中をぬけ出て尻つまげ
|
乙州
|
| 見事なる旅の相手や花に鳥
|
桃隣
|
十八日嶋田の駅に入て、
如舟
亭に足をやすめ侍る。此亭はかつて阿叟の往来の労をたすけ侍るゆへ(ゑ)ありて、吟草もあまた侍りける中に
卯月十八日
許六
亭に寄宿す。物語の序に、みづから絵かきたる色紙数多取出し給へるに、人々の筆にて、その人のほつ句かゝせを(お)きけるが、巻頭は先師ばせを(う)庵の四季の句にてぞおはしける。くりかへしたる中に、梨の花の白妙に咲て、その陰に唐めきぬる人の驢馬の頭引たて背むきに乗たる絵の侍り。是は支考が東路にて、「馬の耳すぼめて寒し梨の花」と申侍しほつ句かゝせむと思へるなるべし。されば此句のからめきて、詩に似たりと見給へる眼は、絵を得て俳諧をさとり、俳諧をえて絵にうつし玉へるならん。みづからなしを(お)きたる事の此さかひにいたらざるは、絵につたなきゆへ(ゑ)ならんと、いとゞうらやましかりし。
されば人の句をきかむ事やすからじ。去年の夏、阿叟の
桃花坊
におはす時、人々よりい(ゐ)て物語し侍るに、支考が集つくらば、なにがしの桐火桶に似せて侍らん。たとへば
梅が香の朝日は余寒なるべし。小なぎの鮠のわたは残暑なるべし。是を一躰の趣意と註し候半と申たれば、阿叟もいとよしとは申されし也。その後、大津の木節亭にあそぶとて
雲水追善
|
|
我泣声は秋の風
と聞しに、同事と成玉ひしか
| なしさ。
| 愁傷十方、なくて一字をたむけぬ
|
| 塚も動け我泣声は冬の風
| 東藤
|
出羽の国羽黒の麓なる図司なにがし呂丸、四とせの先ならん、宮古の方をゆかしがりて、古さとは葉月の中比にうかれたちて、野店の月・山橋の霜、かねておもひぬるまゝにわびけると也、かくて武のばせを(う)庵に旅ねして、しばしの秋をお(を)しみ、洛の桃花坊にかりゐして、春のやがてきたらんといふ事をまつ。 その春の花も半ならんほどは、支考にくみして、大和路の行脚もすべきなど、さゝめかしおもひけるに、む月の中比よりやみつき侍りて、何のすべきやうもあらで、春も二月の二日なるに身まかりける也。されば、此郎は門にまたるべき子さへありて、妻はいとわかくて侍り。その夢にあえ(へ)ぬつまこに、此便きかせ侍らば、まづ人をなむうらみぬべし。 それ雲水漂泊のものは、おもふ方もつまじきゆへ(ゑ)なりと、誰々もおもふかは。その比、是をきゝつたへ侍る人は、いとあはれとて、手むけしける人もおほかりしが、かつて浪子となりて、ひとへに客をあはれむといへる。まして此時の手向なるべし
支考
しにゝ来てその二月の花の時
|
|
当皈(とうき)よりあはれは塚のすみれ草
| ばせを(う)
|
| 雲水発句
|
| 訪山隱
|
|
梅白し昨日や鶴をぬすまれし
| 翁
|
| 出羽の便にきこえ侍る
| | さか田
| 山畑をこけて落たる胡瓜かな
|
不玉
|
|
榎の実ちるむくの羽音や朝あらし
| 翁
|
| 金屏に松のふるびや冬籠り
| 翁
|
| 有明もみそかにちかし餅の音
| 仝
|
今年元禄乙亥の秋七月十五日、
幾暁庵におゐ(い)て、記焉。
笈日記 余興
白壁の間にはさかる月よ哉
|
如舟
|
| 此如舟は、するがの国嶋田の駅より参宮申さ
| れしが、吾草庵をたづねて、此句申捨られし。
|
| 奥深に月は隣の梢かな
|
団友
|
元禄乙亥の秋八月十五日、
洛の
桃花坊
におゐ(い)て、校焉。
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このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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