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俳 書
『続有磯海』(浪化編)
続有磯海 上 | |
元禄七年後の五月に、
去来
が許にて故翁に向 | |
対の折、此比難波の
之道
がまい(ゐ)りて人々 | |
打より申捨たる、とて見せ給ひし歌仙一巻、今 | |
続集の冠となし侍る | |
落柿舎即興 | |
牛ながす村のさは(わ)ぎや五月雨 |
之道
|
あを葉ふき切栴檀の花 |
去来
|
一枚の莚に昼ねをし合て | 芭蕉 |
つかもこじりもふるきわきざし |
惟然
|
月影に苞(つと)の海鼠の下る也 |
丈艸
|
堤おりては田の中のみち |
支考
|
須磨の浦一見の時 | |
須磨寺に吹ぬ笛きく木下やみ
| 芭蕉 |
此句は湖南の
丈艸
、幾とせ袖底にお(を)さ | |
められしを、此たび我続集結縁にとて、文 | |
通の中に緘して送られ侍る。されば亡師の | |
句、諸邦の集に洩レたるもすくなく、程な | |
き年月のうちに、その言葉さへ俤とともに | |
残りなき成果ぬるぞ歎し。よつて右に写し | |
て追懐の志をあらはす。 | |
四季部立 擬『朗詠集』上巻 | |
立 春 | |
東武 | |
花鳥にひまぬすまばや春もたち |
杉風
|
伊賀 | |
水仙に来るもの一重としの明 |
土芳
|
早 春 | |
湖南 | |
柊にさへ(え)かへりたる月夜かな |
丈艸
|
加賀 | |
榾もえた余寒をあそぶ二夜哉 | 万子 |
大津尼 | |
春風に塵もほどくる氷かな | 智月 |
春 興 | |
天水に息つく猫の恋心 |
正秀
|
越中井波 | |
揚つけて町へ見にやるいかのぼり | 路健 |
行脚
惟然
に遣しける | |
江戸 | |
木の朶にしばしかゝるや紙鳶(いかのぼり) |
嵐雪
|
芽を出して末つまゝるゝ円柏<イブキ>哉 |
如行
|
カゞ | |
山がらのつい来て帰る木の芽哉 | 牧童 |
京 | |
駒鳥の声を見かへす格子哉 | 風国 |
送
惟然
子 | |
去年
は都の花にかしらをならべ、よめ | |
菜・つくづくしを摘て語り、今年東武の | |
余寒はおなじ衾を引張、雲雀・鶯に句 | |
をひらふ。 | |
江戸 | |
菜の花や浮世は去年の秬(きび)のうね
|
野坡
|
春 夜 | |
大坂 | |
菊苗の咄ししみけり宵のやみ |
諷竹
|
心売は撰屑ひらふねの日哉 | 浪化 |
若 菜 | |
京 | |
若菜摘ミ敷物やらうさん俵 |
去来
|
踏分る雪が動けばはや若葉 |
惟然
|
三月三日 | |
ミノ | |
雛仕まふ跡のかざりや三日の月 |
荊口
|
桃 | |
カゞ | |
つぼふかき盃とらんもゝの花 |
北枝
|
僧 | |
うす藪の口をてり出す桃の花 | 林紅 |
暮 春 | |
越中庄の川は源飛騨の山中より出ヅ。幾谷 | |
の岩間をくゞりて漲る流れ、奔箭のごとし。 | |
其ほとりに雄神の叢祠有。庄川は庄の在所あ | |
る故なり。然れば雄神川成べし。『夫木集』 | |
第二十四に俊頼の歌あり。暮春の一日爰に遊 | |
びて、各お(を)がみ川の句を探る。 | |
奥ふかに巣鷹の啼や雄神川 | 浪化 |
鶯のつれを見出さんお(を)がみ川 | 路健 |
閏三月 | |
ブンゴ日田 | |
行春を閏の花のおぼろかな | 野紅 |
三月に蚊の声まじる閏哉 | 浪化 |
鴬や籠からまぼる外のあめ | 朱拙 |
春 雨 | |
献だてにたらぬものあり春の雨 | 北枝 |
梅 | |
卓散についてもたらず梅の花 | 浪化 |
さが田夫 | |
梅を見に行とはいふな藪の中 | 為有 |
紅梅の画の讃に | |
うぐひすに墨のひなたや梅の花 | 浪化 |
人ごみの中へしだるゝ柳哉 | 浪化 |
高岡 | |
しだれたる柳とらえ(へ)て咄し哉 | 十丈 |
花 | |
花にいざ茶摘用意もして置ぬ | 野坡 |
伊賀 | |
花に出て道々家のなつかしさ | 風麦 |
仝 | |
立どまり花見や過す畠づら |
卓岱
|
カゞ | |
花ざかり酒売のゐる家の松 | 秋之坊 |
カゞ | |
有たけの機をのばさばや山桜 |
句空
|
鳶の輪のつれてよらばや山桜 | 丈艸 |
遊東福寺化縁場 | |
簷口(のきぐち)をかゝえ(へ)るやうに寺の花 | 風国 |
仇暮のもどる明さや花のうへ | 浪化 |
ぬれぬとや花の思はん雨支度 | 北枝 |
小初瀬(をはつせ)や花にくれゆく番袋 | 去来 |
東武 | |
陽炎や朝日てらつく花の中 | 史邦 |
オ(ヲ)ハリ | |
くたびれた顔に花ちる婢子(はふこ)かな |
露川
|
天満宮の御旅所にて | |
山吹や粟餅ちぎる軒廻り | 風国 |
胡床(あぐら)かく岩から下やふぢの花 | 丈艸 |
長崎 | |
山ふぢのきまゝを見たるしだれ哉 | 卯七 |
夏 | |
首 夏 | |
卯の花や田舎がよひも思ひかけ |
埜坡
|
(野) | |
浅井戸にとつとすゝぐや杜若 |
北枝
|
越中行脚の折ふし、井波の山下にしるべある | |
まゝ、たづね入て足を休む。 | |
さればこの山にもたれて夏の月 |
惟然
|
すゞしさは独(ひとり)目のあく座敷かな | 野坡 |
あら壁や水で字を吹夕涼み |
丈草
|
夕だちや杖にして待ツはねつるべ | 北枝 |
花 橘 | |
橘に夏うぐひすや媒鳥<ヲトリ>鳴 |
浪化
|
郭 公 | |
一声は闇のつぶてや郭公 |
去来
|
ナガサキ | |
幾鳴と年にちぎるや子規 | 牡年 |
蜀魂二声かゝる一牧(枚)田 | 浪化 |
子規鳴や田うえの尻の上 |
許六
|
江東平田 | |
野の人のうたのさかりや杜鵑 |
李由
|
日田 | |
飛ほたるあるきあるいて篠の枝 | 林女 |
京なる人に対して | |
都人の扇にかける網代哉 |
許六
|
秋 | |
立 秋 | |
あきたつや鷹のとり毛のさしのこり |
浪化
|
早 秋 | |
帷子も着たりぬいだり秋の風 |
野坡
|
七夕に雨ふりければ | |
彦星や田畑へおろす宵の雨 |
北枝
|
七夕や大かた出たることし物 | 浪化
|
秋 興 | |
相撲場やあれにし後は秋の風 |
許六
|
遠州にて | |
鶉なく大名地野はうづこにや | 史邦 |
ミノ | |
長床に懸物もなしあきのくれ | 斜嶺 |
秋 夜 | |
夜あるきにから櫓の音や浦の秋 | 去来 |
合口の跡追ふ(う)て行月見哉 | 野坡 |
カゞ山中 | |
菊の香や何かにうつる小盃 |
桃妖
|
ミノ | |
秋萩につゞいて見こむ杉戸哉 |
文鳥
|
蘭 | |
宿直に侍りて | |
ミノ | |
寝用意も夜さむに成てふぢばかま | 千川 |
槿 | |
蕣の花や惣ねに雨の後 | 浪化 |
うら枯や茶かすこぼるゝ草の垣 | 北枝 |
筑前黒崎 | |
五六間蔦のもみぢや松ののし |
水札
|
鶏頭のゆるぐや雁のたつ畠 | 浪化 |
鹿 | |
有礒 | |
朝つゆのさらりときえて梅もどき | 拾貝 |
鹿小屋の火にさしむくや菴の窓 |
丈艸
|
霧 | |
霧雨に尾髪もふらず駒の旅 |
許六
|
馬宿にすそ湯わかすや霧もたち | 浪化 |
山中温泉の上
薬師寺
に詣て | |
うすぎりや白鷺眠る湯のながれ
|
北枝
|
擣 衣 | |
猿引は猿の小袖をきぬた哉 | 芭蕉 |
冬 | |
有明にふりむがたき寒さ哉 |
去来
|
葛葉よりかさつく比のしぐれ哉 |
許六
|
中々に傘も苦になる時雨哉 |
野坡
|
せきぞろもむかし忍ぶや笹おほひ |
北枝
|
黒崎 | |
行としや木の葉まじりのくだけ炭 |
沙明
|
炉 火 | |
埋火や障子より来る夜の明リ |
浪化
|
病中吟 | |
介病も一人前する火燵哉 | 去来 |
幻住菴
頽廃の跡一見して | |
霜原や窓の付たる壁のきれ | 丈草 |
サガ | |
初雪の今朝はかくれず沓の鼻 | 可南女 |
奥州南部くりや川にて | |
厨川のぞいて雪にまぶるゝな |
惟然
|
せめよせて雪のつもるや小野の峯 | 去来 |
能(よき)夜ほど氷る也けり冬の月 | 仙化 |
右の句、
北枝が集
に名乗書(かき)たがえ(へ)て入 | |
集し侍り。武江の文通に聞えける也。 | |
仏 名 | |
仏名や打敷ほむる翠簾(みす)の中 | 許六 |
仏名や屏風見くらす小僧哉 | 浪化 |
続有磯海 下 | |
雑 擬『朗詠集』下巻 | |
風 | |
有礒の浦廻りも果て、しばらく氷見の湊に足 | |
を休む。 | |
先かぜの名をならはばや合歓の花 |
惟然
|
風吹ておもしろき日や蕎麦の花 |
如行
|
雲 | |
オ(ヲ)ハリ | |
山門を雲の出引や夏の山 |
露川
|
黒崎 | |
雨風の根をたえしてや雲のみね |
沙明
|
凩に雲のそびえ(へ)やもらひ雨 |
正秀
|
晴 | |
朝ばれや青みに花の一つくね |
野坡
|
ミノ | |
笋の風に煩ふゆがみかな | 斜嶺 |
若竹や道のふさがる客湯殿 |
浪化
|
草 | |
初午や小草に人のぞよぞよと | 史邦 |
ミノ | |
物の実のあがらぬ畑や春の草 |
文鳥
|
菜の花に咲かわ(は)りけり金鳳花 |
句空
|
白げしに糸ゆふあそべ弱いどし |
荊口
|
箒程たばねて着たり草の花 | 風国 |
梅が香をしらず深山のあかき猿 | 千川 |
文 詞 | |
古文よむ人も一日花に蝶 | 浪化 |
芭蕉翁はての年は、堅田のゆかり、伊賀のし | |
るべ、思ひの外に成ぬるを侘て、宇津の山よ | |
り人々に申遣す。 | |
置捨に笈の小文やとしのくれ |
其角
|
オ(ヲ)ハリ | |
追々に酒屋へはしる桜かな | 夕道 |
築(筑)紫へ下る比 | |
サガ | |
酒になるげんかい灘のしぐれ哉 | 野明 |
山 付山水 | |
残りけり卯辰にかゝる峯の雪 | 北枝 |
山水に薬の花のにほひかな | 浪化 |
死事としらで下るや瀬々の鮎 |
去来
|
中食に鵜飼のもどる夜半哉 | 浪化 |
さし汐に走りあまるや浜千鳥 |
李由
|
禁 中 | |
大雪の降けるとし | |
九重に見なれぬ雪のあつさ哉 | 去来 |
ならづけの根本とはん八重桜 | 浪化 |
故 宮 | |
筑前の国
苅萱の関
にて木の丸殿の旧跡を感ず | |
日田 | |
歌舞の地や枯野のうへをふくあらし | 朱拙 |
仙 家 | |
堅田 | |
人を吐ク息をならはん冬籠 |
千那
|
田 家 | |
茶の酔や菜たね咲ふす裏合せ | 丈艸 |
砺波山も程なく過て、猶山ぞひ、井波の梺に | |
しるべ有まゝたづね入て | |
真綿むく匂ひや里のはいり口 | 惟然 |
灌仏や釋迦も畠に二年越 | 諷竹 |
眺 望 | |
住吉の浜に出て | |
青麦にしばらく曇る淡路哉 |
許六
|
餞 別 | |
支考
が西国へ趣(赴)きけるに | |
平田 | |
若竹をとらえ(へ)て放ツわかれ哉 | 李由 |
旅だつ人を里外まで送りて | |
別れ場(端)や川のところで朝涼み | 浪化 |
黒崎にて人々に留別 | |
此寒き背中を見せて別れ哉 | 朱拙 |
朝とく
鞠子
の宿を出て | |
山芋も茂りてくらし宇津の山 | 許六 |
ミノ | |
凩にふかれた顔の旅ね哉 |
此筋
|
遊 女 | |
物おめぬ遊女あはれや衣更 |
土芳
|
いなづまやどの傾城とかり枕
| 去来 |
惟然を宿して | |
仙台 | |
隅にゐよつもつた雪のぬくともり | 千調 |
誰々ぞ雪に只今扣(たた)きこむ |
惟然
|
懐 旧 | |
ばせを翁墓
にまうでゝ、手向草二葉 | |
東武 | |
秋むかし菊水仙とちぎりしが |
素堂
|
苔の底泪の露やとゞくべし | |
いがへおもむくとき、
ばせを翁墓
にまう | |
でゝ | |
ことづても此とを(ほ)りかや墓のつゆ |
丈草
|
睦月十二月、翁忌日に | |
大空も形見と見えず梅の花 |
北枝
|
故翁の霊を祭りて | |
里人も一門なみや魂まつり | 去来 |
述 懐 | |
麦の穂の世に出るまでの菴(ママ) | 野明 |
旡 常 | |
猶子守寿、十六歳の春身まかりけるに | |
死顔のおぼろおぼろと花のいろ | 去来 |
湖春子をいたみて | |
泣てよむ短冊もあり花は梦(ゆめ) | 其角 |
白 | |
有明ときのつく雪のあかさ哉 | 浪化 |
元禄丁丑の夏、鳥落人はるかに京師より故翁 | |
引杖の跡を慕ひて、有その礒めぐりも日数あ | |
りて、我松扉を敲きて、半日の閑談に世慮忘 | |
たり。 | |
歌仙乱吟 半時 | |
草蒸におなじ皃なる小松哉 | 浪化 |
木ずゑの蝉のお(を)しまずに鳴 | 惟然 |
執事 | |
のらこいてあるゝ間のひしなくて | 拾貝 |
見しらぬものゝ舟を手伝ふ | 林紅 |
元禄戊寅 仲冬上旬 |
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