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俳 書

『旅袋集』(路健編)


元禄12年(1699年)7月、『旅袋集』(路健編)。 丈草 序。

 路健は越中井波の蚕種商。姓は直海(なおみ)。通称は能美屋宗左衛門。別号清花堂。


旅  袋 上

   春 部

   畫 賛
 芭蕉翁
物ほしや布袋のふくろ月と花

   此句古翁の遺稿なり。今見るも懐かし
   き記念なれば、巻の首に出し侍りぬ。

木の穴の天狗も今は花の友
    去來

扇的来性のたてる花見哉
    其角

   鞍馬山に登りて

かたな目の消ぬ巌や花の中
   風国

花のさく木はいそかしき二月哉
    支考

   病中の吟

山からは花見もとりかまくらもと
    丈艸

花咲て目白の旅や廿日ほと
    浪化
  加賀
水まさも花にうきたつ尾上哉
   牧童
  イナミ
さそはれぬ我でとう出る花見哉
   林紅
  彦根
月はなや細工貧乏人たから
    許六
  カゝ
人を見に來て鶯の逃かまへ
    北枝

   内宮に詣て

鶯のこたまや渡るやしろ數
   路健

   修行に出侍るころ
  カゝ
鶯や鳴わたれとも檜木かさ
    句空

鶯や爪にもかけぬ梅のはな
   浪化
  膳所
梅か香や何ても旅を仕てくれう
    洒堂
  鳴海
むめか香や庵の尻の吹とまり
    知足

   深 更
  桑門
寢られぬそいまた寒のむめの花
    惟然
  大坂
寒けれど風のはづみや梅の花
   諷竹
  江戸
雀五羽鳴て夜明の梅の花
    桃隣
  イセ
假橋になうてかなはぬ柳かなBR>    團友
  オハリ
石垣をさゝらに撫るやなぎかなBR>    露川
  
はつ春の柳や籠の作りかけ
   素覧

姑の機に入人は柳かな
   去來
フンコ日田女
のんとりと入日の赤し雉子のこゑ
   りん

   題しらす

なつかしき人やあたまに年明る
    土芳
  ミノ
やふ入や里の垣根の一騎打
   千川
 大ツ尼
春風の月に跡さす衾かな
   智月
 ミノ大垣
(タヘ)立に麥の中から皈ル厂
    荊口

山ふきやよくよく下は水の音
   浪化

   夏之部

方へ麥もなびくかほとゝきす
    正秀
  長崎
郭公またさだまらぬ宵の雲
    卯七
  オハリ
雲きれの比叡のくぼみや郭公
    如行

    玉津嶋明神 の社は、むかしの神垣
   のまゝにふりたるを、今あらたむ
   るといふわさもなく、おのつから
   なる風景みちかき筆にいはんも言
   葉たらす

ほとゝきす是でもよいに片雄波
   路健

朝々の葉のはたらきや杜若
   去來
  ミノ
地嵐やさすがに是も麥の秋
    此筋

   端 午

あやめ見よ物やむ人の眉のうへ
    嵐雪

賑にちまきとくふり座敷中
    路通
  ミノ
蚊のこゑや床よりおろす書物箱
    文鳥

苔芝を出る螢の羽音かな
    丈艸
  江戸
桐の葉に息ざしぬるき螢かな
   史邦
 越中高岡
松風のとかりを推すや蝉の聲
   十丈

谷こしや空吹風のかんこ鳥
   乙州

有とないと二本さしけり芥子の花
   智月

   越中今石動にて

嫩葉に今日のやどりを寢入鳥
    惟然

   卯月中頃 義仲寺 古翁の廟前に跪て

我心若葉も病よ露涙
   路健

青雲に底のしれさる暑さかな
   浪化
  イカ
入月の凉しや草のさくり足
   猿雖
  イカ
村雲を出る心や夕すゝみ
    卓袋

   市中苦熱

涼しさを見せてうこくや城の松
    丈艸
ちくぜん黒崎
有明の人はぐれてや雲の峯
    水札

   秋之部

名月や海よりうつる藪の中
    洒堂

名月や土手のはづれのなひき藪
    浪化

河添のはたけをありく月見哉
    杉風

思ふかほおもひ出されすや天の河
    曲翠

夜明まて雨吹中や二つ星
    丈艸
  長サキ
躍子とちそうせらるゝ髭男
   魯町
  ミノ
初厂の一聲おとす馬上かな
   斜嶺

   盂蘭盆會

玉棚や藪木をもるゝ月の影
   丈艸
  ミノ
田隣をにくみにくみて晩稲かな
    千川

   加賀の國小松といふ處にて

しほらしき名や小松吹萩薄
   はせを

   須磨の浦眺望

眺あふ秋のあてとや寺と船
   丈草
  出羽
了簡てとれをとれとも澁
    重行
  伊賀
大輪やうごかせもせず菊の枝
    卓袋

物かけて寐よとや裾のきりきりす
   丈草

   黒崎にて探題

機つかふて渡る灘女や鱸釣
    去來
ブンゴ日田
秋の日の人影長し山の足
   朱拙

   冬之部

雪を待宿なれはこそ有のまゝ
    惟然
ちくぜん黒崎
雪雲のとつとはなしたる月夜哉
    沙明

   嵯峨の邊にて

柴の戸や夜の間に我を雪の客
   丈艸

一しくれ時雨てあかし辻燈篭
    去來

底寒く時雨かねたる曇りかな
   猿雖

    那谷山觀音 に詣て

ほと松はしんなり冬こもり
   路健

   卯七亭

霜月や日ませにしけく冬籠
   去來

   路健新宅にて

薄壁の手ちかに捜せ梅の宿
    浪化

冬空や雨もときれてむら雀
    野坡
  平田
生壁に寄付かたき寒さかな
    李由

旅  袋 下

   餞別會於淨蓮社興行

朝立の目に有明とさくら哉
   浪化

 二反かしらは苗代の宛
   路健



   餞 別
  加賀
山川で心はやるなはなの雲
    北枝

   風雲の情にたえず遙に旅立路健子
   に送る

風に乘身は朝はやき胡蝶かな
   林紅

   路健のぬし行脚の心さしあるをよ
   みして

鶯やふむて出たる六十里
    支考

むすはるゝ道の小松や若みとり
    團友

   路健初て尋られ、やかて洛に登ル
   といひけれは

聞フなら淀の夜明のほとゝきす
    諷竹

   郭外迄送られし人々に對して

今とても駒鳥きけは旅姿
   路健

   素覧亭即興

今更にやしほ楓の芽立哉
   路健

 雲雀日和に空はくつろく
   素覧



常盤木にあかるき筋や藤の花
   路健

 物閑さをのぞく雀子
   考越

風もなし雨もふらねは暖に
   舎羅

 どこへいかれて是は皆留主
   諷竹



卯月の中旬風國子の堂に入て
  路健

 たちはなの香に埋む窓さき
   風國



菜の花のふかみ見するや風移り
  路健

 崩れて蝶のうつくしう飛
   北枝

脇指をまゝかさいたも長閑にて
   如行

 それなら夜べの細工取出せ
   惟然

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