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榎本其角

『いつを昔』(其角編)


元禄3年(1690年)4月、『いつを昔』(其角編)。 去来 序。湖春跋。

湖春は北村季吟の子の北村季重。

十題百句

   天 象

春も来ぬ南の誉星の道
    露沾

凩に二日の月の吹ちるか
    荷兮

   旅行

あかあかと日は難面も秋の風
   翁

残れども薫分たるあらし哉
   由之

あの雲は稲妻を待たより哉
   翁

   地 儀

 膳所
雪比良の谷々おぼえけり
    正秀

 僧
肌のよき石にねむらん花の山
    路通
 京
朝桜よし野深しや夕ざくら
    去来

   美濃に入て

山陰や身を養はん瓜畠
   翁

   加刕にて

わせの香や分入右はありそうみ
   翁

垣根破るその若竹をかきね哉
    素堂

十月や草まだ見ゆる庭の隅
   尚白

   楊子に題ス

 平田
いつの時人に落けん白牡丹
    李由

 大津
けしちりてさゞらけもなき匂哉
    千那

おもだかや弓矢たてたる水の花
   素堂

河骨や終にひらかぬ花盛
   仝

    嵐雪 がゑかきしに、さんのぞみければ

蕣は下手のかくさへ哀也
   翁

やどり木や秋にもかれず瓦葺
   東順

    園城寺

からびたる三井の二王や冬木立
    其角
 尾陽
腹のたつ人にみせばや池の鴛
   野水

   山家へ申つかはし侍る

常住をふるまひ給へ鹿の声
   彫棠

艸の葉を落るより飛螢哉
   翁

   神 祇

   二見の図を拝み侍りて

うたがふな潮の花も浦の春
   翁

   遷宮の良材ども拝みて

大工達の久しき顔や神の秋
   其角

   釈 教

   明星悟心

我目には師走八日の空寒し
    杉風

   寄幻吁長老

老僧の笋をかむなみだかな
   其角

   遊清水寺

人の世やのどかなる日の寺林
    仝

交題百句

  感心 次郎といふをつれてつまの夜咄に行

加生 つま
我子なら共にはやらじ夜の雪
   とめ

   寺前の興もとりあへず

 少年
小僧ども庭に出けり罌粟坊主
    角上

   松嶋行脚の餞別

月花を両の袂の色香哉
    露沾

 蛙のからに身を入る声
   翁

   辞世

  去来
もえやすく又消やすき螢哉
   千子

   旅 越人を供して木曾の月見し比

俤や姨ひとり泣く月の友
   翁

   さらしなには翁の句のみ吟了して
 尾陽
霧はれて梯は目も塞がれず
    越人
 加賀
行ぬけて家珍しやさくら麻
   一笑

   伏見 西運寺 興行

はつゆきに人ものほるかふしみ船
   其角

    かつしかの真間 にて

早乙女に足あらはするうれしさよ
   其角

古足袋の四十に足をふみ込ぬ
    嵐雪

暑き日も樅の木間の夕日かな
    素堂

なぐさみも扇くらぶる斗也
    杉風

   賞 心
 美濃
春の夜の人家に語るしはす哉
    荊口

名月や山も思はず海も見ず
   去来

花に風かろくきてふけ酒の泡
   嵐雪

  十月廿日
    嵯峨 遊吟

さが山やみやこは酒の夷講
   其角
ひろさわ
池のつら雲の氷るやあたご山
    去来
のゝみや
木がらしに入相の鐘をすゞしめよ
   加生

    野の宮 のやぶ陰にわびしき槌の音しけるを

鍬鍛冶に隠士尋ねん畑の霜
   其角
大井里
冬枯の木間のぞかん売屋敷
   去来
かへりに
みやこ路や初夜に過たるもみぢ(※「木」+「色」)
   加生

   湖上吟 十月二日膳所、水楼にて

帆かけぶねあれやかた田の冬げしき
   其角
 ゼゝ
此月の時雨を見せよにほの海
   曲水

    千那 に供(ぐ)して父の古郷、
      堅田の寺へとぶらひけるとて

婆に逢にかゝる命や勢田の霜
   其角

湖を屋根から見せんむらしぐれ
   尚白

   霜月下の七日

       尚白 亭 酔支枕

闇にとて雪待得たる小舟哉
   尚白

 橋下(ウラ)寒きともし火の筋
   加生

茶師の蔵梢々にかさなりて
   其角

   

ゆきの日や船頭どのの顔の色
    仝

 高根のあらしイサゞ(※「魚」+「少」)かたまる
    白

つゞれふむ石に踵(キビス)の洗はれて
    生

    続みなしぐり の撰びにもれ侍りしに、首尾年
   ありて、此集の人足にくはゝり侍る

鴨啼や弓矢を捨て十余年
    去来

 刄ほそらぬ霜の小刀
    嵐雪

はらはらと栗やく柴の円居して
   其角



同講の心を 心の月をあらはして鷲の御山の跡を尋ん

新月やいつを昔の男山
   其角

   鉢たゝき聞にとて、翁のやどり申されしに、
   はちたゝきまい(ゐ)らざりければ

箒こせまねてもみせん鉢扣
   去来

   明けてまい(ゐ)りたれば

長嘯の墓もめぐるかはち敲
   翁

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