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榎本其角

『末若葉』(其角編)


元禄10年(1697年)、刊。自序。

うら若葉 下

枸杞(くこ)の芽に枝のつく迄待にけり
   千調

寝かへりはおしま也けり春の月
   沾徳

饅頭て人をたつねよ山桜
   其角

   沾徳か岩城に逗留して
    はなむけの句なきを恨ムル

松島や島かすむとも此序
   其角

   処さたむへきものにはあらねと
    十苻の菅 とて垣ゆひ廻したるに

菅の芽の垣より外や三ふの分
   沾徳

   順礼のとき

笈弦(おひづる)に卯花さむしはつせ山
    去来

四宮の祢宜も出らるゝ御祓(みそぎ)
    許六

   竹自

降すとも竹うゆる日はみのと笠
   翁

   鬼のやうなる 桃隣 みちのくにへ
   下るとて道祖神にとかめられし
   かは異例以て外にて何かしの
   もとに介抱せられ漸にいきのび
   心よはき文とも送られしに力を
   添侍るとて

弁慶も食養性や瓜畠
   其角

ゆふだちに游ぎ出たりところてん
   許六

   粛山子のもとめ、画は探雪なり。
   琴ト笙ト太鼓ト讃のぞまれしに

散花や鳥もおどろく琴の塵
   翁

    みてひとつあそばして山の鳥を
    も驚かし給へ。

   左

青海や太鼓ゆるまる春の声
   素堂

   右

けしからぬ桐の一葉や笙の声
   其角

大根の大根になるしぐれ哉
    尚白

   稚子待

故郷は娘の成やわか楓
   許六

   江北路

篠懸(すずかけ)をたが野に捨て猿蕀
    浪化

   みのに入て

住かへよ人見の松の蝉の声
   去来

丙子のとしむ月の末つかたに素見・紫紅をともなひ、浅茅がはら出山寺にあそび侍りて、菜をつみ苣(ちさ)をかき、蕗のと(た)うなどさがし出て、レイ(※「麗」+「鳥」)柳の吟をたのしむ。夕つかた寺のうしろなる畠へ出たれば、いと覚束なきんめのほずゑにかゝりて、からびたるもの有。よりてみれば、蛙の六分ばかりなるが、足手は糸のやうにて、腮(えら)つらぬいてかゝれり。是こそ正しう鵙の草莖也。尤『袖中抄』の説につゆたがはず。やがて「折とりて肴にみせんんめの花」とたはむれしに、素見たう(ふ)とく拝みて、「井出の蛙の干たるや、長柄のはしの削屑は伝え(へ)て承るのみ也。しかしながら、是風流第一の宝とせん」としきりに乞。心ざし深厚なれば得さすとて、興句を添て証文とす。

草茎をつつむ葉もなき雲間哉
   其角

   まつしま一見の時むかし
    忍はるゝとはいかめしけれと

橘や笆か島ははいり口
    桃隣

   松島より立かへりて

新蕎麦や鬼ともくまん病上
   桃隣

観音のいらかみやりつ花の雲
   翁

    かねは上野か浅艸か と聞えし
   前の年の春吟也尤(もつとも)病起の眺望成
   へし一聯二句の格也句ヲ呼テ句とす

   十月十二日深河(川) 長慶寺

    芭蕉翁移墓回愁之吟

時雨ゝやこゝも船路を墓まい(ゐ)
   其角

 鳶も寒げに日の没(イリ)の鐘
   専吟



良夜に琵琶を興じて、爰も潯陽の客とおもひなす。酒をそへ、灯をとをめて、深更いやましにむら雨の心をはらし、さゝめごとの耳をそばだつめる感あり。「かの十三よりしてまなび得てし曹保は秘曲もさぞな人を泣しむ、と聞えつるすさびもことはりにこそ」といふに、その座、閑かなる聞人(ききて)哉と声をひそむる者はすくなうて、「長う成」と枕をなげ出す。「かく無風情の人一芸ありや」といへば

十五から酒を呑出てけふの月
   其角

袋井を出はなれにけりけふの月
   彫棠

    落柿舎 へつかはす文のかへりに

放すかと問るゝ家や冬籠
   去来

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