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俳 書

誹諧續寒菊集』(杏廬編)

安永9年(1780年)、刊。無名庵杏廬編。

   両 吟

五人ぶちとりてしだるゝ柳かな
    野坡

日より日よりに雪解の音
   芭蕉



   春 之 部

鶯やきのふの藪は風ばかり
    野坡

呉竹に花はなけれど鳥の声
    杉風

梅咲や天窓(つむり)の上の人通り
   野坡

梅の花あの月ながら折ばやな
    惟然

梅かゝや見ぬ世の人に御意を得る
   はせを

   此句ハ楚舟亭におハしたる時はしめて
   まミへ(え)たる人に對してとのはし書有
  
梅かゝは睡りを誘ふはしめかな
    諸九

溝越して手をふる猫の別かな
   野坡

   大津の艸上子に留主をあづけて
   草士が大津の留守を見舞ふ

飛かはづ草枕より草まくら
    嵐雪

   名虎嘯説

村竹に虎の欠(あくび)や春の風
   嵐雪

笑はれに出ばや花に老の皺
    杉風

見ませぬといふてだますか花盛
   野坡

花見とはおぼしめすなら南無薬師
   仝

   田上の尼の庵に
      花見にまねかれ侍りし時

海を見た目付さへせず花の雲
    野坡

   餞別 東華坊 東行

此こゝろ推せよ花に五器一具
   はせを

   其かへし

もゝすぢりゆがみて臥ん花の陰
    支考

   夏 之 部

子規蟻も名乗を藤四郎
    野坡

小坊主がひやりとさせしあやめ哉
   野坡

    諸九尼 かみちのく行脚の
      帰るさを石山にとゝめて

簔笠もほといて祝ふちまき哉
   南花

   つくしなる人にしらぬ火といふ事
   を句にせよと乞はれ侍りて

しらぬ火や我が湖の蛍ども
    丈艸

   岱水亭影待に

雨折々おもふ事なき早苗哉
   はせを

神苗やけふをうき身の忘れ草
    蓼太

羽織さげて駕(のりもの)を出る暑哉
    杉風

   秋 之 部

   或人のもとにて姫こせの
      □ひに打ましりて

>明月やおにこもるへきおくもなし
    諸九

   大橋の袂は屋形舟其数を
   しらずあつまりさはがしき聲
   に飽きて、ばせを庵にて閑なる
   影を見んと、おのおの立歸りて

水草木月の数見る今宵哉
    杉風

木犀の香は七夕の追風歟
    野坡

魂祭みな若い衆につかはるゝ
   野坡

送り火や届くにしても水の泡
   諸九

明くる夜やまたなかゝれと鳴竈馬
   諸九

忍ひ人にまた寐ぬ寐ぬと砧哉
    柳几

尻飛びに闇の螽や穂の頭
   野坡

草茎に鵙の心はしられけり
   野坡

くれなゐもかくては淋しからす瓜
    蓼太

   花山の僧正の我黒髪はといへるにはあら
   で、めでたくかしらおろしたる人に申お
   くり侍る

しら髪まで見て剃る秋のつぶり哉
   野坡

   竜が岡山姿亭

蕎麦もミてけなりがらせよ野良の萩
   はせを

支考死ぬと先うこくなり萩の露
   野坡

   此句ハ 西花坊 世をさりしなど、人々の沙汰
   したる時の吟なり

遊ぶなら酒振舞んあきのくれ
   野坡

紅葉見や猿つくばいの御所女中
   野坡

   冬 之 部

生ながらひとつにこほる生海鼠哉
   芭蕉



白雪の中に燈ともす野守哉
    蓼太

ほどけば匂ふ寒菊のこも
    岱水

皂角子の実ハ其まゝの落葉哉
   はせを

   ばせを庵にて

木の葉散り雪降うへに散る木の葉
    野坡

ひそやかに鼻うちかみて御佛名
    諸九

風誘ふ音は紙子の立居かな
    杉風

夢の間につい皺のよるふすま哉
   諸九

冬こもり又寄り添ハん此はしら
   はせを

   かへし

冬籠けふは其角や参るらめ
   野坡

おもひ羽やほしては鴛の又ぬらし
   諸九

    岱水 亭新宅にて

生壁に畳も青き火燵哉
   野坡

   古翁の像をかけて
      無名庵に年を守る

除夜の燈や我か月の神花の神
    浮風

   雜 之 部

   トウ山(※「トウ」=「口」+「荅」)産業の為に江府に
   居る事三月。予ハかれが朝寐をおどろかせば、
   かれは予が宵寐をたゝきて方寸をくみしり、寐
   食をともにしたる人に似たり。けふや故郷へ帰
   るを見おくらんと、杖を曳きてよろぼひ出でた
   るに、秋の名残りもともにお(を)しまれて

むさし野やさはるものなき君が笠
   はせを

   送 別

何となふ柴吹風もあはれなり
    杉風

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