1998年12月に開催されたバンコクアジア大会に合わせ、タイ国鉄では1997年末にJR西日本から無償譲渡されたキハ58を使用し、競技場間を結ぶ特別列車の運行を行った。客車はどれでも(キロ28やキハ28でも)2等車扱いになっている。この企画を1998年の9月にタイ国鉄の広報部のオフィスで知ったときには、かなり驚いたと正直に告白する。 運転区間はチェンラーク駅(北幹線)〜フアマーク駅(東幹線)で、キハ58の8両編成による特別列車2本が1日8往復のダイヤに忠実に運行されていた。時計で列車を待っていても早いことはあってもまず遅れてくることはない。もしかしたら他の列車は特別列車の為にダイヤに乱れを生じさせているのかも知れない。 アジア大会期間中にタイ人の乗客達がキハ58客車内でタイの国旗を振り、応援歌を歌いながら会場間を移動する様子を何度か目にすることができた。キハ58の特別列車がアジア大会の会場を移動する乗客達に利用され、3つの会場を結ぶ確かな足として活躍していた確かな証拠である。
▲ギッハッ58型ディーゼルカー(写真提供/タイ国鉄)
キハ58はタイ国鉄の標準色で塗装され、ボディー中央には列車の運行区間を示すプレートを挟むスペースが追加されている。ゲージ幅も1000cmに変更されている。内装はほとんどJR西日本で運用されていた頃の姿のままだ。お陰で客車の椅子がタイ国鉄では異色のフェルトで出来ている。座り心地はタイ国鉄の2等車両の中では一番だろう、キハ58は徹底的な改装が行われたことから、アジア大会終了後も近郊特別列車の客車として末永く使用されることが予想される。 蛇足だが、キハ58の車両は通常のタイ国鉄車両よりも大きくなっている。お陰で車高が高く(出っ張ったエアコン部分が邪魔)なっていて、安全にトンネルを潜ることができない。トンネルを通過する必要がある長距離線ではキハ58の運用は不可能だろう。
▲キハ58型ディーゼルカー タイ国鉄路線上でキハ58がそれのみ編成で走ることは初めてのことだ。アジア大会特別列車以前、タイ国鉄はキハ58を客車としてしか利用することができなかったからだ。以前、キハ58がクルンテープ駅〜チャチュンサオ駅間の近郊特別列車(チャーン・ムアン)として運用されたことがあったが、編成はキハ58の前後にはタイ国鉄の従来の制御車両が配置されていた。それはキハ58の運転台が進行方向左側に配置されている問題に起因する。タイ国鉄の路線はJR西日本の路線とは異なり、左側通行である。その為に通常業務の信号の旗振りやタイ国鉄ではフワン(輪)と呼ばれる並速区間の許可タブレットの受け渡しなどが運転席の左側で行われる。
▲急行色のキハ58型ディーゼルカー
タイ国鉄はキハ58の運転台の配置問題を、キハ58制御車の2人の乗務員の業務を少し複雑かすることで、解消した。車両左側の席からでは見づらい遠くの信号用の旗は右側の乗務員が確認し、停車駅の出発進行の旗の確認は左側に座る運転手が自ら行うシステムだ。キハ58が現在運用されている路線は完全に並速区間の許可等は電化されているので、フワンも問題はない。しかし、その必要が生じた場合は運転席左側の入り口から補助用務員が手を出すということになるのだろう。 タイ国鉄は車両の設計上の問題も工夫で乗り越えてしまう。この様な技は日本の鉄道に期待するのがヤボというものである。こんな離れ業を毎度と見せられては、マレー半島を象徴する自由奔放なタイ国鉄への興味は尽きることがない。これからもこの素晴らしい鉄道組織にはこれからも頑張って欲しい。
▲キハ58型の運転席
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