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川村碩布
『布鬼圃』
(碩布自撰句集)
文政9年(1826年)、自序。
1317句を収録。
春 部
木母寺
にて
暮る迄雨をよけよけうめの花
画 賛
初花の氷をわけて咲きにけり
金鑚山
奉納
梅遅しといふさへ花のはしそかし
武州多摩の郡
真浄寺
の
門前に時雨のさくらあり
枝に哥よめとあれハ
さくらはな梢の雫落るより
いくよ時雨のなにやふりけん
此歌いと尊く覚て杖を止る事二日
朧夜はしくれ桜の荷擔
(カタン)
かな
春の水夕山晴て流れけり
夏 部
春秋庵にて
江戸なれた後になしたし此あつさ
草津
にて
足もとの温泉に憎まるゝ昼寐哉
草津
にて
さゝ根さゝ夕たちなれた人もなし
冬 部
文化四卯十月湯嶋に庵をむすびて
しぐれもる家ももてばや新しき
世の中を降たいらけて雪白し
母をうしなひて
蝉しくれとハす語りも出ぬなり
鴫立
葛三
をいたむ
虎か雨又ふる事の出來にけり
先師
の三十三回忌
ますものハ露はかりなり後の月
穂 家 露
文化二年八月十日、かるかると
臼井峠
を越る事にはなりぬ。
関の人々ほ句せよといふに、
朝かけや紅葉も関の一かさり
心にとめて書へき句にもあらねと、おほやけ人に打聞へて候ものなれハ爰にしるす。
碑
あり。
ひとつ脱て
うしろに
負ぬ衣かへ はせを翁
處から九折の坂中にたてたれは、余味眼前に湧て、涙もこほるゝはかり尊とし。
虎杖庵
に着。ひたすら明日の月をのミたのむ。
松古し幾待宵の庵やそも
八幡
の崇られ給ふ所あり。近きわたりなれは、人々のしりへに付て行。
虫籠を買て破りぬ放生會
更級川は山の頂より落てしろく、
姨石
は蔦のはさまに痩て、哀れ深し。はせを塚袂をしほるにあかす。さて、登り居る石ハ高き事五丈有余にして、あはや落なはと魂きゆる斗。
姨石の高きわすれて月や月や
善光寺
ひる中を小鳥のさはぐ御堂かな
丹波島にて
秋水に取まかれたる旅寐かな
善 光 寺 詣
横川の関
、横川の橋打渡りて、
坂本の駅
に伏。
夜一夜降明したる雨の、葩
(はなやか)
なる旭にふりかへて、そゝろめてたき旦なりけり。
扨、
臼井
の難所にかゝるに、雨後の若は面を覆ひ、腰袋ゆり直すいとまもなく、たとるたとる靄を踏てのほる。
時鳥舞遊ふかと思ひけり
老か突杖かひなくも、蚋を拂て軽井沢に膝を憩ふ。
近よりて見えぬ浅間の暑さ哉
小諸なる魯恭が亭 に、夏日の労をわする。
庭鳥にふまるゝ水も泉かな
上田の樹下、夏炉庵水翁を訪ふに、主のそふりよくよく見れハ、むかしの兀雨坊なり。
花橘一はなつゝのなみたなる
塩尻鼠宿の間
馬士か取次をするうちハかな
坂木の宿
くねり過て、漸、雨紅か軒を見出す。
十六夜塚
を拝し、姨捨山を栞に、
虎杖庵
に着ぬ。先、
梨翁墓
に香をひねりて、
蛍火も田に呼水も手むけ哉
よし光寺
は、布金の霊場にして、龕前のしめやかなる事、うけたまはるにまさりぬ。燃燈の光り、鳧鐘の響ハさら也。悲智兼運して、雲霞の老若念珠をつまくり、寂黙せさるはなし。されは、此国界をはなるゝ事、今日にありや。九品蓮臺の生、此国界にありや。
夏の夜のたゝたゝ深くなりにけり
文政甲申の水無月、矢立の墨尽て、
武曰か庵
に筆を投る。
春 秋 庵 碩 布
川村碩布
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