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俳 書

誹諧翁草』(里圃編)



江戸の棚松軒里圃編。

元禄8年(1695年)10月12日、幾重齋沾圃序。

元禄9年(1696年)3月、『誹諧翁草』(里圃編)刊。

里圃は江戸の能役者。沾圃は宝生流の能楽師。 『続猿蓑』 の編者。

   芭蕉翁追悼

魂やどし凩に咲梨の花
    素堂

笠きせて似せてもみたし枯芭蕉
   智月

   鷄旦

年々や猿に着せたる猿の面
   翁

はやはやと菰かふりても謡そめ
   智月

景清も花見の座にハ七兵衞
   翁

春の夜は桜に明てしまひけり
   翁

      夏

ほとゝぎす横たふ声や水の上
   翁

   筥根山を越る比 頓而死ぬ気色ハ
   見えす と無常迅速をのへ給ひし
   を思ひ合て

動き出る日もゆるさしや蝉の声
   乙州

   我背戸の涼ミに智月眠ルとも
   大木の陰や夏の夢と云捨て
   打ふし侍るに

祖母(おば)さまを蚊に喰はすなよ月の影
   乙州

   旅 行

夏衣いまだ虱をとりつくさず
   翁

照日にハ蝸牛もきしる柳哉
    素堂

其不二や五月晦日二里の旅
   素堂

 茄子小角豆(ささげ)も己が色しる
    露沾

鷹の子の雲雀に爪のかたまりて
   翁

   丹野が仕舞の教談に



蓮の香や目より潜て面ンの鼻
   仝

ひらひらと上ル扇や雲のみね
   仝

夕顏や穐ハいろいろのふくべ哉
   仝

   清滝眺望

清滝や波に散込青松葉
   翁

      秋

   増穂の小貝ハ西上人のひらひ
   初られて散萩や風羅坊の
   見残されし跡をしたひ彼浜に
   いたりて

穐もはら砂吹よせて増穂貝
   乙州

   乙州が袂にして帰ル小貝ハ翁の
   ひらハれしよりもこまか成けれハ

老眼にもるゝ小貝や萩の霜
    丈艸

白露をこぼさぬ萩のうねりかな
   翁

松の風や軒を廻ッて穐暮ぬ
   翁

日照年二百十日の風を待ッ
   素堂

むかし聞ケ秩父殿さへすまひ取
   翁

   十日菊

酒折の新治の菊とうたハばや
   素堂

   八町堀にて

菊の花咲や石屋の石の間(あひ)
   翁

十六夜のいつしか今朝に残菊
   翁

漆せぬ琴や作らぬ菊の友
   素堂

 葱の笛ふく穐風の園
   翁

鮎よハく籠の目潜る水落て
   沾圃

   姨捨

俤や姨ひとり泣月の友
   翁

   檜垣

白河や若きもかゞむ初月夜
   素堂

      ふ由

比良みかみ雪指わたせ鷺の橋
   翁

人待や木葉かた寄風の道
   素堂

あふあふといへど敲くや雪乃門
    去来

降雪に犬の欠(あくび)や八ッの比
   智月

古足袋や身程の宿の衣配
   素堂

   元禄九歳
      三月上旬 棚松軒里圃集

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